魔法科高校の蛇   作:孤藤海

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論文コンペ開幕

 全国高校生魔法学論文コンペティション開催日当日。

 

 論文コンペは午前九時の形式重視の開会の辞に続けて、最初の発表校である第二高校によるプレゼン「収束魔法によるダークマター計画と利用」から開始された。その連絡を受けたとき、市丸は護衛対象の市原と第一高校を出発するところだった。

 

 他の同行者としては七草と渡辺もいる。二人は先に関本の尋問に向かっており、そこで得た成果を持って会場に向かうということにしていた。

 

「市丸くん、何か気になることはありますか?」

 

 市原にも何者かが平河に精神干渉を行った気配があること、平河を襲撃した者が大亜連合のエース格の魔法師であることは知らせてある。それだけに市原もこれから論文コンペの会場までの道中に襲撃が行われる可能性を警戒しているようだ。

 

「今のところは特に何も感じんなぁ」

 

 そう言ってみたものの、索敵を霊圧に頼る市丸は一般市民に紛れる敵を察知するのは得意ではない。はっきり言って攻撃がされたら、市原を抱えて車外に飛び出るというのが最初の対処になる可能性は高い。

 

 幸いにして懸念された襲撃は起こらず、本来の予定より一時間早い十一時過ぎには会場の横浜にある国際会議場に到着した。三番目の発表校である第五高校による壮大なテーマのプレゼンテーションが開始される中、市丸たちは控室に入る。

 

「予定より早い到着ですが、何か理由があったんですか?」

 

 そう質問をしてきたのは達也だ。

 

「予定より早く尋問が終わっただけだ」

 

 渡辺の答えに達也は少しばかり怪訝そうな顔をした。

 

「何故今日に? そういう事情なら明日でも良かったような気がしますが」

 

「君らしくない楽観論だな。関本や平河の妹の狙いは、論文コンペの資料だった。それだけではなかったがね。ともかく資料を狙っていた以上、コンペの当日に背後組織が新たな行動を起こす可能性は決して小さくない」

 

「それで何か分かりましたか?」

 

「ああ。今日改めて喋らせてみて分かったことだが、関本はマインドコントロールを受けていた形跡がある」

 

 その情報は市丸も初めて聞いた。というより、市丸はそもそも関本の顔すら知らないので、あまり興味を持てなかったのだ。

 

「精神科の先生は何も仰らなかったから、通常の手段ではないことは確かね。もしかしたら本物の『邪眼』かもしれない。まあ、いくら強力な精神干渉系魔法であっても、被術者に掛けられる下地が無ければそう上手くいくものじゃないらしいんだけどね」

 

 七草のその言葉を契機として魔法の在り方についての話が始まった。魔法界の将来などについての興味は薄い市丸は今のうちにと控室から出て、周囲の見回りを始める。が、その直後に声を掛けられた。

 

 声を掛けてきたのは藤林だった。そして、そのまま個室へと連れ込まれる。

 

「なんや余裕がなさそうな雰囲気ですやん。何がありました?」

 

「横須賀に向かっている途中の護送車が襲撃を受け、呂剛虎に逃げられました」

 

「逃げられたゆうことは、捕虜を殺すことさえできんかった、ゆうことやね」

 

 腕や足がなかろうと、尋問にはさして影響がない。こんなことなら腕の一本くらいは斬り落としておくべきだった。

 

「今日に間に合うように奪還を行ったのは、なにがしかの意図が推定される。少なくともその可能性を視野に入れておく必要がある、というのが風間少佐の意見です」

 

「まあ、あの程度ならどうとでもなるから、どうでもええか。それより護送車を襲撃できるゆうことは相手はそれなりの数がおるゆうことなん?」

 

「それが、生存者がいないので襲撃の規模がどのくらいかわからないの」

 

「役に立たん護送担当やな」

 

 あんな程度でも大亜連合のエースならば、それ相応の態勢は整えてほしいものだ。

 

「幸いなのは、明日保土ヶ谷で新装備のテストが予定されているおかげで部隊の出動準備が整っていることです。出発を繰り上げてこちらに向かい、一五○○に到着予定です」

 

