ウマ娘 プリティーダービー リバイバルダービー 作:果てなき狂喜
ジュニア級メイクデビュー戦は、フルゲート9人で行われる。ウマ娘にとってのデビュー戦。ウマ娘にとっての晴れ舞台にして人生最初、もしくは最後のレースになるウマ娘もいる重要なレース。
当然、同着にならない限り、1着を取れるウマ娘は一人だけ。勝利したウマ娘だけが上のクラスのレースに出走できるようになっていき、敗北したウマ娘は未勝利戦に勝つまで上のクラスのレースに出走することはない。
ウマ娘の中に、デビュー戦の時点で、己の実力や才能に絶望して、トレセン学園を自主退学や辞めていくウマ娘もいる。5着以内ならばまだ芽があると言えるが、着外になると未勝利戦で出走させたとしても勝てる見込みがなくなるという事。
9人中1人デビュー戦を勝ち抜けられるウマ娘は、今年デビューするウマ娘全体、ライスを除いた1割と少しとなる。
もし仮に1着を取ったとしても上のクラスでいい成績を取れなければ重賞へ出走することもできない。ほかのスポーツでもいえる事ではあるが、他社をけり落として進むことになる。それをなせる実力と才能があり、努力を重ね。さらに運をも味方にしなければ重賞には手が届かない。
トレーナーになるための勉強として、様々な数多くのレースを見てきた。GⅠからメイクデビュー戦のありとあらゆるレースを閲覧してきた。そこには、常勝と謡われるウマ娘や毎回負け続けているウマ娘もいる。しかし、重賞に出走できている時点でごく一握りのエリート中のエリートと呼べる実力がある。重賞ほどではないが、小さい規模ではあるが、ウマ娘にとってもトレーナーにとっても重要なメイクデビュー。
ウララが参加するレースとして選んだのはダートの短距離。ダートならマイルにも出走してもいいと思ったが、今は短距離に出した方が確実だろうと判断した。レースの開催場所は東京レース場。距離は1300m。そして今回のレースは、ウララと同じようにダートの短距離を得意とするウマ娘が参加している。
ここ数日は天候もよく、快晴かつバ場は良好。初のレースにとっていい環境だが、それはほかのウマ娘にとっても同じこと。
「はぁ……(ついに、ウララのデビュー戦が来たか……)」
「えへへ~デビュー戦楽しみだな~!!」
「うん…」
「わぁ…デビュー戦でも、凄いお客さんだね、お兄様。ライスの時もこのぐらいだったのかなぁ……」
「いや、ライス。芝の方がもっと多かったよ。でもまぁ…この会場は、それなりに多いかな?ざっと数千人かな?」
「へぇ~!?すうせんにん!?」
「そ、そんなに!?うぅ…そんなレースに出てたんだ…ライス…ふぅぅ…」
「でも、ライスちゃんすっごくかっこよかったよ!!」
「うん。そんなに気を落とさないで?ライス。ウララが言ってた通り立派だったよ。ライスは…」
「えへへ…お、お兄様が言うのなら、が、頑張ったかいがあった…かな?」
「あはは…」
観客達にとってもメイクデビューとは特別なレース。まだまだ未熟なウマ娘が出走するが、先のレースで活躍するだろう有望なウマ娘が現れることを望んで、期待に胸を膨らませている。この世界では娯楽として観客達は楽しんでいる。
さらに東京レース場周辺は屋台が並んでいて、焼きそば、たこ焼きといった定番の商品が売られていたり、ウマ娘向けの人参ジュース、人参焼きも販売しており、それを買い求めるウマ娘の姿が見えている。
「な、なぜ私が売り子をしないといけないのですか!!!」
「いいから、お前も手伝えよ~。は~い!!安いよ安いよ~!!ゴルシちゃん特製からしマヨ焼きそばだよ~!今ならなんと、1パック300円!破格の値段だよ~!さぁ、買った買った~!!」
「もう!折角レースを見に来ただけでしたのに…」
「いいじゃん。そんぐらい暇だったんだろ?」
「いいえ、暇ではありませんわ…席を確保しなくてはいけないという……」
「だから暇じゃん。それ…」
「ですから―――」
「すみません、その特性からしマヨ焼きそば3パックください!」
