魔法科高校の蛇   作:孤藤海

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軍への売り込み

 九校戦も最終日を迎えた。

 

 今日行われる競技はモノリス・コードの一種類。九時から決勝トーナメントの第一試合、十時から第二試合。午後一時より三位決定戦。そして二時から決勝戦が行われる。

 

 第一高校の選手とスタッフはほぼ例外なく天幕か応援席のどちらかで選手の登場を今か今かと待っている。

 

 しかし、そのどちらにも、達也の姿は無かった。

 

 そして、もう一人、どちらにも姿のない選手が達也の隣にいた。

 

「二人とも、応援に行かなくてもいいの?」

 

「……始まるまでまだ少し時間がありますから」

 

「ボクの場合、優勝が決まった後の消化試合にそこまで興味あらへんから」

 

 昨晩のちょっとした任務の際に指示を受けて、達也は風間の部屋を訪れていた。けれど、そこになぜか市丸が付いてきたのだ。

 

 最初、達也は当然のことだが市丸の同行を断った。しかし、市丸は達也が軍に関係していることは知っているからと、いくら断ってもついてこようとした。結局、達也から藤林に連絡を取って、藤林判断で同行を許可されたのだ。達也としても、許す、許さないで揉めて耳目を集めることになるのは勘弁してほしかったので助かったとも言える。

 

 現在、部屋の主の風間は早朝から出かけており、戻りを待つ間、藤林から朝食をご馳走になっているところだ。達也は朝食を終えていたが、食べ盛りなのでサンドイッチが追加された程度では全く苦に感じない。

 

 ちょうど出された皿を片付け終えたところで、風間が戻ってきた。一人ではなく、部下の真田繁留大尉と柳連大尉を連れての登場だった。立ち上がって敬礼した達也と藤林に対し、市丸は座ったままだ。

 

「少佐、こちらの市丸さんは達也君がこちらに呼ばれていることを勘づき、同行を求めてきたということで、私が同席を許可しました」

 

 風間が答礼し、手振りで腰を下ろすように指示したところで藤林がそう報告する。

 

「市丸君だったね。今日はなぜこの場への同席を願い出たのかな」

 

「ボクの技能って戦闘に偏っててん。それで、将来は軍もありかなと思うて、ちょっと売り込みに」

 

「それは、俺の部下になりたいということか?」

 

「そうやね。普通の軍組織やと大所帯すぎて色々と面倒や。それより小回り利く方がええと思うんやけど。ほら、ボクの技能って少しばかり特殊やろ?」

 

 少しばかりどころか、ほぼ市丸の個人技能ではないかと思われるのだが。そして、それは風間も同意見らしく、少しばかり興味を引かれた様子だ。

 

「君はモノリス・コードで第三高校の一条将輝と互角以上の戦いを見せていた。十師族の次期当主に勝てる高校生など、同じ十師族の出身者を除けば、君くらいのものだろう。その君が我が隊に入隊したいという申し出は興味を引かれるな」

 

「なら、考えておいてや。さすがに独断で決められることやないやろ」

 

 風間の階級は少佐だ。勝手に自分の隊の人員を拡充する権限まではない。仮に本当に市丸の入隊を熱望したとして、上に相談は必要だ。

 

「ところで君らが動いたゆうことは、第一高校にちょっかいをかけとった組織ゆうんがわかったゆうことやろ、結局、何やったんです?」

 

「無頭竜という国際犯罪シンジケートだ」

 

「なんで国際犯罪シンジケートが魔法科高校一校の妨害なんてことしはったんです?」

 

「詳しい事情まではわからない。だが、第一高校に対して数々の妨害工作を行ってきたのが無頭竜であるということは間違いない」

 

「それで、無頭竜はどうしはったんです?」

 

 市丸が聞くと、風間が達也の方を見てきた。ここで正直に達也が行ったことを話してしまうと、後で市丸に聞かれることになりかねない。少し考えてみせた後で達也は曖昧に頷いて見せた。これで詳細は伝えるなということは理解してもらえたはずだ。

 

「無頭竜の東日本総支部は壊滅させた。それが結果だ」

 

「へえ、何事に関してもあまり動きの速うない、日本軍にしては思い切ったものやね」

 

