ヒーローの異端児   作:白天竺牡丹

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第23話 必要なこと

 プレゼント・マイクに、レディ・ナガンが『ちょっとした縁がある』とだけ言った翌朝。

 あたしは入院期間を利用して、猫橋一族が関係する情報を多方面から収集して、ノートに書き連ねているが、医療関係のみで異能力支援研究局に繋がるものは無い。退院まで、あと1ヵ月。退職まで、あと11ヵ月の中で、やらなければならない事がある。

 

「事情聴取が終わるまで、あと何ヵ月?」

《早くて来月いっぱいです》

「あたしの後釜は?」

《候補はいます》

「リカバリーガールが定年退職するまで、あと2年。それまでに、死柄木弔の先生が動く可能性は?」

《あり得ます。あの男には、最大限の注意を払うべきです》

「殻木関連の施設は、全部調べたってホークスが言ってたから、それは除外するとして……。支持者の規模は、黎明期から続いてるから、日本どころか世界も網羅してそう」

《正解です。ICPOにも目をつけられ、シンジケートともパイプを持っています。もはや、合図ひとつで同時多発的に暴動を起こせると考えて良いでしょう》

「わかった。こちらも、戦力を集める準備をする」

《市民は、ヒーローを疑っています。マムも、その一人です》

「それでも、何もしないよりかマシだよ」

 

 異能力支援研究局のホームページを開いて、研究局がある滋賀県に直接乗りこもうか考えたが、それではクレーマーとして見られる可能性が高いため、祖父に駄目元でサポートアイテムに搭載されている通話機能で電話をかけてみた。

 

『どうした。陽』

「お爺ちゃん。都合が良い日に暗号(かぎ)を教えてくれた理由、教えてくれる?」

『いいぞ。今日行くから、待ってなさい』

「ありがとう」

 

 午後に来た祖父は、あたしに一枚の紙を見せてきた。平仮名で書かれた自分の名前以外は、何も書かれていない厚紙だ。これを書いたのは、年中か年長だったと思う。

 

「これが何か?」

「暗号を教えて、覚えこませたのは、陽も鍵の一つだから。それを解明するために、退院したらまた旅行に行こう」

「…平日がいいの?」

「うん。仕事帰りで良ければ、いつでも」

「5月26日、17時半。雄英の正門前」

「わかった。準備してるよ」

「急でごめんね」

「大丈夫。孫のためなら、なんだってやるさ」

 

 帰りに燈矢君の事を尋ねられ、入院していると伝えると部屋に寄るらしく、部屋番号を教えて、この日は祖父と別れた。

 

 

 退院の一週間前。

 燈矢君の病室で、世間話を挟んで、これからの事を話していく。

 

「来週退院したら、お互い連絡取れなくなるね」

「ああ。携帯押収されちまったし、陽の番号も覚えてねェ」

「そっか。雄英にいるから心配しないで」

「わかった」

「…退院したら、どこ行きたい?」

「出所だろ。…どこでもいい」

「そうだった。…じゃあ、やりたい事ある?」

「……。今は、まだ言えねェ。答えが出るまで、待っててくれるか?」

「…うん。待ってるよ」

 

 先ほど沈黙した時、エンデヴァーや焦凍君の事を。ひいては、家族の事考えていたのか。しばらく、無表情になったが、あたしは見て見ぬ振りをした。彼には、プレゼント・マイクに言った通り、『どうでもよくなった』に違いない。だから、焦凍君をエンデヴァーの眼前で焼き殺そうとしたし、夏雄君が(ヴィラン)に襲われたと焦凍君から聞いた時、言葉が出なくなり呆然とした。家族の命すら(いと)わない手段を取るようになった時点で、もう婚約者の心は悪に堕ちてしまっている。

 だが、今の時点で、祖父の伝手で彼が潜入捜査官という証拠が警察に提出されているのか、まだ判らないでいる。これまでヒーローを二人殺しているため、殺人罪。威力業務妨害罪や脅迫罪は確実になるだろう。また、保護観察処分になるかも判らない。もしも、保護観察になるとして、誰が彼の身柄を引き取るのか不明だ。あてがあるとすれば、父親の炎司さんが思い浮かぶ。

 燈矢君に限らず、他の(ヴィラン)連合のメンバーも同じで、全員が祖父とあたしに直接接触している。警察は、そこから背後にある繋がりや組織をひとつずつ洗い出していくのは、目に見えている。

 

「世界が燈矢君の敵になっても、あたしは君の味方だから」

(ヴィラン)の肩持ったら、陽に被害が来るだろ」

「そんなの慣れてる。あたしは、(ヴィラン)の心を助けるのが仕事だから、燈矢君は何も心配しなくていいの。今、君に必要なのは、移植手術を受けて、体を治すこと。ゆっくり養生して。ね?」

「…ありがとな」

 

 婦警からは、メールの内容から脅迫になるとして、二人で話し合って距離を置いたほうがいいと言われたが、そうはしなかった。自分が退院すれば、お互いの連絡手段がなくなるから、自然と物理的にも精神的にも距離を置かざるを得ないからだ。

 だから、退院する日まではいつも通り過ごし、彼に希望を持たせると決めている。

 

 

 5月23日。土曜日。

 2ヵ月の入院を経て、午前中退院し、京都から静岡まで新幹線を使って教員寮に帰ってきた。

 

「ただいま戻りました」

「おかえり。キャット」

「積もる話があるから、荷物片付けたら、ロビーに来なさい」

「はい」

 

