大会七日目、新人戦四日目。
今日は九校線のメイン競技とも言えるモノリス・コードの新人戦予選リーグが行われる日だが、一般の観客の関心は花形競技のミラージ・バットに集まっていた。
女子のみを対象とするミラージ・バットのコスチュームはカラフルなユニタードにひらひらのミニスカート、袖なしジャケット又はベスト。ファッションショーと化している女子ピラーズ・ブレイクとはまた、一味違った華やかさがある。
このコスチュームで若い女性が空中を舞い踊るのだ。
華やかさにかけては、魔法競技中随一だろう。
男性ファンの関心が集まるのも無理なからぬことだった。
加えて、新人戦女子のミラージ・バットを担当するのが女子スピード・シューティングと女子アイス・ピラーズ・ブレイクの上位独占で名をあげた達也であることが知れ渡っている。結果として、魔法大学の関係者までがミラージ・バットに向かってしまったのだ。そのせいでモノリス・コードの注目度はかなり低い。
今日の予選では一条の第三高校とは当たらない。これまでの新人戦の状態を見る限りでは市丸の脅威となりそうなのは一条将輝と吉祥寺真紅郎の二人だ。この二人は魔法師の世界において既に確固たる名声を確立している。
その中でも一条将輝は三年前の大亜連合による沖縄侵攻に同調して行われた新ソ連の佐渡侵攻作戦に対し、弱冠十三歳で義勇兵として防衛戦に加わり、一条家現当主の一条豪毅と共に『爆裂』を以て数多くの敵兵を葬った実戦経験済の魔法師だ。
戦闘自体は小規模だったものの、一条将輝はこの実績により「クリムゾン・プリンス」と称せられることになった。
一条家の切り札『爆裂』は、対象物内部の液体を気化させる発散系魔法だ。生物ならば体液が気化して身体が破裂して死に至る。この魔法を防ぐのは容易なことではない。
一応、上位の縛道であれば防ぐことはできるだろう。しかし、爆裂は連射が可能な魔法だ。すべてを防げるかと問われれば、自信はない。そして、防ぐことができなければ今の肉体であれば耐えることができないだろう。
もっとも、対象を死に至らしめるという、純粋に軍事目的で開発された『爆裂』は、当然モノリス・コードのレギュレーションに引っ掛かる。そのため今回のモノリス・コードで使用されることはないだろう。けれど、市丸は性分として敵対した場合のことを考えざるをえない。
今日のところは油断をしなければ敗れることはないだろう。ミラージ・バットは今日で決勝まで終わり、明日の競技はモノリス・コードの決勝のみ。黙っていても明日にはすべての注目がモノリス・コードに集まる。ならば、派手に勝たずともしっかりと勝利だけを掴んで、実力は明日の第三高校戦で見せればいい。
モノリス・コードの勝利条件は相手チームを戦闘続行不能とする、相手チームのモノリスに隠されたコードを端末に打ち込む、このいずれかだ。
そのため必然的に一人は自陣のモノリスを守る者が必要になる。第一高校の場合は、その役目を市丸が担う。市丸が守っている限り、そう簡単にはモノリスに隠されたコードを得ることはできないので、ひとまず負けはないという寸法だ。
その間に森崎と篠田の二人で無理のない範囲で相手を倒し、モノリスを目指す。仮に相手が上手だと見えた場合は二人掛かりでモノリスを守って時間を稼ぎ、その間に市丸が相手のモノリスを目指すことになる。
緒戦の相手は第七高校。開始の合図がされる前から、市丸は相手選手の霊圧を探ることで敵のモノリスの位置を掴んでいた。試合開始前の索敵はルール違反ではあるが、霊圧を探る術は市丸以外に持っていない。ばれなければいかさまにはならないのだ。
開始と同時に市丸は相手モノリスの場所を伝えて森崎と篠田が勝利の報を持ち帰るのを待つ。途中、七高のオフェンスが市丸の近くを通りがかったが、物陰から縛道の四の這縄を飛ばし、更に縛道の一の塞で捕縛しておいた。這縄はともかく塞は何が起きているのかわからないのか、捕らえた七高の選手は非常に驚いた様子だった。
