魔法科高校の蛇   作:孤藤海

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入学二日目

 高校生活二日目、市丸は自身の斬魄刀を鞄の中に隠した状態で自らの所属するB組に足を踏み入れた。昨日のように式典のみなら隠し通せても、今日からの授業では帯刀していることを隠し通すことは難しいと判断してのことだった。

 

 遅めの登校であったため、教室内では既にいくつかの雑談の輪が出来ている。だが、友人作りに励むつもりがないため、それらの輪にはさして興味は引かれず、机に刻印された番号を頼りに自席を探し当てる。

 

「おはよう。私は明智英美、これからよろしくね」

 

 そうして席へと座ったところで前の席にいたルビーのような鮮やかな光沢の髪の女子生徒から声をかけられた。

 

「おはようさん。ボクの名前は市丸ギンや。よろしゅう」

 

「あれ、市丸くんって京都の人なの?」

 

「いや、出身は京都やないんやけど、身近に京都の人がおったせいで、知らん間に使うようになってしまってん。気にせんといて」

 

「へー、そうなんだ」

 

 京都出身と言ってしまうのが手っ取り早いのだが、市丸がこの言葉遣いとなったのは尸魂界時代だ。京都には一度も足を踏み入れたことはない。京都出身と言ってしまって下手に京都のことを聞かれてしまうと、答えに窮することになってしまう。それを回避するために使用しているのが、今日、明智という少女に伝えた説明だ。

 

 彼女も特に不審は抱かなかったようだ。もっとも、嘘だとばれたところで何の不利益もないのだが。

 

「なんかさ、魔法科高校に入ってまで席が五十音順って嫌になるよね」

 

「ほんまやね」

 

 明智という苗字は、それこそ藍染のような強力なライバルでもいない限り、高確率で先頭に来てしまう苗字だ。そして、B組には強力なライバルはいなかったらしく、晴れて窓際の最前列に位置している。

 

「おはようございます」

 

 暇つぶしに明智と話していると、その明智の隣の席に一人の女子生徒が腰かけた。それを見て、明智は市丸にしたのと全く同じ挨拶を隣の女子生徒にも行った。ただし、市丸への挨拶より少しばかり笑顔が柔らかい。社交的な性格に見えた明智だが、やはり同性の方が話しやすいのだろう。

 

「私は桜小路あかはと言います」

 

「ボクは市丸ギンや。よろしゅう」

 

「ねえ、あかは、ってどういう字を書くの?」

 

「紅い葉っぱ、紅葉と書いて『あかは』よ」

 

 知らなければ、間違いなく、もみじと読んでしまう名だった。名を呼ぶことがあるかは不明だが、一応は覚えておくことにしよう。

 

「へぇー、桜と紅葉が一緒になってるんだ、何だか華やかな名前だね」

 

「どっちもはかなく散って行くさだめなんだけどね」

 

「アハッ、詫びと寂の美だね」

 

「貴女は詫び寂に関係なさそう。とってもカラフルで華やかよ」

 

 そして、短い時間の間になぜか二人の間には険悪な空気が流れ始めていた。

 

「ええと、二人ともこれから仲ようしてな」

 

 なぜ自分が仲介のようなことをしなければならないのか。全く意味がわからないが、さすがに放置もしておけない。なぜか市丸は二人の間に入って会話が拙い方向に行かないように整理することになった。

 

「ほんま、なんでこないなことになったんやろ」

 

 予鈴が鳴った時、市丸の口からは思わずそんな言葉がこぼれた。しかし、その苦労の甲斐があってか、終盤は二人とも徐々に相手の性格が掴めてきたようだ。これなら今後は無意味に険悪な空気になることもないかもしれない。

 

 ともあれ予鈴とともに、起動だけはしてあった端末のウィンドウにIDカードをセットするよう促すメッセージが映し出された。これからオンラインガイダンスがあり、選択科目の履修登録を行うことになる。

 

 その前に本鈴と共にカウンセラーなる者がやってきた。しかし、そもそも市丸に悩み事を相談するという気はさらさらなく、話など聞き流しているだけだ。挨拶を終えて出ていく後ろ姿を見送り、早速、履修登録を始める。

 

 ガイダンスを確認して、なるべく研究色の強い科目を選択していく。市丸は同世代に比べて遥かに強い魔法力を有しているが、それでも能力の基本にあるのは死神時代に培った斬拳走鬼にある。魔法の実技面を極めようという気持ちはあまりない。それよりも魔法理論を元に鬼道を最適化していくほうが、よほど有用だ。

 

 履修登録が終わると、授業見学の時間になる。これは明日まで行われるもので、新入生が実際に上級生の専門課程の授業を見ることができるというものだ。

 

「エイミィ、見学はどこに行く?」

 

「えー、どうしよう。サクラはどこか行きたいところある?」

 

