ヒーローの異端児   作:白天竺牡丹

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第26話 内通者

 謝罪と食事を終えた轟親子は、あたしが店先で別れると思っていたらしく、目を丸くして、エンデヴァーが駅の方向を指差す。

 

「逆方向じゃないのか?」

「ああ。今日から盆休みを取ったんで、こっちで合ってますよ」

「そうか…」

 

 実家に帰省すると親戚が集まっており、顔を出した際に歓迎を受け、2階の自室に荷物を置く事を後回しにして予定を聞くと、花束は購入はしたが、まだ手向けていないらしい。そこで一時的に外出する旨を父に伝え、中学時代から利用している花屋へ向かう道中、先月の期末試験後の出来事を思い出していた。

 

 

 林間合宿のために、朝から荷物をボストンバッグに詰めていたが、その最中に焦凍君から電話が来た。

 珍しい相手に応対すると、『猫橋先生に会わせたい人がいる』と言われ、新幹線で目的地のショッピングモールへ向かう。買い出しに来たのか、数人が店の外に集まっていて、そこに生徒ではない人が1人だけ混ざっていた。

 

(…3ヵ月ぶりですね。陽さん)

(そうだね、志村君。体調はどう?)

(まだ全身ガタガタです)

 

 脳震盪の後遺症も無く、自分より1ヵ月先に退院した彼と伊口さんとは、入院中に病院の売店で再会し、今まで(ヴィラン)としての演技のためにタメ口で接していた事を謝罪された。その上、これからはきちんと敬意を持って敬語で接すると宣言された手前、『今まで通りで良い』と言えずに、改めて一から関係を築いていこうと告げるしかなかった。

 当然だが、それから規定に沿って交流は無くなり、数ヵ月後のこの日に再会した訳だが、最高指導者だと祭り上げられていた頃まで伸ばしていた白髪は、USJ襲撃事件の時より短くなっている。さらに、穏やかな笑みを浮かべているが、2年A組の面々は全面戦争を経験したため、警戒を緩めていない。

 

(…猫橋先生。釈放されたのも、絶対裏があります)

(大丈夫だよ、緑谷君。……そんな怖い顔しないの。志村君。どうして接触してきたの?)

(偶然ですよ。去年の今頃、ここで緑谷と会ったから散策してただけで、最初に緑谷にエンカウントしたと思ったら、いつの間にかこいつらに囲まれて、轟に連絡されました)

(そっか…)

 

 緑谷君から、歴代継承者の“個性”を使えるようになったと仮眠室で報告されたが、去年の暮れに街一つを崩壊させた代償に大怪我を負った志村君は、身体を労って無理をしない選択をしたんだろう。デトラネット社製の義手を警察に証拠として渡してからは、入院中に見舞った唐子さん直々に異能力支援研究所の物と取り替え、今では、慣れた様子でカフェオレのペットボトルを握っている。

 

(でも、キャットに会えて良かった)

 

 言うや否や、ペットボトルを横に置き、ボディバッグを背中から胴体に反転させてファスナーを開け、一通の茶封筒を取り出して、あたしに差し出してきた。

 

(…これ、何?)

(情報です。何か手掛かりになると思って、入院中に荼毘に直接聞いてきました。トゥワイスの証言も入ってます)

(そう…。ありがたく頂きます)

 

 眼前にあるそれを受け取った後、彼はペットボトルを握る事無く、見上げたままこう尋ねてくる。

 

(黒霧は、誰の遺体でした?)

