侵入したブランシュの手の者たちと学内の不穏分子の拘束を終え、第一高校内の騒乱は沈静化した。けれど、これで終わりではない。
「七草会長は第一高校の生徒たちの内応は隠して、あくまで外部から侵入した賊徒との交戦ゆうことで処理するつもりみたいやね」
七草と服部が事件の捜査に来た警察への対応を行う間、市丸は達也と深雪の兄妹、部活連会頭の十文字、風紀委員長の渡辺と次の行動を行うかを協議していた。即ち市丸が突きとめているブランシュの隠れ家に攻撃を行うか否かだ。
「危険だ! 学生の分を超えている!」
攻撃に反対をしているのは渡辺で、これは学内限定とはいえ、常にトラブル処理の最前線に立っているがゆえの危険への敏感な感覚によるものだろう。
「けど、警察に任せてしもうたら、殲滅なんてでけへんよ。証拠を揃えて暢気に逮捕なんてしよったら、大半は地下に潜って、そのうちに今回の報復にくるやろね。なにせ、今回の襲撃ではぎょうさん死んどるんやから」
「そのほとんどは、お前によるものだろうが」
「そうやね。けれど、銃口を人に向ける敵を相手に、なんで手加減なんかせなあかんの? それに、ボクも人を殺さんように無力化するなんてことしたことないんや。実験を繰り返しとると、その分だけ遅うなるけど、それで誰かが犠牲になったとしても、それは仕方ないことになるん?」
忌々しげにだが、渡辺が黙り込んだ。けれど、これは厳然たる事実だ。
そもそも死神は虚と戦うのが本職。虚を捕らえるという考えはなく、縛道も動きを封じた後で止めを刺すのが基本だ。そんな中、市丸は虚を捕らえるということ自体は経験をしているが、そもそも虚は頑丈で再生能力も高い。人間が相手だと同じにはいかない。
「このまま警察に任せといたら、今のところは解決するやろね。けど、一年後にはまた学校が戦場に早変わりや。今のうちに禍根は断っておかんで、本当にええん?」
「俺も市丸の意見に賛成です。俺は、俺と深雪の日常を損なおうとするものを、全て駆除します。これは俺にとって最優先事項です」
「同じような事件を起こさない為には、このまま放置することはできない。だがな、市丸、司波。相手はテロリストだ。下手をすれば命に係わる。俺も渡辺も、当校の生徒に、命を懸けろと言えん」
十文字はそう言って市丸と達也のことを鋭い眼光で見つめる。
「あれ、君、何か勘違いしてへん?」
それを市丸は薄い笑みで答える。
「勘違い?」
「ボクは昨日の時点で、ボクに対処を任してくれへんかって言うてたと思うんやけど」
「まさか、一人で行くつもりか?」
「それでも良かったんやけど、そうもいかんみたいやなァ」
市丸が答えると同時に、達也が一歩、前へと進み出た。
「十文字会頭、俺は先ほども言ったように俺と深雪の日常を損なおうとするものは全て駆除します」
「お兄様、わたしもお供します」
当然のように深雪が参戦を表明する。この二人ならば、連れて行ったとしても足手纏いになるようなことはないだろう。
「そういうわけで、ボクら三人で行ってきますわ。処理はしとくんで、後始末だけお願いしてもええですか?」
「いや、俺も行こう。十師族に名を連ねる十文字家の者としても、一高の生徒として、この事態は看過することはできん。それに、下級生にばかり任せておくわけにもいかん」
「じゃあ、私も……」
「渡辺、お前は残っていてくれないか? 警察も入っているとはいえ、残党が学内外で機を伺っている可能性もある。七草が警察の対応に手を取られている以上、誰かが学内の守りについていないと不安だ」
十文字にそう言われて、渡辺が不承不承、頷いた。
「お兄様、レオとエリカについてはどうしましょう?」
「あの二人のことだ。ブランシュのアジトに仕掛けると知ったら、連れて行けと言ってくるだろうな」
「悪いんやけど、あの二人は縛り付けてでも置いていかせてもらうわ」
「その理由は?」
「邪魔や」
はっきりと言ったことで達也と深雪が息を飲んだ。
「市丸、お前は知らないかもしれないが、あの二人は魔法のみの力はともかく、戦闘力としては悪くないぞ」
「そないなことは知っとるよ。ボクが言うとるのは、覚悟のことや。ボクの戦い方は君らも知っとるやろ。ボクはブランシュを殲滅しに行くつもりや。一人たりとも生かしておくつもりはないで。仮にあの二人が気絶させただけで終わらそうとしたら、ボクは気絶した敵に止めを刺すで。もし、それを邪魔するなら、あの二人も斬る。それでもええんやったら、連れてったらええんちゃう?」
