ヒーローの異端児   作:白天竺牡丹

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第12話 サプライズ

 リ・デストロこと四ツ橋力也さんが代表取締役をしているデトラネット社が、ヒーローサポート事業に参入したと報道され、雪が降った翌日。

 昼休み中に荼毘君が公衆電話を使って連絡をとり、急遽(きゅうきょ)デートが決まったが、指定された場所への到着に定時である平日の17時までに間に合うには無理があると言い、埋め合わせに週末なら良いとして、どうにか会える日を作った。

 約束当日前夜に、荼毘君の物を詰め込んだ段ボール箱を決して広くない軽自動車の後部座席に載せ、翌朝に教員寮から休憩を挟みながら6時間弱かけて最寄り駅に向かい、敷地内に駐車してスマートキーで軽自動車を施錠してから、14時頃に待ち合わせ場所にしている場所に向かった。辺りを見回して、店前に立って待っている黒いフードを目深に被った人に歩み寄って近づき、野良猫から取った外出用の偽名で呼ぶ。

 

「お待たせ。どうしたの? (りょう)君」

「デケェ家を譲り受けて、そこに引っ越した。今から来るか?」

「是非」

 

 それから引っ越し祝いにノンアルコールビールを買うついでに食材と米を買い、新居の合鍵を店員に作ってもらい、彼の道案内で家に行く。

 協力して冷蔵庫に買った物と、荼毘君が療養中に使っていた物を部屋に入れた後は屋内を探検して、洋館の外観と内装。家具全てが気に入ったものの、ボロボロのソファーが気になって買い換える提案をしてみれば、無頓着な反応が返ってくる。必要な物をリストアップするための写真を、スマートフォンのカメラを起動して撮り終え、手洗いとうがいを済ませてから作り置きの料理に取りかかった。その最中に助っ人を名乗り出てくれたので、簡単な下準備をお願いする。

 4つのコンロをフル稼働させて、自分にとって二度目の昼食もついでに作り終え、作り置き以外でできあがったものから順に食卓に並べる。

 

「いただきます」

「いただきます。……。久しぶりにまともな飯食った」

「荼毘君が望むなら、毎週作るよ。週末になるけど」

「ああ。作り置きじゃないヤツが食いたい」

「分かった」

「ありがとな」

 

 お菓子をつまみながら半年ぶりの家デートを楽しみ、彼の隣にいられることを嬉しく思い、知らず知らずのうちに頬が緩んで微笑んでしまう。それに釣られるように彼が笑って、それだけで幸せだと思う自分はなんて安上がりだろうと呆れた。

 家具を新調することに関しては了承済みでも、実際に写真を見るのとでは違うため、タブレット端末で見せると、やはりやる気のない答えが返ってくる。

 

「……。もういっそ、このままにしようか」

「なんだよ。買うんじゃなかったのか?」

「よく考えたら、買うことで足がついて、配達員に荼毘君の姿見られて通報されそう」

「なら、普段の買い物で通報されるはずだろ」

「あ。そっか」

「ボロいヤツは、俺が焼却処分するから心配すんな」

「了解」

 

 長距離運転もあって18時頃にお暇を告げ、後部座席が空っぽになった車に一人乗りこんだ。

 

「今度はどうする?」

「来てからの楽しみだ」

「サプライズなら、いつでも大歓迎だよ」

「おう。またな。陽」

「またね。荼毘君」

 

 額にキスを落としてから名残惜しさを紛らわせた後、パワーウィンドウで窓を閉めながら手を振り、シートベルトを締めてエンジンをかけ、豪雪地帯を抜けて教員寮まで車を走らせた。日付が変わった30分後に教員寮に到着し、風呂に入らず、そのまま部屋に入って寝間着に着替え、疲れた体を休める。

 翌朝、さっそくミッドナイト先生が寝起きの私に、昨日何があったのか早速尋ねてくるが、いつも通り秘密にする。まだ荼毘君の写真が見たいのかと諦めの姿勢を見せない彼女に、ボロボロのソファーを見せると、違うと言うようにべちっと結構強めに額を叩かれた。プレゼント・マイクにも秘密にしたが、もし挙式するなら教師陣を代表して数人は自分の中で選んでおり、あとは荼毘君に相談するつもりで決意してから、1日の始まりを迎えた。

 

 

 週明けに、外出届けを毎週提出することになると事務員に事前に告げると、全然構わないと快く対応された。

 プロヒーロー同伴で大晦日に生徒の家に行く前々日に電話し、新幹線を乗り継いで婚約者の家へ向かい、荼毘君の所持金で家具屋から直接購入し、ソファーを運んでもらって新調する。しかし、帰宅してから彼はそこに座って無言になり、皿を洗う手を止めてタオルで手を拭いて、エプロンを脱いでから彼ときちんと向き合うために隣に座ったのを見計らい、彼がおもむろに口を開いた。

