ヒーローの異端児   作:白天竺牡丹

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第11話 約束

 仮免補講の最終日を2週間後に控えた日。

 私は、蛇腔総合病院にリハビリに来ており、主治医である殻木理事長と話す機会を得ていた。その中で経過が良好で、今日を最後にすると言われ、この時は外来で来た一人の患者として振る舞った。

 エリちゃん救出後から今日まで、ここに勤務している医者や看護師達協力のもと、ついにノウム製造の証拠を(つか)み、黒だと断定できたが、すぐには動かなかった。時間をかけて、理事長と近しい関係者数人のみで高級料亭で酒の席を設けるように指示し、そこに私と塚内警部が手荒だが、乱入する形になる。

 

殻木(がらき)球大(きゅうだい)。オール・フォー・ワンの片腕として、お前を逮捕する」

「なんの話じゃ?」

「ノウムを製造。しかも、それを(ヴィラン)連合に戦力として提供している。今頃、ヒーローのみならず、夜勤の看護師達や医者は青ざめているでしょうね。あなたの言っていた研究の正体が、倫理観を無視した代物だったんですから」

「っ…!」

 

 その後もシラを切る様子を見せたため、看護師によって撮影された霊安室の向こう側の景色が。見るに耐え難がたいおぞましい景色が、タブレットの液晶画面を通して全て見せて屈伏させる。恰幅(かっぷく)の良い彼を後ろ手に拘束し、パトカーに乗せられるまで見送った。

 

《蛇腔総合病院にいるヒーロー。ミルコから入電です。受け付けますか?》

「繋いで」

《了解》

 

 短い電子音が二回響いて、通信が切り替わる。

 

『リカバリーキャット。言われた通り、全てのノウムの脳を破壊してる最中だ。でも、数が多い』

「加勢します」

『頼む』

 

 市内にあって戦場になっている総合病院に高速で向かう。合流後、円筒形の水槽の中に直立の姿勢で入れられている意識の無いノウムを協力して引きずり出し、ナイフを脳に突き立て、再生できぬよう八つ裂きを繰り返して殲滅(せんめつ)し、長い夜を経て(まぶ)しい朝日を迎えた。

 

 

 数日後。

 弔さんからドクターと連絡がつかないと連絡が入り、愛知県(でい)()市にて、ギランという裏社会での大物ブローカーが今話題の異能解放軍に誘拐され、右手に怪我をしているらしい。それに対して何人で行くのか尋ねたところ、記憶の通り4人で、その事から被身子さんと分倍河原さんはまだ刑務所の中だと確信できた。2人は、11月上旬に起訴されたが、どういう訳か無罪を主張し、弁護士や警察などが頭を抱えている。

 

『救出は得意だろう? ヒーロー』

「…知らせてくれて、ありがとうございます。すぐに向かいます」

『あともうひとつ。頼みがある』

「なんでしょうか?」

 

 彼らは移動手段をなくしており、まずは仲間と行動を別にして、どこにいるかもわからない荼毘君を迎えに行く必要があった。モスによる位置座標によると、三重と滋賀の県境にいると言う。そこに向かい、中にいるであろう彼に電話をかけてみる。

 

「こんにちは、荼毘君。迎えに来たよ」

『呼んでねェ』

「弔さんからのお願いで来たの。ブローカーのギランさんが、異能解放軍に誘拐されたんだって。今から来てくれない? 外で待ってるから」

『俺には関係ねェだろ』

「弔さんにとっては戦力が欲しいんじゃないかな。…お願いします」

『……。チッ。陽が頭下げんな』

 

 舌打ちと自分への言葉を了承と受け取り、渋々外に出て来た彼に礼を述べ、新潟にいる彼らを迎えに行き、弔さんの携帯の位置座標が示す場所にマッハ1で向かう。学校を出発してから9分が経過して合流した際に、弔さんから『早いな。さすがだ』と称賛の言葉をもらい、そのまま上空を徐々に速度を上げて飛んでいき、愛知県泥花市に4分で到着した。

 これからどうするかを話し合い、私が遠目に見えるタワーに向けて瞬間移動しようとした矢先、誰かがこちらに土埃を巻き上げて近づいてくるのが見え、臨戦態勢を取る。

 

「ストーップ! 私は案内役を仰せつかった者。解放軍指導者と話したければ、私についてきたまえ!」

「ヒーロー!? 知らんヤツだが…」

「そっちもヒーローを連れてきているのに、その言い方はおかしいんじゃないか?」

「うるさいな。さっさと連れていけ」

 

 弔さんの鶴の一声のもと、(ヴィラン)連合と共に泥花市内を歩いていくと、あまりにも人気がなく、この街全体が解放戦士のためにあるとご丁寧に説明してくれたのは、政界に名を連ねる男性だったが、私はスピナーさん同様あいにく名前を知らない。

