魔法科高校の蛇   作:孤藤海

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尚武

 奥山次郎は吉祥寺真紅郎が率いる第三高校部隊のうちの遊撃隊の一員として敵を待ち受けていた。第三高校部隊の総指揮官は吉祥寺真紅郎。そして、前線指揮官が片山重蔵という布陣だ。第三高校部隊は志願して強敵である七本槍の一人と思われる敵の進路上に配置してもらっている。

 

 相手が七本槍の誰であろうとも苦戦は必至だろう。けれど、皆が今度こそ横浜事変のときのような無様は晒さぬと士気は高い。

 

「見えたぞ!」

 

 声の上がった方を見れば、特徴的な大刀を持った姿がある。それは首狩り五郎左の異名を持つ矢嶋五郎左衛門だった。

 

「隊列を組み直すぞ。守備隊は後方に下がって遊撃隊を前に」

 

 守備隊は障壁魔法に長けた者たちで編成された部隊だ。相手が長距離射撃を得意とする薄衣尚之助の場合も考えて編成されていたが、相手が近距離戦専門で破壊力が高い矢嶋五郎左衛門の場合には、あまり役に立てない。

 

 逆に五郎左衛門は遠距離戦は全くできない。となれば、五郎左衛門の接近前に徹底的に魔法攻撃を叩き込むのが正攻法だ。

 

「射撃隊、左から順に射撃開始!」

 

 同じ場所に魔法を行使しようとすると、事象改変の相克が発生し、効果が発生しなくなる。それを防ぐための、予め順番を決めての連続での魔法行使だ。

 

「いざ斬り落とせ、首狩包丁!」

 

 お馴染みの言葉を呟いた瞬間、五郎左衛門の持つ刀が禍々しい鋸刃へと変化する。あれが第一高校から情報提供された帰刃というものだろうか。だが、事前の情報と異なり五郎左衛門の身体には特段の変化は見られない。

 

 第三高校でも上位の実力を持つ遠距離魔法の使い手たちの魔法が連続で五郎左衛門へと放たれる。五郎左衛門は本来はそれほど防御・回避に優れた魔法師ではない。だが、今の五郎左衛門は降り注ぐ魔法の間を縫うようにして第三高校隊の陣地へと迫ってくる。

 

 響転というものを使っているのか、五郎左衛門の速度は以前よりは格段に上だ。けれど、全く当たっていないわけではない。だが、それでも五郎左衛門の足は止まらない。

 

「あれが鋼皮というやつか……」

 

 重蔵が唸るように呟く。今の攻撃で打撃が与えられないなら、通常の魔法攻撃では五郎左衛門を止めることはできないということだ。それを見て、重蔵がもしものときのためにと用意していた特殊な装甲鎧を身に着ける。

 

「我らは一死を以て道を切り開く者。尚武の志を果たすぞ」

 

「応っ!」

 

 重蔵の呼びかけに皆が全力の声で応じる。それは長い月日の中で忘れ去られようとした第三高校の建学の精神だ。元から第三高校は新ソ連や大亜連合の侵攻があった場合には住民たちの盾となって戦うことが期待されていた。それが尚武の第三高校の原点。

 

「俺が五郎左を止める。下がった守備隊は攻撃の準備を」

 

「重蔵、二番手は俺が行く。先陣は頼むぞ」

 

 次郎の応えに軽く頷くと、重蔵は第三高校部隊の陣地を出て五郎左衛門の前へと進み出ていく。重蔵が前に出るに従い、第三高校部隊の攻撃も止まる。

 

「五郎左、一騎打ちと参ろうぞ」

 

「良い心がけだで」

 

「いや、そうでもない。俺の鎧には爆薬が仕掛けられているからな。俺が死ねば、即座に爆薬が爆発する。相打ちか俺の勝ちか。卑怯な二択だ」

 

「何の、それすら打ち破るだけだで」

 

 たとえ罠が仕掛けられていると知っていようとも、必ず相手の首を刈り取る。五郎左衛門はそういう魔法師だ。重蔵も、それを知っているから敢えて自ら仕掛けを暴露した。

 

 重蔵では五郎左衛門には敵わない。つまり重蔵はここで死ぬ。

 

 だが、重蔵の死は無駄ではない。必ず爆薬により五郎左衛門に傷を負わせる。もしくは、そこまで至らずとも足は止めさせる。そこに最大威力の攻撃と魔法を叩き込む。

 

 重蔵が移動魔法を使って五郎左衛門との距離を詰める。五郎左衛門は落ち着いて重蔵の接近を待ち、自慢の愛刀を振るわんとしている。距離を詰めながら、重蔵は五郎左衛門に向かってワイヤーを投げた。

 

