魔法科高校の蛇   作:孤藤海

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入学三日目

 高校生活三日目も市丸は昨日までと変わらず昼食を取るために食堂を訪れた。そこにはいつもの人数からは少し欠けた馴染みの顔があった。

 

「今日は達也くんは、おらへんのやね」

 

 四人掛けの席にいるのは、レオ、千葉、そして柴田という名の少女だけ。達也の姿も深雪の姿も見当たらない。

 

「市丸、お前、よく何事もなかったように入ってこれるな」

 

「何事もなかったように、も何も実際に何もなかったやろ。千葉さんの怪我も傷が残らんくらいの軽傷やし、森崎って一科生も腕は綺麗に切っといたから、手術を受ければ少し時間はかかるかもしれんけど、復帰はできるやろ」

 

「あたしの制服は復帰できないんだけど。当然だけど新品だったのよ」

 

 身体への怪我は最小にする代わりに制服は派手に切り裂いた。どこの戦場から帰ってきたのかと聞かれかねない状態では帰宅するのも大変だっただろう。

 

「千葉家なら多少の生傷くらいなら日常やから、治療法も知っとると思ったけど……制服については考えとらんかったわ。それじゃ、ボクが新しい制服、買うたるわ。今日にでも採寸に行こか」

 

「結構。採寸なんかしなくてもサイズはわかっているから、制服代だけ弁償しろ」

 

「ええよ。支払先だけ教えといて」

 

「なんか意外に素直なのね」

 

「制服代だけでええなら、まけてくれとる方やろ。本当はもっと切られてしもうたとこがあるのに、そっちは請求せえへんてことやろ」

 

 そう言うと千葉はわずかに頬を朱に染めた。狙ってやったことではないが、腿を狙った突きは魔法科高校女子が着用するレギンスを斬っているし、肩や脇の傷から流れた血は下着を駄目にした可能性も高い。

 

「値段教えてくれたら、そっちも新しいの買うたるよ」

 

「結構よ! ねえ、レオ、こいつやっぱり悪人じゃない。アンタの人を見る目って腐ってるんじゃないの」

 

「うぐ……悔しいが今回は反論できねえ」

 

「えー、大事にならんように気を付けながら立ち回ったってゆうのに、君ら全員、酷すぎなんやない?」

 

「そもそも、市丸がもっとまともに立ち回ってくれたら、あんな大騒動までは発展してない。学校内で腕が飛ぶなんて、普通じゃ考えられないことだからね」

 

 腕を斬り落とされるなどという事態は死神を養成する真央霊術院ですら稀だ。現世の高校生活では、確かに簡単にお目にかかれることではいだろう。

 

「ま、これから魔法師として生きていくなら、いずれは経験することになる可能性はあるわけやから、今のうちに経験しとけて良かったんやない? それより、今日は司波の兄妹はおらんのやね。どないしたん?」

 

「あの二人なら七草会長に呼ばれて今日の昼は生徒会室だよ」

 

「昼の時間に? それなら尋問ってわけやないな。なんやろね」

 

「尋問を受けるなら、一番の対象でありながら、真っ先に逃亡した奴がいたような気がするから、そいつから始めるべきだな」

 

「へー、そない酷い奴がおるんや。誰やろね」

 

 三人揃ってじっとりとした視線を向けてくるが無視だ。

 

「まあ、妹の方は生徒会に誘われるんだろうけどな。この学校は新入生総代を務めた一年生は生徒会の役員になってるらしいから。そう考えると、今年は司波さんがいてくれて本当によかったと思うよ」

 

「あれ、ボクが新入生総代になったら、三日のうちには生徒会を掌握して一科生、二科生を問わず実力のある生徒が活躍できるようにしてあげられるのに?」

 

「今度は実力の有無が戦闘力で評価されるような気がするし、そこかしこで負傷者が倒れているような殺伐とした学校になりそうだから、是非とも遠慮してもらいたいな」

 

「そんなことあらへんよ。ちゃんと後方支援として治療が得意なのもおらんと、隊員の復帰が遅うなってしまうやないの」

 

「……やっぱり市丸が新入生総代でなくて本当によかった」

 

 酷い言われようだが、これでも前世では隊長として実際に隊を回していたのだ。そこらの高校生よりは上手く組織運営ができる自信はある。もっとも最初の手段として恐怖を用いる可能性は否定しないが。

 

「それにしても、なんで達也くんが呼ばれたんやろね」

 

