ヒーローの異端児   作:白天竺牡丹

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第4話 探り

 雄英に赴任してから2ヵ月が経ち、6月も下旬になった頃。あたしは、二人の酔っぱらいに絡まれて困っていた。

 

「ごたくはいいから、なれそめ吐きなさい!」

「嫌です」

「俺のレディオで言ってた男か?」

「さあ。どうでしょう」

「どんな男なの?」

「ご想像にお任せします」

 

 事の発端は、ミッドナイトが先月、私に男がいると看破し、プレゼント・マイクがそれを聞きつけたからだ。それをのらりくらりとかわしていくうちに、段々としつこくなり、こうして居酒屋で詰め寄られる羽目になったが、彼らを易々と(いさ)める事ができる頼みの綱の相澤先生は早々に誘いを断っていて、2対1で不利な状況に陥っている。

 

「写真あったら見せて」

「見せません」

「いいじゃねェか。減るもんじゃなし」

「お断りします」

『ケチ!』

「ケチじゃありません」

 

 ミッドナイトにガクガクと体を揺すられているせいで、まともに食事ができずに時間だけが進み、彼らを瞬間移動で首から下を埋め、口に座布団を詰めて窒息させたくなる。

 

「いい加減食事させて下さい。怒りますよ」

「いつも夕飯抜いてるって言ってたじゃない」

「たまにはありつきます。ただ、外食の機会があまり無いだけで」

「じゃあ、いつも自炊してるのか。偉いなァ」

「急に褒めるのやめて下さい。プレゼント・マイク」

「照れ顔もかわいい~」

「頬にキスはやめて下さい、ミッドナイト。おでこも無し」

「じゃあ、彼氏の写真見せて。そうしなきゃ離してあげない」

「ダメです」

 

 断り続けた結果、どうにか諦めてもらう事に成功し、抱擁を解かれ離してもらった上で食事を済ませる。その後は、化粧室でミッドナイトの薄い色の口紅がついた顔を洗って、素面(しらふ)の自分は運転して帰宅した。

 

「ただいま」

 

 自宅の灯りはついておらず真っ暗で、返ってくるはずの荼毘君の『お帰り』の声は聞こえず、姿も見えない。一人しかいない部屋は肌寒く、思わず身震いしてしまった。

 彼が来る前の生活に戻っただけなのに、寂しく思う気持ちはあるがそれを無視し、渇いた笑いが出て玄関を背にずるずると屈して、膝を抱えて(うずくま)りたい自分を叱咤した。

 

 

 保須総合病院で、緑谷君と職場体験先のグラントリノ。飯田君とマニュアル。焦凍君の証言から、自ら人を襲っていたとして、USJ時よりノウムの知能が若干上がっていると自分のノートに書きこむ。そして、それを出現させたであろう、ワープゲートの“個性”を持つ黒霧を始めとした(ヴィラン)連合は厄介な相手だと付け加えた。

 そして、“個性”が登録されていない事や無国籍であること。偽名を使っているであろうという報告を、オールマイトが信頼する警察官の塚内さんから受ける。

 

「小学時の一斉“個性”カウンセリングを受けてないのかしら」

「……」

「どうしたんだい? リカバリーキャット」

「死柄木弔とは、一体誰なのかと考えていました。親がこんな不吉な名前を与えるわけがないので、死柄木という名字から探ってみたほうがいいと思います」

「つまり、本名を探るというわけだね」

「はい。そして、弔が“個性”登録をしていない人物ならば、幼稚園時に何かしらの事情があったと推測できます。さらに、ノウムの件から研究所らしき場所がどこかにあると考えれば、知能が上がっている点で納得がいきます。諸悪の根本を潰せば、当然、敵連合への供給は失われる。私も伝手(つて)を使って探りを入れてみます」

「お願いします」

 

 ごく少数の職員会議が終わって自宅に帰り、手洗いとうがい。入浴と掃除など、必要な事を全て済ませてから、自室にあるノートパソコンを開き、インターネットに繋いで調べ始める。

