サンノウへ至る頂きへの道のり   作:森林 木

2 / 16
プロットを書いていたり、忙しかったりで期間が空いてしまい申し訳ございません。
これからも投稿ペースは遅めが続くと思いますので思い出した時に覗きにきていただければ幸いです。
誤字脱字等もご報告いただければ幸いです。



奇妙な縁

 先日、変態(トレーナー)と遭遇した日から数日後。サンノウケイデンスは自宅から10kmほど離れた場所にあるショッピングモールに足を運んでいた。未だ暑さが続く8月だが、あと数週間で9月になる。秋物の服を買いに来たのだ。

 とはいえ、ショッピングモールの中にはスポーツショップやホビーショップなど、ブティックなどの服飾店以外も多く入っており、ついつい目移りしてしまう。どこから見ようか悩みながら散策していると、書店の前で不安げな顔で辺りを見渡す3、4歳くらいの幼いウマ娘がいた。迷子だろうか、今にも泣き出してしまいそうだ。

 声をかけようとした所で男性が迷子のウマ娘にかけ寄っていた。一瞬父親かと考えたが、その後ろ姿に見覚えがあり慌てて2人の元に駆け寄った。

 

「あの、その娘の保護者ですか?()()()()()()()()()()()()()()

「ん?」

 

 迷子のウマ娘の前で屈んでいた男性はこちらに振り返ると驚いたように目を見開いた。

 

「あぁ!あの河川敷で自転車乗ってた娘!奇遇だな!」

 

 にこやかに笑う男性はひらひらと手を振る。そんな普通の態度でもサンノウケイデンスは警戒せざるを得なかった。サンノウケイデンスの中でこの男はウマ娘に見境なく痴漢行為を働く危険人物なのだ。

 

「この娘、君の妹とか?」

「いいえ、他人です」

「んじゃやっぱり迷子か…」

 

 男性もサンノウケイデンスも辺りを見渡すが子供を探しているらしい人は見当たらない。とりあえず探せる情報を得ようと質問を投げかける。

 

「ねぇ、お嬢さん。どうしたの?」

「ママ…が!いなくなっっちゃったの!」

「そっかぁ、大変だ。どこまでママと一緒だったの?」

「わかんない…」

「うーん…そっか。お嬢さんのお名前は?」

「…リナ」

「リナちゃんね。お姉ちゃんたちがママを探してあげるから」

 

 目に涙をいっぱいにため込みながら必死に言葉を紡ぐリナにサンノウケイデンスはどうしようかと考ええた。

 

「ここって迷子センターとかあったかしら…」

 

 迷子センターがあったとして勝手に連れていっていいのかどうか思案していると、男性は迷子の前に膝をつくとにかりと笑った。

 

「ほら、涙が引っ込む魔法の薬だ。これ食べたら元気になれるぞ!」

「…ママが知らない人からモノ貰っちゃダメって言ってた」

「しっかりしてるなぁ…」

 

 泣き止ませようとリナに飴玉を渡そうとした男性はあえなく撃沈しひきつった笑顔をしていた。

 

「よし!とにかくママを探すか!」

「どうするつもりですか?」

 

 男性は大きく息を吸込み、両手を口に添えた。

 

「リナちゃんのママはいませんかぁ~!?」

「ひゃっ!」

 

 急に大声を出され、サンノウケイデンスは思わず身をすくめた。リナも目を見開いて男性の方を見ている。辺りにいた人達も一斉にこちらに目を向けた。

 

「ほら、リナちゃんもママ呼ぼう!」

「マ、ママー!どこぉ!?」

「うーん、見えてないかもしれないな。リナちゃん、()()()()の肩に乗りな」

 

 男性は身を屈め、リナに背を向ける。リナは戸惑いながらも男性の肩に足をかけた。

 

「それ!」

「うわぁ!高い高い!」

 

 男性はリナの両足をしっかりと掴み肩車をした。それが面白かったようでリナもはしゃいだ様子だ。

 

「よし、ママを見つけるぞ!リナちゃんのママいますか!?」

「ママ~!どこ~!?」

 

 サンノウケイデンスは思わずその光景を呆然と見ていた。あまりに原始的な方法であったために戸惑いを覚えた。

 

「ほら、君も!」

「は、はい!リナちゃんのお母さまはいらっしゃいますか!?」

 

 3人で声を出し合いリナの母親を探していると、こちらへかけ寄ってくるウマ娘がいた。

 

「あ!ママ!」

 

リナはこちらへかけ寄ってくるウマ娘に指さした。どうやら彼女は母親のようだ。

 

「リナ!良かった…」

 

リナは男性の肩から降りると一目散に母親の懐に飛び込むように抱きついた。

 

「すみません、ありがとうございます」

「いやいや、困った時はお互い様ですから」

「無事に再会できて良かったです」

 

 母親にお礼を言われ、リナちゃんの迷子問題は解決した。男性ともさっさと分かれショッピングを再開しようと考えていると母親は思い出したようにカバンを探る。

 

「そうだ、おふたりのデートを邪魔してしまったお詫びといってはなんですが…」

 

 母親がカバンから取り出しのはスイーツバイキングの割引券だった。

 

「いえいえ、そんなお詫びだなんて…」

「その…私たちはたまたま会っただけで…」

 

 きっぱりと断ろうとする男性に対しサンノウケイデンスはカップルに見られていたことに戸惑い、返答がしどろもどろになってしまう。サンノウケイデンスは中等部3年目、男性は恐らく20代前半に見えるのだが、これほど歳の離れていてもカップル見えるのだろうか。自身が実年齢より高く見られているのかと悶々と考えているサンノウケイデンスを横に会話は進んでゆく。

 

「いえ、お気になさらないでください。本当は今日使うつもりだったんですけど、予定が入ってしまって…期限も今日までなので、おふたりに有効活用していただければ幸いです」

「そういうことでしたら、ありがたく頂戴します」

 

 サンノウケイデンスが悶々としている間に男性は母親からスイーツバイキングの割引券を受け取っていた。

 

「お姉ちゃん、()()()()!ありがとう!」

「お、おう!もうはぐれないようにな!」

「ママとちゃんと手をつないでおいてね」

 

 ふたりで親子を見送ると、しばしの静寂が訪れる。

 

「それで、行きますか?デート」

「口説いてるんですか?ごめんなさい用事があるので無理ですごめんなさい」

「待った待った、冗談だって…」

 

 冗談を言い合う間柄ではないだろうと辟易するサンノウケイデンスに男性は苦笑いをした。

 

「まぁまぁ、甘いモノでも食べて落ち着こうぜ。ここで会ったのも何かの縁だし、俺が奢るからさ」

(胡散臭い勧誘みたい…)

「なんで私を誘うんですか?彼女でも呼んだらどうです?」

「彼女なんていねぇよ…いや、2人で母親探ししたんだから、報酬も2人で貰おうぜ」

 

 ひらひらと割引券を仰ぐ男性にサンノウケイデンスは少し考え込む。男性の身元は明らかになっているし、トレセン学園からも離れていないこの場所でそう危険なことはしないだろう。そしてリナの母親の善意を無下にしてはいけないだろう。そう考え、スイーツバイキングをご馳走になることに決めた。決してスイーツバイキングの期間限定デザートに釣られたわけではない。

 

 決して。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
現在各話3000字前後で執筆しているのですが、長かったり短く感じているのでしょうか。
2話は元々6000字を超える予定でしたが分割して投稿しようと変更したので、次話は極力早く投稿できるよう努力します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。