クロスオーバーが二重だったり、転生、BLEACHが繋がって転生BLEACHというわけのわからないタグになっていたり。
何しているんでしょう。
国立魔法大学付属第一高校の一年B組、市丸ギン。
司波達也はその名を入学式の夜に知った。
きっかけは講堂前で妹の深雪を待っている達也たちのことを市丸に値踏みされるように見られていたことだ。
それで気になって調べてみると、実技において深雪と肩を並べるほどの成績を叩き出した生徒であると判明した。市丸個人の情報については、ほとんど存在しない。あるいは元は一丸を名乗っていたエクストラ・ナンバーズではないかと推測したくらいだ。
しかし、市丸の本質は魔法以外にあったようだ。エリカに向かって扇子で仕掛けたときの動きは達也であってもなんとか躱せるというほどに鋭いものであった。しかも、あれでも全力ではない。
魔法師としては全く無名な司波という名に妙に反応していた辺り、達也たちの正体に気付いたというわけではない。けれど、達也の実力には気づかれたと考えるべきだ。
今のところ興味の対象にはなっていても、敵対の意志は見えない。ひとまずは様子見するしかないが油断はすべきではない。
見学を少し早めに切り上げた達也たちはレオ、エリカ、美月に市丸を加えた五人で食堂に向かい、八人掛けの長テーブルのうち五席を確保した。そうして半分ほどを食べた頃に深雪がクラスメイトたちと一緒に現れたところでひと悶着が起きた。
自分で言うのもどうかと思うが、深雪は少しばかりブラコンの気質がある。深雪が達也たちと昼食を取りたがるのは自然なことだった。
それに対して深雪のクラスメイト、特に深雪との相席を狙っていた男子生徒は、そこで残りたった二席を争うのではなく、深雪を別の席へと誘おうとした。けれど、そんなことで深雪は達也との相席を諦めたりしない。
そこで深雪のクラスメイトたちはより強く深雪の説得に出た。すなわち一科生が二科生と相席するのは相応しくない、一科と二科のけじめはつけるべきとまで言いだしたのだ。
「なんや、えらい言い方やないの」
そして、それに反応したのは達也たち五人の中では唯一の一科生である市丸だった。深雪のクラスメイトたちの言葉は、ある意味、市丸の行動も相応しくないと言っているも同然なので、あるいは当然だったのかもしれない。
「君ら、少しばかり思い上がりが過ぎるんとちゃうの?」
「何だ、お前、ウィードに肩入れするのか!」
「何を言うとるの? ボクはただ単に君らに思い上がりが過ぎる言うとるだけや」
深雪のクラスメイトたちは市丸が何を言っているのか理解できなかったようで、一瞬だけ押し黙った。そこに市丸は更に言葉を続ける。
「同じ一科と言うても、ボクや司波さんと君らとでは、君らと二科生より遥かに差がある言うとるんや。それなのに君らは何でボクらと対等であるかのように言うとるん。君らこそ、しっかりとけじめはつけえや」
あまりと言えばあまりな言い様に、深雪のクラスメイトたちは絶句している。その間に市丸は席を立って深雪の側へと寄る。
「さ、司波さん、こないな奴らは放っておいて、君は君が思うようにしたらええ」
市丸がエスコートするかのように深雪を達也の隣に向かわせようとするのを見て、ようやく呆気にとられていた深雪のクラスメイトの一人が動き出した。
「おい、ちょっと待て! お前っ!」
男子生徒の一人が市丸へと右手を伸ばす。それを市丸は体を反転させながら右腕を大きく振り上げることで払った。その直後、右手を払われた男子生徒がその場に蹲った。
「うああっ」
声を上げる男子生徒は払われた手で右目を押さえている。その右手の間から血が覗く。
「急に手を伸ばしてくるから払った際に瞼に爪が当たってしもうたみたいやね。堪忍な」
「お前、森崎に重傷を負わせておいて、何をへらへらしてるんだ」
「重傷て、大袈裟やね。瞼を切っただけや。眼球には傷一つないで」
その言い方で深雪のクラスメイトたちも気づいたようだ。手を振り払った際に偶然、市丸の爪が当たったんじゃない。市丸は腕を払うついでに爪先で瞼だけ切り裂いたのだと。
