魔法科高校の蛇   作:孤藤海

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共闘の決意

 一条将輝は吉祥寺真紅郎と共に、もう二週間に渡り東京に滞在を続けていた。姿を消した七本槍は未だ見つかっていない。そして、不穏な話も聞こえてきた。それは、首を刈り取られた魔法師の死体が見つかったというものだった。

 

 鋭利な刃物で一撃で首を狩るというその殺害の仕方は、首狩り五郎左こと矢嶋五郎左衛門を彷彿とさせる。将輝としても、違うと思いたい。しかし、そのような魔法師が五郎左以外に何人もいるとは思えない。

 

「ねえ、将輝。そろそろ第一高校の生徒会に協力を求めた方がいいんじゃない?」

 

 真紅郎にそう言われて、将輝は考え込んだ。確かに五郎左衛門が敵方に回っているのだとすれば、もはや面子などに拘っている場合ではない。

 

「そうだな。千葉さんと吉田さんに、そのように申し入れしてみよう」

 

 真紅郎の意見もわかるが、千葉と七草と司波はそれぞれ別のグループとして行動していたように感じた。現在の協力関係である千葉の意を無視して勝手に七草や司波の側に付くというのは信義にもとる。そう考えて、まずは作戦の立て直しを図るために千葉と吉田に連絡を取った。

 

「ここ数日、強力な吸血鬼が現れて討伐隊の被害が増えているという話が伝わっているわ。それが第三高校の七本槍だとしたら、頷ける話ではあるわね」

 

 先の横浜事変の折、第三高校の七本槍は真紅郎を除いた六人で七十名以上の敵を倒した。それにより、勇名は敵味方に轟くことになった。千葉も同じ横浜で戦場に立ったと聞いているから、それが簡単なことではないことは理解できるはずだ。

 

「それで、その七本槍が敵に回ったら、どのくらい厄介なの?」

 

「七本槍は、それぞれが並みの魔法師を凌駕する実力を持っている。そこに吸血鬼の力が加わったならば、どのくらいの戦闘力になるのか想像もできない」

 

「エリカ、僕は一条さんの提案に賛成だ。そろそろ個別に対処している場合じゃないと思う。体面に拘って犠牲者を増やすべきじゃない」

 

 将輝の意見に賛成してくれたのは吉田だった。実際、討伐隊の犠牲者はすでに十名を超えていると聞いている。戦闘に耐えうる魔法師はただでさえ数が少ない。くだらない意地で人の命を失う結果になるのは、冷静に考えると馬鹿らしいことだ。

 

「そうね。そうした方がよさそうね」

 

 千葉も心の内では、そろそろ潮時だと考えていたようだ。吉田の意見も受けて最終的には将輝の意見に賛同してくれた。

 

「ひとまずは司波さんに連絡を取るのかな?」

 

「それよりも市丸さんがいいんじゃない?」

 

 言いながら真紅郎が将輝の足を踏んでくる。どうやら司波深雪目当ての発言と誤解されてしまったようだが、そうではない。将輝は一応は司波達也も頭の片隅に置いて発言をしたつもりだ。もっとも、明確に司波達也を思い浮かべていれば、司波と呼び捨てにしていただろうから、あまり強く否定はできない。

 

「どうして市丸なんだ?」

 

 思わずそう聞いてしまったのは、まだ七本槍のことを諦めきれないからだ。市丸が横浜で見せた圧倒的な戦闘能力は将輝の耳にも入っている。市丸が近接戦では将輝をも上回るほどの戦闘力を持つということは九校戦の折に知っていたが、まさか戦略級魔法に近い魔法まで使えるとは思わなかった。

 

「市丸君は吸血鬼退治の専門家と言っていいからね」

 

 戦闘力しか思い浮かばなかったが、よく考えれば市丸は、九校戦の折から見たことがない光の魔法を使っていた。吸血鬼と光を安易に結びつけるのは短絡的に過ぎると思わなくはないが、言われてみれば納得ができなくもない。

 

「市丸が専門家というのなら、俺たちとしては反対する理由はない」

 

 古式魔法師の吉田が専門家と呼ぶのだ。将輝が口を挿む必要はないだろう。

 

 真紅郎と千葉からも特に反対意見はなかったので、そのまま吉田に九校戦の折に教えてもらったという番号を使って市丸に連絡を取ってもらう。市丸から指定されたのは、第一高校近くにある千葉たちもよく通っているという喫茶店だった。

 