「か、かしこまりましたわ!!!ほら、ゴールドシップさん!焼きそばを二つ!!」
「……やっぱ、お前売り子に向いてんだろ。」
「お、お黙りなさい!!!」
「ほい。まいど~!!!」
「こ、こほん…はい、お待たせいたしました。焼きそば二つですね?合計900円ですわ。」
「はい。ちょうどで。」
「お買い上げ、ありがとうございますわ。それでは。」
「ねぇねぇ、桑原トレーナー。これ、あの人が落としていったよ~?」
「あ、本当だ…」
「早く届けないと、困ちゃうかもしれないよ…」
「そうだね…君!待って!」
「は、はい……」
「これ、落としたよ。」
「ま、まぁ!私としたことが落とし物を……って、あら?あなた…ライスさんではなくて?」
「ま、マックイーンさん!?」
「ラ、ライス…知ってるの?」
「う、うん…マックイーンさん…正確にはメジロマックイーンさんって言って、あの名家のメジロ家のお嬢様なんだって…」
「へぇ~すごいね。」
「いえいえ…お婆様やお父様、お母様が凄いのですわ…まだ、私は未熟の身・・・ここからです。…それにしても、ライスさん。トレーナーさんを見つけたのですの?」
「え、えっと…う、うん…そうなんです…担当トレーナーさんなんです。この人は。」
「お名前をお伺いしても?」
「えっと、ライスとウララの担当をしております。桑原と申します。よろしくお願いします。」
「えぇ、こちらこそ。」
「…そういえば、メジロ家は代々天皇賞春秋連覇を成し遂げているっていう…」
「えぇ。いつか私はその天皇賞春はもちろんの事、秋も連覇してみせますわ……」
「そうか……じゃあ、ライスの競う相手でもあるかもね。メジロマックイーンは。」
「いえいえ…それに、私はマックイーンで構いませんわよ?フルネームでおっしゃられたら、少しいやですわ。」
「あ、そっか…ごめんね?じゃあ、これからはマックイーン手呼ぶよ。」
「えぇ。お願いしますわ。」
「おい!マックイーン!!次行くぞ~!!!」
「もう少しお待ちなさい!もう……それでは、またの機会でお会いしましょう。失礼いたしますわ。」
「うん。また会う時は、レースかもね。」
「えぇ。それでは。」
買う側だけではなく売る側にもウマ娘の姿がある。先ほどのマックイーンだけではなく、長髪の葦毛にガタイの良さ。走ればさぞ強いだろうと予想できる。ただ、売り歩く姿は何とも言えない。
「ねぇ、その焼きそば…食べてもいい!?」
「いや、レースが終わってからね?食べて走れなくなるかもしれないし、困るからね。」
「そっか~…でも、そうだね!今日のレースが楽しみだったのに、出られなかったらいやだもん!」
楽しそうにしながら、ガッツポーズをしているため、緊張感が足りていないと見えているが、緊張しすぎて実力が発揮することができなかったよりマシだと思った。
今日までライスを含め、ウララに可能な限りトレーニングを積ませてきた。
ダートだけでなくウッドチップや坂路、プールで泳がせたり、筋トレ、柔軟に体を柔らかくし、怪我をしないように注意してスピード、スタミナを増やすようにウララを鍛えた。たまにハッピーミークと併せて走らせたり、スタートの練習、本番のレースを見越したトレーニングを行っている。3着以上になった場合を兼ねて、ウイニングライブダンスは、センター、2着、3着、入着、着外での振り付け練習をさせている。
誤算があれば、いい方向で一つだけ、当初立てているウララの育成プランを予想していたものと比べて、今のウララの方が成長していること。依然起きたウララのトレーニングドタキャン事件以来からはウララの成長力が増している。それまでのウララはトレーニングに対して意欲的だったが、トレーニングに文句ひとつ言わず、疑うこともなく必死に励んできた。それはもちろんライスも同様の事。
また、担当ウマ娘が二人という事もあり、二人だけにトレーナーとしてのリソースを注げられるという事。ただ、今の自分の限界は二人のウマ娘だけにトレーニングを専念する事で精一杯だった。