「そういうことならボクの方でも警戒はさせてもらいながら援軍の到着を待たせてもらいますわ」

 

 風間の懸念はおそらく現実のものとなる。市丸は会場周辺の様子を確認するために外に向かおうとした。が、その前に知り合いの顔を見つけて立ち止まった。

 

「明智、来とったんやな」

 

「え、うん。少し興味があったから」

 

 少し話を聞いたところ明智以外にも第一高校の一年生がそれなりの数、会場に来ているようだ。霊圧だけで敵味方を識別することはできない。そのため、多数の人間がいる市街地での多数対多数の戦いとなると、上位鬼道に加えて卍解も使えない。それでは市丸は真価を発揮できない。

 

「例え何かあったとしても、外には出んようにしとき」

 

「市丸くんがそう言うってことは、何かが起こるってこと?」

 

「はっきりと決まったわけやないよ。けど、論文コンペ前にも学内で事件があったんやから、警戒はしておくべきやろ」

 

 この場で何かが起きた場合に最も安全なのは市丸の視界内にいることだ。

 

「わかった。市丸くんが外に向かえって言わない限りは会場内にいるようにするね」

 

「ボクは一応、市原を守らなあかんから、ボクがおらんときは十文字の指示に従い」

 

「わかった、そうするね」

 

 明智にそう言った以上、有事のときの観客の避難誘導について十文字と話をしておくべきだろう。そう考えた市丸は十文字の元に向かった。

 

「服部、桐原。現在の状況について、違和感を覚えた点は無いか?」

 

 警備本部では、十文字が桐原たちにそう質問をしているところだった。

 

「そないな質問をする言うことは何か気になっとるゆうことなん?」

 

「む、市丸か。そうだな、少し気になっていることはある。それで、どうだ?」

 

「……横浜という都市の性格を考慮しても、外国人の数が少し多すぎる気がします」

 

「それは、気を付けた方がええな。どうも大亜連合の工作員がうろうろしとるみたいや」

 

 外国人が多いとなると、どうしても大亜連合のことが気になる。呂剛虎のことは口に出さずに注意を促すために言うと、十文字たちの表情が険しくなった。

 

「桐原は何か気がついた点はあったか?」

 

「申し訳ありません。外国人の件については、気がついておりませんでした。ただ、会場内よりも街中の空気が、妙に殺気立っているように思われます」

 

 桐原は近接戦主体の魔法師だ。最近になって気付いたが、市丸は自身の近接戦能力が高いこともあり、近接戦主体の魔法師に対する評価が低い傾向がある。これまで桐原のことはあまり評価していなかったが、街中の空気から危険度を感じ取れるあたり、存外によい戦士であったようだ。

 

「服部、桐原。午後の見回りから防弾チョッキを着用しろ」

 

 そう言った十文字は、次に近距離無線機のハンドセットを手に取る。

 

「警備本部の十文字克人より会場の警備に就いている各員に告げる。会場周辺に大亜連合の工作員と思われる者を発見したという報告あり。念のため午後の警備より防弾チョッキを着用すること」

 

 市丸は情報元を明らかにしていない。その割には随分と思い切った指示だが、自分の直感も信じての指示だろう。

 

「ところで市丸は何のためにここに来た?」

 

「ああ、敵の攻撃が大規模だったときに会場内の人間をどう避難させるか、考えといてほしいて思ったんや」

 

「それは、俺たちでは対処しきれない攻撃が考えられるということか?」

 

「そういうことやね」

 

「わかった。考えておこう」

 

 護廷十三隊は戦闘部隊であったので、市丸には避難計画を立案する能力はない。ここはできそうな人間に任せるのが一番だろう。

 

 そうして時刻は午後三時なり、第一高校のプレゼンテーションが始まった。壇上では市原が抑制が効いた声で聴衆に語り掛ける。一方、内容についてはあまり興味のない市丸は会場内外の霊圧の動きを探ることに集中する。

 

 そして、事態は第一高校のプレゼンが終盤に入った頃に動き始めた。

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