魔法科高校の蛇   作:孤藤海

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第三高校の生徒の出陣

 奥山次郎は第三高校に通う、ごく一般的な生徒だった。

 

 尚武の気風の高い第三高校においても実技は九校戦の選考で、ぎりぎり選手としての出場を逃すというくらい成績はそこそこ優秀。

 

 同じく座学の面でも学年で二十位程度と、こちらもそこそこ優秀な成績だった。

 

 様々な面でそこそこ優秀ながら、特筆すべき優秀な一つは持たない。若干、器用貧乏気味なことが悩みといえば悩みであるものの、かといって致命的な不都合は感じないという人生を送ってきた。

 

 けれど、その平凡な人生は、横浜事変によって一変した。

 

 尚武の気風の高い第三高校においても実技で優秀な成績を収めていた次郎は、当然のように実戦でも通用すると思っていた。しかし、第三高校の中でも特に戦闘に長けた七本槍の戦いを見て、それは誤りだと思い知らされた。

 

 次郎には、視界に入った人間を何の躊躇もなしに肉塊に変えてしまうことなどできない。同じく、捕虜にすると監視等に人を取られて面倒だという理由だけで、邪魔者として殺害してしまうことも。

 

 人として正しいのは、おそらく次郎の考えの方なのだろう。だけど、戦場で多くの味方を救うことができるのも、多くの敵を倒すことができるのも、七本槍たちの方だ。

 

 頭では正しさを理解しながら、次郎は躊躇いなく人を殺すことができる七本槍たちのことを恐ろしいと思ってしまった。そして、それを感じ取った吉祥寺を除いた六人を、他の第三高校の生徒たちと別行動させてしまった。

 

 七本槍たちが敵に容赦のない行動を取ったのは、すべては第三高校の生徒を守るためだ。そうでなければ、根っから戦闘を好む矢嶋五郎左衛門のような例外を除けば、もっと穏当な手段も取っただろう。

 

 それ以来、七本槍と他の生徒の間には少しばかりすきま風が生じている。それは次郎たちの後ろめたさに起因するものでもあり、同時に自分たちの考えは理解されないと七本槍側から諦められたということでもあったのかもしれない。

 

 所詮は自分たちは平時には不要な存在。存在意義が認められるのは戦場のみ。七本槍側にそんな考えを抱かせた可能性すら捨てきれない。

 

 そうして、今回、更に七本槍と他の第三高校の生徒たちとの間に深い溝を生じる事件が起きた。

 

 それは、東京で発生した連続変死事件だった。どうやら、被害者は謎の衰弱死を遂げているらしい。

 

 その事件には何者かの関与があるらしい。七本槍たちは、その戦いのために学校を休んで出陣しようとした。次郎をはじめとした多くの第三高校の生徒たちの意見は、東京で発生した事件で、学生である自分たちが出陣する必要はないというものだった。

 

 その反対意見を受けて、結局は七本槍たちは単独で出陣をしてしまった。第三高校の生徒たちは、またしても七本槍だけを戦地に送り込んでしまったのだ。

 

 そして今日、一条将輝から連絡が届いた。それは、出陣した七本槍のうち将輝と吉祥寺を除いた五人が敵に操られたというものだった。

 

「どうやら七本槍は巷で騒がれている吸血鬼の手に掛かってしまったらしい」

 

 そう言ってきたのは第三高校一年生の中では将輝、吉祥寺に次ぐ三番目の纏め役と目されている片山重蔵だった。重蔵は色んな意見を聞ける優秀な纏め役と思うのだが、上に二人のカリスマがいるので、実際に纏め役として行動することは少ない。この点が器用貧乏なのが悩みの次郎と似たようなところがあり、重蔵は気が合う相手なのだ。

 

「吸血鬼と言うと噛まれると眷属にされるという話を聞いたことがあるが、騒がれている吸血鬼も同じ能力を持っているということか?」

 

「一条から聞いた話では、御伽噺の吸血鬼と少しばかり異なる相手だということだ」

 

「少しばかり異なる……か。とはいえ、重要なのはそこではないか。吸血鬼の手に落ちた者たちを救うことはできるのか?」

 

