ヒーローの異端児   作:白天竺牡丹

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第7話 分かり合う

 今回の事件で、マスタードというガス使いの少年。ヒーロー殺しの前科を持つマスキュラーなどが逮捕され、(ヴィラン)連合には戦力が必要だと認識した。しかし、英雄(こちら)も損害は大きく、オールマイトの引退記事が新聞やニュースで連日特集されている。

 

「こんな状況で、よくデートできるよな」

「こんな状況?」

「平和の象徴がいないヒーロー社会ってことだ」

「ああ、そうだね。でも、それとこれは別でしょう」

 

 ヴィラン連合に立ち寄る事に決め、病院へ送り届けたお礼に寿司や酒。デザートや紙コップ。紙皿など行楽用品を購入し、軽自動車の後部座席に全て乗せて、彼が言う今日の召集場所へ向かっているものの、ナビゲーションをしてくれるモスによると廃墟のため、遠くのコインパーキングに停める必要があった。

 車から降りて後部ドアを開けて、二人で協力しながら廃墟を目指して黙々と歩き続け、建物内にある階段を登っていきつつ、目的の階まで足を前に出し続けて到着した。

 

「皆さん、こんばんは」

「は? なんで来たんだ」

「皆さんに助けられたので、改めてお礼を伝えに来ました。お食事、まだですよね?」

 

 彼らの視線と警戒心から、『助けたのは戦力を引き入れるためであり、お礼を言われるためではない』と言いたげな雰囲気を敏感に感じ取り、早々に退散しかけた。だが、寿司と聞いて頭部を含めた全身タイツの方と仮面の方が反応し、文句を言う死柄木弔に対して仮面の方が『せっかく用意してくれたんだぞ』の一声で渋々聞き入れる姿勢を見せた。

 ミスターと呼ばれた仮面の人と渡我さんに寿司を手渡し、酒とデザートは鱈子唇のマグネさんと見た目がトカゲの人にやった。

 

「リカバリーキャットは、どうやって荼毘と接触したんだ?」

「秘密です」

「つまんねェな。いいね!」

 

 意識は朦朧(もうろう)としていたものの、声はしっかり聞いていたため、彼がトゥワイスと呼ばれた分倍河原仁だろう。自分を除く全員に紙コップと紙皿が行き渡ったか視認し、めいめいに割り箸を割って寿司にありつく。

 

「わざわざお礼を言うために来たのか?」

「はい。迅速な手当てのおかげで、今のところ後遺症もなく、まだヒーローでいられますが、今夜はお休みしました。あなた達は、私のヒーローだから、改めてお礼をさせて下さい。…その節は、私の命を助けて頂き、ありがとうございました」

 

 ヴィランなのにヒーローと言われて、いまいち理解できない表情をされた。『命を救えば、それはヒーロー同様の行いだ』と説明したが、それでも疑問符を浮かべられる。価値観の違いが浮き彫りになり、どうしたら良いものかと胸中で思い悩んだ。

 

「そっちは、どういう状況だ?」

「先日の件で、私は同僚に疑いをかけられてます。『ヴィラン連合を私有地に誘導したんじゃないか』と」

「否定したんだろう?」

「もちろん。まァ、信じてもらえませんでしたけどね」

 

 そこで、魚以外の寿司を食べていた荼毘君が私に紙コップを手渡してきて、それにペットボトルに入っている緑茶を自分で注ぐ。少しでも動けば(ほこり)が立つ廃墟で喉を潤し、警戒している彼らとの戦闘もなく、ただ会話を楽しんだ。

 

「えっと…、黒霧さん? って方もここにいれば良かったのに。全部消費されかけてますよ」

「あいつは、他にやることがあるからな」

「じゃあ、彼の分を残しときます?」

「いや。ネタが乾くし、いつ戻ってくるかわかんねェから、俺達で食う」

「そうですか。残念です」

 

 仕方なくビニールの風呂敷を丁寧に畳む私の隣には荼毘君がいて、もう一方のほうには、自称同性と言う性同一性障害のマグネさんが座っている。布の下に磁石を仕込んでいるなら緊迫感もあるが、先ほど部屋の隅に置いているのが見えたので、なんの心配もせずに安心できた。

 

「ねェ、リカバリーキャット。質問していいかしら?」

「なんですか? マグネさん」

「荼毘とは、どんな関係?」

「秘密です」

「えー? でも、私の目は誤魔化せないわよ。さっき視線合わせるのも同時だったし、あの荼毘が、異性のために率先して動くのってあまり無いわ。てっきり恋人かなって思っちゃった」

 

 さすが、警察から逃げおおせているだけあって観察眼が鋭く、秘密にするのは無理だと思って暴露しようとした矢先、背中に回された手で服の裾を引っ張られた。どうやら『喋るな』ということで、大人しく口を(つぐ)む。

 

「マグネさんの想像に任せます」

「わかったわ。…あの、ひとつお願いがあるの。私と友達になってくれない?」

「いいですよ。連絡先交換しましょうか?」

「ええ。ぜひ、と言いたいところだけど、携帯持ってないのよね」

 

