魔法科高校の蛇   作:孤藤海

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ブランシュ事件の事後処理

 事件の後始末は十文字が引き受けてくれたので、市丸は安心して帰宅をしていた。

 

 十文字が進んでいた裏口側には生存者がいたとはいえ、廃工場だけでも市丸は四十人以上を殺している。

 

 普通に考えれば無罪放免とはならない。だが、司直の手が伸びることはないはずだ。

 

 十師族の権勢は、司法当局を凌駕する。

 

 現代魔法の才能が先天的資質に左右されることが分かってしまえば、当然の帰結として、血縁による強化が企図される。

 

 それは、魔法を体系的に研究するだけの国力のある国なら世界中どの国でも、現代魔法と超能力がまだまだ未分化であった時代から既に、行われていた。

 

 無論、それは日本でも実行された。

 

 その結果、日本の魔法界に君臨する新たな一団が形成された。

 

 それが、十師族。

 

 一世紀に満たぬ歴史では、その序列はまだまだ流動的だ。

 

 だがそれは、十師族と呼ばれる家系の中での話であり、十師族とそれ以外の人々の間には、既に乗り越えがたい垣根ができ上がっている。

 

 十師族と同様に血縁による強化を重ね、十師族に次ぐ、とみなされている百家も、その格の差を自ら認めざるを得ないほどに。

 

「ほんま、驚きやけどね」

 

 百年など、死神の感覚ではそれほど長い期間ではない。百年くらいなら、護廷十三隊の最高位、隊長の地位を保つ者も多い。

 

「ま、ボクの代はボクらのせいで新参の隊長さんばかりになってしもたんやけどね」

 

 そういえば、市丸の抜けた後の三番隊はどうなっただろうか。隊長の大任を果たせるだけの力を持つ死神は多くない。そうなると、元三番隊隊長であった鳳橋あたりが復帰するというのが妥当だろうか。

 

 それはさておき、その現状から考えても司波兄妹は異常だ。一人なら突然変異という可能性もあるが、二人となると何かしらの要素がないと考える方が難しい。

 

「けど、兄の方の技能はなんやろね」

 

 達也はアンティナイトを使用されていた中でも魔法を使っていたように感じた。深雪の方は圧倒的な干渉力でアンティナイトを無効化していたが、二科生である兄にそのようなことは不可能なはずだ。

 

 死神にも更木剣八のように鬼道はさっぱりという実力者がいた。そのため司波達也の戦闘力がいかに高くとも、そのようなものと考えていた。けれど、アンティナイトを無効化するとなると、卓越した魔法技能がなければ不可能なはずだ。

 

「ま、そこは探らんといた方がよさそうやな」

 

 あれだけ強力な魔法師たちなのだ。抱えている秘密も大きなものに違いない。藪をつついて蛇を出したのでは、つまらない。

 

 脇に逸れた思考を戻す。

 

 強大な力を持つ十師族だが、決して政治の表舞台には立つことはない。

 

 十師族は表の権力者には成らない。

 

 むしろ、兵士として、警官として、行政官として、その魔法の力を使い最前線で日本を支えている。

 

 その代わり、政治の裏側で不可侵に等しい権勢を手にした。

 

 それが日本の、現代の魔法遣いが選んだ道だった。

 

 現在、十師族の中で最も有力とされているのが、四葉と七草の両家。

 

 それに続く三番手が、十文字。

 

 七草の現当主の娘である真由美と、十文字家の次期当主である克人が関わる事件に、普通の警察が、関与できるはずもない。

 

 ゆえに、市丸も安泰というわけだ。

 

「けど、色々と違うもんやなぁ、死神ももう少し現世のことを知っといた方が良かったのかもしれんね」

 

 尸魂界の制度も安泰というわけではなかった。最高司法機関である中央四十六室も当初の尸魂界全土から集められた四十人の賢者と六人の裁判官により構成されるという建前はすでに失われ、単なる貴族の集まりとなっていた。

