ヒーローの異端児   作:白天竺牡丹

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第10話 帰る場所

 寮生活にも慣れて文化祭が終わり、11月になった頃。

 私は学校を離れ、昨日行われたヒーロービルボードチャートJPで、ナンバーワンになられたエンデヴァーさんと共に、ナンバーツーに選ばれたホークスさんに呼ばれて九州にいた。

 

「お久しぶりです、キャット。元気にしてましたか?」

「はい。半年ぶりですね。ホークス」

「敬語やめて下さいよ。俺のほうが年下なんですから」

「ひとつだけでしょう。実力も実績も雲泥の差ですし、敬語は貫かせてもらいます」

 

 街中で、ホークスやエンデヴァーさんがファンサービスをしているのを遠巻きに見て、同じヒーローでも私には縁遠い世界だと思っていると、大学時代に助けた方に声をかけられ、自分を覚えて下さった事に礼を伝える。そして、ホークスの紹介でとあるビル内の個室にて料理を口にしつつ、情報交換をした。

 

「この半年間、俺は情報面でキャットより仕入れるのが遅れています。どうやって(ヴィラン)連合に取り入ったんですか?」

「知り合いの紹介で直接会う機会がありまして。あとは、彼らと真っ正面から向き合って、付き合っていくだけです」

「さすがだな。俺には真似できない」

「ホークス。そろそろ本題を話せ」

 

 連合の残る面々を思い出している最中に、ノウムが一般市民の噂の種になっていることを聞き、食事の手を止める。

 

「出張に出た時、地元の人から聞いたのが最初です。その時は警察とも協力して、混乱を避けるため、こっそり捜査したんですが、何も出ず。で、ちょっと気になったんで、個人的に全国回って調査してみたんです」

「調査?」

 

 ノウムという存在が、様々な事件を経て人々に知られることになり、下手すれば自分も素材になっていた可能性があると思うと、途端にゾッとする。さらに、先ほど『異能解放万歳!』と叫んでいた恥(さら)しのヴィランのことや、大昔の犯罪者の自伝が売り上げを伸ばしていることを取り上げて、感化される人間が各地で多くなっていると示した。

 

「ナンバーワンのあなたに、頼れるリーダーになって欲しい。立ちこめる噂話をあなたが検証して、『安心してくれ』と、胸を張ってあなたが伝えて欲しい。俺は特に何もしない」

「そこまで言って何もしないって…」

「キャット。俺は楽したいんだ」

「貴様…!」

 

 耐えきれずに声をあげて笑ってしまい、彼の『ヒーローが暇を持て余す世の中にしたい』という信条を久しぶりに聞き、笑うのをどうにかやめた時、聴力がこちらに猛スピードで向かってくる何かを感知する。がしゃんとガラスが割れる音を聞いた頃には、いくつかの破片を身に受けていた。

 

「誰ガ一番強イ?」

「ホークス! リカバリーキャット! 避難誘導!」

「了解」

「了解。エンデヴァーさんは?」

「噂ではなかったか。なんとも間のいいヤツだ」

《避難誘導を開始します。落ち着いて行動して下さい》

 

 ホークスが保護した女性従業員を部屋の外へ一緒に避難させた。その間に、モスが強制的にこのビルにいる人達の通信機器に入りこみ、全員を避難誘導させる。

 

「ホークス! 残りは私がやる!」

「頼んだ!」

 

 崩れゆく被害部分より上階から屋上までの質量を、丸ごと数メートル上空に高速テレポートで高さを維持させ、自分の聴力の良さを頼りに大通りに人々を別途移していく。重いのは承知だが、久しぶりの繊細な作業に自分の力が狂ってしまわないかヒヤヒヤしつつも、どうにか全員救出に成功した。

 

「エンデヴァー!! 全員救出成功しました!!」

「わかった!!」

 

 彼の技であるヘル・スパイダーによって、上空へ高速移動させていた建物が粗微塵切りになり、ホークスの剛翼(ごうよく)によって瓦礫がひとつひとつ地上へと運ばれていく。しかし、気がつけば白い個体のノウムがバラ()かれており、それに対処するために腰部分に収納していたナイフを脳に直接突き立てて、排除していった。

 

「攻撃になる(もん)は持たんかったんじゃなかと?」

「そげんかこつ言うとる場合じゃなかろうもん」

 