 とにかく、弔さんの指示通りタワーへ向かおうとした時、地面が爆発し、わけもわからず転げ回ることになった。その折、青い肌を持つ女性に出会い、両手の指で長方形を作りながらこう言われる。

 

「医療ヒーロー、リカバリーキャットね。どうしてヒーローであるあなたが、(ヴィラン)連合にいるのかしら。インタビュー、受けて下さる?」

「嫌です。カタがついたら、地中から解放する。それまで全員大人しく埋まってなさい」

 

 鼻呼吸ができるように顔の上半分だけは地上に出しておき、ギランさん救出のために先を急ぐ。

 しかし、街ひとつを解放区にしている以上、どうにも住民の数が多く、手間取っている。それでも前へ走る脚は止めず、立ち向かってくる者全員を視界に映った先から、道や壁を問わず問答無用で埋めていった。あとで見る景色はきっと壮観で、モグラ叩きのモグラのように頭部だけ地中や壁から出している状態で、絶対に面白いだろう。

 私がタワーへたどり着いたのは、戦闘開始の狼煙(のろし)が上げられてから、1時間を過ぎた頃だった。そこから最上階まで馬鹿正直にエレベーターを使って行く道理はなく、外から瞬間移動で一気にそこまで行き、窓ガラスを通り抜けて堂々と足を踏み入れる。

 

「ギランさん。助けに来ました!」

「リカバリーキャットが、どうしてヴィラン連合に?」

「加入した覚えは無い。弔さんに頼まれて来たんです。ギランさん、大丈夫ですか?」

「…ああ」

 

 手を差し伸べた先にいるのは、弔さんの言う通り、暴行を受けた後と思われるギランさんで、決してリ・デストロと呼称する男性ではない。

 助けられる命があるなら、ヴィランでも駆けつける。命ひとつで壁ができるのはおかしい。だから、私は要請があれば、誰でも助けるヒーローになる。そう中学生の頃に決心したことを、ずっと実践していた。

 

「各地で指が発見されていますが、あなたの指だったんですね」

「そうだ…」

「よし。脱出──」

「リカバリーキャットには退場してもらおう」

 

 右半身に強い衝撃を受けて意識が飛び、体が吹き飛ぶ感覚がして、左腕から窓ガラスに当たった際に激しく咳こんだ。それでも嗅覚と聴覚が、目標となるギランさんが動いてないことを知らせる。怪我をしている右手を外側にして、手元に瞬間移動させ、もう一度迫ってくる巨大な手を一瞬で避け、タワーの崩壊と共に身を滅ぼさずに済んだ。

 その後、腹を怪我したスピナーさん。両手と左足を負傷した弔さん。両足に重傷の怪我を負った、リ・デストロさんに対してできる限り治癒を施し、弔さんから後日寿司を(おご)ると約束してくれた。

 

 

 泥花市の惨状が情報操作されているのに気づいたのは報道がなされた日で、インタビューを受けて欲しいと言っていた女性は巨大化した市民に踏み潰されたとあったが、これは遅れてやって来たマキアと呼ばれた巨人だろうと容易にわかった。一週間後に、館でささやかなパーティーがあると言うので行ってみると、寿司が用意されている。

 

「荼毘。食わねェならもらうぞ」

「ああ。魚嫌いなんだ」

「リカバリーキャットは?」

「少しいただこうかな」

 

 卵焼きに箸を伸ばしかけた時、部屋の扉が開かれ、スケプティックさんとトランペットさんが来て、時間だと告げた。私は治療した者として、また連合と関わりがあるとの事で、彼らの後についていき、演説が行われている場所まで行く事になる。

 登壇したのも束の間、あたしは開闢行動人海戦術連隊『WHITE』の隊長だと発表される。

 

 待って。なんで? 初耳なんですけど!?

 

 作り笑いを保ちつつ発した胸中の叫びも虚しく、知らぬ間に隊長に祭り上げられ、演説が終わるまで弔さんの隣に立ち、松葉杖をついていても倒れかけた彼をとっさに支えた。

 

「…ありがとう」

「どういたしまして。どこに行きたいですか?」

「最上階……。エレベーターでいい」

「途中の階段はどうします?」

「支えてくれ」

「わかりました」

 

 立場は違えど、小さな約束をずっと守っていけば、それはやがて信頼されることに繋がると身をもって知っている。だが、野放しにしていい問題に目を瞑るほど寛容ではない。

 

「ああ。それと、部屋に着いてからで()かけん、どげんか(こつ)か、ちゃんと説明してくれん?」

「…わかった」

 

 初めて彼らに対して出した怒気と冷笑と方言により、弔さん以下、連合幹部の方々のお顔が引きつったのを見て、自分がお人好しではないと示した。




 隊長にされた理由の話は、後々投稿します。
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