大会四日目。
本戦は一旦休みとなり、今日から五日間、一年生のみで勝敗を争う新人戦が行われる。
ここまでの成績は一位が第一高校で三百二十ポイント、第三高校が九十五ポイント差で二位に続き、三位以下は団子状態の混戦模様。渡辺の事故にも負けず、第一高校はリードを奪っている。とはいえ、新人戦の成績如何ではまだまだ逆転もありえる点差だ。
あまり大差がつき過ぎてしまうと、第三高校も、それに続く各校も士気も下がろうというもの。それでは、あまりに面白みがない。市丸としては、もう少し僅差であった方が自分の手で逆転と意気込む者が現れるので面白いとも思っている程だ。
競技の順番は本戦と同じ。
つまり本日の競技はスピード・シューティングとバトル・ボード。
市丸の出場するクラウド・ボールは明日の五日目に行われる。
要するに今日は市丸は予定がない。そして、市丸はバトル・ボードにはあまり興味がなく、スピード・シューティングには市丸のことを慕っている森崎が出場する。というわけで今日はスピード・シューティングを観戦して過ごすことにする。
他の知人ではスピード・シューティングに明智と北山。バトル・ボードに光井が出場する。この中では北山が最注目選手だ。
北山は市丸と深雪という別格二人に次ぐ、第一高校では実技三位の実力者。加えて大出力の振動・加速系を得意としている。威力より技巧に優れる森崎とは対照的で、魔法力には余裕がある市丸にとっては北山の魔法は得るものが大きいと考えている。
まずは森崎の試技が行われるので男子の会場に向かう。同行するのはレオ、千葉、柴田、吉田の四人だ。深雪と光井は試技を控えた北山の近くに残るために同行していない。もっとも二人の本音は北山ではなく、北山の技術者である達也の側に残るため方便の気もするが。
「そういえば、森崎は今は千葉道場に通ってるんだろ? 今回のために何かアドバイスとかはしてるのか?」
「あのね、レオ。ウチは剣術道場なの。スピード・シューティングに活かせるような技術なんかあるわけないでしょ」
「いや、俺だって直接、活かせるものがあるとは思ってねえよ。それでも、精神統一の仕方とか応用できるようなものもあるかなって」
「そりゃ、ずぶの素人なら少しは役に立つかもしれないけど、森崎は仮にも百家でしかも早撃ちはお家芸のようなものでしょ。今更ウチの技術なんかいらないわよ」
千葉の言うことは道理である。要するにこれから披露されるのは純粋な森崎家の技術だということだ。
話している間に開始の時間がやってきた。開始のシグナルが点り、クレーが射出される。同時に森崎が拳銃型のCADを向ける。
スピード・シューティングでは小銃形態のCADを使う者が多い。しかし、森崎は使い慣れた拳銃型のCADで試技に臨んでいる。
圧縮空気弾が次々と発射され、クレーを破壊していく。一つのクレーに一発ずつの七草と同様の戦い方。ただし、外れての第二射も目立つ。
結局、森崎の試技の結果は九十五点。悪くない得点だ。森崎の魔法は広範囲に影響を及ぼすものではないので、対戦型となる準々決勝以降も影響はない。その意味でも上位進出は大いに期待できる。問題は、見ていてさほど面白くないということだ。
森崎の戦術は愚直に圧縮空気弾を撃ち続けるのみ。それ以上でもそれ以下でもない。
実戦では派手さなど不要であるので、森崎の在り方は戦士としては正しい。だが、このような競技会では、とにかく華がない。もっとも、森崎はそもそも大規模な魔法に向いていないので、期待するだけ無駄だ。そういった面での期待は北山にするべきだ。というわけで他の皆とともに女子の会場へと移動して、深雪と光井に合流した。
登場した北山はスピード・シューティング専用の細長い小銃形態のCADを持っている。そのCADは達也が一から調整したものだ。今回の試技は達也のエンジニアとしての初陣でもある。CADにあまり頼らない市丸には関係は薄いとはいえ、その点も注目をしておくべきだろう。