 

「結婚相手。本当に、俺でいいのか?」

「荼毘君がいいの。地獄まで着いていくって言ったでしょう」

「そうだな」

「……。どうしたの?」

「まともな収入無しで生きてきて、頼みの綱はラジオで稼いだ募金。正直言って、へこんでんだ」

「そう…。あたしは、どんな形であれ、荼毘君が生きててくれるだけで満足だよ」

「そんなんでいいのか」

「それでいいの」

「…そうか」

 

 彼が(ヴィラン)として生きていたとして、たとえ復讐という目的のために手段を選ばない人になってしまっても、この人の傍を離れずそばに居続け、最後まで支え続けると自身に誓っている。それは全く口にしていないことなので、彼からしてみれば、あたしは復讐のために尽くしている滑稽(こっけい)な女に映るだろう。

 

「陽」

「ん?」

「ありがとう。俺なりに幸せにするから、式の話でもしようぜ」

「…よろしくお願いします」

 

 盛大なフリに気づかずに彼の話を真面目に話を聞き、見事に引っかかったことに彼の意地悪な笑みで気づき、彼を小突きたい衝動を抑えた。そして、結婚式に関しては素人で、何をどうすれば良いか分からないので、まずインターネットに繋いでウェディングパークのサイトを開き、あれこれ条件を絞って比較検討していく。

 

「……少人数結婚式ってのがあるみたいだけど、それにする?」

「おう」

「じゃあ、10人から20人くらいで…。挙式は?」

「猫橋家だけで」

「それじゃ足りないでしょう。じゃなくて、式の会場。神前式。教会。人前式とか色々あるらしいよ」

「人前で。神様信じてねェし」

「わかった。別居してるから、集合するためにもどこかのホテルに泊まるとして…。披露宴はどうする?」

「やンのか?」

「できればやりたいなー。…そもそも場所決めてなかった。どこにしたい?」

「……出会った場所。…お。写真だけってのもあるぜ。1日一組限定だってよ」

「どれどれ?」

 

 自分達が出会い、再会した場所の静岡でするとは、意外とロマンチストなんだなと考えていると、それが伝わったのか頬を摘ままれ、短い悲鳴を淡々とあげるとさらに強くされる。陳謝してどうにか離してもらい、検索を再開して続け、写真婚のブライダルフェアの日程や、大まかな招待状作成など互いが納得するまで話し合った。

 

「荼毘君のおかげで、素敵なプランが見つかったよ。ありがとう。あたしの視野を広げてくれて」

「いいのか? 披露宴潰れたぞ」

「あれはただの願望だし、荼毘君が見つけてくれたのが小規模なのに、色んな特典込みで夢いっぱいなんだよ」

 

 力説していると、彼が目を細め、はにかんで笑ってくれたが、不意に再会したばかりの頃を思い出す。

 

「そう言えば、父さんに一報入れた?」

「は? 誰がアイツなんかに」

「違う違う。あたしの父さん」

「…あー、全然。そもそも、陽ン()の番号知らねェし」

「そっか。忘れてた…」

「おじさんがどうかしたのか?」

「えっと…。九州の一件で帰省した時、ばあちゃんが指輪のこと聞いてきてさ。家族に君との写真見せたら、生きててくれたんだって喜んでた。あと、結婚の挨拶は、週末ならいつでもいいって言伝(ことづ)てもらってるけど、どうする?」

「挨拶?」

「うん」

「……。来月の第二土曜日」

「わかった。連絡しとく」

 

 前向きな姿勢を示してくれたことに感謝し、了承の言葉しか受けつけないように、外堀を埋める形になった申し訳なさから、自分もただ『頑張る』と答える他なく、こんな不甲斐ない自分の頭を無言で撫でてくれる。

 昼食後に再来週の結婚挨拶について、最終確認の意味もこめて話し合った。

 

「挨拶に着ていく背広、ある?」

「総会の時に一回だけ着たヤツなら。黒でいいのか?」

「うん。派手じゃなきゃいいらしい」

「陽は何着てくるんだ?」

「ワンピース」

「へェ」

「何その笑み」

「お前でもスカート履くことあンのか」

「いつもズボンで悪うござんしたね」

「色気も化粧っ気も無ェもンな」

「挙式の時に化けてやる」

「化粧だけに?」

「ムカつく…!」

「悪かった。楽しみにしてっから機嫌直せ」

 

 そんな他愛ない会話をしつつ、幸せが間近に迫っている事に内心観客する。

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