スピード・シューティングの予選結果は、女子が出場三名全員が決勝トーナメント進出を果たしたのに対して、男子は森崎のみという結果になった。
これは第一高校の一年女子が特にレベルが高いというより、それを補佐する達也の技術者としての力量の高さによるもの、というのがおおよその意見だ。しかし、それと同時に、個々の能力に応じた作戦も力量以上の力を選手に発揮させている一因だろう。個々の実力の底上げというのは市丸にとっても脅威だ。
「ほんま、厄介な子やな」
実は達也も市丸と同様に百年以上の経験を持っているのではないか、そんなことさえ考えてしまうほど達也は異質な存在だ。もっとも、今のところはお互いに敵対する要因はないのであるから、直接的な危機感には至っていない。
けれど、何者かの手が入れば、対立の芽など全くないところにも、対立が発生することはあるのだ。例えば、幼馴染の少女を守ろうとしていた少年が、守ろうとした相手に刃を向けられてしまったり。思いをよせる少女の為と、同僚と刃を交えることになったり。
「わかっとったことやけど、ボク、思い切り関わっとるね」
前者については、その場で思い切り煽ったし、後者については自分がけしかけた。我ながら性格が悪いことこの上ない。
それはさておき、決勝トーナメントだ。森崎の戦術は予選でも決勝トーナメントでも全く変わらない。相手のクレーには目も止めず、愚直なまでに圧縮空気弾を発射し続けて自分のクレーを一つずつ破壊するというだけだ。
スピード・シューティング決勝トーナメントのルールは、相手を直接攻撃しない限り、妨害は認められている。ただクレーが射出される感覚は不規則でしかも短く、相手の邪魔をしながら自分の的を狙い撃つのはかなり難しい。妨害と狙撃と、どっちつかずになって結局自滅するというケースが多いらしい。
準々決勝の相手は、森崎と同様に自分のクレーの狙撃に集中するタイプだった。そのため、お互いにただ自分のクレーを撃ち合うという、あまり面白みのない対戦となった。
二人の対戦は残り二分を残して森崎の五点リード。森崎が終盤となっても狙撃精度が落ちないことは予選で知っているはず。そこで、対戦相手は戦術を変えた。自分の狙撃精度が下がるのを覚悟で森崎の妨害に魔法を割く。けれど、それはどちらも中途半端になるという事前に聞いていた情報通りの結果となった。
ひとまず森崎は準決勝進出。そして、準決勝もおそらく勝てる。問題は決勝で当たる可能性の高い三高の吉祥寺真紅郎だ。吉祥寺はカーディナル・ジョージの異名を持つ研究者であると同時に、魔法師としても優れているらしい。
「高校生で世界に名を轟かす研究者て、おかしなことしてはるな」
達也が貸してくれた資料を見ながら、思わず呟く。市丸など前世の記憶という圧倒的な優位を持ちながら現代魔法の理論は追うだけで手一杯だというのに、自分で新たな理論を生み出すなど、信じられない。
とはいえ、森崎が吉祥寺と対戦するのは決勝戦。それまで少しばかり、実力的には上であろう女子の試合を確認するために移動する。
その女子の試合では、やはり北山が頭一つ抜けている印象だった。それに加えて、北山は達也のお手製の特別なCADを用いていた。それは速度と精度に利点があるものの、系統の組み合わせが同じ起動式しか格納できない特化型と、多種多様な魔法を格納できるものの速度に劣る汎用型のCADの特徴を併せ持つものだそうだ。どうやら理論自体はドイツで発表されたものらしいが、達也はそれを実用段階まで進めたらしい。
吉祥寺の話を聞いた時には非常識と思ったものだ。しかし、身近に同じような非常識が潜んでいたということだ。
そして、そのような達也に支えられた一高女子スピード・シューティングチームは、三人全員が準々決勝に勝利した。つまり、上位四名中の三人は第一高校から輩出することができるということだ。言うまでもなく、これは快挙だ。