(今は言えない)

(……)

(原因を探るつもりなら、これ以上深入りしないで。巨悪の懐に長く居たとしても、君はもう一般人なの。ここから先は、ヒーローに任せなさい)

(……はい)

 

 黒霧と名乗っていた脳無に長年世話になった手前、何か助けになりたいと思っているだろうけど、彼を悪の道に戻す訳にはいかない。だから、別れ際に軽く背中を叩いた際に治癒の“個性”を発動させ、少しでも全身の不調を軽減させた。彼にとって、これを超常解放戦線時代に治療の時に何度も体感したため、何を意味するのか察する。

 

(すみません。こんなお土産をもらって)

(対価はちゃんと払うよ)

(俺には、もう十分です。ありがとうございます)

(こちらこそ、ありがとう。またね)

 

 会釈した彼を見送り、A組より一足先に寮へ戻って、エリちゃんの出迎えを受けた後、洗面所で手洗いとうがいを済ませた。そこから出た際に山田先生とすれ違ったため、根津校長の居場所を聞き出し、礼を告げてから自室へ向かう。

 手紙の内容は、内通者の情報だった。

 それは去年の林間合宿の計画では、マスタードのガスと荼毘の蒼炎の壁があるはずだったが、ガスが晴れていて、その境目で人の気配がした。遠くの蒼炎に照らされて見えたのは、金髪の生徒だったと言う。そこで、手書きの地図と去年の栞に添付された場所を比較すると、肝試しの道順から大きく外れている事に気づいた。証言通りの金髪の生徒なら、淡い色も含めると、A組に4人、B組に2人いる。A組の状況は、上鳴君と尾白君がブラド先生と共に部屋にいて、爆豪君が連合に拉致され、青山君が外で身を潜めていた。物間君がB組唯一の補習組で、角取さんが被害を受けていた。

 さらに、連合の撤収時に茂みからレーザーで攻撃を受け、ミスターの仮面が破壊されている。奇襲としては成功しているが、その地点までの距離を青山君は、荼毘とトゥワイス両名に気付かれる事無く尾行していたという事だ。

 偶然が重なれば、怪しさが増してくる。

 さらに情報を集めるために、入試の様子を実況をしていた山田先生に尋ねる事にした。すると、青山君がいた区画では、緑谷君と麗日さん。飯田君が合格したらしいが、実技試験終了時には、緑谷君は複数箇所を骨折して激痛からの気絶。麗日さんは、“個性”の連続使用による許容範囲を越え、嘔吐で憔悴。飯田君は何ともなかったと言うので、消去法で二人を切り捨て、飯田君に会うためにA組の寮に出向き、数回眼前の扉を叩く。

 

(ごめん下さ~い)

(あ! こんにちは、猫橋先生! 何かご用ですか?)

(こんにちは、切島君。飯田君、居るかな?)

(は、はい! 呼んできます)

(猫橋先生、こんにちは。中に入って来ていいッスよ)

(大丈夫だよ、上鳴君。外で待つから)

(暑いし、熱中症になりますって! ちょうど佐藤がお菓子焼き上げたとこだから、少しだけ休んでいって下さいよ)

(……じゃあ、お言葉に甘えようかな。…ごめんね。突然来ちゃって)

(全然いいッス!)

(日本語はちゃんと使いなさい。全然の後は、必ず否定が入るの)

(ウス…)

 

 留守番組に招き入れられ、軽く口頭で注意してから、ロビーにあるローテーブルの前にあるソファーに腰を落ち着けた。万が一、内通者に聞かれて雲隠れされるとまずいため、早々に『外で食べる』と言い、残念がる生徒達に陳謝する。そこで大皿に載ったレアチーズケーキを切り分け、早速二人分を小皿に移した後、飯田君のハキハキした声が聞こえた。

 

(申し訳ありません。遅れました)

(大丈夫だよ。じゃあ、外で食べようか)

(…はい! ありがとうございます!)

 

 差し出した小皿を小さなフォークと共に受け取って、断りを入れてから、寮前にあるベンチに間を開けて隣に座る。

 

(飯田君と話すのは、初めてだね)

(…そうですね。それで、話というのは何でしょうか?)

(青山君の印象について聞きたいと思ったの。入試の時、一緒のブロックに居たって、マイクに伺ってさ。できれば、その時の様子について詳しく知りたい)

(…わかりました。……入試が終わった後、一番最初に緑谷君の治療をしたリカバリーガールの説明をしていました。彼女の“個性”と、雄英の屋台骨だと)

(なるほど。USJ事件の時は、何処にいた?)