「久しぶりやね、用はなんとなくわかるけど、まあ、まずは話を聞こか」

 

 そう言われて、将輝が第三高校の七本槍を率いて吸血鬼事件の捜索に参加したこと。その中で七本槍のうち五人が行方不明となっていること。先日、行方不明となっている五人のうちの一人の手によると思われる犠牲者が出たことを伝える。

 

「七本槍はただでさえ高い戦闘力を持っている。最近、被害が増えているのはそのせいもあるんじゃないかとも思っている」

 

「それは心配せんでええやろ。初期にこの国に潜入してきた吸血鬼は、USNAの軍属の魔法師たちや。第三高校の七本槍がいかに普通の高校生に比べて戦闘力が高い言うても大国の軍人よりも強いゆうことはないんちゃう?」

 

 初期の吸血鬼たちがUSNAの魔法師であったというのは知らなかった。確かに将輝たちが対峙した吸血鬼は、かなりの強敵だった。将輝たちなので討伐できたが、並みの魔法師であれば敵わない相手だっただろう。

 

「USNAの魔法師といってもピンからキリまでいるだろうし、使用する魔法の特性の差もありそうだけどな」

 

 魔法力の差もさることながら、直接戦闘が得意なタイプと支援が得意なタイプでは、単独の戦闘の難易度はかなりの差が出る。

 

「魔法力自体はそこそこのはずや。達也の情報ではスターズに所属していた魔法師たちみたいやからな」

 

「そうなると、魔法力自体はUSNAの魔法師の方が上だろうな。だが、七本槍は個人での白兵戦に限れば日本でも有数の魔法師だ。俺が対峙した吸血鬼は高い回復力を有していた。どちらかといえば攻撃に特化している七本槍が回復力を得ていたとすれば、それはUSNAの魔法師よりも強敵となる可能性があると思う」

 

「ふーん、まあ白兵戦が得意な魔法師なんやったら、ボクにとっては、かえって与しやすい相手やけどね」

 

「お前にとってはそうかもな」

 

 市丸の白兵戦能力が高いことは将輝も知っている。だが、それでも反発心を持ってしまうのは、心の中では未だに七本槍を味方と思っているからだろうか。こんなことでは駄目だという気持ちもあるが、まだ敵として対峙したことがないということもあり、簡単に切り替えるのは難しそうだ。

 

 それより今の市丸の話には、悪い可能性を高める情報が含まれていた。隣の真紅郎も同じことに気づいたようで、やや顔色が悪い。

 

「USNAのスターズ所属の魔法師が日本の民間の魔法師を無差別に襲うとは考えられない。それは、軍属の魔法師が軍の指揮命令系統から離れて勝手な行動をしているということで間違いはないか?」

 

 物語の中の吸血鬼は被害者を己の眷族とする。それと同じではないにせよ、今回の吸血鬼が被害者を操る能力を持っているとすれば、七本槍が日本の魔法師たちを殺戮している可能性が高まってしまう。

 

「そういうことやね」

 

「そうか……」

 

 将輝はそれしか答えることができなかった。可能性としては考えていたことだが、可能性が高まると、やはり気が重い。

 

「けれど、気になるのも確かやな」

 

「何がだ?」

 

「追跡者から逃げとったのも、君らから逃げとったのも、基本的には勝てんと思うから逃げの姿勢やったわけやろ? 最初に言うたけど、最初の吸血鬼はUSNAの軍属の魔法師や。その吸血鬼が勝てんと思って逃げとったのに、最近は逆襲に転じることが増えたから、被害も増えとるんやろ」

 

「元から逃げる必要はなかったということはないのか?」

 

「その可能性は低いやろうな。実際、前から魔法師の被害はあったからな」

 

 確かに、最初から吸血鬼の被害は魔法の素養がある者に加え、捜索に参加していた魔法師たちだ。勝てる相手と勝てない相手を見極められないとは思えない。

 

「吸血鬼の力が増している可能性があると考えているということか?」

 

「その可能性は捨てきれんな」

 

 当初は逃げることが多かった吸血鬼が、反撃にでることが増えてきた。そこは確かに気になる。

 

「ともかく情報があったら教えてくれ。もしも、七本槍が吸血鬼となっているのなら、それは俺たちで解決をしなければいけない」

 

「気には留めといたるわ」

 

 中途半端な返答だが、今日のところはそれでよしとすべきだろう。ひとまずの回答を得て、将輝は市丸との会談を終えた。

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