ヒーローの異端児   作:白天竺牡丹

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第16話 鍵

 冬美ちゃんと通話した数時間後に起床すれば、頭がボーッとする。寝不足や鼻詰まりの時のように意識はあっても、眠気と倦怠感が残っている。眩暈は無いからまた眠れば問題無いだろうと、新幹線の中で眠っても改善しなかった。

 

「寝不足か?」

「……今、ちょっとだけ覚めた」

「そりゃ良かった。行こうぜ」

「うん」

 

 今日は、結婚挨拶に行く日。

 静岡駅北口前に現れた黒い背広姿の荼毘君は、普段の鎖骨が見えるほど首元が空いた格好を知る故、耳と鼻に着けていたピアスを外して、ネクタイを締めただけで誠実そうに見える落差に、心が大いに揺らぎ、格好良さと面の良さが際立って一瞬呆けてしまった。それに気づかない彼では無いので、信号待ちの間に茶化されるかと思いきや、無言を貫いている。

 

「…き、緊張するね」

「ああ…」

「手でも繋ぐ? 少しは緩和できるかもよ」

「……」

 

 じっと差し出した手を見たまま動かない彼は、信号が青になる直前に、手を滑りこませて強く握った。まるで縋っているようで、振り向く代わりに握り返し、30分かけて実家の表門にたどり着き、ゆっくり手を離してから数回戸を叩く。十数秒後に表門が開いて二人を出迎えたのは、着流しを着て、尻尾をピンと立てた父だった。

 

「ただいま。父さん」

「お帰り、陽。燈矢さんも、どうぞお入りなさい。寒かったでしょう」

「はい。お邪魔します」

 

 2ヵ月前に家族に写真を見せているため、今の燈矢君を見ても驚きは無く、玄関で出迎えた祖父母に、彼は緊張しながらも再度挨拶する。以前に比べて、顔や声など瞳の色以外全てが変わってしまった彼を、猫橋家は涙ながらに温かく受け入れた。

 炬燵とストーブが完備された居間で、結婚するにあたっていくつか質問を投げかけ、二人で話し合って考えた夫婦像を含めた家庭のあり方を答えていく。それは、炎司さんを反面教師としていて、轟家を知っているからこそ、猫橋家は真剣に聞き入った。やがて、最後まで耳を傾けた現当主の父は、自分達の結婚を快諾してくれた。

 

「燈矢君。娘を…、陽を任せた。そして、お帰り」

「…ただいま戻りました。……承諾して下さって、ありがとうございます。僕なりに、陽さんを幸せにします」

 

 彼の用意した新潟土産のお菓子は、どう計算しても一人分余ってしまう。それは、12年前に殉職しなければ、ここにいた母の分だ。しかし、家族の誰もそれを指摘しないし、燈矢君も無闇に訊かない。

 承諾されて堅苦しい空気から、一気に和やかな雰囲気になって雑談に差し掛かる前に、祖父が土産の珈琲を淹れるために席を立ち、あたしに向かって手招きする。それで燈矢君に断りを入れて離席し、祖父と共に台所に立った。

 

「…寝不足かい?」

「ううん。ちゃんと眠れてるけど、昨日からずっと頭がボーッとしてんの」

「そうかァ。じゃあ、爺ちゃんが陽を起こしてやろう」

「何言って──」

 

 左右の頬を肉球で挟まれる形で、ぐっと顔を近づけられ、自然と祖父の縦長の瞳孔と金色の瞳に視線が行き、静寂に委ねるように数秒の間を置いて、落ち着いた低い祖父の声が聞こえた。

 

「おはよう、リカバリーキャット。今から、全てを取り戻しに行こう」

 

 その言葉を聞いて、すうっと眠気が引いていく感覚がする。やがて、完全に倦怠感も無くなった時、徐々に言葉の意味を理解していった。

 

「……」

「眠気取れた?」

「……うん。ありがとう。爺ちゃん」

「どう致しまして」

 

 祖父が嬉しそうに目を細めて尻尾を揺らす中、人数分の珈琲カップと受け皿を食器棚から取り出して、ぼんやりと、自分のヒーロー名を名付づけた理由を思い出していく。

 