「何だか急に魔法が上手くなったって錯覚をしそうです」
これは達也の調整したCADを使用した明智のコメントだ。そして、北山が使用した能動空中機雷については、国立魔法大学が作成している魔法の百科事典に収録された魔法の固有名称一覧表である「インデックス」に収録の打診がきたらしい。これは魔法の開発に従事する国内の研究者にとって、一つの目標とされている名誉であり、第一高校の首脳部も沸き立っていた。
北山が達也のCADを用いて使った、収束系魔法と振動系魔法の連続発動という手法は競技でこそ生きるもので、さほど実戦的ではない。しかし、今回のCADで手段が広がれば、それを用いて実戦的な魔法を開発する者も現れるかもしれない。
とはいえ、高速で飛翔する小型の物体の破壊を目的としたスピード・シューティングはどうしてもピラーズ・ブレイクに比べて地味になる。特に両者のクレーが入り乱れる準々決勝以降の戦いでは双方ともに小型の魔法式を用いることが多くなり、その傾向が強くなっているように感じる。
試合経過を確認すると、森崎と吉祥寺は順当に勝ち進んでいるようだ。吉祥寺は市丸も出場するモノリス・コードにも出場すると聞いている。ならば、二人の対戦を見ておいて損はないだろう。再び男子スピード・シューティングの会場に移動した市丸は、女子の試合の合間に七草から借りた吉祥寺の情報を確認しながら試合の開始を待つ。
第三高校の吉祥寺真紅郎。通称「カーディナル・ジョージ」は、加重系統プラスコードの「基本コード」を開発した者として有名だ。基本コードは基本コード仮説の根幹をなす理論であり、「加速」「加重」「移動」「振動」「収束」「発散」「吸収」「放出」の四系統八種にそれぞれ対応したプラスとマイナス、合計十六種の基本となる魔法式が存在していて、この十六種を組み合わせることで全ての系統魔法を構築できるとしている。
この理論の是非は市丸にはわからない。けれど、この十六種の基本コードの一つを吉祥寺が世界で唯一、発見したのは確かなことだ。
そして、基本コードを発見した吉祥寺ならではの魔法が「不可視の弾丸」。作用力そのものを定義して直接加重を掛けるため、魔法式は小さなもので済む上に、対象となる事象の情報改変を妨げる「情報強化」では防御できないという厄介な魔法だ。
もっとも、多くの利点を有する「不可視の弾丸」だが、一方で欠点もある。それは作用点を視認しなければならない、というものだそうだ。エイドスではなく対象物に魔法を直接作用させる為に生まれた皮肉な欠点だと達也は言っていた。
達也の勧めた「不可視の弾丸」対策は遮蔽物を用いること。それが不可能なら領域干渉ということだった。
ちなみにどちらの対策も、スピード・シューティングでは使えない。空中のクレーを打ち落とす競技に遮蔽物などあるはずがないし、領域干渉も相手選手に直接、影響を与えてしまうので違反だ。
そうなると、森崎の執れる手段はなにもない。元より他者の妨害に有効な魔法がない森崎は決勝戦も愚直に自分のクレーを撃ち落していき、結果としてより高い精度で素早く魔法を使う吉祥寺に順当に負けていた。
見せ場なく敗北を喫した森崎だったが、市丸としては「不可視の弾丸」を実際に見ることができたので収穫はあった。「不可視の弾丸」は達也の説明のとおり標的に直接、作用するものだった。つまり、弾丸が飛来してくるわけではないので正面に障壁を作るような魔法では防げないということだ。
となると有効なのは視界を遮るか誤魔化すという手段となるだろうか。全体的に苦戦した男子と違い、スピード・シューティング女子は一位から三位を独占したという連絡を聞きながら、市丸はきたるべき吉祥寺との戦いのための対策を考えていた。