 

 それゆえに、藍染は中央四十六室を粛清したのだが、その後はどうなったか。ただ構成員が代わっただけで、実態は全く同じものが再建されただけの気がしてならない。

 

 寿命が短い分、現世の制度は目まぐるしく変わる。尸魂界が少し目を離しているうちに、新しい試みが為され、その結果を確認できる状態となる。それを観察して、良い制度であれば導入をしていけば、尸魂界も少しは変わるのではないだろうか。もっとも、千歳を超えるような長老たちがそうそう柔軟にはなれないであろうが。

 

「それにしても、上手くはいかんものやな」

 

 藍染の殺害に失敗した市丸は、この世界に生まれてからずっと原因を考えていた。そうして考えた結果、市丸の敗因は藍染が隙を晒すときを待ち続けた結果、藍染に時を与えすぎてしまったことだと結論付けた。正着は最強の死神である山本元柳斎重國を藍染にぶつけて、強引にでも隙を作らなければならなかったのではないか。

 

 その反省から、当初はブランシュは、第一高校への襲撃前に七草と十文字の主導で殲滅をしてもらうつもりだった。藍染のようにとはいかずとも、他者を誘導して望んだ結果を得られないかと考えたのだ。しかし、結局は敵の先制攻撃を許すことになった。やはり、藍染のようには上手くはいかない。

 

 それに自分の弱点も明らかになった。霊圧を基本に索敵等を行う市丸では爆発物等を感知することができない。そのため、爆弾を使った罠のようなものは、爆発するまで感知ができないのだ。そのため、罠の危険性の少ない屋根の上を進むようになってしまった。これは今後に向けての課題となりそうだ。

 

 

 

 翌日、登校をした市丸は、七草と十文字に呼ばれて昨日の事件の事後処理の方針について説明をされた。

 

 まずは第一高校の襲撃には生徒の関与はなかったものにされた。襲撃の尖兵であった有志同盟もブランシュとは無関係の単なる学生たちの運動だったというわけだ。

 

 それにより司甲も罪を問われなかった。ブランシュ日本支部のリーダーである司一は今回の襲撃事件は差別解消のためには必要なことであると、有志同盟に参加していた第一高校の生徒たちにマインドコントロールを施しており、甲も深刻なマインドコントロールの影響下にあったことが判明したためだ。

 

 今は退学ではなく休学の扱いで長期間の治療を受けているところだが、最終的には第一高校は自主退学ということになるだろう。

 

 甲は元々魔法師志望では無かった。しかし、司一が甲の魔法的知覚力に目をつけ、組織の役に立ちそうな魔法を見つけ出させる為に魔法科高校へ通わせていたことが判明している。マインドコントロールが解けた後は自らの生を歩み始めるだろうということだった。

 

 壬生沙耶香については千葉との交戦により右腕を亀裂骨折していること、そして何より、ブランシュのマインドコントロールの影響が残っていないかどうか、様子を見るために入院をしている。けれど、紗耶香は甲とは異なり、退院後は復学して今度こそ自分の高校生活を送りたいと考えているようだ。

 

 七草や十文字たちが市丸にその話をしたのは、市丸に少しでも今回の措置を理解させようという狙いによるものだろう。しかし、市丸としては、その理由で素直に頷くことなどできない。

 

 生徒たちの中には、マインドコントロールの影響を受けていたにしても、同じ学校の生徒を殺害することを甘受しようとした者たちもいた。その者たちに対してはあまりにも甘すぎる措置だと思わなくもないが、学校の上層部が決定をしたのなら仕方ない。ただ、今後も同じような事態が起きた場合には、例え第一高校の生徒であろうとも手心を加えることはしないとは宣言しておいた。

 

 

 

 五月になった。

 

 今日は森崎駿と壬生沙耶香の退院の日だ。

 