(燈矢君は生きてる。足跡から、革靴を履いた男性が、焼け焦げた燈矢君がいた小さな川へまっすぐ向かってた。1000度を超える高温の中でも動けるとしたら、無効化する類の“個性”かしら。普通なら、病院と家族へ連絡してるはずだけど、一週間経っても音沙汰無って事は、絶対わざとね。悪質よ)

 

 接触感応(サイコメトリー)の“個性”を持ち、非番だが家が近い事もあり、現場検証や捜査に協力した当時60歳。還暦を迎え、定年退職を2ヵ月後に控えていた祖母が、怒りを抑えてあたし達に報告していた。

 燈矢君が、誰かに(さら)われた。

 

(…これは、楓の骨じゃない)

 

 婚約者を亡くしたばかりの愛娘に負担をかけさせまいと、父は一人で母の葬儀を済ませた。しかし、祖母の遺伝でサイコメトリーの“個性”を受け継いだ父は、骨上げの際に箸を介して他人だと判り、すぐに中断された。

 誰かが、母の遺体を火葬前に他人とすり替えた。

 誰かが、家族の大切な人を、誰にも気づかれずに奪っていった。祖父母も父も本業で疲弊し、家に帰れば最愛の人がいない地獄があって、それまで日課だった一部が突如切り取られ、そこだけぽっかり穴が空いている。

 もちろん、ガールと母に対して尊敬の気持ちもあるけど、根本にある感情は今思い返してみれば違っていた。

 

 ただ、取り戻したかった。

 

 早くヒーローになって、大切な人を奪った者の手から燈矢君と母を取り戻して、(たす)け出したかった。

 リカバリーは英語で回復を意味するが、ビジネス用語で取り戻す事も含まれ、自分でも知らないうちにその思いすら忘れて、二重の意味で名付けていたと思い至り、涙ぐむあたしを祖父は追求しないでくれた。

 2時間滞在してお暇を告げ、夜に家に向かうと約束して静岡駅で一旦別れ、明日の準備をするために教員寮へ戻ると、ミッドナイトやプレゼント・マイクが挨拶の成果を尋ねてくる。『結婚を許してもらえた』と短く報告し、バスと新幹線を乗り継ぐ中で駅弁で夕飯を済ませ、越後湯沢駅に到着する時間を検索すると、日付が変わる5分前だと表示された。本当なら、そこで下車して宿を取るところだが、口約束を守るために謝罪の言葉を送信し、申し訳ない気持ちで一杯になる。駅を出て早々にフルフェイスヘルメットを被り、防寒と防風、防湿機能を備えた手袋を嵌め、荼毘君が所有する灰堀森林の中にある洋館を目指した。

 元異形排斥集団の拠点でも、一応、エアコンを始めとした空調機器。家電製品や通信設備は一通り揃っているので、いつも通り手洗いとうがいを済ませた後は、冷えた体や手足の指先を温めている。そして、今夜は猫橋家から結婚の許しが出た祝いとして、彼が購入したアルコール度数が低い酒を呷り、ほろ酔いでも勢いでやらかしたくない。手を出さないと誓われても、その気持ちをありがたく受け取りつつ、丁重に断り、別々の部屋で眠った。

 

 

 翌週の月曜日。

 成人の日兼冬休み最終日に、柊介叔父さんから連絡を受け、急遽カラオケに行く事になった。昼食を片付けがてら、ランチラッシュに『夕食は要らない』と告げ、貴重品を鞄に詰めてから、浜松駅に近い待ち合わせ場所に向かう。

 

「陽姉ちゃん。久しぶり」

「元気そうで良かったよ。陽ちゃん」

「久しぶりです、柊介叔父さん。鈴音ちゃん」

 

 鈴音ちゃんは、一昨年殺害事件を起こした渡我さんの親友で、大叔母の夫である柊介叔父さんの孫娘で、あたしから見てはとこになる。隣に佇む彼は、6年前に警察を定年退職している。最後に会ったのは中学時代で、8年ぶりの再会を喜び、案内された部屋に入ってから、各自ジュースやココアを選んでお年玉を渡すついでに近況報告をした。

