新人戦の優勝パーティーは微妙な空気の中で開催された。
結局、新人戦の決勝は第一高校、第三高校ともに失格となった。
第一高校側は、市丸については思わず神鎗を使ったことによる、魔法攻撃以外の攻撃の行使によるルール違反。第三高校側は、一条が行使したバーナーフィンガー1という魔法の威力がレギュレーション違反と判断されたことによるルール違反だ。
市丸が神鎗を用いたのは、一条がバーナーフィンガー1という魔法を何発も使った後だ。それなら、第三高校のみ失格とすべきではないかと十文字は一応、抗議をしたらしい。だが、今大会は事故が多かったこともあり、きつめの罰則を適用することになったようだ。
結局、第一高校と第三高校はともに失格扱いになりゼロ点となった。一応、順位の繰り上げなどはなく、三位決定戦に勝利した第八高校には三位の得点しか与えられなかったため、大幅な順位の変動はなく、第一高校は無事に新人戦優勝となったわけだ。
ちなみに一高と三高の総合ポイント差は百四十ポイントとなっている。第一高校は主に達也が担当した女子勢の上位独占で稼いだ得点に、市丸のクラウド・ボールの優勝の得点もあったのだが、一条や吉祥寺の活躍もあり、結局、得点差は大きくはならなかった。
それでも明日のミラージ・バットの成績次第で、最終日を待たずに一高の総合優勝が決まる得点差ではある。最終日決勝のモノリス・コードの配点は、一位チームが百ポイントだ。つまり、最終日までに百点以上の差があれば、例え予選敗退でも総合優勝を勝ち取れるということだ。
そして、十文字がいる第一高校が予選がリーグ戦のモノリス・コードで敗退ということは、よほどの事態が発生しない限り考えられない。仮に三位という大不振だったとしても四十点は得られるので、八十点差くらいまでなら大丈夫ということになる。
ちなみにミラージ・バットの得点は一位が五十点、二位が三十点なので第三高校に一位と二位を独占され、深雪がまさかの五位以下による得点なしとならない限り、八十点差という事態にはならない。要するにすでに第一高校の優勝はほぼ確定的ということだ。
それにしても、一条が使用した魔法は一体、何だったのだろうか。六杖光牢は簡単に破れるような魔法ではない。それを破ったバーニング・フル・フィンガーズという魔法は、市丸でさえ脅威を感じる威力を有していた。
どこか滅却師の気配すら感じたあの魔法は、一般には知られていないものだ。けれども、詳しい者ならば知っている可能性はある。ということで、詳しい者に聞くとしよう。
「ねえ、達也は一条の魔法をどう見た?」
「見たことがない魔法だった。一条自身も火事場の馬鹿力という認識のように見えたな」
「達也は起動式が見えるんやろ? あれは他の現代魔法と比べてどうやったん?」
「現代魔法と言えば現代魔法だった。だが、随分と粗削りというか、いわゆる超能力と呼ばれていた頃の魔法に近い現代魔法に見えたな」
興味深い意見だ。超能力者と呼ばれた者たちの中には、少なからず滅却師もいたはずだ。だから、滅却師の気配を感じる能力を持つ者がいることは不思議ではない。
問題は、なぜ一条が急にそのような力に目覚めたのかということだ。だが、これに関しては解明は難しいだろう。
一条のことはひとまず保留とする。そうなると、次に気になるのは吉田のことだ。吉祥寺は同世代の中ではトップクラスの実力者と聞いている。その吉祥寺を吉田は戦闘不能一歩手前まで追い詰めていた。
「吉田にはどんな手段を提示したん?」
吉田は古式魔法師として豊富な手段は持っている。だが、二科生で古式魔法師の吉田は、魔法の発動速度では現代魔法師に劣るはずだ。それが現代魔法師の中でも速度は高い方である吉祥寺を相手に優位に進めていたというのは予想外だった。
「簡単なことだ。吉田には汎用型CADを使って古式魔法を使ってもらった」