「残念ながら、戻すことは絶望的だということだ」

 

 それは、七本槍を殺すしかないということと同義だった。

 

「それで、一条たちは何と言ってきたんだ?」

 

 ただ七本槍を殺すことになるというだけの連絡なら、将輝たちがしてくるとは思えない。何かしら次郎たちにやってほしいことがあるのだろう。

 

「一条の話では、七本槍たちが吸血鬼と一緒に第一高校を襲撃してくる可能性が高いということだ。要請もないまま出陣した第三高校の生徒たちの手により、第一高校の生徒に犠牲が出ることは避けなければならない。だから、第三高校の生徒の内で出陣が可能な者は東京に来てほしいという話だ」

 

「そういうことなら、明日にでも出陣をしよう。同じような者は多いのではないか?」

 

「そうだな。だが、敵は御伽噺の吸血鬼とは違うとはいえ、吸血鬼に類する力は持っているようだ。つまり、七本槍たちの戦闘力は、俺たちが知る状態より増しているという話だった。それでも次郎は出陣してくれるか?」

 

 通常の状態でも、次郎単独では七本槍たちと戦っても敗北は必至だった。それが、より力を増しているとなれば、勝ち目は皆無だ。

 

「ここで怖気づくようでは、今度こそ尚武の第三高校の名が泣くな」

 

 けれど、次郎に躊躇はなかった。自分だけでは勝てないのなら、連携で勝利を掴めばよいだけの話だ。

 

 それに、排斥とまではいかないにせよ、横浜で七本槍たちに疎外感を与えてしまったのは事実だ。そして、それが今回、七本槍たちを単独で戦場に向かわせてしまった遠因となったのだという想いは、次郎以外にも持っているものだろう。

 

 もしも時を戻すことができるなら、横浜で自分たちだけで激戦地に向かおうとする七本槍たちに、自分たちも同行すると進言しよう。けれど、そんなことは不可能だ。ならば今の自分たちにできることは今度こそ七本槍に戦地で向き合うことだけだ。

 

「我々の過ちにより七本槍が敵に回ることになってしまったのだ。その結果、第一高校の生徒に犠牲が出るなど、あってはならない」

 

 重蔵がそう訴えたところ、横浜の件は話にしか聞いていない者も含めて、最終的には百名もの志願者が出た。次郎と同じ思いを共有していた者は予想以上に多かったようだ。そうして翌日にはバス三台を借りて第一高校に向かった。

 

 次郎たちは、将輝と吉祥寺の他に、第一高校側から現生徒会長の中条あずさ、前生徒会長である七草真由美、前部活連会頭である十文字克人の出迎えを受ける。

 

「一条さんから話は聞いています。第三高校の皆さんのお気持ちは嬉しく思いますが、私たちも援軍を要請していますので、皆さんは基本的には後方で待機していてください」

 

 どうやら七草と十文字が手勢を要請しているようだ。そのためか、現生徒会長である中条ではなく、十師族の私兵を動員する七草と十文字が指揮を執ることになったようだ。

 

「十師族が動かれるのでしたら、私たちは足手纏いにならないように行動します。しかし、第三高校の生徒が起こす問題に対して他人事として黙って見ていることはできません。我々もできる限りのことはさせていただきます」

 

 重蔵は七草と十文字を相手にも怯むことなく、そう言い返していた。

 

「しかし、敵がいつ現れるのかはわかりません。皆さんはどのようにして東京に滞在されるおつもりですか?」

 

「宿の手配は行っています。ただ、皆さんの授業中の待機場所として駐車場をお借りできないでしょうか?」

 

「駐車場だけでは不便すぎるでしょう。空き教室を幾つか見繕って提示しますので、そちらをお使いください」

 

 あるいは重蔵だけなら突っぱねられたかもしれない。けれど、同じ十師族の一条将輝が呼んだのだから、七草たちも無下にすることはできなかったようだ。

 

 こうして次郎たちは昼の間のみの二交代制で、第一高校内で七本槍の襲撃に対する警戒に当たることになった。

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