魔法科高校の蛇   作:孤藤海

33 / 88
迫る決戦のとき

 大会八日目、新人戦五日目。

 

 決勝トーナメントの組み合わせは第三高校対第八高校、第一高校対第九高校となった。

 

 予選リーグの成績は、一位・三高、二位・一高、三位・八高、四位・九高だった。これは対戦相手の違反での勝利は正規の勝利に劣るため、この順位となった。市丸としては予選とはいえ、二位という扱いなのは不満だが仕方がない。なお、大会規定どおりなら、準決勝は第三高校対第九高校、第一高校対第八高校となるはずなのだが、予選で対戦のなかった組み合わせを優先させたようだ。

 

 準決勝の第一試合は第三高校対第八高校。カルスト地形を模した「岩場ステージ」で行われたその試合は、一人の選手の突出により開始された。

 

 一条将輝は堂々とその姿を曝して第八高校の陣地に「進軍」をする。

 

 対する第八高校は三人がかりで次々と魔法を繰り出し、一条に集中砲火を浴びせる。

 

 だが、それでも一条の歩みは止まらない。

 

 移動魔法で投げつけられた石や岩の欠片は、より強力な移動魔法で撃ち落された。

 

 直接仕掛けられた加重魔法や振動魔法は、身体の周囲一メートルに張り巡らせた領域干渉によって無効化された。

 

「市丸隊長なら、一条選手の『干渉装甲』を抜くことができますか?」

 

「逆に聞くで。森崎は自分が一条に有効打を与えられると思う?」

 

「申し訳ございません。私では一条選手の領域干渉を突破出来ないと思います」

 

「まあ、今回はその答えでええやろ」

 

 全く手がないとも思わないが、今のままの状態で、普通に戦ったのでは森崎では一条には勝てない。冷静に自己分析ができていると考えるとしよう。

 

「吉田でも一条は厳しいやろうから、ボクが受け持ったるわ。森崎は新庄を頼むわ」

 

「吉祥寺選手の魔法発動速度はかなりのものです。一方、吉田はやや速度に劣る面があると思うのですが、私が吉祥寺選手を受け持たなくてもよろしいのですか?」

 

「君とて吉祥寺よりは遅いやろ。同じタイプでやや劣るのが当たるより、全く違うタイプの方が番狂わせは起こしやすいもんや」

 

「確かにスピード・シューティングで私では吉祥寺選手に力負けすることは思い知らされました。不確定要素はあれ、吉田選手に期待するしかないのですね」

 

 森崎は随分と悔しそうだ。劣っているのが悔しいという想いがなければ強くなることは難しい。森崎の感情自体は必要なものだ。けれど、それだけでは足りない。

 

 現状の戦力分析から考えれば、森崎は新庄に当てるのが適当だ。けれど、森崎に覚醒を促すためには、格上の一条や吉祥寺を相手にぎりぎりの戦いをさせるという手もあったかもしれない。けれど、モノリス・コードは命を奪うことまでは想定されてない。所詮は試合であり、それで上手くいくというのはあまり考えられないから、これでいいはずだ。

 

 それに、吉田にしても無策で吉祥寺に当てるわけではない。今も必死に吉田支援のために動いてくれている者がいる。

 

 試合は、一条の迎撃を諦めた八高の選手たちが第三高校のモノリスに標的を変えたところだ。けれど、それは悪手というものだ。直前まで攻撃を受けていたのだから、一条の方も八高の選手の動向には気を配っている。戦闘中に背を向けた八高の選手たちは背後からの攻撃を防ぎきれず、あっさりと敗北した。

 

「なんや、つまらん戦いやったなぁ」

 

 ともかく、市丸は森崎と吉田と事前に決めてあった第九高校との試合における作戦について再確認を行う。

 

 これより開始される準決勝、第九高校との試合は「渓谷ステージ」で行われる。

 

 渓谷ステージの形状は「く」の字形に湾曲した人口の谷間。水が流れていると上流・下流で有利・不利が生じるので。実態は渓谷というより崖に囲まれた細長い「く」の字形の水溜りだ。

 

「吉田、初手は君に任せるで」

 

「任せておいて」

 