通常の汎用型CADは、二桁の数字と決定キー、合計三つのキー操作で起動式を展開する。上位機種、特に携帯端末形態の高性能機種には、ショートカットキーを備えたものがあり、使用頻度の高い魔法を選んで一つの操作で魔法を発動できるようにしているものもある。
けれど、九校戦で用いることが許可されるCADには、そのような機能が搭載されていないはずだ。となると、通常のCADの範囲で吉祥寺を圧倒したということだ。
「幹比古の魔法の発動はなかなか見事だったぞ。幹比古は一度に十五回のキー操作をして五つの魔法を連続発動させた」
「それで、急に魔法が速くなるん?」
「これは精霊魔法では当たり前の手順みたいなんだが、基本的には一つ一つの魔法の結果を確認しながら対話式で術式を完成させるみたいなんだ。だが、それでは一々結果を確認する分、時間がかかってしまう。だから、逐次展開と同じ発想で一つの魔法を発動中に次の魔法を構築するようにアドバイスしてみたんだ」
一つの魔法を発動させるのに必要なキー操作は僅かに三回。それならば予想外の対応をされて続いての四回の魔法が不発に終わったとしても速度を優先させるのは合理的なのだろう。
「それで、吉田はどんな魔法を使ったん?」
「『地鳴り』、『地割れ』、『乱れ髪』、『蟻地獄』、『雷童子』の五つだな」
「地割れと蟻地獄は映像見てたからわかったけど、他は名前だけ聞いてもわからんわ。効果を教えてくれん?」
一応、映像では試合の様子を確認した。けれど、映像で見ても効果がわかったのは地割れと蟻地獄くらいだった。ちなみに雷童子は発動前に市丸と一条の反則によって没収試合となったため、発動していたのは蟻地獄までだったはずだ。
「地鳴りは地面の表層を振動させる魔法、乱れ髪は地面すれすれの気流を起こして草を絡みつかせる魔法だな」
吉田が使った五つの魔法はすべて、相手に打撃を与える魔法ではない。だが、相手の意表を突くことで焦りを誘うことで次の行動を誘導していた。
魔法の連続発動は興味深いが、個々の威力が低すぎることもあり、さすがに市丸が自身の選択の中に取り入れるというほどではない。だが、戦いの内容自体は称賛に値すると言ってよいだろう。
「それに森崎も予想以上によう戦ってくれたからね。欲を言えば、もう一歩、新たな境地に至ってくれればよかったんやけどね」
今の森崎ならば新庄継之進にも勝てるとは思っていた。けれど、市丸とて新庄のすべてを知っているわけではない。二人の間には隠し玉の一つでもあれば、容易に勝敗は覆るというほどの差しかなかった。
「けど、むしろ隠し玉があった方がおもろいことになっとったかもしれんけどね」
「何の話だ?」
「何でもあらへんよ。それで、達也から見て、森崎はどうやった?」
「そうだな。春から考えて随分と成長したみたいだな。正直、驚いたな」
戦闘技術自体は向上していたが、森崎の魔法自体には見るべきところはなかった。なので市丸自身は細かな分析はする気がおきず、達也に聞いたのだが、どうにも達也も森崎への興味は薄かったようだ。
「達也は明日のミラージ・バットが最終に変更になったんよね」
「ああ、そうだな」
本来なら、達也の担当は昨日の新人戦のミラージ・バットで終了のはずだった。けれど、負傷した渡辺の代わりに深雪が出場することになったことにより、明日が最終日に変更になった。意識の優先順位は深雪が第一、続いて自分がローブやマントを用意したり、魔法の内容にアドバイスをした吉田に興味がいくのは仕方がない。
「次は君が注目される番やね」
「俺じゃなくて深雪だろ?」
「君、自分のことになると鈍いんやね」
今年の新人戦で注目をされたのは一条と互角以上の戦いを行った市丸、圧倒的な美貌とともに魔法力を見せつけた深雪、そして自身が担当した競技で選手を上位独占させた達也の三人だ。その達也が出場する最後の試合が注目をされないはずがない。
「まあ、後は何事もなくこの大会が終わるかどうかやね」
市丸がそう言うと、達也は難しい顔をして黙りこくってしまった。