位置情報に基づいて示された場所に向かうと、そこにはワイヤレス骨伝導イヤホンと、頑丈な造りのスマートフォンが地面に無造作に置かれており、持ち主の姿がどこにも見えなかった。そこで埋まっているヴィラン達を捕縛しつつ、スマートフォンと共に自分の声に反応するかどうか定かではない一部破損したイヤホンを拾い上げて、人工知能《モス》に試しに話しかけてみる。
「モス」
《はい。相澤先生》
反応したのはイヤホンではなく、スマートフォンのほうだった。思いこみによる恥ずかしさを隠すように一度咳払いして、もう一度話しかける。
「持ち主はどこに行った?」
《
「追跡できないのか?」
《できます》
モスによると、学校ではアナログのジーショックを身につけているが、このような外出時には緊急時に備え、腕時計はスマートウォッチにするらしい。そのおかげで、生体反応から手元の携帯に新たな位置情報が追加される。どうにかそこに追いつくと仮面の男が立っており、ブラドの操血で動きを止めようとしたが逃げ足が早く、捕縛布でもなかなか捕まえられない。
「深夜にご苦労様。ヒーローは大変だねェ」
「リカバリーキャットはどこだ?」
「あいにく、ここにはいない。他をあたってみたらどうだ? では、私はこれで失礼しよう」
「待て!」
「それを大人しく聞くヴィランがどこにいる?」
操血の捕縛もままならず、ひとっ飛びで暗闇の向こうへと消え、まんまとヴィランを取り逃がし、さらに右方向から青い炎が横切るように行く手を阻み、追いかけていくうちに日の出を迎えてしまった。
「ブラド。生徒が集合場所に来る時間だ」
「ああ…。そうだな」
一旦捜索を打ち切って強化合宿を続けたが、頭の片隅には取り逃がしたヴィランやリカバリーキャットの姿が浮かび、合間を縫って森を捜索したものの見つからなかった。
その日の夜。マンダレイからのテレパシーでヴィランの襲撃があっていると知り、ブラドを待機させた施設から出た途端、継ぎ
「目的、人数、配置を言え」
「なんで?」
「こうなるからだ」
両肩を骨折させて、さらに情報を聞きだそうとしたが、それに失敗し、男は泥と化した。
飯田達を安全地帯である施設の中に入らせ、道中で両腕を負傷しハイになっている緑谷から洸汰君の保護を任され、もう一度施設の中に入ると、継ぎ接ぎ野郎が攻撃しようとするのを目撃する。それを阻止するため、破損した扉の部品が転がる床を蹴り、そいつに飛び蹴りをした上で捕縛布で縛って、踏み続けると十数分前のように泥となる。
記者会見後に聞いた《モス》からの情報では、転送らしき“個性”で転々としており、神奈川県横浜市
「すまない。救出できなくて」
「いえ。こうして見舞いに来て頂けただけで十分です。ところで、どうしてここがわかったんですか?」
「モスが教えてくれた」
《連動できる端末を増やしておいて良かったですね》
マスタードと名乗っていたガス使いの少年による“個性”を受けて、意識が
「もちろん断ったんだろうな」
「はい。敵の“個性”によって病院に運ばれたおかげで治療を受けられましたが、恩返ししようとまでは思いませんよ」
自分が想定した最悪は、女性であることから意識が朦朧とする中で体を
「恋人は見舞いに来たのか?」
「はい。昨夜来てくれました」
「へぇ。良かったじゃないか!」
「うるさいぞ、ブラド。そんなこと聞かなくてもいいだろう。とにかく、今回の事件を受けて、教師と生徒全員が寮に入ることになったんだが、今月末までに間に合わないよな」
「そうですね。帰ってから準備を始めるので、皆さんより入寮は遅くなります」
「大丈夫だ。遅くなっても待ってる」
「ありがとうございます。相澤先生。ブラド先生」
病室から談話室に行く手もあったが、話す内容が公にできないので、病室で全てを話した。そして、学校でやるべきことが多いため、病棟から受付までエレベーターで直行する。その途中、ブラドが眉尻を下げて俺に言った。
「本当に言わなくて良かったのか?」
「ああ。余計な心配をしなくて済む」
今回の合宿で
リカバリーキャットが教員寮に入るのは10月上旬で、ミッドナイトとの会話を聞く限り、それまでは引っ越し準備をしながら、安アパートから運動面で徒歩で通勤するらしい。
「でも、車は持ってるんでしょう?」
「はい。それがどうかしました?」
「彼氏とドライブデートしたわけ?」
「しましたよ。買い物ついでに、足を伸ばして景色が良いところに行ったり、おいしいグルメを食べに行ったりしてました」
「その時の写真ある?」
「ありますけど、見せません」
「何よ、ケチ!」
「ケチじゃないです。食べ物とかなら大丈夫ですよ」
「私が見たいのは食べ物じゃなくて、リカバリーキャットの彼氏なの。分かりなさいよ」
「分かってますよ」
パソコンで事務作業をしている彼女の隣で深いため息をつくミッドナイトは、まだ諦めの姿勢を見せず、なおも質問を重ねる。
「じゃあ、キスはした?」
「頬とおでこには頑張ってしましたね」
「違う。私が言ってるのは、唇同士かってこと」
「そッ、れは、ありません…」
「純愛ってこと?」
「あたしは、少なくともそうだと思ってます」
「キャーッ! 挙式はいつ!?」
「まだ決めてません」
盛り上がる最中、リカバリーガールが会話に加わり、作業の進捗を聞く。出来具合によって残業に関わってくるので、毎回聞いているらしい。
「キャットは、今夜彼氏とデートとか言ってなかったかい? 遅れる前提は駄目だよ。ちゃんとおめかしする時間も取らなきゃ」
「……たぶん。急げば間に合います」
「リカバリーキャット。落としたぞ」
「あ、ありがとうございます。相澤先生。では、お先に失礼します!」
スマートフォンをあわてて受け取る際に一瞬だけ見えた待ち受け画面は、自分の見間違いでなければ、記憶に新しい継ぎ接ぎの手と肌色の女性らしい細い手が互いにピースサインを作って映っていた。どういうことだと疑問に思い、声をかけようとした頃にはすでに職員室から姿を消していた。