そのまま少し待っていると、七校の選手の霊圧が消えた。程なく第一高校の勝利の放送が流れた。緒戦は危なげない勝利だった。
二試合目はここまで最下位の四高だ。さすがに勝利は堅いだろう。
そんな僅かな油断がなかったとはいえない。そこを突かれた。
第二試合は市街地フィールドでの試合だった。廃ビルの中の一室で市丸はモノリスの前、森崎と篠田はより外に飛び出しやすいように入口付近で固まっていた。
そして試合の開始直後、市丸たちは『破城槌』という魔法の攻撃を受けた。『破城槌』は屋内に人がいる状況で使用した場合、殺傷性ランクAに格上げされる危険な魔法だ。市丸に発動前の魔法を察知する能力はない。
発動がされてからでも、自らに降り注ぐコンクリートの塊は神鎗で砕いた上で瞬歩で回避できたので問題はなかった。問題は、森崎と篠田の両方を救うほどの余裕がないことだ。白雷を使ってコンクリートの破片を小さく砕くことで救えるのはどちらか一人のみ。市丸が選択したのは森崎だった。
直後に第四高校の反則で第一高校の勝利が告げられた。しかし、立会人の咄嗟の加重軽減の魔法があっても篠田は重傷だった。
開始直後、本来なら索敵が終わっていない段階でのレギュレーション違反の攻撃。このような明確な違反を第四高校が仕掛けてくる理由はない。となると一連の妨害工作の一環ということだろう。
「誰に手を出してんか、よう思い知ってもらわなあかんなァ」
他者への攻撃の巻き添えも腹立たしいが、今回は市丸を標的として狙ったのだ。相応の報復は覚悟してもらうしかない。もっとも、今のところ相手の正体は不明だ。そして九校戦のモノリス・コードの試合はまだ終わっていない。ひとまず確認をすべきは今日の残り二試合の扱いについてだ。
「それで、ボクらは二人で残りの試合を戦わなあかんてことになります?」
大会委員本部に向かっていた十文字が帰ってきたところで市丸が聞くと、十文字は静かに首を横に振った。
「いや、人員一名の補充が認められた。誰を選ぶかはお前に一任しよう。誰か心当たりはあるか?」
通常は怪我でプレーが続行不能の場合であっても選手の交代は認められていないはずだ。けれど、そこは違反の悪質性も込みでの判断だろう。
「それでしたら、一年E組の吉田をお願いしますわ」
本当は達也を選べたらよかったが、現在はミラージ・バットの担当技術者として働いているところだ。モノリス・コードには出られない。そこで次点として吉田を選んだ。理由は無論のこと、モノリス・コードの試合の中でより多くの古式魔法を知るためだ。
「その人選の理由を聞いても構わないか?」
やや不信感を滲ませながら聞いてきたのは渡辺だ。
「理由ですか? その方が面白そうやからですけど?」
「おいっ、市丸!」
「冗談はさておき、大概の一科生ができることなら、ボクならより上手くできます。けれど、古式魔法はボクにも使えません。それやったら、より幅が広がる相手を選んだ方がええんとちゃいます?」
「なるほど、一理あるな」
実際、森崎と篠田にしても、市丸なら森崎より早く魔法を使えるし、篠田より高威力の魔法が使える。それでいいとも思っていたが、せっかくのモノリス・コードなのだから、有意義に使用したい。
「吉田幹比古は応援メンバーとは別口で、このホテルに泊まっていたな。呼んでくれ」
そうして十文字に呼ばれた吉田は、最初こそ人選に抵抗を示していたが、達也からの口添えもあり、補欠としてモノリス・コードのメンバー入りを了承してくれた。
こうして、第一高校は本日残された予選の二試合を市丸、森崎、吉田の三名で戦うことになったのだった。
白雷は連射できないと考えていたので、その説のまま投稿。
すでに一名負傷して吉田加入の流れで九校戦編は書ききっているため軌道修正はできないのです。