トレセン学園でもトップチーム、チームリギル東条トレーナーの指導の下に、10人以上のウマ娘を同時に育成しながらあらゆる重賞を搔っ攫っているのである。そんな化け物じみた育成手腕をもつ東条トレーナーと比べあれば微々たるものだとしても、自分のできる限りの事をウララとライスを育成しているつもりだ。
その集大成が、今日のレースの着順という形で明らかにされている。トレーナーとしての育成結果が、明確な形として現れると言っても過言ではない。
すると、楽しそうに笑うウララの隣でぶるりと体を震わせている。武者震いとも呼ぶか、別の感情によるものなのかは、曖昧だった。
「おい!マックイーンにゴールドシップ!!!屋台の人に迷惑かけるなと、あれほど行っただろ!?せめて、売り込みをするならうちの模擬レースだけにしてくれ!!」
「でもよぉ……金足りてねぇんだろ?だからこうして売ってるんだっつの……」
「そうですわよ、まったく…今日は普通にレースを見に来たというのに……」
背後から先輩トレーナーと先ほどのウマ娘二人の会話が消えた気がしていたが、今の自分に振り返って確認する余裕はなかった。今は早く観客席に付きたかったのだ。
「『さぁ、続きましてのレースは第5レースになります。新たなスターの誕生が期待されるメイクデビュー。ダート1300。バ場状態は良と発表されております。出走するウマ娘はフルゲート9人です。今回もよろしくお願いします、細江さん。』」
「『はい。よろしくお願いいたします』」
とうとう始まったウララのデビュー戦。東京レース場に響き渡る実況の声に耳を傾けながらウララの様子を観察した。練習用のジャージとは異なり、ゼッケンが縫い付けられた体操着にブルマの格好をしている。他のウマ娘と違う点で言えば、ウララの頭には、赤いハチマキを巻いている。それでもウマ娘はそろって体操着にブルマか短パン姿。GⅡまでは体操着なのだが、GⅠはもちろん勝負服で挑むことになる。
コースに最も近い観客席の最前列からは、ウララだけではなくほかのウマ娘達の様子も分かった。事前に出走するウマ娘は事前にはわかっていたが、ハッピーミークのような面識のあるウマ娘はいない。
それでも情報を集めたが、前のウララなら、ウララよりもラップタイムが良いウマ娘達がいた。だが、今のウララならほかのウマ娘たちに負けず劣らずといった実力がある。ただほとんどのウマ娘達が緊張しているというのも分かった。いくらトレーニングを積んできたとはいえ、本番のレースは初めて。これからの競技人生を占う大事な一戦ともなれば、当然の事。緊張していないのはウララだけで、普段通り笑顔で観客席に向かって手を振っているほど。
「あっ!桑原トレーナーにライスちゃん!!ウララ、がんばるから見ててっ!」
自分とライスに気が付いたウララが手を振ってきたため、自分は苦笑しながら、ライスは笑顔で手を振り返した。周囲の観客からも暖かい視線が向けられている。さすがに確認する度胸は今はない。むしろ、しない方が良いと判断した。
「ウララちゃん!!頑張れ~!!!」
「応援してるぞー!!!!」
「わ~い!!ありがと~!!!がんばるね~!!」
ただ、聞き覚えのある声が飛んできたので、視線を向けた。そこには数人だけだが、商店街の面々の姿があって、少なくない驚きを舌。さすがに見知った顔全員という訳ではないが、八百屋の店主などが駆けつけていたようだ。
「わぁ…ウララちゃん、応援されてるね。お兄様……なんだか、自分の事のように嬉しいね?」
「うん……応援してくれるのは、嬉しいんだけど……(お店は大丈夫かな……ウララのトレーナーとしては嬉しいけど……)」
レース前のため、声をかけることはしないけれど、目があったため感謝を込めて頭を下げた。そして、頭を上げウララが走るレースの出走表を胸ポケットから取り出した。ただ、出走枠は不利な条件が記されている。
「あのハルウララって子、明るくて元気いいけど……1枠1番か……芝なら好材料と言えるが…ダートだと厳しいかもな……」
「ど、どうしたんだ?急に…」