(あす、梅雨ちゃん君から、『秘密』と)

(林間合宿の時は? 肝試しは、確か、八百万さんとペアだったよね)

(はい…)

 

 事実を一つずつ確かめて、ようやくレアチーズケーキを口にする。横にいる彼も同じようにして、味わって飲み込むのを待ってから、口を開いた。

 

(おかしいと思わない? 青山君の行動全部が)

(別におかしくはないでしょう?)

(本当に?)

(さっきから、何が言いたいんですか?)

 

 そこで、独り言のように告げる。

 

(思考停止状態になってる)

(だから──)

 

 苛立って声を荒らげる彼を制すため、人足し指を彼の眼前に立てた。

 

(一つ目。なぜ、入学前に教師の“個性”と内情を知ってるのかな? 普通は、入学した後でしょう。オールマイトのような有名人じゃあるまいし)

(…!)

(二つ目。当時できたばかりのUSJで、内部の各ゾーンについて、13号から説明があったはずだよ。それを秘密って言うんなら、どこに隠れてたんだろうね)

(……)

 

 一つずつ疑問と事実を列挙していけば、A組委員長は二の句を告げられずに、小皿を持ったまま唖然とする。

 

(三つ目。八百万さんとペアなら、発見された時にガスマスクを着けていたはずだ。でも違う。装着してない上に無傷だった。それに、彼がいた場所については連合からの証言がある)

(なぜそこで連合が出てくるんです!?)

(集合場所に向かって歩いてたんだよ。茂みの向こうに金髪の少年を見つけたと、荼毘からね。これは、今日偶然会った死柄木弔からの情報だけど。……まァ、そこが一番の問題だった)

(問題…?)

(連合にしか判らない計画内容。ガスと蒼い炎の境目になるはずの場所にいた)

(っ!!)

 

 衝撃のあまり小皿を落としそうになるのを、反射的に片手で左手で添えるように押さえた。それを開けている場所に置いたのを確認してから、四つ目を示すために小指をあげる。

 

(そこで違和感がある。連合と通じてたなら、なぜ隠れる必要が出てくるのか。……それは、彼らには存在を知られていないんじゃないかな?)

(どうして…、そう言えるんです?)

(んー…)

 

 呑気に二口目を口に運んでから、考えをまとめつつ咀嚼していき、飲み込んでから推測を告げていった。

 

(連合に知られてるなら、今年の全面戦争の時までに何かしら行動を起こしてるはず。なんなら、行方を眩まして一緒に暴れてもいい。でも、去年の夏。林間合宿から動きが全く無い)

(……まさか! …まさか、青山君は、オール・フォー・ワンと繋がってる…?)

 

 ガタッとベンチを倒す勢いで立ち上がった彼は、確信に近い答えに辿り着いて、それに感づいたあたしは静かに微笑む。

 

(あくまで、あたしの推測だけどね。今度は、青山君を呼んできてくるよ。逃がしたら、親玉が脱獄した時に、また傀儡になる可能性が高いからね)

(……お願いします)

 

 険しい表情の彼は一言告げて腰を下ろし、あたしは青山君を呼びに寮へ戻り、チーズケーキを食べ終えたばかりの彼と対面した。訳が解らないながら、挨拶をした彼に返事を返し、ベンチに佇む飯田君に向かって、小皿片手に『後で返しに行く』と言う。無言で一礼した飯田君の心を傷つけてしまった事に、胸中で謝罪し、自分の前にいる金髪の少年の握手に応えるついでに告げた。

 

(初めまして。内通者さん)

 

 握られた手が。

 脱力していた肩の力が。

 何より、その碧眼が。

 びくりと強張るのを感じ取り、揺れ動くのを見て、完全に黒だと判断し、そのまま教員寮へテレポートした。

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