予約日時の設定を間違えていました。
モノリス・コードの第二試合で第一高校に事故があった。その連絡を一条将輝は自らも出場した第三試合の直後に聞いた。
「それで、四高の違反で一高の選手に負傷者がでたということは、残りの試合は二人で戦うということか?」
「いや、どうやら違反の重大性を考慮して補充が認められたようだ」
「ということは、第一高校は相変わらず強敵ということか。ともかく、補充した選手がどのような選手かは、見て判断するしかないということか」
真紅郎とそう話し合い、将輝は定刻より少し遅れて始まった第一高校対第八高校の試合の中継に目を移した。舞台となるのは森林ステージ。第八高校は魔法科高校九校の中で最も野外演習に力を入れている学校であることを考えると、この戦いは第一高校の脅威度を計る上で重要なものとなるだろう。
そうしてすべての観客が注目する中で始まった第一高校と第八高校の試合では、一高の森崎という選手と吉田という補充選手がモノリスを守る中、これまでの二試合と異なり市丸がゆっくりと前進を始めるという形となった。市丸が索敵能力に優れていることは、これまでの試合でわかっている。見通しの悪い環境での戦いにおいては森崎よりも自分の方が適任と判断したのだろう。
市丸が敵陣に進んでいく一方、第八高校のオフェンスの選手は第一高校のモノリスに近づけずにいる。どうも方向感覚を狂わされているようで、林の中を迷走していた。これは吉田という選手の古式魔法によるものと思われた。
「ジョージ、吉田という選手の使った魔法はわかるか?」
「あれは精霊魔法の『木霊迷路』という魔法だと思う。名前から見て、多分『吉田家』の術者じゃないかな」
吉田家は古式魔法の名門だ。第一高校は単純に魔法力の高い三人という編成から搦め手を用いた戦い方のできる編成に変えたということだろう。
「さて、そうなると注目は単独で第八高校のモノリスを目指す市丸だな」
その市丸はすでに第八高校のモノリスが視界に入ろうかという位置にいる。その市丸が右手を上げた。
「縛道の三十、嘴突三閃」
クラウド・ボールのときに見た光の膜に似て、しかし材質は異なると思われる硬質な光の突起が三本、第八高校の選手へと飛んだ。それは第八高校の選手の両手と胴体を挟んで左後方の樹木へと縫い付けた。
「ジョージ、あれは……」
「うん、光の膜を作った魔法の応用形のようだね。どうやら、形状だけじゃなくて質感までも変更が可能みたいだね」
腕の自由を封じられれば、将輝とて逃れることは難しいだろう。市丸の前でそれは、致命的な隙となるだろう。
八高のディフェンスを捕縛した市丸は悠々とモノリスを開き、コードを打ち込んでいく。一方の八高のオフェンスの選手は未だ第一高校のモノリスに到達できていない。仮に第八高校の他の選手が戻ったところで市丸に勝てるとも思えない。結局、市丸は八高の他の選手が戻ってくる前にモノリスにコードを打ち終え、第三試合の勝利を確定させた。
「今の試合、どう思う?」
「将輝が聞きたいのは試合の総括じゃなくて、『彼』のことだよね?」
省略した言葉を真紅郎は正確に理解していた。
「そうだ。ジョージ、お前ならヤツをどう攻める?」
「彼は凄く、戦い慣れている気がする。身のこなし、先読み、ポジション取り、どれも一流だと思う」
「魔法技能についてはどうだ?」
「はっきり言って読めない。あれだけ特殊な魔法を使いこなせるのだから、低いはずはないけど、驚くほど現代魔法を使わないからね」
一芸のみに特化した魔法師というものも世の中には確かにいる。しかし、市丸の場合は高速移動を行う魔法と光の膜や突起を作り出す魔法という、少なくとも二種類の魔法を使うことができる。更に加えるなら、これまでのモノリス・コードの試合内容から索敵の魔法も使えると思っておいた方がいい。これだけの種類の魔法が使えるとなると、一芸特化型とは考えにくい。