「芝のコースなら内枠が有利だという人も多いが……それはある程度距離が長い…例えば中距離や長距離のレースの話であって、短距離やダートだと不利になることが多い……」
「た、確かに……ダートの場合、内枠だと砂をかぶる危険性があるからなぁ……外枠ならその危険性も低いし、外枠が有利か……でもさ…あの仕上がりで…それはないんじゃないか?」
「う~ん…確かに…むしろ、それが作戦かもな……内枠にいさせ、油断したウマ娘の隙を見つけてそこから追い抜くっていう戦法かもしれない…」
「でも、何が起こるか分からないのが、レースだもんな…」
「あぁ……俺は、ハルウララを応援しようかな。」
「俺も!なんだか元気が湧いてくるし。」
今回のウララは1枠1番で、内側からのスタートだが、コースの外側からスタートする形になる外枠のウマ娘と比べ、走る距離が短くなるという意味では有利。ただ、跳ね上がった砂をかぶりやすいのが弱点。スタートダッシュを決めて逃げに徹するウマ娘なら関係ないが、差しで戦うので砂をかぶる危険性が十分にある。
「(跳ね上がった砂には注意して!ってウララには伝えてあるから……大丈夫だとは思うけど…それは、本番にならないとだめだね…)」
スポーツマンシップに則って正々堂々戦うものが多い。ただ、中には後方のウマ娘に泥や砂をかけたり体当たりを仕掛けるフェアプレーをするウマ娘もいる。ただ、メイクデビューでダーティプレイを仕掛けるウマ娘はいないが、偶然砂が飛んでくる可能性がある。
「『1枠1番ハルウララ。笑顔と共にゲートイン。人気はなんと2番人気です。パドックでも常に笑顔が目立った明るいウマ娘です。』」
「『いい仕上がりですね。しかも緊張しているようには全く見えません。後に重賞を制するウマ娘でも、最初のメイクデビューでは、大抵は緊張するものですが…むしろ、レースが楽しみといわんばかりの笑顔ですね。』」
「『もしかしたら、今回が初のレースで緊張感を感じていないというのは、後々は重賞を多く制する可能性があるかもしれません。さらに観客席からは早くも応援の声が飛んでおります。その声援に応えることができるのか!続きまして―――』」
実況と解説による短いウマ娘の紹介を挟み、いよいよファンファーレが響き、それぞれゲートに入っていく。同時に観客の声も静かになり、出走の時を待ち望んでいた。
「『ゲートイン完了。出走の準備が整いました。』」
笑顔を浮かべながら身構えるウララをじっと見つめた。ワクワクと楽し気な、今にも駆けだしそうなウララの顔を。
一瞬の静寂がレース場を満たし、ゲートが今、開いた。
「『さぁ、ゲートが開きました!各ウマ娘、揃って綺麗なスタートを切りました。』」
「『みんな集中していましたね。ここからどんなレース展開が待ち受けているのか、注目ですね。』」
ウララのスタートは上々。出遅れもなく、他のウマ娘とほぼ同時にゲートを飛び出すことに成功する。戦法の違いによるものだが、最も内側を走るウララの行く手を阻むように、一人二人とウマ娘が姿を見せる。
「(やっぱり……マークされたか……まず、戦法だと……逃げ1、先行3…いや…4人…差しがウララを含め3人…追込みが1人か……)」
「お兄様…ウララちゃん大丈夫かな?」
「うん……大丈夫だと思うけど……あそこでマークされていたら抜け出すのが難しいかも……でも……ウララを信じてるよ。あそこから抜け出せるって。」
「うん。ライスもそう思うよ。ウララちゃんは根性は誰よりも強いんだよ。」
「『先頭を駆けるのは6番チーフパーサー、続いて2バ身開き3番リードノベル、4番グリーンシュシュ、5番ミニデイジーが争うように2番手争い。少し遅れて9番キンダーしゃっつ、さらに2バ身ほど下がって1番ハルウララ、8番ワイズマンレイズ、2番フェーダルテニュアが中盤を形成、最高峰に7番ベータキュビズム』」
「(うん。いい位置取り。ここまでは作戦通り……後は抜け出せるかどうかにかかってるよ…ウララ。)」
