ヒーローの異端児   作:白天竺牡丹

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第24話 次の手

《マム。(ヴィラン)連合全員が潜入捜査官だという証拠が、異能力支援研究局より警察に提出する準備ができたと、桜から情報を得ました。潜入任務中に起こった殺人なら、まだ情状酌量の余地があります》

「そう…。桜と局長にお礼と、連合のみんなにお疲れ様って、局長を経由して伝えて」

《了解しました》

 

 先日、異能力支援研究局のAIに成り立ちを学び、会話をした事で、モスを含めた八尋製AIとの連携がより円滑になった。

 それは、医療関係者にも殻木や先生に与していると考慮し、捜索が難航すると思った。しかし、猫橋一族が経営する病院に搭載されているAI『一千花(いちか)』の協力により、先の掃討作戦の前に情報を警察庁に流し、彼らはそれに乗じて、悪の帝王の支持者として一斉に逮捕されたことからも解る。

 そして、連合の場合、おそらくこのままいけば、最初の一審は有罪判決。次の二審で、保護観察処分に持っていくつもりだろう。そうしなければ、世間や敵側に後ろ盾があるのではないかと怪しまれる。今は、二審に向けて、(ヴィラン)連合の面子全員が渡我さんと分倍河原さんと同じように控訴を申し立て、同時に、潜入捜査官だと裏付けるために、研究局が頑張っているらしい。

 こうして、5月最後の週末の朝の報告を受けて一階に下り、エリちゃんをA組に送る通形君を見送って、2ヵ月ぶりに敷地内をしばらく散策し、教員寮の外にあるベンチに座って休憩した。怪我した場所が肋骨なので、今は走りこみや筋トレなど、無理ができない。

 五月晴れの空を眺めて、独り物思いに(ふけ)る。

 

 一応、猫橋家側の結婚挨拶の区切りはつけたけど、そこから先は未定。

 今、結婚は二の次でいい。

 燈矢君がギガントマキアの背で言った言葉は、全部本音で、ベスト・ジーニストが駆けつけなきゃ、エンデヴァーと焦凍君は、彼の嚇灼熱拳で二人共消し炭になっていた。彼はもう、エンデヴァーへの復讐にしか興味がない。彼にとって、轟家はエンデヴァーを追い詰める道具でしかなく、自分の皮膚も焼け爛れたまま放置していた事から、自分の命を投げ出すのも視野に入れてる。

 だが、司法はそれを良しとせず、皮膚移植を受けさせただけでなく、暴露動画から家庭環境を考慮に入れ、幾分か情状酌量の余地があるという動きを桜が知らせてきた。それでも喜べないのは、すでに彼が家族に無関心になっていると解っているからだ。たとえ、保護観察がついて家族と再会しても、彼の心は揺らがないだろう。

 

《私は、今さら燈矢さんに関心を払っても、それで好転するとは思いません》

「普通ならね。でも、まだ家族は諦めてない」

《マムは楽観的過ぎます。彼が狂った時点で治るなんてあり得ません》

「今のところはね。あたしは、これからに賭けるよ」

 

 モスの意見を否定して、一理ある意見に独りで嘆息した。

 

 

 7月末日。

 元(ヴィラン)連合で、超常解放戦線幹部の荼毘こと轟燈矢に、懲役5年半の有罪判決が下された事を、昼食中に見たスマホのニュースアプリで知った。これで連合全員の判決が明らかになって、自室の扉に背を預け、ずるずると腰を下ろし、床に座りこむ。

 

「…やっと終わった」

《とりあえず、一段落つきましたね》

「うん…」

 

 唐子局長に胸中で感謝し、良かったと一息ついて、しばらく呆然としていた。そうしているうちに時間は刻々と進み、夕食の時間が近づいている事を思い出し、クローゼットの取っ手に手を伸ばして着替えを選んでいくけど、その手が止まる。

 仕事終わりに校長に呼ばれ、校長室での会話を思い出したからだ。

 

(…猫橋先生。説明してくれるかい?)