 父が勤務する個人経営の病院を含めて、全国の病院の理事長を紹介してくれないか頼むと怪訝(けげん)に思われるため、やむなく却下した。資料閲覧だけに留めておき、それでも膨大な量になると懸念するが、それは些細(ささい)な事だと考え直す。

 一口に病院と言っても、一般診療所や歯科診療所も含むが、病院と名のつくもの全てだと8000施設ほどあり、調査を続けるという意思が砕けそうになる。創設順に並べ直す作業もいれると、さらに難航しそうなのでやめ、タブレットとスマートフォンに転送し、仕事の合間にも閲覧できるようにした。ブルーライトカットが施された眼鏡をかけて、様々なタスクを創設者と理事長を添付した状態で瞬く間に表示した。

 どれだけ人から敬意を払われても、裏が存在すれば憎悪に移り変わり、評価が一変する。ヒーローであれば、自分にとってそれはエンデヴァーに当てはまり、負の感情を隠して今までヒーローの卵として接してきた。その悪を終わらせるために働いていると思えば、いくらか気分が高揚する。ビルボードチャートでは、まだオールマイトがいるため、ナンバーワンヒーローじゃない。しかし、彼が1位になる日も近いだろう。それほどまでに、オールマイトが作った影が濃い事を示していた。

 もうひとつ、睡魔で思考が鈍くなる前に15から16年前の新聞を全部表示する。そうすれば、死柄木弔の正体も分かるだろう。

 警察の塚内さんに告げた事を実行するために、すでに21時を回っていたが、電話をかけた相手は応対してくれた。

 

『もしもし?』

「ごめんね。こんな時間に電話かけて」

『いや、大丈夫だ。どうしたんだ?』

「父さんに頼みたい事があってさ。噂でもいいから、職員でも立ち入り禁止になってる場所がある病院が無いかなーと思って、電話かけたの」

『何を言ってるんだ。そんな所ないよ』

「いや、もしもの話。都市伝説とかでも構わないよ」

 

 しばらく沈黙があったものの、雄英進学を決めた時期に、何かあればヒーロー活動のために協力すると言ってくれた事を思い出し、今も支えてくれる家族に改めて感謝する。

 

『わかった。僕は病院を探ろう。緋桐と莉良にも、噂を中心に情報収集するよう伝えておくよ』

「ありがとう」

『どういたしまして』

「おやすみ、父さん。巻きこんでごめんね」

『ううん。謝らなくていいよ。力になれるのが嬉しいんだ。おやすみ。陽』

 

 通話終了を示す電子ボタンに指先で触れて電話を切ってから、もうひと頑張りするために席を立ち、両手を天井に向けてストレッチして体をある程度(ほぐ)した後、自室を出てダイニングに行く。そこで、一人暮らし用の小さな冷蔵庫からエナジードリンクを一本開けてぐいっと(あお)り、脳に刺激を与えて目と考えを冴え渡るようにした。

 気合いを入れて部屋に戻ろうとした矢先、誰かがスマホを鳴らして接触をとろうとした。液晶画面を見ると知っている人からで、眠たい気持ちを押さえて通話ボタンを押す。

 

「…もしもし?」

『あ、こんばんは。リカバリーキャット。今度の土曜日って空いてます?』

「空いてます。チームアップ要請ですか?」

『いえ。プライベートで一緒にデート行きません?』

「間に合ってます。おやすみなさい。ホークス」

 

 そう言って通話を切ろうとした時、電話口の向こうから慌てた様子でこう言った。

 

『USJと保須で得た情報を聞きたいんです』

「それならそうと言って下さい」

 

 彼とは看護大学に進学した頃、旅行時にたまたま会った際にこちらもプロヒーローの資格を取得しているとあって、チームアップも時折して、その時からよく情報交換をするようになった。そんなわけで、自分より情報通な彼なら渡してもいいと判断し、その申し出を了承してから電話を切って、新幹線の時間を確認するためにスマートフォンをインターネットに繋いだ。

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