魔法科高校の蛇   作:孤藤海

61 / 88
虚と死神

 レオは今日も夜の渋谷を歩いている。怪しげな連中の噂を知り合いに聞いて回り、目撃情報を追いかけて実際に足を運ぶ。そんなレオの姿を市丸はビルの上から眺めていた。

 

 何故レオがあんなにも熱心に刑事の真似事をやっているのかは市丸には分からない。

 

 市丸の感覚は、すでに敵の存在を感知している。しかし、そこにいけば高確率で死神と遭遇してしまう。だが、レオは何かに導かれるようにそちらの方向へと進んでいく。

 

 かつての市丸は尸魂界の反逆者だった。しかし、今の市丸は直接的には尸魂界から罪を問われる立場にはないはずだ。それにもかかわらず、僅かの面倒を避けるためにレオのことを見捨てるか。

 

「さすがに、それは薄情すぎるかなぁ」

 

 本当に、尸魂界が今の市丸を害してくる可能性は低いのだ。それでも死神との遭遇を避けてきたのは、相手が市丸のことを知っていた場合は尸魂界に伝わり、警戒されることは避けられないためだ。けれど、言ってしまえばそれだけだ。

 

 望ましいのは、先に到着している者たちが対処をしてくれることだが、どうなるか。ひとまずレオの行き先に先回りしてみる。

 

「お前には発見次第消去の決定が下されている。だが他の脱走兵の情報を提供するならば刑一等を減じるとも命令されている」

 

 市丸が到着した現場では、目深にかぶった帽子にマフラーをつけた灰色の仮面が二人の追っ手に警告を受けているところだった。

 

 二人の追っ手の一人が拳銃を発射する。しかし、それは軌道屈折術式により、もう一人の追っ手へと命中した。それを見て追っ手の二人は接近戦へと方針を転換したようだ。だが、灰色仮面は手に持つナイフの軌道すら変えていた。灰色仮面はそのまま優勢に戦いを進め、ついには追っ手の背にナイフを振り下ろすところまでいっていた。

 

 だが、そこに割って入る者がいた。姿形は違うがその霊圧はリーナだった。

 

 さすがと言うべきか、リーナは灰色仮面相手に優勢に戦いを進めていく。不利を察した灰色仮面はビルの壁を蹴ることでビルの屋上へと逃走した。

 

 こちらの一人を追うか迷ったが、もう一人の敵の元にレオが到達しようとしている。まずはそちらに向かうことにした。

 

 レオはぐったりとベンチに倒れた若い女の元に近づいていた。

 

「おい、大丈夫か」

 

 恐る恐る手を伸ばし、軽く肩を揺する。女は衰弱死し掛けている。レオは救急車を呼ぼうとしていた。しかし、そのレオに迫る影がある。

 

 レオは反射的に振り返って、救急車を呼ぶための取り出していた通信ユニットを持つ手を顔の前に掲げた。

 

 通信ユニットが砕け散る。レオに襲い掛かったのは白一色の仮面だった。

 

 白い仮面は自己加速術式で間合いを詰める。レオは硬化魔法を行使する間も無く、白い仮面が持つ伸縮警棒を左腕で受けていた。

 

 レオは敵の攻撃をただ受けただけだ。にもかかわらず白い仮面の警棒は折れ曲がっていた。

 

「痛えじゃねえか?」

 

 レオのボディアッパーが白い仮面の胸を捉え、硬い音を立てた。

 

「コートの下はカーボンアーマーか? ご大層なこった」

 

 白い仮面が警棒を捨てて両手を前に突き出す。左半身で、左の拳を顎の高さに、右の拳を鳩尾の前に。中国拳法のような構えだ。

 

「そろそろ介入した方がええやろうな」

 

 白い仮面が市丸が思っている通りの相手なら、接近戦は避けた方がいい。しかし、そもそもレオは接近戦以外に有効打を与える手段を持っていない。相性は最悪だ。

 

「射殺せ、神鎗」

 

 両者が激突する直前、市丸は神鎗で白い仮面に攻撃を仕掛ける。神鎗は狙いを違わず仮面の中心を捉えた。

 

「レオ、仮面の相手に出会ったら、仮面を狙うんや」

 

「市丸……どうしてここに?」

 

「この相手、ボクにとっては少しばかり因縁があってん。ここの後始末はボクがしとくから、レオはもう帰ってええで」

 

「けど……わかった。この人のことは任せるぜ」

 

「ああ、任せとき」

 

