連合による護送車襲撃が起きた翌日。
ヒーローネットワークに接続したモスから、専用病院に渡我被身子さんと分倍河原仁さんの入院が確認され、二人共脳震盪を起こしてしばらく動けないらしい。
「その2人も含めて、全員
『そうか。情報くれてありがとう。またな』
「失礼します。弔さん」
電話が切れるのを確認して、蛇腔総合病院が黒だという前提でモスと看護師達双方で話を進め、そこに見舞いに行くために翌日の夜の予定を開けた。たとえ、周りから疑惑の目で見られようと構わない。
これ以上思い悩むのは後回しにしてから、リカバリーガールの後ろをついていき、大学病院に入院している患者を協力して全員診て、ようやく1日が終わる。
一人
「こんばんは。被身子さん」
「…こんばんは。どうしたんですか?」
「見舞いに来たの」
「…ありがとうございます」
いつもの弾んだ声ではなく、落ち着いた口調で。お団子ヘアではなく、おろした髪で応対され、知らない人から見れば大人しい印象を受けるだろう。そんな彼女の脇にある丸椅子に座って、改めて対面する。
「どうして、ここに来たんですか?」
「被身子さんと分倍河原さんのことが心配でね。弔さんに、昨日ここに搬送されたって言ったの。体調、大丈夫?」
「…あんまりよくありません。ずっとボーっとするんです」
彼女の話によると、自分が犯罪者ということで他人に冷たい目で見られる事は慣れているが、入院する身で自由に身動きできない事が苦痛に感じているらしい。しかし、私は違うと言い、目に温かみがあると返答を受けた。
「立場の違いがあっても、今、私とこうして話してくれる。それが嬉しいんです」
「そっか。じゃあ、これからは毎晩とはいかなくても、顔見せに来ますね」
「ありがとうございます。私と仁君の頭に攻撃した人は、どうなりましたか?」
「搬送された日に亡くなられました」
「オーバーホール君と
「治崎は、護送中に連合の襲撃に遭って、両腕を失ったと弔さんが言ってました。緑谷君は、昨日退院して、今日普通に授業受けたらしいです」
私が彼女に与える情報は、どれも
「わかりました。私のことはもういいので、仁君のところに行って下さい」
「ありがとう。そうさせてもらうね。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
被身子さんがいる病室を退室し、もう一度受付に行って分倍河原さんのことを聞くと、別の階にいるとのことでそちらに向かい、彼がいるであろう病室の戸を軽く叩く。
「失礼します。…こんばんは。分倍河原さん」
「こんばんは。包むものをくれ! 裂けちまいそうだ」
「持って来ましたよ。大きめの紙袋でいいですか?」
「ああ。ありがとう。小せェな!」
彼の話を聞くと、黒と灰色のラバーマスクは印鑑を投げつけてきた
「トガちゃんはどうなんだ?」
「まだボーっとするようです。安静にしていたら大丈夫ですよ」
「そうか…。良かった。良くねェよ! 下手したら死んじまってたかもしれねェんだぞ!?」
「分倍河原さんの言う通りです。だから私は、犯人を捕まえる際には、よっぽどの事態でない限り、手荒に扱ったりしません」
「だよな! リカバリーキャットが優しく俺達を抱き締めてくれたから、安心して意識を飛ばしたんだ。こっちにも人権があるっての!」
彼の言い分を聞いて頷き、考え方に賛同すると、彼の顔色が幾分良くなったように見える。面会時間を半分ずつ使って、双方の体に負担にならないよう、消化に良い『飲むゼリー』を見舞い品として渡し、私は彼にお暇を告げた。
緋桐から受け取ったり、療養中に買った彼の男物をどうしようかと悩んで荼毘君に電話をかけると、『好きにしていい』と無頓着な返事が返ってきた。しかし、防犯の面から結局処分しきれずに別途箱に詰めていて、眼前にある。
そして、先月末までに集まった募金の総額を、今月末の週末に予定しているデート時に車内で渡すことを伝えてから通話を切り、彼の段ボールだけが積まれた部屋から自室に移動する。筋トレを始めた時、時機が悪くオールマイトから電話がかかってきたため、トレーニングを中断して、机上に置いている骨伝導イヤホンを取りに行って装着し、送受信モードに設定して応対した。
「リカバリーキャットです」
『夜分すまないね。今、時間大丈夫?』
「大丈夫ですよ」
『グラントリノから連絡があって、連合の黒霧を捕まえる際に、野人と呼ばれる人物に遭遇したらしい。噂は聞いてるかい?』
「いえ。初耳です」
グラントリノの報告によると、野人の身長は山の木々より高く、攻撃範囲は広く強大で、優先順位から考えて黒霧逮捕を先にし、野人は後回しにしたと言う。もし、黒霧の『あの方』がオール・フォー・ワンを指すのであれば、彼が動く事を念頭に置いて、どんな手段でも使うと考えていかなければならない。
「黒霧は、今どこに?」
『タルタロスに収監されているそうだ』
「それなら、連合も移動手段がひとつ減りましたね。でも、人に噂されるほどの野人ですか。それが連合につくとなると脅威です。ヒーローの中で巨人化するのは、マウント・レディしか思いつきませんし。…どうしましょう。オール・フォー・ワンは、戦争でも始めるつもりでしょうか」
『…そうかもしれないね』
善悪の全面戦争になる時、戦場はどこになって、いつ始まるのだろう。恐らく、その火蓋は弔さんの言う『先生』の手中にあるとすれば、いくらか納得がいく。
「ホークスさんにも情報を回しておきます。私より通じていますから」
『そうだね。そのほうがいい』
「では、今からお話してみますね」
『ありがとう。相談に乗ってもらって』
「こちらこそ情報を下さって、ありがとうございます。おやすみなさい」
『ああ。おやすみなさい』
オールマイトとの通話を終わらせて装着していた骨伝導イヤホンを外してから、机上に放置しているスマートフォンを手に取る。スリープモードから起動し、発信履歴からホークスさんの番号を選んで、間違いが無いか確認して発信した。
『はい。ホークスです』
「こんばんは。リカバリーキャットです。あなたに報告がありまして、電話しました」
『分かりました。どうぞ』
「まだ推測の域ですが、敵の目的は、ヒーローとヴィランで大規模な戦争を起こすことだと思われます」
『了解。俺も探りを入れてみます。ありがとうございます』
私と彼がチームアップして九州で会うのは、少し先のことだった。