 ワイヤーは五郎左衛門の身体に巻き付いたが、それ自体は刀の一振りを阻害できるものではない。五郎左衛門はワイヤーに構うことなく首狩り包丁を一閃させる。

 

 重蔵自身は相打ちか勝利かという二択を示したが、実際は異なる。重蔵にとって今回は敗北か相打ちかの二択だった。投じたワイヤーも、自分が死んだ後でも、爆薬がより効果を発揮できるよう距離を詰めるためのものだ。

 

 五郎左衛門の刃が吸い込まれるように重蔵の首に向かい、無慈悲に跳ね飛ばす。鮮血が散る中、未だ重蔵の身体は五郎左衛門の元へと進み続ける。そして、五郎左衛門に接触すると同時に爆弾に着火された。凄まじいまでの爆発が五郎左衛門の胸元で発生する。

 

「今だ! この機を逃すな!」

 

 吉祥寺が叫ぶのと同時に、第三高校で最も古式魔法に長けた高田小十郎が地面を液状化させ、足を沈ませて縛る魔法を行使する。それと同時に、元は守備隊に属していた各員が巨大な筒を五郎左衛門に向ける。

 

「総員、撃てーっ!」

 

 守備隊の各員が肩に担いでいる筒は、使用者の安全を度外視して破壊力のみを追求した携行式対艦ミサイル「ジークフリート」。誘導性能がないので命中率が極端に低い上、使用者が高度な障壁魔法を展開できる魔法師でもなければ、発射と同時に使用者の頭が吹き飛んでしまうという兵器としては欠陥品という評価すらおこがましい武器だ。

 

 だが、その代償として、破壊力だけは申し分ない。それが、一気に十発。五郎左衛門へと殺到する。

 

 この一斉射撃は、五郎左衛門は勿論、重蔵の身体をも破壊してしまうことだろう。おそらく遺体は肉片すら残らない。けれど、それを承知で五郎左衛門の足を止めるために重蔵は犠牲になった。

 

 ジークフリートの集中射撃で生じた煙が徐々に晴れていく。その中心部には、未だ立ち続けている五郎左衛門の姿があった。だが、これまでと異なり無傷ではない。全身が血濡れで、明らかに深い傷を負っている。

 

「次は俺が行く! 後は頼む!」

 

 重蔵が命をかけて時間を稼いでいた間に次郎も爆薬入りの鎧を着用している。だが、決め手となるはずの砲撃担当の守備隊の皆のジークフリートの用意は完了していない。

 

 ジークフリートは単発式。更に本体の耐久性も低く、近くに立つ者の発射により生じた衝撃波で破損するため近くに置いておくこともできない。加えて重量があるので次弾を運搬して用意するのも困難なことなのだ。

 

 まずは時間を稼がなければならない。そう考えて、次郎は五郎左衛門とは距離を取った状態で立ち止まる。

 

「次郎か」

 

 傷が深いのか、五郎左衛門の声には最初の鋭さはない。けれど、油断はできない。次郎たちの攻撃手段であるジークフリートは、何の妨害措置もなければ、今の五郎左衛門でも躱される可能性がある。

 

「久しいな、五郎左衛門」

 

 言いながら近づくも、なぜか五郎左衛門は戦闘態勢を取らない。

 

「止めよ、次郎。其方は死ぬことはないで」

 

 普通であれば、降伏を勧める言葉が続きそうだ。けれど、五郎左衛門から感じる雰囲気はそれとは少し異なる。

 

「どういうことだ?」

 

「この威力の攻撃を次に受ければ耐え切れまい。我が望みは潰えたも同然だで。すでに勝敗が決まった戦いのために、我らの貴重な戦力を無意味に減らす必要などないで。其方は生きて戦い抜くだで」

 

「何を言って……」

 

 次郎が次の言葉を続ける前に五郎左衛門は自らの首の上に愛刀を当てる。

 

「後のことは任せるで」

 

 言葉のまま五郎左衛門は自らの首の上の刃を掴み、一気に下へと押し下げる。五郎左衛門の首が地面に落ちる。そこから鮮血は散らなかった。地面に倒れた五郎左衛門の身体は崩れるように消えていく。

 

「次郎」

 

 あまりにも予想外の事態に呆然としている次郎の隣に、いつの間にか降りてきていた吉祥寺が立つ。

 

「次郎、まだ戦いは終わっていない。次の戦場に向かおう」

 

 重蔵の死を悼むこと。敵に回ったが、あくまで国のことを考えていた五郎左衛門のこと。色々と思うところは多いが、全ては戦いが終わってからだ。

 

 ジークフリートを持つ分、第三高校部隊は展開が遅い。次郎たちは急いで次の戦場に移動するための準備を始めた。

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