(申し訳ありませんが、たとえ校長でも言えません)

(…一人で抱え込む癖は、学生時代から変わらないね)

 

 ため息をついて諦めてくれたと思いたいが、彼がそう決断する訳がない。表向き辞職となっていても、本当はほとぼりが冷めるまで、他のヒーロー科がある高校で勤めてくるよう言われた。どうやら、彼に引き下がる選択肢はないらしい。

 

(猫橋先生が、来年雄英を出ていくのはもう解ってる。でも、本当の理由くらい教えてほしいのさ)

(…できません)

(どうしてだい?)

(あたしが先生方に説明して、解決できる問題じゃないからです)

 

 異能力支援研究局が立案した国家機密のプロジェクトゆえに、口外はできない。これは、ワン・フォー・オールの継承者だと、自ら手紙で同級生に知らせた緑谷君とは訳が違う。

 

(わかった。決意が固いんだね。もうこの件には触れないようにしよう)

(…申し訳ありません。校長)

(いいよ。口を噤むだけの事情があるんだろうし、聞き出そうとして悪かったね)

(いえ…)

 

 校長は、何も悪くないです。

 そう言いたかったのに、うまく口に出せなかった。

 

《マム? どうされました?》

「…大丈夫。考え事してただけ」

 

 AIに心配されるほど気弱になるなんて、情けない。モスが言う通り、楽観視できないほど現実は厳しいが、それでも好転すると信じている。

 ぱちんと自分の頬を包むように叩いて、気合いを入れて立ち上がり、着替えてロビーに下りた時、スマホに着信が入った。相手は父で、要件は、都合が良い日に実家に帰ってきてほしいとのこと。それに対して、明後日帰る旨を伝えたけど、内容が引っかかった。父は、滅多にメールを寄越さないから、妙に胸騒ぎがする。

 翌々日の夜。

 実家に帰って早々に話を聞き、胸騒ぎは的中し、父から2年以内に燈矢君が自殺行為をすると発表された。一度でも荼毘として顔を合わせた責任として、家族全員がこの件に関わる事になり、自分も意見を出す。

 

「自殺行為って、具体的にどんな感じ?」

「予知班からは、青い何かに包まれる様子しか判らなかったらしい。…陽。何か解る?」

 

 祖父の言葉でゾッとした。

 研究局の予知班が言った『自殺行為』は正しい。

 

「燈矢君の“個性”だ…。…火達磨になるつもりで、たぶんモスの録音から、攻撃対象が焦凍君から炎司さんに替わってる。保護観察になって、身柄の引き取り先が父親とすると、…炎司さんに自分を見て欲しいがための行為になると思う」

「…自分の命も厭わないほどの渇望か。姉さん。燈矢さんを止められる?」

「止めるよ。…ただ、11年前より火力が上がってるし、独自にエンデヴァーの技を会得してたみたい。だから、そうするのは実家じゃなくて、開けた場所かな」

「でも、復讐の対象者は、お父さんだけじゃないでしょう。冬美さんから聞いた話だと、夏雄さんにまで被害を被ったって。姉さんは、二人が標的になってるって思ってるみたいだけど、家族全員が標的じゃないの? このままじゃ、ご家族が危ないよ」

 

 緋桐も莉良も轟家の事を心配している。それは、彼らも承知済みだ。

 

「……入院している時に、焦凍君から聞いた。轟家は、今度こそ燈矢君と向き合うって」

「自分の個性で火達磨になるなら、今度は瀕死では済まないだろう。どれだけ体が保つかが問題だな」

「お婆ちゃん。あの時ビー玉に触ってたよね。燈矢さんの体について何か解った?」

「あの時は何も…」

「……あるいは、もう一度そうなる事で、暴走してた“個性”を、完全に自分で制御できたり、眠っていた“個性”が発現するかも。冷さんの“個性”因子を、体のどこかに受け継いでるはずだから、その時になったら──」