中団の先頭を走るウララ。さらに周囲をほかのウマ娘に囲まれておらず、先を進むウマ娘達の位置も確認できる絶好のポジショニング。そして、いよいよ直線を抜けコーナに突入。ウララを含めそれぞれが細かい位置調整を行い、膨らみ過ぎないよう注意しながらコーナーを駆けていく。
「『大ケヤキを抜け、4コーナーへ!先頭は変わらずチーフパーサー、リードノベル、ミニデイジーが追いすがる!グリーンシュシュはやや下がって4番手!キンダーシャッツはやや外側へ膨らんでしまったか!?そのうちをつくようにハルウララに率いられた中団が進んでくる!!」
実況の声を聴きながら、ウララが駆ける姿を見つめ続ける。コースの内側を走り続けているが、ほぼ理想的な展開。あとは最終直線で抜くために位置取りを気にしながら外に含まらないことを意識してほしい。ただ、これはハッピーミークやライスと併せて走った際の経験が活きている。
「『コーナーを抜け先陣を切ったのは6番チーフパーサー!愛カラらず逃げ続けているが、2番手との差は2バ身に迫っている!このまま逃げ切ることができるのか!?それとも追い抜くのかリードノベル!!』」
拳を握りしめ、力を込めている。もうじき夏が訪れる東京レース場は熱く、握った拳の内側がすぐに汗ばむほどにレースは熱くなっている。
「行け………行け、ウララ!!」
気が付けば口から声が漏れていた。ライスには聞こえているかもしれないが、それでも、勝手に口が開いていた。
「『残り600を切って誰が抜けだすのか!おぉっと!?内を走っていたハルウララ、ここで加速!!今チーフパーサーの差が今10~4バ身と縮まっていき、なんと5番手の位置から2番手に上がってきた!?このまま先頭を捉えることができるのか!?』」
「『これは、見せてくれますね、ハルウララ。』」
最終直線、そこがウララの本領発揮ができる場所。コースの内側を走り続けたウララの表情は余裕があり、笑顔があった。だが、どこか真剣な眼差しだった。
「(?……ウララ…?)」
「はぁ…はぁ…(今日まで桑原トレーナーがたっくさんトレーニングしてくれたもん……だから……だから……ウララ……負けられない……いや……桑原トレーナーのために!!!)勝たなくちゃいけないんだー!!!!!!」
「『なんとハルウララ!!ここからラストスパートをかけて今、チーフパーサーを捉え、今抜き去った!!ハルウララ!ハルウララ!凄まじいスピード!!もう後方は6,7バ身と引き離し、残り200m!!このまま差し切れるか!?それとも後方の子達が上がってくるのか!?』」
「ウララ!!いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「あとちょっとでゴールだよ、ウララちゃん!!!」
「『ハルウララ!!もはや独壇場の一人旅!!残り100、50!これは決まりだハルウララ!!!!そして、今ゴールイン!!ハルウララ!2番人気ながら声援に応えてみせたぞハルウララ!1着です!!!』」
その言葉を聞き、安堵しながら喜びの感情が溢れていた。
「(よし!やっぱり凄いな。ハルウララは……)」
ゴールを駆け抜けたウララは徐々に減速し、後方を振り返った。立ち止まった自分の周り見て、自分が一番最初にゴールインしたことを確認した。すると、ぶるぶると震えながらこぶしを握り締める。
「~~~~っ!やったぁ!!!ウララが1着だ!!!やった~!!!!」
ウララは歓喜の声を上げるとともにその場でこぶしを突き上げて飛び跳ねた。それを見た観客がさらなる歓声を上げ、東京レース場を揺らしそうなほどの声量になった。
「はぁ…はぁ…やったよ桑原トレーナー!ライスちゃん!わたし、勝った!!勝ったよ~!!!」
額には汗を浮かべ、飛び跳ねるようにしながら走ってきた。尻尾をぶんぶんと振り回しながら近付いてきたウララの姿に大きく頷いた。
「あぁ。よくやったぞ、ウララ。」
「1着おめでとう、ウララちゃん!」
「うん!!ありがと~!!!」
「あ、そうだ!怪我、怪我はない!?」
「だいじょ~ぶ~!!怪我もないよ~!!!」
「そっか…良かったよ…」