 ベンチに倒れた若い女のことを気にしながらもレオが立ち去った。

 

「機会を窺わんでも、君らのことには気づかへんやろ」

 

「そういうお前は俺のことを認識してるじゃねえか」

 

「そら、ボクが気付かんわけないやろ」

 

 市丸の言葉が終わると同時に、黒い和服姿の若い男が現れた。

 

「十番隊長さん、少し見ん間に随分と大きくなったやないの」

 

 身長などの外見も変わった。けれど、それよりも感じる霊圧が以前とは桁違いと言えるほどに大きくなっている。

 

「あれから何年経ってると思ってんだ」

 

「それにしても護廷十三隊の隊長さんがわざわざ出てくるなんてのは、よほどこの相手のことが気になるみたいやな」

 

 そう言うと、護廷十三隊の十番隊隊長、日番谷冬獅郎が苦い顔をした。

 

「新しいタイプの虚やからな。気にならん方がおかしいな。けど、わざわざ足を伸ばしたおかげで、収穫はあったんちゃう?」

 

「まあな」

 

 街中で人を襲っていた仮面からは虚の気配を感じた。一方で、仮面に襲われて衰弱していた女の魂魄は無事だった。それは今日、襲われた女に限らない。他の被害者も魂魄自体が食われるという被害にはあっていなかった。

 

「魂魄を食わんなら、いくら虚の気配がしていようが、それは仮面の軍勢と、さほど変わらへん。それなら、尸魂界はこの件には手は出さへん。そういうことでええんかな?」

 

「ああ、そうなるだろうな」

 

「それで、ボクのことはどないする?」

 

「お前は俺の知っている市丸とは違う。だから、別にどうもしねえよ」

 

 日番谷は話がわからない相手ではない。それなら、今のうちに気になっていたことを聞いてしまおう。

 

「ところで、イヅルはどうして死んでしもうたん?」

 

「吉良が死んだことは知っていたのか」

 

「まあね」

 

「……お前たちの件から少しして滅却師たちが尸魂界に攻めてきた。吉良はその戦いで瀕死というか、ほぼ死亡したと言っていい傷を負った。けれど、マユリの手で復活して、しばらくの間は生きていたんだが……半身を失った状態で生きていくことは難しかったのか、少しして動かなくなっちまった。その戦いでは、総隊長や卯ノ花や浮竹など、多くの隊長が戦死することになっちまった」

 

 まさか山本元柳斎が戦死していたとは思わなかった。それに卯ノ花にしても浮竹にしても藍染の暗躍があったせいで新参の隊長が多い中では古参の隊長たちばかりだ。その隊長たちが揃って戦死したというのは驚きだ。それより、それほど激しい戦いだったというなら聞いておかなければならないことがある。

 

「その戦い、乱菊は無事やったん?」

 

「ああ、無事だったぜ。今も変わらず俺の副隊長をしてるぜ」

 

 それならばよかった。それより、聞き捨てならない言葉があった。

 

「なんや、乱菊は未だに副隊長をやってるの?」

 

「ああ、今や朽木ルキアに続いて檜佐木や阿散井や雛森までもが隊長をしてて、雀部が戦死した今では完全に最古参の副隊長になっちまったっていうのに……相変わらず卍解も習得できてないみたいだし。平気で仕事をさぼろうとしやがるし……もう少し向上心というものを持ってくれねえと……」

 

 どうやら百年経っても乱菊は相変わらずらしい。困ったものだと思うが、乱菊らしいとすら思ってしまう。

 

「ところで、松本に何か伝えたいことはあるか?」

 

「いや、市丸ギンはすでに死んだんや。死人が伝言なんておかしいやろ」

 

「そうか……そういうことなら俺はもう行くが、気を付けろよ。こいつらは人間とはいえ、間違いなく虚の力を受け継いでいる。お前なら気付いているだろうが、今のお前は人間だ。霊圧は以前とは比べものにならないほど弱くなってるぜ」

 

「そらそうやろ。ただの人間が人の身体のまま隊長格の霊圧なんか振るったら体の方がもたんやろ」

 

「わかってんなら、あんまり無理はするんじゃねえぞ」

 

 それだけ言い残して日番谷は去って行った。

 

「ボクを心配するなんて甘いことやな」

 

 思わずそう呟く。その後、衰弱している女のことを通報し、市丸もその場を離れた。




ちょっとだけBLEACH側も出演。
ちなみに日番谷の登場はこれが最初で最後。
共闘とかは期待しないでください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。