一体、どれだけの技量があれば相手の瞼だけを傷つけるなどという技が可能になるのだろう。少なくとも、達也にはできない。
「お前……」
故意だと理解してしまえば、市丸の異常さはよくわかる。もしも狙いが逸れて森崎が失明したとしたら重大事だし、そうでなくとも森崎が傷を負うことには変わらない。悪質なのは、森崎の腕を払おうとしただけという言い訳は否定しようがなく、市丸が罰せられる可能性は低いということだ。
しかし、罰せられないとしても、普通はそれを良いことに人を傷つけたりはしない。おそらく市丸は森崎がどうなろうと関心がない。
「そない大騒ぎせんとも、このくらいの傷、治療できる子はおらへんの?」
言われた一科生たちは互いの顔を見合わせるのみだ。一科生といっても実戦経験が豊富な生徒はいないのだろう。傷の治療なども経験はないのだろう。
「見せてみ」
市丸がしゃがみ込むと森崎は拒否するように後ずさる。
「傷、残ってもしらんで」
「これ以上、余計なことはしないように、しっかりと見張らせてもらうからな」
「好きにしたらええよ」
市丸が傷ついた森崎の瞼の上にそっと掌を乗せる。その後、少しして掌を離すと森崎の傷は綺麗に消えていた。
これには一科生たちに加え、達也も驚いた。御伽噺の産物ではなくなった魔法だが、あくまで体系化された技術であり、何でもできるというわけではない。
人の傷を治療するという魔法も存在するが、市丸は今、CADを持っていない。その状態から、ほんの数秒で傷を癒せるというのは異常だ。
「不思議そうな顔しとるけど、ボクが得意なのは古式魔法やからね。君らでは知らん技術もそれなりに持っとるということや」
古式魔法界のことは達也も詳しくない。そう言われてみれば、市丸がエリカに対して扇子で攻撃した際の動きは現代魔法の剣術とは少し違う技術のように見えた。それにCADを持たない状態での魔法の行使も古式の魔法師の方が得意だ。けれど、本当にそうなのだろうか。違和感が拭い去れない。
「ところで、そろそろ散ってくれへん? 司波さんが落ち着いて食事できんやないの」
少なくともCADを持つことができない学内では、市丸に勝つことはできない。それが理解できたのか、一科生たちはしぶしぶ達也たちから離れていく。しかし、その中で森崎だけは振り返って強く市丸を睨んでいた。
「市丸、よりにもよって森崎の人間をあそこまで挑発するなよ」
「森崎? 知らんなァ、有名なん?」
「森崎家はボティガードとして、それなりに知られた百家の支流だ。家業柄、実践力には自信を持っているはずだ」
「はぁー、あない弱うてボディーガードが務まるんかいな」
市丸がわざとらしく大声をあげて驚いてみせた。その声が届いたのか、遠ざかりかけた森崎が足を止めて憎悪に染まった目で市丸を睨む。
「市丸、お前こそここから去ってくれないか。彼らは、あれでも深雪のクラスメイトたちなんだ。あそこまで挑発した市丸と仲良く話しているのを見られたら、深雪まで悪意をぶつけられかねない」
「そうやね。それじゃあ司波家の達也くん、またね」
ひらひらと手を振ると、ほとんど食べ終わったトレーを手に、何事もなかったかのように市丸は去っていく。その背が遠ざかると、皆で思わず溜息をついた。
「レオ、どこが悪い奴じゃないのよ。あれは悪い奴を通り越してヤバい奴よ」
「そうかもしれません。市丸さんは森崎さんを傷つけたときも全く罪悪感はなかったようですから。あの人は悪意なく他者を傷つけられる人だと思います」
エリカと美月に続けて言われ、レオはさすがにばつが悪そうに頭を掻いている。
「お兄様、今の方は」
「すまない、深雪。後で説明する。今はひとまず食事を進めた方がいい」
市丸の起こした騒ぎにより昼休みも半ばに近づいている。これ以上は、深雪のゆったりとした食事に障る。
食事を始めた深雪を見ながら、達也は市丸を自分たちの平穏な日常を脅かす可能性のある相手と認定した。