 分断されたノウムの処理に追われ、ホークスと共にそれらを相手していく中で、エンデヴァーは黒いノウムをホークスの助力も受けながら、顔が血に(まみ)れながら単独で倒した。彼を即座にヒールで治しつつ周囲を警戒していると、報道陣から見えない通りから。横断歩道の向こう側から荼毘君が歩いてきて、自分達を逃げ道を塞ぐように青い炎で大きく囲む。

 

「お前がいるとは聞いてねェ」

(ヴィラン)連合…。荼毘…! スナッチを殺したそうだな!」

「砂…? 誰だっけ? んな事より、少し話そうぜ。せっかくの機会だし」

「エンデヴァーさん、休んでて下さい。俺がやります。雑魚羽しかありませんけど、時間稼ぎくらいは…!」

「私は、最寄りの病院へ運びます」

「お願いします」

 

 重傷で治癒の“個性”をかけている最中の彼を(かば)うように前に立ち、荼毘君と対峙すると、彼は両手を広げてこう言った。

 

「勘弁してくれよ。そこのノウムを取りに来ただけなんだ。俺が勝てるはずねェだろ。満身創痍のトップツーと、五体満足なリカバリーキャット相手によ!」

「っ! ミルコさん…!」

「ニュース見て飛んで来たぜ。テメェ、連合だな? 蹴っ飛ばす!」

「ったく。いいところだったのに。…ウジコさん。…また今度な、ナンバーワン。いずれ話せる機会が来るだろう。その時までせいぜい頑張れ。死ぬんじゃねぇぞ、轟炎司!」

 

 嗅ぎ慣れない匂いに包まれて、彼は転送されて姿を消した。だが、携帯の座標から特定したモスによる内線では『ほんの数キロしか離れていない』らしく、その地点に行くようミルコさんに助力を申し出てから、エンデヴァーさんを必要な手当てができるよう最寄りの総合病院に運び、病室に着くまで傍らにいる。

 そこで彼と視線を交わして別れ、軽傷の自分は帰路につき、道中で逃げのびたと知らせのあった荼毘君とお互い今日の働きを(たた)え合い、この(いびつ)な関係が続くよう願った。

 

 

 エンディヴァーさんが2日で退院したことを、ホークスから。家族で食事することを焦凍君から聞き、私も久しぶりに実家に帰ろうと思い、外出届けを書いて事務に提出した。

 正月以来実家に帰っていないため、10ヵ月ぶりの帰省に家族皆で出迎えてくれる。変わらない温かさにありがたく思い、彼ら一人一人を抱き締めたいが、『先に手洗いとうがいをしなさい』と父に注意されて、それに素直に従った。

 

「……」

「どうしたの。姉さん」

「帰る場所が無い人は、どうすればいいんだろうって考えてた」

「知り合いの人?」

「うん。でも、大丈夫よ。莉良(りら)。心配してたらキリが無いから」

「遠慮しないでいいよ」

「本当に大丈夫。あまり電話かけてたら、相手に迷惑になるし」

「そう? 遠慮しなくてもいいのに。相手が誰であろうと、連絡くれたら嬉しいよ」

「そうだとしても、今日はいいの」

 

 荼毘君の帰る場所としていた安アパートは、入寮のために先々月に引き払っていて、襲撃で各地を転々としている彼にとって、物理的に無いことと同等だという事を(うれ)う。彼が心配で電話しようとしたが、『心配するな』と返されるのがオチだと想像できるので、自分の感情を無視して、祖母と一緒に食事の準備をしてくれる妹の手伝いをした。

 

「陽。何か言うことがあるんじゃないかい?」

「え?」

「左手の指輪」

 

 オフの時には指に嵌めている指輪を見て、70代前半の祖母には敵わないと思い、キリがいいところで包丁を置き、手を拭いてスマホのSDカードに保存している写真を開いて、素直に白状する。

 

「この人からもらったの」

「…なんだい。ピアスたくさん開けてるじゃないか」

「そうだけど違う。目の色とか、(ただ)れた皮膚で思い出さない?」

「思い出すって……。っ…! もしかして、燈矢君?」

「ばあちゃん。正解」

「…そう。生きててくれたのね。…炎司さんには、このこと知らせたの?」

「うんにゃ。燈矢君が嫌がってたから」

 

 父を含めた男性陣に、彼のツーショット写真と共に婚約指輪を買ってもらったことを告げると、結婚挨拶はいつでもいいと言ってくれた。

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