 

「一昨日、椿義兄(にい)さんから鼻詰まりが治ったって聞いたけど、あれからどう?」

「すっきりしてます」

「それは良かった。じゃあ、本題に入ろう。……これを読んでほしい」

「…拝見します」

 

 叔父が出した書類の束は、現在刑務所に入っている分倍河原仁さんと、渡我被身子さんの事件や罪状に関する詳細な資料だった。本来は部外者に見せないはずだが、彼らが無罪を主張しているなら、それなりの理由があるんだろうと思い、もう一枚ページを捲る。

 分倍河原さんの場合、去年逮捕されたのは、テレパスと催眠能力を応用した変身。さらに、霧化する“個性”を持つ当時60代の男。10代の弱者を狙って犯罪を行い、冤罪をかけるのが趣味という外道で、催眠能力で捜査を撹乱しながら、20年間逃げ(おお)せていた。しかし、サイコメトリーの“個性”を持つ警官の取り調べと、毎日記憶を読み続けたおかげで、読み取った膨大な情報整理に年月を割き、時を遡るうちに一昨日、分倍河原さんの事が判ったと言う。

 犯人曰く、彼を偶然見かけただけで年齢を割り出し、さらに、過失運転で書類送検され、職と住みかを同時に無くした事を知った。しかも、金も運も、身寄りも無いと判り、生きていく金に困っているだろうと、手伝いの一環で、彼の姿形に化けて強盗や窃盗を繰り返し、無事に全国指名手配犯に仕立て上げたらしい。

 ずるずるとストローでオレンジジュースをすする鈴音ちゃんに、口頭で注意しながら分倍河原さんの書類を閉じ、渡我さんの資料に取りかかる。

 

「そういえば、渡我さんと親友って言ってたけど、いつからの付き合いなの?」

「幼稚園の頃から。“個性”の影響だと思うけど、血に強い関心を持ってるって知った時に言ったの。『そのまんまほっといたら、いつか血を全部欲しくなって、人を殺しちゃうよ』って」

「改善した?」

「うん。休日に私と婆ちゃん。非番の爺ちゃんが付き添って、“個性”訓練と思考の矯正を繰り返して、小学3年生で感情の分離に成功したんだ。6年生で“個性”を伸ばして吸血衝動も抑えられて、中学卒業の前月に、細かい調整もできるようになって、これからって時にあの事件が起きたの」

「…なるほど」

 

 “個性”発現が3~5歳の間と仮定して、最低でも10年かけて、精神に及ぼすほど強力な“個性”を制御下に置けた渡我さんの努力と、『普通』を押しつける親に反対されても親友でい続けた鈴音ちゃん。そして、協力を惜しまなかった石貫家を誇りに思う。

 渡我さんの場合、“個性”故に友達以外から気味悪がられ、犯人は、それと『裏の顔があるのではないか』という噂を利用した。中学の卒業式終了後、本物の渡我さんが鈴音ちゃんの側にいたにも拘らず、疑いは信憑性を帯び、二人共『やってない』『殺してない』と訴えたものの、誰も信じてはくれなかった。結局、渡我さんは卒業証書と貴重品が入った鞄を持って、警察が来る前に学校に親を置いて逃走し、そのまま失踪した。

 

「分倍河原さんは、知らないうちに。渡我さんは、同級生の誰かに嵌められる形で、警察に疑いをかけられて追われ続け、行き着いた先が(ヴィラン)連合だったって事ですね」

「そうなるな」

「爺ちゃんの探偵事務所みたいに、警察もそれを見抜けるほどのテレパスとサイコメトリーを採用すればいいのに。超感覚の類で、第一世代では王道の超能力だよ」

「鈴音ちゃん。現役ならともかく、引退した叔父さんに無茶言わない」

「はーい」

 

 渡我さんの資料を叔父に返して次の手を聞くと、先週から弁護士と連携して、当時の関係者に詳細な状況を聞いており、そこで確たる証拠が揃えば、逆転無罪になるだろう、とのこと。だけど、これではただの報告会に過ぎず、自分が呼ばれた意味が解らない。モスによって、スケプティックさんが通信機器はもちろんのこと、ヒーロースーツに無断でGPSと盗聴器を搭載したマイクロチップを仕込んで、監視していると看破された以上、下手な会話ができないでいる。