そういってピースサインをしてきたウララに頭を撫で回した。ウララはどこか嬉しそうにしながら尻尾を大きく振り回している。一度、視線を着順掲示板へと向けた。そして、わずかな間が空き、点灯した。
1着1番―――ハルウララ。
着順掲示板に表示され、なおかつ確定の文字が表示されていた。だが、ウララの番号よりも、その隣の表示された数字に視線が釘付けになっている。
「ま……マジですか……」
「う、うん……こんな記録、初めて見た…」
そこに表示されていたのは、ウララが記録したタイムで、すぐ上には見慣れない表示がされていた。
「『ただいま着順が確定しました―――ん…?え!?な、なんと!!!ハルウララ、レコード勝ち!レコード勝ちです!!このコースのデビュー戦で、なんとレコードタイムを記録しました!!!勝ち時計は1分17秒47!!1分17秒47!!これまでの記録を2秒以上短縮しました!!!』」
「『これは驚きましたね……2番人気が1着になるのはレースの展開ではあり得ますが……デビュー戦レベルとはいえ、レコードが出ましたね……今までデビュー戦でレコード勝ちした記録は過去にはありましたが……現在まではいませんでしたね……私でも驚きました…』」
解説の人が言った通り、デビュー戦でのレコード勝ちはめったに見られない。この時期になると有力なウマ娘はほとんど上のクラスに進むことがある。レコードと言っても短距離ダートというくくりで見れば極めて優れたタイムではないが、1着はともかくレースレコードは予想外。
「ね、ねぇ……ライス、これ…夢なのかな…?頬をつねってもらっていいかい?」
「ふぇ!?つ、つねったら痛いよ!?お兄様…でも…お兄様が言うなら!」
そういって、おどおどしながら頬をつねられた。少し痛かったが、夢ではなかった。
「……(あはは……ここまでの実力になったんだ…ウララは…)」
ウララの方に視線を向けると、いつの間にかレースで戦ったウマ娘達と言葉を交わしている姿があった。中には涙を流すウマ娘もいた。だが、ウララに声をかけているウマ娘は妙に晴れ晴れしていて、苦笑にも似た笑顔を浮かべ、ウララの背中をたたいていたりしていた。
ウイニングライブは一発勝負。一応ライブの練習はしてあるし、振り付けや歌も完璧に覚えさせた。あとは初めてのウイニングライブを成功させるだけ。だが、ウララはどんなライブでも形になるだろうと笑った。
いよいよウイニングライブが始まり、ライブ衣装を着こんだウララを含んだ3人のウマ娘達が並び、一緒に歌い踊り始めた。
「ウララちゃん、キラキラしてるね?お兄様。」
「うん……すごく綺麗だね。」
やはり、自分が育てているウマ娘が走っている姿もだが、ウイニングライブで踊る姿も格別。ウララは精一杯、一生懸命に楽しそうに踊っている。時々振り付け、歌詞が間違っているが、全く気にならないほどだった。
これで、ウララとライスがデビュー戦を勝った。ウマ娘としてはようやく一歩目を踏み出せただけに過ぎない。ここからオープン戦からGⅠまでのレースを走り、少しでも上を目指していける権利が与えられただけ。
あの中には、メイクデビューというスタート地点に立ち、一歩も前に進めないまま未勝利戦を戦い、スタートすら切れないまま引退するウマ娘が数多くいる。これからどこまで進んでいけるのかはウララやライスの頑張りだけではなく、自分の働きが影響する部分もある。先を見ればきりがなくて、足元も見えない五里霧中だが、これまで通り、できることをするだけ。
もしかしたら、これがウララの最初で最後のウイニングライブになるかもしれないが、逆にこれからもレースに出る度、ウイニングライブで踊るウララの姿が見れるかもしれない。それはライスも同様の事。
「(いや……ライスとウララなら絶対にできる。)」
いつかは、GⅠの夢の舞台で踊るウララとライスの姿が見れることを願ってやまなかった。そして、そのための一助となることを誓う。それでも、今日ばかりは無邪気に踊る姿を見て、ライスと楽しもうと思った。