魔法科高校の蛇   作:孤藤海

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有志同盟対策

 翌日、市丸は登校してすぐに司波深雪の元を訪ねた。

 

「達也くんに連絡とってくれへん?」

 

「深雪を達也さんへのメッセンジャーに使うのは市丸くんくらいだよ」

 

 深雪の友人である北山が呆れた様子で言ってくるが、そんなことは市丸の知ったことではない。それに、深雪を経由していれば達也は市丸の呼び出しを断ることはできない。市丸の狙いどおり、深雪に呼ばれた達也は走ってきたと思われる時間でやってきた。

 

「昨日の話し合いの結果、教えてくれへん?」

 

「それは俺でなくて七草会長に聞いてほしい内容なんだが……」

 

「なんや、知らへんの?」

 

「いや、市丸が絶対に質問してくると思って、登校時に七草会長を待ち伏せして結果を聞いておいた」

 

 だったら、もったいぶらずに教えればいいと思うのだが、達也としても良いように使われるということには、思うところがあるのだろう。

 

「それで、どないなったん?」

 

「まず有志同盟側の要求だが、一科生と二科生の平等な待遇だそうだ。しかし、具体的に何をどうしてほしいのか、あまり考えていなかったようだな。具体的なことは生徒会で考えろ、という様子だったようだ」

 

「アホらし」

 

 自分たちの待遇を改善してほしいと要求したというのに、改善内容を相手に考えさせるなど、愚かしいにも程がある。

 

「まあ、経過はこの際、おいておくとして、結局は明日の放課後、講堂で公開討論会を行うことになった」

 

「ふうん、なら狙いどころは今日の放課後やね」

 

 小声で呟いた言葉を聞いていた達也は、そのまま市丸の腕を掴んで人気のない一角へと引っ張っていく。

 

「達也くん、ちょっとばかり強引すぎへん?」

 

「お前が不穏なことを口走るからだろ。一体、何を考えている?」

 

「明日、公開討論会を行うんなら、今日の放課後には作戦会議を行うやろ。一網打尽にするええ機会やん」

 

「それは俺や七草会長の考えとは違う。俺たちも手っ取り早く事態を終息に導くことは考えていた。しかし、約束した話し合いすら行わないのでは、一科生と二科生の間のしこりは、より大きくなるだろう。それでは、今回だけ表面的に事態を収めても、第二のブランシュの台頭を招くだけだ」

 

 どうやら達也たちは、この機になるべく一科生と二科生の融和を図るつもりらしい。市丸としては、まずはブランシュにしっかりと対処して、その後にゆっくり融和を進めればいいと思うのだが、それが生徒会の方針ならば止むを得まい。

 

「それで、討論会って何をするん?」

 

「七草会長が一人で有志同盟側の議題を受けて立つようだ。一人の方が小さな食い違いから揚げ足取りをされる心配がないし、怖いのは印象操作で感情論に持ち込まれることだけでロジカルな論争なら負けるつもりはないようだな。加えて言えば、もしも会長を言い負かすだけのしっかりとした根拠を持ち出せるのなら、それを学校運営に取り入れるだけだとも言っていたな」

 

「それは、なかなか器が大きい発言やな」

 

 負けるつもりがないのは当然として、負かす相手ならば頼もしいとは、なかなか言える発言ではない。もっとも、そんなことが簡単に言えるということは、七草自身が今の学校運営に疑問を持っている証左でもあるのだろうが。

 

「けど、問題は相手がきちんと討論を行うつもりがあるか、ゆうことちゃうの? 生徒会の主要な人物を一か所に集めることができる、ゆうんは最初から力で現状を変えようとする側にとっては絶好の機会にもなるで」

 

「そうだな。それは心配でもある。だが、風紀委員も当日は警戒に当たるはずだ」

 

「風紀委員で抑えられるんは、あくまで学内の戦力くらいやろ。もしも外から介入があるようならどないするん?」

 

 そう問いかけると、達也は少し考え込んだ。

 

「ええ考えがあるで。今日の放課後の時間に同盟側が打ち合わせをするんは確実や。その場所として生徒やったら学内の施設を使うはずや。それやったら、その間に外に集まっとるのを潰しに行ったところで、生徒は巻き込まんで済むんちゃうか?」

 

「お前、ブランシュを潰すつもりか? けど、どうやって」

 

「司甲経由でブランシュの本拠地はわかっとる。ボクらでそこを確認した結果、もしも今日、奴らが打ち合わせをしとるなら、それは明日に向けての悪だくみの可能性が高い。そしたら、一気に潰してしまえば、明日の憂いが減ると思わへん?」

 

「お前が俺を誘うというのは、後始末を期待してということか? お前、ブランシュを本気で殲滅するつもりだな」

 

