モノリス・コード決勝戦、対第三高校との戦いでは、試合開始早々、第一高校は一条将輝からの猛烈な射撃に晒された。さすがは十師族と言うべきか、一条の攻撃は森崎駿には到底、防ぎきれるものではなかった。それは、吉田にしても同じだっただろう。
しかし、それを第一高校モノリス・コードチームの隊長である市丸ギンは苦もなく防ぐ。そうして、一条将輝と一騎打ちに持ち込むべく動き出した。
「吉祥寺真紅郎もこちらに向かっているね。予定どおり、僕が行くよ」
「ああ、健闘を祈る」
吉祥寺真紅郎も強敵だが、あの市丸が戦えると認めたのだ、そう簡単に敗れたりはしないはずだ。
「僕も敵との戦いに向かわなければ」
第三高校の布陣は一条将輝が市丸ギンとの一騎打ちに向かったのとは別に吉祥寺真紅郎がオフェンスに回っている。第三高校最後の一人、新庄継之進はディフェンスとして陣地に残っている。
森崎が陣地から動かずとも、市丸が一条を倒すまで待てば、試合には勝利できるはずだ。森崎が下手に動いて新庄に敗れてしまえば、市丸がモノリスの守りにまで気を回さなければならなくなる可能性がある。
それでも、森崎はこのまま黙って待っているというわけにはいかない。第三高校の三人がそれぞれ第一高校の陣地に向かってきた場合という前提下ではあったが、森崎は新庄の対応を任された。そして、市丸は森崎に新庄に勝てると言った。
市丸は戦力分析にかけては非常にシビアだ。森崎が新庄に勝てないと考えたなら、時間を稼げと言っただろう。だが、市丸は森崎ならば勝てると言ったのだ。ならば、森崎は新庄に勝てるのだ。
森崎は自陣のモノリスを離れて第三高校の陣地に向けて疾走を開始した。それを確認した新庄が笑みを浮かべた。新庄が刀剣型のCADを手に前進を開始する。両者はちょうど両軍の中央付近で対峙する。
「貴殿の意気や良し、第三高校、新庄継之進がお相手申そう」
「第一高校、市丸ギンが副官、森崎駿。いざ尋常に勝負!」
名乗りを終えた両者の距離が近づき、新庄が森崎の射程に入る。刀剣型のCADを扱う者の一般的な傾向に漏れず、新庄はどうやら接近戦が得意なタイプらしく、今のところ攻撃を仕掛けてこない。ならば、こちらから仕掛けるのみだ。森崎は特化型CADを抜くと、圧縮空気弾を放つ。
「笑止! そよ風程度の空気弾で拙者を倒せるなどとお考え召されるな」
森崎の空気弾を新庄は刀剣型のCADで切り裂いた。魔法以外の直接的な攻撃が禁じられているモノリス・コードでは刀剣型のCADを扱う者は少ない。それにもかかわらず刀剣型のCADを持つということは何らかの手段を隠し持っているとは思っていた。しかし、まさか魔法を刀剣で切り裂くとは思ってもみなかった。
「今度はこちらの番であるな、いざ、その目に焼き付けよ!」
言いながら、新庄が刀剣型のCADを一閃させる。剣の軌跡を追うかのように風の刃が生まれて、それが森崎に襲い掛かる。それは、森崎が見たことがない種類の攻撃だった。だが、所詮は一撃。それに未だ距離がある上、千葉道場で経験してきた斬撃よりかは幾分か遅い。
風の刃であることも考慮して右に飛んで躱す。そうして森崎が見たのは、自身に向けて突進してくる新庄の姿だった。
「きぃえええーいぁああ!」
急接近してきた新庄が森崎に向けて刀剣型のCADを一閃させる。刀剣型のCADでの直接攻撃はモノリス・コードでは違反となる。そのため、新庄が狙うのはCADでの直接攻撃ではなく、刀剣型のCADから放たれる風の刃の方だ。
新庄の狙いを看破した森崎は、敢えて敵の懐に飛び込むことを選んだ。繰り返すが刀剣型のCADでの直接攻撃は違反となる。敵の方から当たりに行った場合にどうなるか、それは森崎も知らない。しかし、仮にそのような場合には違反とならないにしても、確信がなければ刀剣を振るうことはできまい。
このまま刀剣を無理に振るっても不利になるだけと悟ったのだろう。新庄は刀を振る手から左手を離しつつ、その空いた手で右腕に付けられたブレスレット型のCADを操作しようとする。だが、それよりも森崎の方が速い。
