魔法科高校の蛇   作:孤藤海

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渡辺の負傷

 九校戦三日目。

 

 男女アイス・ピラーズ・ブレイク、略してピラーズ・ブレイクと男女バトル・ボードの各決勝が行われるこの三日目は、九校戦の前半のヤマと言われている。

 

 第一高校の勝ち残り状況は男子ピラーズ・ブレイクと男女バトル・ボードが各二人、女子ピラーズ・ブレイクが一人。男子のピラーズ・ブレイクには十文字が出場する上、女子の千代田もなかなかの実力者だ。その二人がともに予選で敗北するという事態は、まず考えられなかったが、それでも第一高校から勝ち残っている者がいるのは良いことだ。

 

 というのも、海上という特殊な場所を想定したバトル・ボードは市丸の興味の対象外であるため、仮に第一高校に決勝進出可能な者がいなくとも、今日はピラーズ・ブレイクの観戦に向かうつもりであったためだ。

 

 しかし、仮にも同じ学校の上級生が出場する競技を放っておいて、自分の興味のままに動くというのは周囲の印象がよくない。だからといって自重する気もないが、余計な反感は少ない方が良い。というわけで、市丸にとって第一高校のピラーズ・ブレイクで勝ち残っているというのは自分の行動に正統性を与えてくれる喜ばしい状況なのだ。

 

 第一高校生で最初の登場は男子第一試合の百里と女子第一試合の千代田だ。このうち評判の高かったのは千代田であったため、市丸は女子の会場に腰を落ち着けた。

 

 ピラーズ・ブレイクは縦十二メートル、横二十四メートルの屋外フィールドで行われる。フィールドを半分に区切って、それぞれの面に縦横一メートル、高さ二メートルの氷の柱を十二個配置。相手陣内の氷柱を先に全て倒した方が勝者となる。

 

 そして千代田のピラーズ・ブレイクの戦い方は、豪快の一言だった。自陣の氷柱への防御は最小限。とにかく相手の陣地の氷柱を自陣の全滅前に倒してしまおうというものだ。

 

 千代田が使用する魔法は、千代田家の二つ名ともなっている「地雷源」。百家の千代田家は振動系統・遠隔固体振動魔法、その中でも特に、地面を振動させる魔法を千代田家の魔法師は得意としている。

 

 土、岩、砂、コンクリートなど材質は問わない。

 

 とにかく「地面」という概念を有する固体に強い振動を与える。それが千代田家の得意とする魔法「地雷源」であり、「地雷を作り出す者」=「地雷源」の二つ名が千代田一族に与えられたということだ。

 

 市丸は霊子を固めて足場として空中に静止することができる者が普通の環境に身を置いていたので、地面に対して作用する魔法と聞いて、心配になった。しかし、現世では飛行魔法は開発されていない。そのため現世では有効な魔法なのだと無理矢理、自分を納得させたので、その魔法の性質は印象に残っていた。

 

「けど、へえ、あれがそうなんか」

 

 市丸の目の前では千代田の対戦相手の氷柱が一度に二本、轟音を立てて倒壊した。対戦相手も防御を怠っているわけではない。それよりも千代田が様々な標的に、多方向から続けざまに炸裂させる振動の威力が勝っているのだ。

 

 地面に足さえ付けていなければ何の問題もない地雷源だが、足を付けた状態ではなかなか厄介そうだ。目視での対応が難しい振動という攻撃を多方向から仕掛けられると、結界を作る鬼道でなくば対応は難しいだろう。

 

 結局、千代田は本日の第一試合に勝利を収めた。それを見届けて、市丸は十文字の試合の観戦のために男子側に移動する。

 

 そうして始まった十文字の第二試合。十文字は十師族次期当主としての圧倒的な魔法力で相手を圧倒していた。

 

 守っては対戦相手の魔法を多重に展開された障壁によって完封し、攻めては防御に使用していた障壁をそのまま氷柱にぶつけて次々と敵の氷柱を粉砕していく。相手も無策のまま手をこまねいていたわけではない。様々な手を尽くしているのは見て取れた。

 