 しかし、それを予期していたかのように、叔父が無言で自分宛ての一通の封筒を自分に渡す。開封して数枚の便箋を開くと、祖父の達筆な字で一族への警告が記されていた。

 要約すれば、防音室を初めとした個室で話された事柄は、テレパスベースの“個性”によって傍受されたり、サイコメトリーベースの“個性”に記憶や情報を読み取れないようになっている。さらに、盗撮器や盗聴器の対策として、自動的にシステムダウンし、防音室などから出た時に復旧する仕掛けを施した。身内でも他人でもこの計画に関する事で裏切り、他人やインターネット上で吹聴しようとする者は、そう考えた時点で問答無用で、残留思念すら残さず絶命する仕掛けになっている。つまり、一度計画を知ったからには、成功するまで誰にも漏らさず、文字通り墓まで持って行けという事だ。

 また、暗示の解除方法を知るのは、あたしと祖父の二人のみだが、祖父は65歳で医者を引退するため、実質動けるのはあたしだけになる。当時警察官の大叔父は、職業柄犯人と接する機会が多く、万が一のために言わなかったらしい。祖父が言う『彼ら』は、故あって今もヴィランを演じ、あたしは彼らを正気に戻す役目があるものの、相応しい時が来るまで祖父自身の記憶も言霊で封じていた。特定の人にしか解けない時限式の暗示で、計画の立案者である祖父も全貌を明かせないが、自分が重要な鍵を握っていると、祖父に手紙を介してようやく理解する。

 

「……」

「俺にできるのは、無罪を立証する物を集めるまでだ」

 

 姪が手紙を読み終わったのを見計らって、大叔父がココアが入ったコップを持ち上げ、喉を潤していく中、殉職されたサー・ナイトアイと同じ予知能力の“個性”を持つ大叔母より先に知り得た訳を推察し、一つの仮説を立てると共に確信した。

 先週の旅行で、祖父から渡されたスクラップブックで一番古い新聞記事は、死柄木弔さんこと志村転弧君の家で起こった一家殺人事件で、志村転弧君は失踪している事になっている。もし、祖父がそれよりも前に時空間移動して、何かしら対策を立てる中で一番先に接触したのは、当時50歳で警察官だった柊介叔父さんだろう。そして、16年後の今になって彼がこうして話すのは、祖父が伝えた様々な情報が揃ったからだと思う。

 

「彼らを支えて下さって、ありがとうございます。柊介叔父さん。鈴音ちゃん」

「お礼を言うのは、まだ早いよ。お互い頑張ろう」

「はい」

 

 話が終わってからは、残り時間を使って普通にカラオケを楽しみ、『小さな恋のうた』『ハートリアライズ』『アイのシナリオ』を中学時代以来歌って、胸中に溜まり続けていたストレスを発散し、すっきりして親戚と別れた。

 

 

 翌日。冬休み明けの始業式後。

 放送で呼び出され、プレゼント・マイクの愛車に遅れて同乗し、タルタロスへ向かった。重苦しい空気が車内を漂う中、信号待ちを見計らって後部座席から理由を今更尋ねてみる。

 

「あの…。どうして、あたしもタルタロスに同行する事になってるんですか?」

「マスタードガスを吸って覚えてないだろうが、合宿の時に、黒霧に蛇腔病院に転送されてる。だから、ある意味関係者として呼び出したんだ」

「ありがとうございます…?」

 

 塚内警部とグラントリノの報告は、黒霧さんはお二人の友人で、2年生の梅雨に行われたインターン中に亡くなった、白雲朧さんのご遺体が基になった脳無だと判明。胸糞悪い話だが、そこにいつ殉職したかは判らないが、母の遺体がどこかの時点で、殻木球大の手ですり替えられた可能性があると仮説を立てた。

 さらに、黒霧さんのかつての名前に見覚えがあった。

 それは、11日前の祖父の誕生日のために、日帰りで帰省した時だ。古びた宝箱から、『大事な物の一つだ』と言われて渡されたファイルの中にあり、今も大事に保管されている。