 いつの間に仲良くなったのか初対面のときは険悪な空気にもなった二人の少女は早くも一緒に行動の計画を立てている。

 

「市丸くんは、どこか見学を決めている場所はあるの?」

 

「工房に行こかと思てる」

 

「あ、じゃあ、私たちも一緒に行っていい?」

 

「別にええで」

 

 断るのも無意味に角が立つし、同行させても邪魔をするとも思えない。市丸は二人の女子生徒と工房の見学に向かった。そして、昨日の式典で知己を得たレオが、実力者として気になっていた男子生徒と女子生徒、他一名の女子生徒と見学としている姿を目にした。

 

「ちょっと知り合いがおったから行ってくるわ。堪忍な」

 

 明智と桜小路にそう言って離れ、市丸はレオの方に近づいていく。

 

「お、市丸じゃないか?」

 

「ん、レオ、一科に知り合いなんていたの?」

 

 レオに聞いたのは、実力者の一人として目をつけた女子の方だった。

 

「知り合いっていうか、式のとき隣の席だったんだ」

 

「え、レオってまさか一科のところに行ってたの」

 

「さすがの俺でもそこまではしねえよ。市丸の方が後ろに座ってたんだ。なんか変わったやつだけど、悪い奴じゃないと思うぜ」

 

 大罪人に与した反逆者に対して悪い奴ではないとは、どうやらレオは人を見る目はないようだ。

 

「市丸ギンや。よろしゅう」

 

「あたしは千葉エリカ。よろしくね」

 

「千葉……そうなんや。君、千葉家の人間だったんやね」

 

 言うと同時に、上着の中から滑り落とした物を掴み、少女の首筋へと突き出す。少女はそれを首を捻ることで躱しながら、身を横に投げるようにして市丸から距離を取った。

 

「いやあ、さすがやね。ボク、少しばかり剣を習っとってん。それでつい、実力を試してみたくなってん。ほんに堪忍な」

 

 市丸が少女に向けたのは無論、刃物ではない。ただの扇子だ。

 

 けれど、それでもわかった。やはり、この少女の実力は悪くない。

 

 千葉家は現世では珍しい剣を用いた戦闘術を修める家だ。ある意味では最も死神の戦闘方法と親和性の高い者であり、そういった意味でも好感が持てる。

 

「随分と物騒な挨拶ね。レオ、本当にこの人、悪い人じゃないの?」

 

「向けたのもただの扇子だし、悪い奴じゃあない……と思う。けど、そういえば愉快犯的なところもあるような……」

 

「愉快犯な実力者って辻斬りみたいなものじゃない」

 

「ところで、使ってるCADも刀剣型みたいだし、市丸ってやっぱり強いのか?」

 

「ええ、強いわよ。加減してくれなかったら、避けられなかったくらいに」

 

 少女が忌々しそうに言ったことで、もう一人、真の実力者たる男子生徒の視線がより険しくなった。

 

「ところで、君、名前は」

 

「俺の名前は司波達也だ」

 

「志波? そうなんや。君、志波家の男なんか。まさかこんなところで会えるなんて、世の中って狭いもんやなァ」

 

「待て! 俺の家は名の知れた家でもなんでもない、ただの一般家庭だぞ。誰か他の家と勘違いしているんじゃないか?」

 

 口ではそう言っていても、この少年は何かを隠そうとしている。だが、意外感が強く表に出ていることも確かだ。

 

「君ら、本当に志波家のことについて知らんの」

 

「今まで特に聞いたこともないな」

 

 レオがそう言って見回すのを千葉家の娘と、もう一人の少女も頷きで肯定した。

 

「あ、けど妹さんが新入生総代の司波深雪さんなので、これから有名にはなるかもしれませんね」

 

「なんや、君とあの総代の子がおるんやったら、少なくとも一般家庭じゃないやないの」

 

「市丸、妹はともかく、俺はただの二科生だぞ」

 

「二科生やから何やねん。実際、千葉さんに勝とう思うたら、そこらの一科生じゃ大変なんとちゃうん?」

 

 君も戦えるんやろ、という言外の問いかけはしっかりと無視された。けれど、総代の司波深雪の兄ということなら、志波違いということか。けれど、あの少女とこの少年がいる家なら志波家でなくとも一般家庭のはずがない。

 

「なんや、本当に面白いことになっとるやないの」

 

 小声で呟いて笑みを浮かべた市丸のことを司波達也と名乗った少年は強い警戒感を抱いた目で見つめ続けていた。




地味に悩んだのが魔法科高校の席順。
レオの席は達也の「前」と表現されており、美月の席は「隣」と表現されています。
普通に読むと、レオは文字どおり前、美月は右か左と読めそうですが、西城と司波の間に一列分の他生徒が混じるとも思えず、表現方法は違えど一列と解釈して、市丸の前の席は英美にしました。
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