「お姉ちゃん、何言ってるの!?」

 

 莉良の言葉で体がびくりと跳ね、自分が彼の死を促進させる事を言ったと気づく。しかし、このまま復讐できないで(くすぶ)るより、そうしたほうがずっとマシだ。

 

「お姉ちゃんは、燈矢さんに生きて欲しくないの!? 予知通りに火達磨になれって事だよね?」

「…生きてて欲しいよ。でも、今は燈矢君の承認欲求を満たすのが先。彼は、ただ父親に自分の成果を見て欲しいだけで、粗があっても、親が見てれば調節もできると思う」

「自殺行為が行われる場所が、自宅でも瀬古杜岳でも、炎司さんがいてもいなくても、青い炎を消す方法はあるかい?」

「焦凍君は?」

「兄弟喧嘩勃発待ったなしだよ、莉良。姉ちゃんは、何か案ある?」

 

 炎司さんと冷さんは個性婚で、暴露動画から炎司さんは自分を補う存在が欲しかった事が解り、冷さんの家は相当強い“個性”の家の出身。つまり、本気を出せば、全てを凍てつかせるほどの氷を生み出せる。

 

「もしそうなったら、その役は、氷の“個性”を持つ3人になるかな」

『は!?』

 

 弟と妹は驚き、父と祖父母は納得の表情を浮かべる。轟家と関わった大人は『それしかない』と了承し、無言で頷いたが、下の二人は眉間に皺を寄せて黙りこんだ。

 

「3人には、万が一に備えてって感じで話したいけど、駄目か。最悪のシナリオで十分あり得るし、冷さん一人に背負わせるかもしれない」

「それでも、後手に回るよりかはいいんじゃない? 冬美さん達に話したほうがいいって」

「駄目。緋桐の気持ちも解るけど、情報漏洩だけは防がなきゃいけない」

 

 ここで情報を流してしまえば、先手を打つ事になるけど、そうはいかない。

 

「……みんな。万が一の時には、あたしの携帯に連絡して。その時、冷さんでも冬美ちゃんでも、夏雄君でもいい。誰か氷の“個性”を持つ家族を、あたしが燈矢君の所に運ぶ」

 

 轟家には何も伝えない方針で決まり、今は余計な火種を生まず、自分から燈矢君に連絡も取らず、いずれにしても今の環境に慣れてもらう事を先決にした。

 

 

 翌朝。

 いつもより早めに起床して、祖母が作った朝食を完食し、出勤するために静岡駅を目指す道中、見覚えのある後ろ姿があった。

 

「エンデヴァー。おはようございます」

「! …ああ、キャットか。おはよう」

 

 挨拶を皮切りに、彼は長男の事を含め、これからの事を話し始めた。

 

「…燈矢が刑を終えたら、俺のほうで引き取ることにした。だが、その前に新しい家にいる冬美達に会わせて、一晩くらいは家族と過ごすつもりだ」

「そうですか。それは良かったです」

 

 たとえ、異能力支援研究局が潜入捜査官だと証拠を提出している事と、2年以内に起こる予知の事を知っていても、知らぬ存ぜぬの一点張りでいく。

 

「陽さん」

「はい」

「俺は、ヒーローという仕事に逃げて、家族を顧みなかった結果がこれだ。だから、陽さんの母親と自分を比べてみて、彼女は母親としてよくやれていたと思う」

「…そうですね。…でも、他人と比較するより、向き合ったほうがよっぽど良いです。今のあなたなら、他人に目を向けられるようになって、良い傾向になってます。だいぶ遅くはなりましたけど、父親としての役目を果たせると、あたしは思いますよ」

「…ありがとう」

 

 突き放してしまった子供に歩み寄ろうとする決意を聞いて、予知が覆る事を胸中で願うばかりで、自分から協力する事以外、何も言えない事に心苦しさを感じる。




一千花(いちか)
 八尋製AIとしては、3つ目に作られた。
 医療に特化している。
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