「あれは、ただの犯罪集団ではないからな」

 

 達也も無頭竜が犯罪集団であるとは聞いていたし、情報も得ていた。だが、ただの犯罪集団ではないと言われる理由までは知らなかった。

 

「達也君、君は『ソーサリー・ブースター』についてどの程度知っているかい?」

 

 そう質問してきたのは真田だ。

 

「名前は聞いたことがあります。ここ数年で犯罪集団に広まっている画期的な魔法増幅装置とか。正直、眉唾物と思っていましたが……」

 

「ソーサリー・ブースターは実在するよ。ある意味では『画期的な魔法増幅装置』というのも間違いじゃない」

 

「そもそも、魔法の増幅などということが可能なのですか?」

 

 こんな場面で真田が嘘をついたり信憑性が薄い噂話を持ち出したりするとは思わないが、それでも達也は「胡散臭い」という印象を拭うことができなかった。

 

「普通の意味での増幅じゃないよ。魔法式の設計図を提供するだけでなく、設計図を元にした魔法式の構築過程を補助する機能も持つCADと表現すればいいのかな? 魔法師が本来持っているキャパシティを超える規模の魔法式形成を可能にするんだ。それで、無頭竜はソーサリー・ブースターの供給源なんだ。この道具は製造原料に問題があってね。事実上、無頭竜の独占供給状態なんだよ」

 

「ソーサリー・ブースターを買い付ける為に、リーダーの情報が必要だったのですか?」

 

「ブースターの製造と供給を止める為に、ターゲットの情報が必要だったんだ。アレはこの世界に存在していい物じゃない。僕なら絶対に使いたくないし、同じ隊の中で使わせたくもない。ブースターの中枢部品は、人間の脳。より正確には、魔法師の大脳だ」

 

 真田の言葉は達也でさえ絶句するものだった。

 

「……しかし、動物の脳細胞を使用した場合、脳内に残留する想子の所為で使用者との感応が成立しないはずですが。それは人間の脳細胞を使用した場合も同じだったはずです」

 

 達也が絶句したのは、その非人道性が主な理由ではなかった。達也はCAD開発の黎明期における動物実験の例も、人体実験の例も知っている。

 

「へえ、いくらでも人体実験ができるゆうんは犯罪集団の強みやね。強い魔法師を材料にしたら、より強力な製品になるんやろか?」

 

 そして、達也と同じく市丸もソーサリー・ブースターの非人道性に対して反応を見せていなかった。もっとも、市丸は達也よりもよほど倫理観が壊れているように見えるので、驚きはないのだが、それにしても酷い。

 

「僕たちは魔法を武器とし、魔法師を軍事システムに組み込むことを目的とする実験部隊だけど、魔法師を文字どおりの部品にするつもりはない。ジェネレーターまでならまだ許せる気もするけど、ブースターは製造も使用も絶対に認められない」

 

「そういう感情面を抜きにしても、魔法師のキャパシティを拡張するブースターは軍事的にも脅威だ。北米情報局も同じ見解で、内情に協力を求めていたらしい。そういうわけで、市丸、ソーサリー・ブースターを肯定するような態度は慎んだ方がいい」

 

「えー、別に肯定ではないやん。ただソーサリー・ブースターの性能に差があるなら、戦うときには気を付けんとあかんから、聞いといただけやん」

 

 風間に注意を受けても市丸はいつもどおり気に留める様子はない。

 

「風間少佐、老婆心から忠告をいたしますが、市丸は戦闘力は独立魔装大隊でも即主力となれると思いますが、社会性は壊滅的です」

 

「それ、酷すぎへん? ボク、意外と大隊長くらいの適性ならあると思うで」

 

 市丸はなぜか確信を持っているように思える。達也の知る限り、市丸は完全な一匹狼に思えるので、その根拠が少しばかり気になった。

 

 この場での話はそれで終わりとなった。

 

 そして、達也たちが会場に戻ってすぐに行われた準決勝。その後の決勝のいずれも十文字を中心とした第一高校は圧勝で終えた。これにより、第一高校は圧倒的な差で今年の九校戦を総合優勝で終えたのだった。

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