 しかし、すべては十文字の障壁によって防ぎ切られた。正確に言うならば、障壁を何度かは突破して見せていた。しかし、一枚を破ったところで次の防壁が立ち塞がる。結局はすべての障壁を一度に破壊するか、十文字の展開速度を上回る速度で障壁を破壊するかしか攻略法はないのだろう。

 

 市丸なら、障壁すべてを粉砕することも、十文字が障壁を展開する速度を超えた攻撃も不可能ではないだろう。けれど、ただの高校生には無理な注文だ。結局、十文字は一本の氷柱も失うことのない完全勝利を遂げた。

 

「なんや、こっちの方が向いとったかもな」

 

 鬼道と現代魔法では、純粋な速度では現代魔法に分がある。それに必勝を期すには上位の鬼道を投入する必要があることが予測され、それはさすがに躊躇われたので、瞬歩のみで押し切れそうなクラウド・ボールを選択したのだが、面白さという意味では魔法の威力に制限のないピラーズ・ブレイクが勝っていた。

 

 様々な魔法の応酬を見られ、上機嫌で観戦を続けていた市丸の元に、バトル・ボードを観戦していた達也から不穏な情報がもたらされたのは、その直後のことだった。それは、準決勝で渡辺が負傷棄権したというものだ。

 

 単なる競技中の事故であれば、気にするほどのこともない。けれど、達也からの情報では何者かの関与が疑われるということだった。そうなると、バスの事故と開始前の基地への侵入者の件との関連が疑われてくる。

 

 幸い、千代田と十文字という注目株の魔法は見ることができた。市丸は達也から詳しい話を聞くべく、負傷した渡辺が運び込まれたという裾野基地の病院に向かった。しかし、達也は真相究明のために大会委員会からビデオを借りるために既に病院から離れていた。

 

 一応、病院内に達也の霊圧がないことには気づいていた。けれど、どこにいるのかがわからないので、行き先を知った人がいないか寄って確かめただけだ。

 

「ビデオが借りられたら、部屋で解析をしてみるって言ってたわね」

 

 そう七草から聞いた市丸は達也の部屋を訪ねる。すると、部屋の中には達也の他に、深雪、吉田、柴田、五十里、千代田がいた。

 

「なんや、随分と雑多な人選やな」

 

「それぞれの専門家を集めた結果だと思ってくれ」

 

 吉田は古式魔法。柴田は目を買われたということか。五十里も確か理論では二年トップの成績だったはず。だが、千代田はなんだっただろうか。

 

「千代田先輩は五十里先輩の許嫁なんだ」

 

 千代田を見つめていたことに気付いた達也が短く言った。要するにおまけでついてきてしまったということだろう。つまりは深雪の同類か。そう考えて深雪を見たら、酷く嫌そうな顔をされてしまった。

 

「事件の概要を説明すると、コース中のコーナーの出口付近で七高の選手が、本来行うべき減速ではなく加速を行って制御不能に陥った。このままでは七高の選手がフェンスに激突して大きな怪我を負うと考えた渡辺委員長は、反転して七高の選手を受け止めようとした。しかし、その瞬間に水面に異常が発生し、結果として渡辺委員長は七高の選手と激突した上でコース外まで飛ばされ、魔法を用いても全治一週間の怪我を負った」

 

「今回の事故で一番、わかりやすいのが水面の異常だね。映像を元にシミュレーションをしてみた結果、誤差では解決できない力が水中から掛かっていることが確認された」

 

 これは達也の解析を五十里も確認した結果の、確信のある結論ということだった。

 

「それで水面に異常を発生させる方法だが、幹比古の見立てでは、精霊魔法であれば半月くらい前から準備を行えば、水面を荒らす程度なら可能ということだった」

 

 達也の言葉を肯定するように吉田が頷く。しかし、手間をかけた割に随分が低い。

 

「問題は七高の選手の不自然な魔法使用だが、俺はこれをCADに細工をされていたのだと考えている。そして、その細工をしたのは俺は大会組織委員の中に潜入している工作員の手によるものだと考えた」

 

 選手のCADは必ず一度、各校の手を離れて大会委員に引き渡される。そのときに細工をされたとしたら、選手が気付くのは困難だ。

 

 もしもCADに細工をされ、反則となるような魔法を発動されたら終わりだ。これは九校戦ではCADを使わない方がいいかもしれない。

 

 市丸はそんなことを考えていた。

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