 香山先生の言葉に従い、入院期間中に起こったこと。(ヴィラン)連合にいた時のことなど、スケプティックさんの監視が無くなったことで自分が知る情報を、モスと共に全て話していき、当然、荼毘の話題も包み隠さない。

 

「荼毘がくたばるって…?」

「はい。祖父は重篤と言いましたが、燈矢君の話から、殻木が想定していた余命を、憎悪の感情で無理矢理延ばしていると解りました。気力で8年生きてる状態です」

「今回、なんで入院してるの?」

「欠損したり、機能低下している臓器と、焼け爛れた皮膚を移植するためです。今のところ、皮膚移植は成功しています。彼は、11年前に殻木の施設でこれらの移植手術を受けたようです。しかし、質の悪い生活を送るのに伴い、元々の火力を取り戻すべく無理していたのが原因で、臓器共に全て平均年数より早く傷んでいます」

 

 ようやく情報開示できた安堵から、体の力が抜けた。

 2日後の月曜日に記者会見を開き、脅迫されていたとはいえ、荼毘と交際していたこと。そのヒーローとしてあるまじき行いにより、責任を取って、減給を経て年度末になる来年、辞職する事を発表した。

 翌日の17時過ぎ。

 祖父と待ち合わせて、『行き先を決めていい』と言われ、迷わず異能力支援研究局を指定し、滋賀県彦根市へ瞬間移動で向かい、広いロビーの先にある受付で祖父が応対する。しばらく待っていると、背広を着た男性が応対した。

 

「お久しぶりです。猫橋さん」

「久しぶりだね。唐子(からこ)局長」

 

 祖父と局長は、出会い頭に握手を交わし、5年ぶりの再会だと手短に話していく。

 

「はじめまして。異能力支援研究局、局長の唐津です」

「はじめまして。猫橋です」

「立ち話もなんですから、応接間に案内しましょう」

「はい。よろしくお願いします」

 

 そこへ通されると、秘書の方が茶菓子と共に湯呑みに緑茶を注いで下さった。

 

「猫橋さん。ああ、お孫さんのほうです。椿さんから、どこまで聞いてますか?」

「私が鍵であることです」

「そうですか…。朝稲さん」

「はい。どうぞ」

「ありがとうございます。…これは?」

「あなたに関する事です。リカバリーキャット」

 

 彼女は、一つの冊子を手渡してきた。

 その表紙に、プロジェクト『希望』と書かれており、ページを捲ると、これが対悪の帝王の極秘の国家プロジェクトだと記されていた。

 プロジェクトの創案者は、八尋栄三郎さん。

 始動したのは、19年前。

 教育係は、猫橋椿。石貫柊介。兼先千鶴子。

 最初に登録された子供は、猫橋陽。

 コードナンバー、H-01。

 登録されたのは、20年前になっている。

 そこから先の名前は、全て手書きだ。

 

 志村転弧。男。5歳。H-02。

 迫圧紘。男。16歳。H-03。

 分倍河原仁。男。16歳。H-04。

 白雲朧。男。16歳。H-05。

 轟燈矢。男。16歳。H-06。

 渡我被身子。女。12歳。H-07。

 伊口秀一。男。16歳。H-08。

 

「……。私達は、悪の帝王を倒すための戦力ですか?」

「はい。そのために、管理官があなたにモスを提供する事を許可しました」

「…そうですか。ありがとうございます」

「それにしても、よく研究局(ここ)に辿り着きましたね」

「同僚と、婚約者のおかげです」

「わかりました。同僚はともかく、連合の方々には、私が椿さんと一緒に情報開示をしましょう。モスも同じです」

《私もですか?》

「ええ。ここの人工知能への接続許可を、八尋管理官から受けています。この異能力支援研究局ができた経緯を学んできて下さい」

《わかりました。ありがとうございます》

「リカバリーキャット。サポートアイテムをお預かり致します」

「はい。お願いします」

 

 30分後に戻って来る事を伝え、秘書が下がったのを機に、さらに踏み込んだ質問をする。

 

「私より後に入った子供は、全員(ヴィラン)連合に入っていますが、これもプロジェクトの一つですか?」

「はい。彼らが悪の帝王と直接。または間接的に接触する事は、各自5年前に予知によって解っていました」

「5年前? 2年前では?」

「猫集会の事ですね。タイムラグがあるのは、まずおおまかな予知をこちらでして、予知の“個性”を持つ各職員に精査してもらい、間違いないと確認してから、猫集会で発表するんです」

「なるほど」

「我々が予知する中には、未来を変えられないものも含まれます。このプロジェクトでは、白雲君やライトスピード・キャットの死没などです」

「……。人が死ぬと判っていながら、後手に回ったのは何故ですか?」

「悪の帝王に、自分の意のままに事が進んでいると思わせるためです」

「…わかりました。…唐子さん。連合のメンバーは、これからどうなりますか?」

「国家プロジェクトに名を連ね、作戦が立てられた以上、我々が全力を尽くし、責任をもって、後ろ盾になります。多大なるご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありません」

「…いえ。彼らが社会復帰できるなら、何も文句はありません。支援して頂き、ありがとうございます」

 

 深々と頭を下げ、頭をゆっくり上げた時、自分は数に入れてないのか、と言いたげな視線を局長から向けられたが、元来こういう性格なのは、祖父も自分もよく解っている。




 モス
  ヒーローを支える人工知能。
  八尋一族が作り出した人工知能としては、4つ目。
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