「そんなの当然やろ。下手に逃がして地下に潜られたら厄介や」

 

 もっとも、それ以前に先制攻撃を仕掛ける以上、後で法に訴え出られないようにする必要があるのだが。

 

「市丸、お前は勘違いをしている。俺には警察を抑える力なんてない。お前が事件を起こしたとして、揉み消しなんてできないぞ」

 

「君が無理なら、会長さんにお願いすればええやん。十師族なんやろ」

 

「一応、会長に提案はしておく。だが、そこまで過激な案は、会長は首を縦には振らないと思うぞ」

 

「そない難しいことやない。ボクらが踏み込めば、やましいことがあるなら攻撃を仕掛けてくるやろ。仕掛けられたら反撃する。それだけや」

 

「そうか……偵察ということなら、あるいは……」

 

 とりあえず踏みこんでみるという案には達也も少し心惹かれているようだ。

 

「七草会長が無理なら、十文字会頭に話したらええ。十文字会頭は次期当主なんやろ。七草会長よりも権力はあるんちゃう?」

 

「どうだろうな。七草と十文字なら、七草の方が力が上だ。それに裏工作のようなものも七草の方が長けているはずだ」

 

「へえ、十師族のことについて詳しいんやね」

 

 言うと、達也が黙り込んでしまった。

 

「達也くんが嫌がるから、余計な事は言わんとくわ。結果は昼にでも教えてくれたらええわ。それじゃ、頼んだで」

 

 そろそろ授業が始まる時間だ。

 

「昼に結果を教えろとは、俺はいつ十文字会頭たちに連絡を取れと言うんだ……」

 

 背後から、どこか途方に暮れたような声も聞こえてきたが、それは無視して教室へと戻る。そうして普通に授業を受けて、昼休みになった。市丸は手早く昼食を取ると、結果を聞きに達也の元に向かう。

 

「市丸か……七草会長と十文字会頭と話をしてみたが、やはり先制攻撃は少し拙いそうだ。ブランシュは表向きは政治団体だ。魔法師が反魔法師的な政治団体に先制攻撃を加えて殲滅するという形は、どのような理由があれ、問題が大きすぎる。例え、踏み込んだところで攻撃を受けたので反撃するという形を取るにせよ、そもそも、なぜそのような所にいたのかが問題となりかねない」

 

「結局、手を下すには大義名分が必要ちゅうことやね」

 

「そういうことだ」

 

 達也自身、七草や十文字が反対なら動くつもりはないようだ。その様子から、達也は自発的に動けない立場なのだろうと予想ができた。

 

 しかし、解せない。完全に国のコントロール下にあるのなら、まずは上司の意向を尋ねて、それに従って動くはずだ。しかし、達也は七草や十文字などのお墨付きが得られたならば、動くこともやぶさかでないように見えた。となると、実力はあっても後ろ盾がないという市丸と同じような立場だろうか。

 

 いずれにせよ、後始末を誰かが受け持ってくれなければ殲滅戦などできない。遺憾だが、専守防衛に徹するしかないということだろう。

 

「その代わり、当日は厳戒態勢を取る。市丸も特例としてCADを所持した上で講堂内の警備に当たってほしいと言われているが、どうする?」

 

「それなら、協力させてもらうわ。会場にはなるべく多く集めといてや」

 

「いいのか? 逆に狙われやすくなるという考えもあるが?」

 

「どないな手段でこようとボクを出し抜けるとは思わんことや」

 

「わかった。ならば、深雪に声をかけてもらおう」

 

 ひとまず明日の方針は決まったので達也とは別れる。だが、ただ待つだけなのも癪だ。

 

「そやね。少し脅しとこか」

 

 残り少ない昼時間を有効に活用すべく市丸は校舎の屋根の上に登った。

 

「黒白の羅、二十二の橋梁、六十六の冠帯。足跡・遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列、太円に満ちて天を挺れ。縛道の七十七、天挺空羅」

 

 市丸が使った情報伝達用の鬼道、天挺空羅は、はっきり言って通信機器が発達した今の現世では使い道がないと思っていた。けれど、一方的に頭の中に声を届けるというのは原理を知らない者にとっては脅威のはずだ。というわけで司甲に繋ぐ。

 

「司甲、明日まであんま、はしゃぐんやないで。でないと、今日のうちに消すで」

 

 それだけ伝えて通信を切る。これで司甲は見張られていると警戒をしてくれるはず。そうなれば動きを制限できる。なにより、今現在、怯えてくれているはず。

 

 市丸は混沌を厭うわけではないが、それでも、無辜の魂魄が犠牲になるのを良しとはしない気持ちくらいは残っている。ひとまずできることだけして、市丸は午後の授業を受けるために教室に戻った。

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