 どうしようかと悩んでいると、関心の矛先は荼毘君に向いた。しかし、彼は『道中一緒になった』の一点張りで聞く耳を持たない。そこで、死柄木が行儀悪く箸で荼毘を差しながら命令する。

 

「荼毘。これからは、お前がリカバリーキャットを呼べ」

「は? 敵対関係だろ。そんなホイホイ呼べるか」

「じゃあ、俺が呼ぶ!」

「仁君! 私が呼びます!」

「俺が先だったぜ?」

「同性の私のほうが安心します」

 

 分倍河原仁と渡我被身子の子供のような口論を前にして、双方に教えようとしても裾を引っ張られて止められ、どうしても連絡先は荼毘君だけが知っていることにしたいらしい。

 

「じゃあ、荼毘さん。よろしくお願いします」

「ああ」

「えー。荼毘君、ずるいです。私もリカバリーキャットと連絡取り合いたいです」

 

 今度は荼毘君と渡我さんの口論が始まり、席を移動したかったが、また阻止されるだろうと推測してやめる。それが功を奏したのか、裾から手がすうっと離れた。

 そして、寿司をあらかた彼らが平らげたところで、私は死柄木弔に質問する。

 

「どうして、私の連絡先を知りたいんですか?」

「こっちに回復キャラがいないからだ」

「キャラじゃありません。ちゃんと看護師の国家資格取得してます」

「…悪かった」

「謝れるのは良い事です。…もう1つ、質問しても?」

「なんだ?」

「私を連合に引き入れる理由は、人を治すだけの役割だからですか?」

 

 しっかり訂正すると謝罪の言葉が出て、根は良い子なんだと思い、オール・フォー・ワンがタルタロスに収監された今、ヴィラン連合のボスである彼を許した。そんな彼の素性は入院しているオールマイトから聞き、モスから新聞の記事を見せられたおかげで過去に何があったのかを知ることができ、地雷であるそこには触れないようにする。

 謝罪を受け入れた相手はしばらく沈黙し、次の言葉が出てくるのを急かさずに、ただじっと待っていると、やがて彼がゆっくり口を開いた。

 

「……お前みたいに、まともに俺達と対話してくれるヒーローが身近にいない。ヴィランってだけで殴りかかってくるし、嫌なんだ。だから、アイツらに痛い思いをして欲しいと思ってる」

「そうですか……」

「『ヒーローの異端児』って呼ばれてんのも、こうして実際会ってみれば理解できる。すぐに敵意を向けずに、まず腰を落ち着けて、俺達の話に耳を傾けて聞いてくれるし、頭ごなしに俺達を否定しない。犯罪者や社会のはぐれ者にも、対等の存在として扱ってくれる。親身になって、きちんと話し合いの姿勢を見せているから、信頼できる。それに、ヒーローのあんたでも、誰かを深く恨んでるんだろ? この前のラジオを聞いたら、誰だって解るさ。これを機に、連合に入る気はないか?」

「確かに恨んでますが、今は、評価とお気持ちだけ受け取りましょう。…ごめんなさい」

「謝らなくていい。あんたなら、許せる気がする」

「…ありがとうございます。…でも、怪我したり、悩みがあったら、遠慮無くいつでも私を呼んで下さい。応急処置しますし、貴方達が良いと思ってくれるなら、話し相手にもなりますよ」

 

 彼らの話を聞いて感情や本人に寄り添っていけば、互いに分かり合えて、いつかヒーローとヴィランの溝がなくなるのでは、と幼少期から思っていること現実になりそうで、涙腺が緩みそうになる。

 

「という訳で、渡我さん。分倍河原さん。私と連絡先交換しませんか? もっとあなた方のこと知りたいです」

「え!? いいのか!? やったぜ!」

「やったー! 嬉しいです」

 

 結局、携帯を所持してる者達と連絡先交換をして、夜が明けた頃に私はお(いとま)を告げ、一休みせずに遠いコインパーキングに向かっていこうとした。しかし、それを良しとしないある程度の常識を持った男性陣が、彼らからのお礼代わりに荼毘君に『せめて、そこまで送れ』と言い、ヒーローがヴィランに見送られるという一般常識から逸脱する図ができる。それを成せるのは、ひとえに彼ら一人一人とちゃんと時間を取って、真剣に向き合って話し合ったからと結論づけた。

 

「どうだった?」

「アジトに正面から行ったのに、無傷で出てこられるなんて(すげ)ェと思った。少しでも早く陽みたいな人に出会えてたら、もっと打ち解けられて、違う道を歩んでたかもしれねェ」

「…今からでも、やり直せるんじゃない?」

 

 しかし、この言葉には鼻で笑われ、そこは互いに譲れない一線だと思い知らされる。

 

「素敵なデートをありがとう。荼毘君」

「こちらこそ、俺らに歩み寄ってくれてありがとう。陽」

 

 恥ずかしさはあるものの、頬にキスをし合ってから、あたしはエンジンをかけ、闇が支配する夜にヘッドライトをつけて自宅へと車を走らせた。

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