 

「白雲さん。まだ、あなたの中に金庫はありますか?」

 

 友人二人の呼びかけに対して、生前の彼と思われる顔が見え、病院という言葉を発した直後、あたしはアクリル板の向こうにいる(ヴィラン)連合の参謀に話しかけた。

 ゆらり、と霧が揺れる。

 

「ァ、ア、あんた、は?」

「『橋の上で日向ぼっこする猫』。椿から金庫の鍵を預かって、開けに来た」

 

 自我を保つのも大変だろうに、まだ耐えて下さっている。この好機を逃すつもりは無い。

 

「初めまして、白雲朧さん。貴方にかけられた全てのプログラムを破壊し、取り戻すために(たす)けに来ました」

 

 彼は最大の動揺を示し、黒霧が部屋中に膨張した数十秒後、最後に何かを呟いて沈黙した。

 それ以上は何も得られず、あたし達は駐車場へ戻り、塚内警部に先ほどの問答を問われるが、全員を目覚めさせるまで誰にも漏らせない。

 

「私も賭けに出ただけですよ。それ以上は言えません」

 

 到底納得できる答えではないが、警部とグラントリノは詮索せず、あたし達は雄英高校へ帰っていく。それで終わるはずだった。

 タルタロスを抜けてから数えて5回目の信号待ちに、運転手のマイクが沈んだ声で話しかける。

 

「…キャット。塚内さん達は、あれで引き下がったけどな。納得できる訳ねェだろ。昔はなんのこっちゃって思ったが、今なら解る。あれは暗号だ。椿さんとどういう関係だ?」

「彼をご存知なんですね。いつ会われました?」

「1年と2年の体育祭の後、3人揃ってだ。答えろ。猫橋」

 

 相澤先生も殺気立ち、バックミラー越しにお二人に睨まれる。

 彼らなら口が堅い。

 それを見こんで、二人の名前もファイルの中にあったため、短く返答する。

 

「いずれ話します。今は、まだ無理です」

 

 

 まるで、昨日のタルタロスの答え合わせのように、この旅行が計画されたんじゃないかと祖父を疑う。

 そんな思いを胸中に閉まって、翌日の午前6時に目を覚ますと、隣で枕を顔に自ら押しつけて丸まっている祖父の姿があり、起床したあたしが寝返りを打った際に軋んだバネの音に反応して猫耳と尻尾を動かし、不機嫌だと示された。

 なるべく音を立てずに着替えて部屋を出、走りこみをして時間を潰し、部屋に帰ってシャワーを浴びた後、祖父を置いてホテル併設のレストランで朝食を頂き、ラストオーダーの30分前に囁き声で起こしにかかる。応答はあったものの、起きる気配が無い祖父のスマートフォンを拝借して、15分後にアラームを鳴らして強制的に起こし、完全に寝惚け眼で睨まれ、珍しく不機嫌を表に出された。謝罪を受け取ってくれたものの、朝食を済ませてもまだ寝足りないらしく、今度は枕を寝台と腰の間に挟んで、ホットアイマスクを装着し、座った状態で就寝に入る。存分に寝かせてあげるため、祖父の身に何かあった場合を考え、土産は帰りに駅で購入する事とし、やる事を読書に切り替えた。

 祖父が目覚めたのは11時前で、猫同様ベッドの上で伸びをした後、牙とザラザラした舌が見えるほどの大欠伸をする。計画が成功したのかまだ判らないけど、無事に帰還した事を今は喜びたい。その日の夜は、教員寮に帰って土産を同僚に配り、五体満足の祖父の帰還から安堵したのか、昨夜より深く眠れた。




 石貫柊介
  66歳。鈴音の祖父。
  元警察官。定年退職後、探偵になる。

 石貫菫
  66歳。鈴音の祖母。
  看護師。陽の祖父の妹なので、大叔母にあたる。
  “個性” 猫。予知能力。治癒。

 石貫鈴音
  17歳。高校2年生。
  幼稚園から渡我被身子の親友で、陽のはとこ。
  “個性” 猫。催眠能力。予知能力。
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