 森崎は市丸に斬り落とされた腕の縫合手術後、リハビリに励んでいて、機能が概ね回復をしたこと。壬生についてはマインドコントロールの影響はないと確認ができたことで退院ということになった。ちなみに両者の退院の日が重なったのは単なる偶然だ。

 

 二人の退院のお祝いには達也、深雪、千葉の三人が訪れるということで、森崎と壬生に大いに関わっていた市丸も半ば強制的に同行をさせられたのだ。森崎については市丸の顔など見たくもないと考えている可能性もあったが、深雪が事前に確認した結果、森崎はむしろ市丸の訪問を歓迎しているということだった。

 

 市丸に対して隔意がないというのは、大変に喜ばしいことだ。どうやら森崎は市丸の考えているとおりに育ってくれそうだ。実際に病室を訪れたみると、深雪の言葉どおり、森崎はすっきりとした表情で市丸を出迎えた。

 

「市丸くん、今日は来てくれてありがとう」

 

「あれ? 君を怪我をさせたのはボクやない? 恨んでへんの?」

 

「僕は確かに怪我をした。けれど、それは僕が間違っていたからだ。怪我で一か月近くの間、入院をしたのは痛いが、今のうちに現実に気付くことができたことは、僕の今後にとって、かけがえのない財産になると思う」

 

 森崎は真っ直ぐに前を見て、そう言った。そこには意趣返しとか、変な意味が含まれているという気配は微塵もない。当初の特権意識に縛られて他者を見下していた態度は見られない。今の森崎にあるのは、真摯に力をつけたいと願う心だけだ。

 

「ええ傾向や。しっかりと自分を取り戻し始めたんやな」

 

 今はまだきっかけだけ。けれど、これからどんどん強くなってくれるはずだ。

 

「ああ、これからも僕は変わる。変わりたいと思っている。そこで千葉さん、お願いがあるんだ」

 

「ええと……何?」

 

「千葉さんの道場に入門させてもらえないだろうか?」

 

 急に話を振られて、千葉は戸惑っているようだった。

 

「森崎くんの魔法は発動の速さを重視しているんじゃなかった? ウチの道場に入門しても魔法の役には立たないわよ?」

 

「今回のことで痛感した。いかに速さを高めようと接近戦での対応力には限界がある。接近戦に対応しようと思えば、相応の身のこなしが必要だ。僕が全く対応できなかった市丸くんの攻撃に、千葉さんが対応できているのを見て、そう感じた。僕のこれからのためには接近戦の強化は絶対に必要だ」

 

「冷やかしじゃないみたいね。ウチの道場は手取り足取り教えてあげるほど、優しくはないわよ。必要なことは勝手に見て盗んでもらう方式だけど、それでもいい?」

 

「望むところです」

 

「わかった。それならウチは受け入れるわ」

 

 真剣に修行を行うこと自体は悪いことではない。森崎なら接近戦もある程度までは伸びるだろう。やって損にはならないはずだ。

 

「それでは次は壬生さんの所に向かいましょうか?」

 

「やっぱり、ボクはこの辺で失礼させてもらうわ」

 

 せっかくの深雪の提案だが、市丸は断った。

 

「市丸、ここに来てどうしたんだ?」

 

「ボクはお邪魔やろうからね」

 

「どういう意味……なるほど」

 

 壬生のところには先客がいる。それを、どうやら達也も感じることができたようだ。壬生のところにいるのは桐原武明。仲が悪いのかと思っていたが、いつの間にか友人を超えた関係になっていそうな感じだ。それなら、関係が比較的深い達也たちは別として、市丸が行く必要はない。

 

 三人と別れて、市丸は一足先に第一高校へと向かう。

 

 こうして第一高校に入学してから続いていたブランシュに関連した事件は、結末を迎えたのだった。




入学編終了。
一応、九校戦編は最後まで書き終わっていますが、ストック残量を保つため、週二での更新に頻度を落とします。
今のところ月・金とさせてもらう予定です。
これが本来の私の執筆スピードなのでご了承ください。
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