右手に持っていた特化型CADを新庄の胸に押し当てる勢いで突き出し、得意の圧縮空気弾を放つ。森崎の一撃を受けて、新庄が派手に吹き飛んだ。だが、新庄は吹き飛ばされながらも、右手で受け身を取って着地した。
森崎の魔法力はそれほど高くない。しかし、圧縮空気弾を放つこの魔法は、より短時間で効果的な打撃を与えられるよう、特に練度を高めてきた。少なくとも、あのように何事もなかったかのように立ち上がれるほど弱くはない。
「あの至近距離で僕の攻撃を受けて立ち上がれるとは、どんな方法で受けたのかな?」
「方法などない。ただの痩せ我慢よ。武士は食わねど高楊枝と言うでな」
まさか回答があるとは思わなかった。そして、本当か嘘か判断に困る内容だった。
いずれにせよ森崎のやるべきことは変わらない。圧縮空気弾は森崎が最も早く放て、かつ威力もそこそこ高い魔法だ。新庄は接近戦を得意としているだけあり、全体的に速度は高い。速度に劣るが高威力の魔法は当てられる気がしない。
少なくとも新庄は圧縮空気弾を受けて吹き飛んでいたのだ。全くダメージがないということはないはずだ。繰り返し当てていけば、倒すことはできるはず。
起き上がった新庄が再び突進してくる。森崎も再び圧縮空気弾で迎撃するが、新庄は最初と同じように刀剣型CADで切り裂いて突進を続ける。
「覚悟ぉ!」
新庄が風の刃を飛ばすために刀剣型のCADを左脇構えに近い体勢を取る。それを阻止するために森崎は右手のCADを新庄に向ける。
何度目かになる圧縮空気弾での攻撃を、新庄はしっかりと刀剣型のCADで切り裂いた。新庄は、これで仕切り直しと考えていることだろう。だが、右手のCADで放った圧縮空気弾は囮。本命は別にある。
森崎は左手を胸のポケットの中に入れて、CADを起動させる。次の瞬間、森崎の胸の前で空気が収束し、新庄へと襲い掛かった。
特化型CADには照準補正機能が付いている。拳銃型の特化CADを魔法発動の際に相手に向けるのは、このためだ。半面、特化型CADはなまじ照準補正機能があるがゆえ、相手の方に向けなければ魔法の方向性が定まりづらいという欠点もある。だが、特化型CADを相手に向けずとも魔法を発動させる技能も存在する。それがドロウレスと呼ばれる技能だ。森崎はこの技能を九校戦の直前に辛うじて習得していた。
森崎はそもそも魔法能力に重きを置き、接近戦を軽視していた。しかし、春の市丸と千葉の戦いを見て、魔法技能のみでは高い近接戦闘能力を持つ魔法師に接近されたときには対処ができないことを理解させられた。
そうして自らの欠点である接近戦能力を改善すべく千葉家の道場に通ったことで、森崎は新たな気付きを得た。それは、接近戦を専門とする魔法師に、接近戦のみでは絶対に勝てないということだった。
元々、森崎は魔法力自体は平凡ながら、魔法の運用能力は高いタイプだ。そして、身体能力は、それほど高いわけではない。自らの長所である魔法の運用能力を捨て、身体能力と感覚に頼る戦いでは強者には勝てないと思い知った。
森崎にとっての接近戦とは、あくまで敵に接近されたときに何とか攻撃を受けきり、自らの得意の中距離戦に持ち込むための手段の一つ。接近戦を主体として戦うことはしてはならないことだったのだ。
ドロウレスは、その反省の中で身につけることを決意した技術だ。習得をすれば、相手にとっては予想外のタイミングで魔法を放つことができる。そして今、実際に新庄は予想外の一撃を顎に受けて仰向けに倒れようとしている。
「ぐ……なんの……これしき……」
だが、それでも新庄は驚異的な頑丈さで耐え切ろうとしている。だが、その程度のことは、これまでの戦いで予想できている。
「いや、終わりだ」
一撃で倒せぬなら二撃叩き込めばいいだけだ。倒れぬように、懸命に足に力を入れる新庄に向けて、森崎は右手の特化型CADを向ける。しかし、そこから魔法が放たれることはなかった。
その直前に試合終了の笛が鳴らされたためだった。
このヤロウ、とか言っていた陸津波を使っていた三人目はお侍に取って変わられました。