「そこだよな。まさか達也から深雪さんを説得してもらうってわけでもないだろうし」

 

「妹さんが頑強に反対してるんなら可能性としてはあるけど、そういうわけやないやろし、そもそも達也くんが生徒会入りに反対する立場やったら逆効果や。達也くんの考えなんか知らんやろし、そないな危険な賭けはせえへんやろ」

 

「それもそうだな」

 

 結局、達也が呼ばれた理由はよくわからない。まあ、いずれにせよ市丸にはあまり関係のない話だ。

 

「あの、ここいいですか?」

 

 そうして食事を再開して少ししたところで、声をかけられた。顔をあげると、明智と桜小路だった。

 

「ええよ」

 

 市丸が答えると、二人は二科生三人に軽く頭を下げて腰を下ろした。

 

「二人は二科生と同じ席ってこと、気にしないんだな」

 

「え? うん、さすがに二科生だけの集まりの中に入るのは気が引けるけど、市丸くんがいるんなら大丈夫かなって。あ、自己紹介がまだだったね。私は明智英美。市丸くんと同じ一年B組だよ」

 

 明智が名乗ったのを皮切りに、桜小路、千葉、柴田、レオも簡単に自己紹介をする。

 

「ところで市丸くん、何かやったの?」

 

「ええ? なんもしとらんよ」

 

「けど、このテーブルだけ不自然に席が空いてたんだけど」

 

「それは、間違いなく市丸が原因だな」

 

 レオの言葉に千葉と柴田も頷いている。

 

「えー、ボクはただ友人を犯罪行為から救っただけやん」

 

「その後、あたしに斬りかかってきたことは、もう忘れちゃった?」

 

「あんなん、単なる腕試しやん」

 

「ええと、結局、市丸くんは何をやらかしたの」

 

「A組の子らが、この子らが気に食わんからって魔法攻撃を仕掛けようとしたんや。せやからボクはこの子らを守るためにA組の子の腕を斬り落とした」

 

 その瞬間、明智と桜小路の顔が固まった。

 

「ごめん、よく理解ができなかった」

 

「せやからA組の子らが、違法に魔法攻撃を仕掛けようとしたから、その子の腕を斬り落としたんや」

 

「ちょっと、大事件じゃない!」

 

「けど、綺麗に切っといたから、今頃は縫合手術も終えているはずや。一月もすれば何事もなかったように復帰できるはずやで」

 

「無駄だぜ、明智。こいつの倫理観、ちょっとばかし狂ってるみたいだ」

 

 レオの言葉を受けて二人が少しだけ尻の位置を遠ざけた。

 

「それにかなり喧嘩早いところもあるから、二人も事件に巻き込まれないように注意しておいた方がいいわよ。もっとも相当に腕はたつから、何か危険を感じたら迷わず頼っていいと思うけどね。市丸、暴漢くらいなら百人くらいいても、簡単にあしらっちゃえるくらいには強いでしょ」

 

「百人もおったら、あしらうのは少し面倒やわ。全滅させてええ?」

 

「駄目に決まってるでしょ! うん、前言撤回。市丸を頼るのは本当に命の危険を感じたときだけの方がいいわね。下手に頼ると殺人事件の目撃者になるから」

 

 昨日、負けそうになったことを思ったより根に持っているのか今日の千葉は辛辣だ。

 

 そんな殺伐とした出だしながら、共に社交的ということもあって、明智と千葉はすぐに楽しそうに会話を始める。柴田と桜小路も派手に笑い合ったりはないが、それなりに楽しそうに話している。

 

「あぶれてしもうたね」

 

 レオ、千葉、柴田の三人だと一見すると女子二人で会話が弾みそうだが、実際は柴田が聞き役に回っている様子だった。しかし、今は女子グループに男が一人混じっているような状態にも見える。もっとも、それは市丸が静観しているせいでもあるのだが。

 

「それにしても、市丸は何で昨日はあんなことをしたんだ? お前なら、もっと上手く収めることもできただろ?」

 

「レオはこの学校について何か感じたことはある?」

 

「感じたこと?」

 

「ボクは、なんや意図的に対立を生み出そうとしているようにも感じてるんやけど。こういうときは、何かが起こると思っといた方がええ」

 

「何かって、何だよ」

 

 レオの言葉には答えず、市丸は椅子から立ちあがった。

 

「とりあえず、しっかりと腕は磨いといた方がええで」

 

 それだけ言いおいて市丸は五人を残して席を離れた。




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