 渓谷ステージでの戦いと決まったときに吉田に尋ねたところ、霧を発生させる「結界」の古式魔法があるということだった。しかも、霧は第一高校の側には薄く、第九高校の側には濃くすることもできると言っていた。そして、吉田が発生させる霧は風を起こして吹き払おうと、代わりに流れ込んでくる空気までが霧に染まっているので意味がない。気温を上げて飽和点を引き上げても水溜りからの蒸発を促進して徒に不快指数を増進させるだけだ。

 

 元々、曖昧な対象に継続的な作用を及ぼし続けることは、現代魔法の苦手分野だ。

 

 現代魔法で「霧の魔法」を打ち消す為には、吉田の魔法作用エリアを認識しない限り有効な対抗措置は取れない。魔法の評価基準は処理速度、演算規模、干渉強度の三つ。このうちの処理速度に劣る古式魔法は現代魔法より、やや下に見られることが多い。だから、第九高校の新人が吉田の魔法に対応できない可能性は高い。

 

 ちなみに、第一高校の作戦は、第九高校の新人が適切な対応を取れなかった場合は霧に紛れて最速で第九高校のモノリスに迫り、ディフェンスの選手だけを無力化して試合を終わらせる。逆に九高の選手が適切な対応ができた場合は、市丸はディフェンスに回り、まずは森崎と吉田の二人に自由に戦ってもらうというものだ。

 

 そうして始まった第一高校対第九高校の試合で、第九高校の新人は適切な対応を取ることができなかった。どうやら古式魔法に対して勉強不足だったようだ。

 

「さすがに一日ではどうにもならんかったんかな」

 

 吉田の名前は九校戦の選手の中にはなかった。選手の交代は昨日のことだったので、そこから急いで情報収集をしたのでは、魔法への対策はおろか、使用する魔法を調査することすら困難だ。そもそも市丸自身も古式魔法の情報は十分に得ることはできなかった。それゆえ吉田をモノリス・コードの補充要員に選んだように。

 

 霧の「結界」は分布が人為的に均一でない点を除けば、自然現象以上の効果は無い。

 

 幻惑作用もなければ、衰弱効果もない。閉じ込める効果もない。

 

 だが市丸のように霊圧で対象を認識できるような能力がない限り、視界が効かないというだけで、人間の行動を制限するには十分なのだ。

 

 崖に沿って恐る恐る進む第九高校のオフェンスの霊圧を感じながら、霊子を固めて水面上ぎりぎりを進んでいく。飛行魔法が存在しない現状、空中を進むという行為は重要な手札となりうる。それは安易に公開できない。けれど、今は霧のおかげでそれを気にせずに使用することができる。

 

「縛道の三十、嘴突三閃」

 

 すでに勝利は堅い状態で未公開の手札を曝す必要はない。これまでのモノリス・コードの試合でも披露したことがある縛道を用いて、九高のディフェンスを横合いから崖に縫い付ける。九高のオフェンスはまだ一高のモノリスに到達していないので、悠々とモノリスを開いてコードを打ち込んだ。結局、第九高校が適切な対応が取れなかったおかげで、準決勝はどの予選よりも楽勝といえる内容で終了した。

 

 そうなると、次はいよいよ戦前から優勝確実と言われていた第三高校との決勝戦だ。その前に行われる三位決定戦の時間を利用して、市丸は達也の元を訪れた。

 

「間に合うた?」

 

「ぎりぎりな」

 

 そう言いながら達也が示したのは黒地のマントとコートだった。

 

「これは、どういうものなんや」

 

 一条は市丸が抑えるので問題ないとして、課題となったのが残る強敵である吉祥寺真紅郎をどうやって抑えるかだ。そして、市丸には現代魔法に対して、鬼道以外で対抗する手段を考えるほどの知識はない。そこで、達也に相談したというわけだ。

 

「これには魔法陣を織り込んである。効果は、このマントとローブを着用した者の魔法が掛かりやすくなるというものだ」

 

「へえ、吉田にはうってつけやね。ありがたく使わせてもらうわ」

 

 何も吉田が吉祥寺を戦闘不能にまで追い込む必要はないのだ。ある程度の時間さえ稼いでくれれば市丸が一条を倒した上で援護に駆けつけられる。

 

 市丸が達也から受け取ったマントとコートを吉田に強引に着させた頃には決勝戦は目前にまで迫っていた。




本話は九高を九校と誤字してる箇所に加えて他にも誤字が大量に。
一応、粗方は潰したはず。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。