「市丸、俺たちのやるべきことは第一高校の脅威を取り除くことで、ブランシュの殲滅ではない。武器を持った相手を殺さずに無力化しろとは言えないが、戦闘能力を失った者を殺害することは許可できない」
「はあ、それなら、戦闘能力を失った後については、手ぇ出さんようにしますわ」
市丸は霊圧で敵の位置を把握しているため、拘束しただけだと健在な敵との区別はできない。無駄に走り回ることになったり、拘束済の相手と誤認して潜伏する敵を見過ごしたりすることになりかねない。
市丸は火器の発射を感知はできない。壁の向こうから射撃されたら、避けることは難しい。そのため、できれば殺害。最低でも昏倒状態には持ち込んでほしいのだが、十文字には戦闘終了後の事後処理を任せることになる。ここは引いておくしかないだろう。
「お兄様、エリカたちについては……」
「市丸が手を出さないと約束をしたのは、あくまで戦闘能力を失った後についてだ。無力化ができる場面では殺害をしないと約束をしたわけではない。エリカならば割り切ることもできるだろうが、それでも今回は連れていかない方がいいだろう」
達也は明確には言わなかったが、千葉もこの中では格が落ちてしまうのは否めない。
「決まったようやね。それならボクらは四人で行かせてもらう、ゆうことでええね」
「ああ、それでいい。ところで、ブランシュの拠点を知っているようなことを言っていたが、それはどこにある?」
「地図情報を送らせてもらうわ」
情報端末を取り出し、十文字の端末に送信する。
「近いな」
それは第一高校から五キロほどの距離にある、街外れの丘陵地帯に建てられた、バイオ燃料の廃工場だ。
「どうやって突きとめた?」
「司甲が関わっていることさえわかっとれば簡単やろ。司甲を追跡して、接触した者の中で怪しそうなのを、また追跡する。それで行きついたで」
実際は司甲を追って兄の司一の元まで行きついたのは本当だ。しかし、ブランシュの本拠地の場所は、司一の現在地を何度か掴趾追雀で割り出す中で判明した。
「車の方が良いだろうな」
「魔法では探知されますか?」
「探知されるのは一緒さ。向こうは俺たちのことを待ち構えているだろうから」
「正面突破ですね」
「それが一番、相手の意表をつくことになるだろうな」
一方、達也と深雪は二人で攻略方法について相談をしている。
「車は、俺が用意しよう」
「良いのですか?」
「ああ。それより、すぐに行くのか? このままでは夜間戦闘になりかねないが」
「そんなに時間は掛けません。日が沈む前に終わらせます」
達也は今すぐに急襲をかける方針のようだ。しかし、市丸の考えは少し異なる。
「今すぐより、日没くらいから仕掛けた方がええんちゃう?」
「市丸は夜間戦闘の方が得意なのか?」
「夜目は利く方なんや。それに、夜間なら仮に敷地外に逃れられても仕留めやすいやろ」
「町中での殺害は控えてくれ。万が一、目撃をされたら面倒だ」
「仕方あらへんね」
こっそり虚退治をしたりもしているので、隠密戦闘は得意なのだが、説明できないのでは説得は難しい。
そのまま四人で学校の塀を飛び越えて外に出て、少し離れた路上でオフロードタイプの大型車を拾う。
「ボクは運転はでけへんよ」
市丸の技能等は死神時代のものが多い。自動車については尸魂界に存在しなかったので、運転については、どのようにすればいいのか検討もつかない。
「問題ない。俺が運転する」
十文字はしっかりと免許を持っているようだ。
「門が閉まっていた場合は突き破るか?」
「素直に車は降りて、門は飛び越えればええんちゃう?」
門が閉まったままの方が敵も逃走をしにくい。
「わかった。門が閉まっていなければ、中まで突入する。閉まっていた場合は門の前で車を降りて飛び越えて進入する。中に入ってからは俺と市丸、司波兄妹の二組に別れるという方針でいいか?」
「ボクは一人で勝手にやらせてもらいますわ」
「わかった。俺と、市丸と、司波兄妹の三組でいいか?」
「俺たちは、それで構いません」
深雪も異論はないようで、頷いていた。
「出発するぞ」
方針が定まったことで十文字がアクセルを踏み込んだ。