「あの光を使った魔法は更に応用技があると思った方がいいだろうね」
「他にどのような応用ができるのか、できれば見ておきたいところだな」
他に使用者がいない魔法であるので、どの範囲まで応用が可能なのかがわからない。
「第一高校の次の試合は第二高校で市街地ステージみたいだね」
「つい先ほど、事故があったばかりなのに考慮されないんだな」
今、出場している市丸と森崎の二人は負傷を免れたとはいえ、目の前でチームメイトが重傷を負ったのだ。いくらステージの選定がランダムとはいえ、普通は少しくらいは考慮するものなのではないだろうか。
「今回は双方のモノリスが五階建ビルの三階に設置されている。先の試合のような手法は使えないが、市丸はオフェンスとディフェンスとどちらだろうな」
第一高校勢は市丸をディフェンスに、残りの二人がオフェンスに回っていた。
「森崎選手は射撃戦が得意で、吉田選手も古式魔法師なら接近戦は苦手としている可能性が高い。そうなると、市丸選手がディフェンスに回るしかないんだろうね」
篠田という選手が負傷して吉田に代わった分、搦め手からの攻撃の手段は増えた。けれど、逆に接近戦は苦手になったと思っていいだろう。後は平原ステージのような見通しのよい戦場の場合にどうなるかだが、視界の開けた戦場は真紅郎にとって独壇場とも言える。そして将輝も開けた場所は魔法力を存分に発揮できるので大得意だ。そして、開けた場所では光の魔法を攻撃に使われても、回避や防御は可能に思える。
第一高校のオフェンス陣はモノリスを攻めるのではなく、自陣のモノリスを狙って迫る第二高校のオフェンスを狩る戦術を選んだようだ。吉田の魔法で索敵を行い、屋上に陣取る森崎が狙撃を行った。
狙われた第二高校のオフェンスの選手はなんとか森崎の攻撃を防いだ。しかし、吉田も加勢しての二人掛かりの猛攻を受け、最後は吉田の放った雷撃の魔法で無力化をされた。だが、その間に第二高校のもう一人のオフェンスは第一高校のモノリスに迫っている。
「市丸と一騎打ちというのは、第一高校としては思うつぼだろうね」
真紅郎が分析したとおり、第一高校にとっては市丸が一騎打ちに持ち込めるというのは望んだとおりの展開だろう。実際、これまでの試合で市丸は一度も攻撃を受けていない。
よほど索敵に自信があるのだろう。市丸はモノリスの前を離れて第二高校のオフェンスを迎え撃っていた。そして、てっきりモノリスの前で守っていると思い込んでいた第二高校の選手を奇襲でもって、一撃で戦闘不能に追い込んだ。
「ジョージ、市丸はこれまで奇襲がメインで防御魔法を使ったことすらないように思えるんだが、ひょっとして防御は得意じゃない可能性はないか?」
「そうだね。防御らしい防御と言えば、あの光の膜だけど、全方位を守るものではないのは救いかもしれないね」
「ジョージの『不可視の弾丸』であの膜は突破できると思うか?」
「はっきりとはわからないけど、光を操る魔法が得意なのだとしたら、簡単には破れないと思う。『不可避の弾丸』の性質は将輝も知っているだろう?」
不可視の弾丸は対象の事象を直接的に改変するがゆえ、標的の視認が必要になる。市丸の光の膜は透過性があるので張られても奥にいる標的を見ることはできる。しかし、これまでの試合で市丸の光の魔法はかなりの応用力があることがわかってきている。透過率を下げることができた場合には、事象改変を行えるに足るだけの位置情報を得られる自信がないということだろう。
いずれにせよ、第一高校との戦いでは平原ステージのような真っ向勝負が挑める場所であれば有利。森林ステージのような遮蔽物が多いステージでは不利となるだろう。
けれど、こればかりは運勝負。将輝にできることは、全力を尽くすことだけだ。
第二高校のオフェンスを片づけ、ゆっくりと攻勢に出る第一高校を見ながら、将輝は明日の決勝トーナメントに向けて闘志を高めていた。