自分が持つ推測を含む情報を全て、ひとつ年下のホークスに渡した翌月。
夏休み中にあるヒーロー科の強化合宿についての説明を受け、保健室へリカバリーガールと共に戻っていく。
「すまないねえ。キャット」
「いえ。ガールが気にされる事はありません。新しい取り組みを実施してこそ、意味があるんですから」
「そうだね。大丈夫さ。キャットなら私の代わりが務まるよ」
「ありがとうございます」
お年を召しているリカバリーガールの代理として、新米看護教諭の自分が林間合宿に付き添う事になり、しおりにも名前が記載されていた。しかし、保健室での業務が多い私達は全員と対面したわけではないため、期末試験が映されるモニタールームで、再度顔写真と共に“個性”を含めて生徒を覚えなければならない。
「はじめましての生徒が多いと思います。今回、林間合宿に同行するリカバリーキャットこと、猫橋です。皆さん、どうぞよろしくお願いします」
『よろしくお願いします』
A組のバスに乗る前に自己紹介し、同行する事を告げると、元気のいい返事が返ってきた。
「すみません、リカバリーキャット。騒がしくて…」
「いえ。楽しみにしてるって事が伝わるので、気にされなくていいですよ」
しかし、その楽しみは一変し、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツに出会い、『わー、懐かしい。お久しぶりです』と言うとピクシーボブに顔面を手袋でがっしりと掴まれた。
「年齢は言わないように、ね?」
「アハハ。そんなの言うわけないでしょう」
「活動してから12年──」
「心は18歳!!」
緑谷君のオタクがいかんなく発揮され、情報が言葉の羅列と化し、あわてて駆け回る彼女の背を見送るつもりが、なぜかA組生徒達と共に眼下の森へと土流で落とされる。
「なんであたしまで!?」
「頭冷やして来なさい!」
「なんも悪い事しとらんし、言っとらんめーもん!」
「リカバリーキャットは、魔獣を倒さずに施設まで来ること! じゃあ、開始!」
それだけ言って頭上から姿を消したマンダレイに対して、胸中で舌打ちし、魔獣と称された土くれを踏み台にしながら、鍛え続けている脚力と五感を総動員して7年前にお世話になった施設を目指した。設定された3時間を半分の時間でたどり着き、相澤先生とワイプシが待つ場所にて昼飯の準備を手伝ったものの、B組も含めて誰も来ることはなかった。
「こんにちは。
「フンッ…」
幼年と視線を合わせるためにしゃがみ、挨拶をしたのにそっぽを向かれ、幼いのに眼光が鋭い彼をただ見送るしかなく、あとでマンダレイに謝られる。
「ごめんね、リカバリーキャット。洸汰があんな対応を取って」
「大丈夫ですよ。何かあったのかなって気になっただけですから」
「それはあとで話すわ」
「…わかりました」
空が黄昏に染まる頃、森の中から大勢の足音が聞こえてきた。一番最初に姿を現したのは焦凍君で、A組全員が
「正直もっとかかると思ってた。あたしの土魔獣が簡単に攻略されちゃった。いいよ、君ら。特にそこの四人!
「やめなさい。恥ずかしい」
生徒達に迷惑をかける彼女の首根っこを掴んで、なおも焦凍君達に駆け寄ろうとする姿勢を止めた。
「そう言うリカバリーキャットは、彼氏いるわけ?」
「います」
『えッ!?』
「誰、誰!?」
「秘密です」
そこで女子に熱い視線が送られ、焦凍君からは『そうか』と小声が聞こえ、なぜ納得した言葉が出てきたのか理解できない。そして、生徒達が入浴してる間に洸汰君の過去を聞き、大切な人を亡くした経験を思い出して、波乱の1日が終わる。
林間合宿2日目、早朝。
ワイプシの敷地を利用して、往復20キロの走りこみをやってから施設の玄関先に戻ると、まだ寝ぼけているA組生徒数人に会った。
「おはよう。みんな」
「…おはようございます。猫橋先生」
「おはようございます。リカバリーキャット」
彼らの背を見送ってから、広大な敷地に散らばる生徒達の調子を気にしつつ、異常が無いか散策する。その日の夕食はカレーライスで、生徒全員が疲労困憊しつつもなんだかんだで作り、皆がっついておかわりも続出したが、一人の足音が遠ざかるのを聴覚が捉えた。日も暮れて夜になっている事から、幼年のもとに駆け寄ってしゃがみ、昨日と同じように話しかける。
「洸汰君。どこ行くの?」
「どこだっていいだろ。邪魔すんな!」
「邪魔してるかもしれないけど、君が心配だから言ってるんだよ」
「うるさい!」
「猫橋先生。僕が行ってきます」
「…そう。じゃあ、緑谷君に頼もうかな。お願いします」
「はい」
洸汰君の分のカレーライスを緑谷君に渡し、遠ざかる背を見送って、切島君から渡された皿にライスとルーを盛り、彼に手渡す。戻ってきた緑谷君の手には食器がなく、洸汰君に無事渡ったと考えたが、姿が見えないのが問題だった。
「緑谷君。洸汰君は?」
「秘密基地にいます」
「こんな夜に一人なんて…。もし、ヴィランに遭遇したらどうするんです? マンダレイ」
「そんなことあるわけないでしょう」
「私有地だから。そんな一般常識、彼らに通用しません。私、今から周囲を回ってきますね。緑谷君。二度手間になるかもしれないけど、場所教えてくれる?」
場所を教えてもらってからそこに行くと、幼年の傍らにはカレーを平らげた食器があって、両手から水を噴出していた。
「何しに来たんだ! 邪魔だって言っただろ!」
「小さい子が、離れた場所で一人でいる時間じゃないよ。これはもらっていくけど、私はここにいるからね。気が済むまでそうしていればいい」
その後も何か言われるたびに正論を返し、気が済むまで特訓を見てやり、疲れ果てると岩肌が剥き出しになった地面に横になった様子を観察してから、そっと片腕で抱き上げて施設に帰っていった。
入浴を済ませた数時間後の深夜。
ランニングウェアに着替えて、パトロールと称した走りこみをやっている途中、道中で部外者と出くわした。
「げ」
「げ、って…。こんな所で何してるんですか?」
見た目がトカゲの人と、サングラスと
「悪いわね。仕事の邪魔よ」
鱈子唇の人に白い布で包まれた太い何かで、ワイヤレス骨伝導イヤホンがベースになっているサポートアイテムを破壊されそうになるが、上半身を
いつか前線で戦闘する時に備えて、何か武器を携帯すべきだと学生時代に同級生に散々言われたが、あたしはそれに従わなかった。人を傷つけるのが
「おっと…。暴れるなよ。こいつの相手は俺がする。お前らは先に配置につけ」
「お、おう。わかった」
彼らの戸惑いようから統制が取れていないと見たが、あたしは彼らが散開するのを見届けるという間抜けな真似はせず、数人は地中に首から下を埋める。
「就職先は、
「ああ。俺らみたいな日陰者が行き着く場所だ」
「おめでとう。これから敵同士ってわけか」
「正解。仲良くやろうぜ。リカバリーキャット」
荼毘君とのんきに話しているが、自分の左手にトカゲさんの斬撃で怪我を負ったものの、痛みに構わずすぐに自身の治癒の“個性”で徐々に治していく。
ワイヤレスイヤホンから会話を聞いていた人工知能《モス》によって、応援要請した教師達とワイプシは、まだ来る気配がない。