魔法科高校の蛇   作:孤藤海

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追跡者

 達也が論文と発表原稿とプレゼン用データを学校へ提出した日、市丸は達也たち八人と一緒に校門を出た。しかし、今日の下校には尾行が付いていることを市丸は一定の距離を置いて移動している霊圧から感じていた。

 

「チョッと寄って行かないか?」

 

 尾行には達也も気づいていたようで、尾行している霊圧の方に顔を向けないように振り向きながら言った。達也のその誘いには、レオと千葉と吉田も少し積極的すぎるとも思える肯定を返した。三人ともそれぞれ思うところがあるようだ。

 

 しばらく普通に喫茶店「アイネブリーゼ」で珈琲を楽しんでいたが、達也の珈琲が半分ほどに減ったところで千葉がカップを傾け一気に中身を飲み干して、ソーサーに戻した。

 

「エリカちゃん?」

 

「お花摘みに行ってくる」

 

 顔を上げた柴田にそう答えて、軽やかな足取りで店の奥へ向かう。その直後、今度はレオが電話だと呟きながら、ポケットを押さえて立ち上がった。そして吉田は手元のノートに筆ペンで何かを書き込んでいる。

 

「それ、外で何かが起こっても大丈夫なようにしとる?」

 

「あまり派手なのは避けてほしいかな」

 

 状況から考えておそらくレオと千葉を支援しているのだろうと思って聞いたが、どうやらそのとおりだったようだ。

 

「どこまでが大丈夫なんか教えておいてくれたら考慮するよ」

 

「エリカの認識を要として、誰も近づけないという結界を作るから、あまり派手に光とか音とかを出さないのならば大丈夫だと思う」

 

「ん、それなら問題なさそうやね」

 

「いくら幹比古の結界でも、お前が本気でやると見つかるぞ。程々にしとけよ」

 

「心配せんでも、加減は間違えへんよ」

 

 それだけ答えて市丸はレオと千葉の後を追って店の外に出た。

 

「オジサン、あたしたちとイイコトして遊ばない?」

 

 そして、千葉は普通に聞けば誤解しか与えない表現を用いて市丸たちを尾行をしていた男に声を掛けていた。

 

「大人をからかうんじゃない。もう日も暮れる。こんな人通りの少ない所にいたら、通り魔に襲われないとも限らないぞ」

 

「……通り魔、ってのは、例えばこんなヤツのことか?」

 

 男が振り向いた先を、レオが黒い手袋をはめた拳を掌に打ちつけながら塞ぐ。市丸は戦闘力としては少し劣ると判断したレオの背後で待機だ。

 

「知らないの? 通り魔っていうのはね、『通り』すがりの『魔』法使いのことなのよ」

 

 千葉は手に伸縮警棒を手に臨戦態勢を取りながら言う。

 

「助けてくれ! 強盗だ!」

 

 逃げられない、と判断した男の行動は一般人を巻き込むというものだった。

 

「あっ、言い忘れてたんだけどよ、助けを呼んでも無駄だぜ? 今は、誰もここには近づかない」

 

「っていうか、近づけないんだけどね。あたしたちの『認識』を要にして作り上げた結界だから、あたしたちの意識を奪わない限り抜け出すこともできないよ?」

 

 男は薄手のジャケットを着たまま、腕を高く上げて頭部をガードする構えを見せた。どうやら市丸が一番の実力者であると気づいているようで、狙いを千葉に定めている。

 

 次の瞬間、男が精悍なファイターと化して千葉に急迫した。

 

 低い位置から腰をしならせ、鞭のようなパンチを千葉に浴びせかける。

 

 千葉は男の弾丸のような拳撃を伸縮警棒で打ち払っていく。千葉の防御は男の腕に打撃を与える攻撃でもある。そのまま攻撃を受け続けていては男は自慢の拳を繰り出せなくなるだろう。その前に男はスローイングダガーを千葉に向けて投げつけた。

 

 千葉は警棒でダガーを払った。

 

 内側から外側へ警棒を振ったことで、正面の防御に穴が開く。

 

 すかさず左のパンチが千葉の顔面に伸び、男の拳速を超えるスピードで翻った警棒を避けるために途中で引き戻された。

 

「二人とも、もうええやろ。縛道の六十一、六杖光牢」

 

 男の実力を確認するために少しばかり泳がせておいたが、大したことはない相手だ。面倒なのでさっさと捕らえてしまう。

 

「ぐっ……何だ、これは?」

 

「君が知る必要はないで」

 

「分かった、降参だ……元々私は……君たちの敵じゃない……こんなことで踏み潰されたのでは……割に合わない……」

 