開始時間となり、ランプが全て点った瞬間、クレーが空中に飛び出した。
得点有効エリアに飛び込んだ瞬間、それは、粉々に粉砕された。
次のクレーはエリアの中央で砕け散った。
次はエリアの両端で、二つ同時に破砕された。
「うわっ、豪快」
「……もしかして、有効エリア全域を魔法の作用領域に設定しているんですか?」
千葉がシンプルな感嘆を漏らす中、柴田が自信なさそうに深雪と光井に訊ねていた。
「雫は領域内に存在する固形物に振動波を与える魔法で標的を砕いているんです。内部に疎密波を発生させることで、固形物は部分的に膨張と収縮を繰り返して風化します。急加熱と急冷却を繰り返すと硬い岩でも脆くなって崩れてしまうのと同じ理屈ですね」
「より正確には、得点有効エリア内にいくつか震源を設定して、固形物に振動波を与える仮想的な波動を与えているのよ。魔法で直接に標的そのものを振動させるのではなく、標的に振動波を与える事象改変の領域を作り出しているの。震源から球形に広がった波動に標的が触れると、仮想的な振動波が標的内部で現実の振動波となって標的を崩壊させるという仕組みよ」
光井と深雪が目をシューティングレンジに固定したまま、二人掛かりで行った丁寧な解説に柴田は単純に感心している。しかし、市丸としてはあまり心穏やかに聞いていられる内容ではなかった。
この魔法の特徴は、細かな照準を捨てて、代わりに攻撃範囲をエリアとすることで、発動までの時間を恐ろしく短くしたことだ。市丸のような回避に重きを置く戦闘を得意とする者にとっては、広範囲の攻撃というものは避け辛くて厄介なもの。それを高速で使用されたのでは堪らない。
「魔法の固有名称は『能動空中機雷』。雫のために用意したお兄様のオリジナルです」
これが現代魔法の厄介な所だ。たった一人の異能者ならば、まだ警戒が可能だ。けれど、誰しもが使えるとなると、威力も精度も術者次第ということになる。
北山は魔法力自体は高いが、戦闘経験は圧倒的に足りていない。能動空中機雷の効果範囲外と思われる距離から攻撃を仕掛けることも、そもそも視認させることなく貫くことも可能だ。けれど、実戦経験豊富かつ魔法力も高い相手となると、同じような結果になるとは限らない。
能動空中機雷の弱点は、おそらく射程だ。空間に座標を設定するという性質上、そう遠くまで効果範囲を設定できるとは思えない。神鎗の射程ぎりぎりから仕掛ければ対応できる。そのため、敵が一人であれば問題ない。けれど、敵が複数となると話は別だ。
能動空中機雷の厄介な点。それは魔法の発動域も発動地点も、視認も感知も難しいということだ。能動空中機雷を仕掛けることで接近戦を防ぎ、範囲の広い魔法で遠距離攻撃をされると、かなり厄介なことになる。
今の市丸は肉体的にはただの人間。強力な魔法を一発でも受けてしまえば、それだけで戦闘不能に追い込まれかねない。
「現世は時の流れが速いからなあ」
誰にも聞こえないよう、ぽそりと呟く。寿命が長いこともあり、尸魂界は時の流れが遅い。現世での一年は、尸魂界の十年かと思うほどに早く物事が移ろっていく。現世に生まれて、現世で育ったことで少しは意識も改善されたが、少しばかり気を逸らしている間に街も人も変化していく様には戸惑うことも多い。
「まァ、そのくらいでないと面白くないんやけどね」
今、魔法をできるだけ学んでいるのは、現世で死した後に尸魂界に戻った後のことを考えてのことだ。そう考えると、使い物にならない魔法ばかりを見せられるより、市丸が脅威に感じる魔法を見せられるほうが有意義というものだ。
考えを改めた市丸が薄い笑みを浮かべて見つめる先では、北山が見事、皆中にて予選突破を果たしていた。