「取り敢えず、詳しい話は後や。今はしばらく眠っておいてもらおか」

 

 それだけ言って白伏を使って男の意識を刈り取る。

 

「今の魔法は何なんだ、って聞いても教えてくれないんだろうな。一体、お前はどのくらいの手を隠し持ってるんだよ」

 

「ボクが何て答えるか、自分で言うてるやないの」

 

「まあ、そうだよな。それで、この男はどうするつもりなんだ?」

 

「達也ならいい場所を知っとるやろ」

 

 千葉もレオも達也が軍と関係があることを知らないので微妙な顔をしている。市丸も達也の事情を勝手に話すことはできないので詳しい説明は省いて男を店内に運び入れる。

 

「あれ、マスターはおらんのやね」

 

「お前がこの男を連れてくるとわかったから、下がってもらったんだ」

 

 変な事情説明の手間が省けて助かる。

 

「達也、この男を拘束するための場所を用意してくれへん?」

 

「ただの高校生がそんな場所、用意できると思うか? 頼むなら、七草先輩か十文字先輩にしてくれ」

 

「それじゃ、達也から連絡をしてくれへん?」

 

「だから、どうしてそれを俺に頼むんだ?」

 

「あの二人との関係なら、達也の方が深いやろ」

 

 渋る達也だが、特に七草からは気に入られていたはずだ。

 

「あの、それでしたら、わたしから七草先輩にお願いをいたしましょうか?」

 

 確かに七草との関係ならば生徒会繋がりで深雪の方が深いはずだ。

 

「七草家と十文字家なら力のあるのは七草家だ。だが、七草先輩の場合、先輩からの許可を得られても当主の弘一氏からの許可を得られるとは限らない。それならば、次期当主である十文字先輩の方が話が速い」

 

「それなら、お兄様からお話をされるということでしょうか?」

 

「何なら、もしものときに読経させるために坊主でも呼んどく?」

 

「そんなことを言っている場合ではないだろう」

 

 他の者にはわからないように九重寺に連れていくことを提案してみたが、達也にその気はなさそうだ。あそこなら軍ともかかわりがあるので、何なら九重八雲経由で風間に連絡を取ってもらうことも可能だと思ったのだが、達也は十師族は軍よりも情報統制が優れていると考えているのだろうか。

 

「それより、ここから先は最小限の人数で行うべきだ。レオと幹比古とエリカは美月とほのかと雫と一緒に先に帰ってもらえるか?」

 

 達也の提案は荒事には慣れていない女子三名を守るためと、レオたち三名をこれからの事から遠ざけるためだろう。

 

「すみません、十文字先輩。少しお話があるのですが……」

 

 レオたちが店を出てすぐ、達也は十文字に連絡を入れていた。どうやら第一高校は日本のものでない古式魔法によって探りを受けていたらしい。それを伝えたところ、捕虜の尋問に協力してくれることにしたようだ。そうして、十文字主導の元で、市丸たちは捕虜の尋問を始める。

 

「まずは名前と所属を教えてもらおう」

 

「ジロー・マーシャルだ。詳しい身分は言えないが、いかなる国の政府機関にも所属していない。また、先に述べたとおり君たちに敵対するものではない」

 

「当校の生徒たちを監視していた目的は何だ?」

 

「魔法科高校生徒を経由して先端魔法技術が東側に盗み出されないよう監視し、軍事的な脅威となり得る高度技術が東側に漏洩した場合はこれに対処することだ」

 

「へえ、それ、魔法科高校の生徒が情報漏洩に加担した場合には、それも含めて対処する、ゆうことでええんか?」

 

 市丸の確認に男が息を飲む。十文字の表情も険しくなった。

 

「せ、世界の軍事バランスは一国の問題ではない。この国の実用技術が東側に渡ることで西側の優位が損なわれることにもなりかねないのだ。これまで魔法式そのものの改良に重点を置いていた新ソ連、現代魔法の開発より前近代的な魔法の復元に力を注いでいた大亜連合も方針を変更している。君たちの学校も東側のターゲットになっているんだ」

 

「言いたいことはそれだけなん?」

 

「私はスパイではなくそれを阻止する立場だ。君たちの敵ではないし、私と君たちとの間に利害の対立も無い」

 

「それを決めるのは君の雇い主やない」

 

「もういいだろう。この男は十文字で預かる」

 

 尋問は市丸の得意分野ではないが、男の語った内容自体はあながち嘘ではないように感じた。ひとまず十文字なら男を預けても問題ないだろう。

 

 こうして、男の身柄を十文字が預かったことで、この日の騒ぎはひとまずの幕を下ろしたのだった。

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