魔法科高校の蛇   作:孤藤海

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七本槍の最後

 七人の久留島源之丞と対峙するリーナは、確実に追い詰められていた。今のところ、どちらも相手に一撃も与えられていない。しかし、リーナが常にパレードを行使して確実に魔法力を消耗しているのに対して、久留島には全く疲れが見えない。これが吸血鬼の力によるものか、帰刃というものが消耗をしないものなのか、リーナにはわからない。

 

 これまでにリーナは何度か久留島に対して攻撃を仕掛けている。しかし、それぞれに攻撃を仕掛けてみても、今のところ全て無意味に終わっている。

 

 どの敵に攻撃を仕掛けても、傷を回復されてしまう。いや、回復というのは正確ではない。回復というよりは再生しているという印象だ。さながら、傷ついた一体の上に無傷の固体の状態を複写しているという感じだろうか。

 

 もしもそうだとしたら、最初に想定したとおり全ての敵を一度に倒さなければならないということになる。けれど、さすがにそれは難易度が高い。それに、本体がどこかに隠れていたとすれば、一巻の終わりだ。

 

 ひとまずパレードで作った幻影を向かいの建物へと向かって走らせて中に逃げ込ませる。そうして元の場所で様子を窺う。もしも纏まって建物の中に向かおうとするならば、そこを攻撃できるかもしれない。

 

 けれど、その望みは薄いだろう。そう考えていたのだが、予想に反して七人の久留島たちは纏まって建物に近づいていく。

 

「どういうことなのかしら?」

 

 纏まって建物に入ろうとしたら、攻撃をしよう。そう考えていたのに思わず考え込んでしまった。出入口が複数ある建物の中に逃げ込んだ相手を追い詰めるのならば、包囲するのが鉄則だ。せっかく何人もいるのに纏まって一つの入口から入る意味が分からない。

 

「もしかして、離れないのではなく、離れられない?」

 

 思えば、帰刃というものを使って七人に別れてから、ずっと久留島たちは全員がリーナから位置を確認できる位置にいた。リーナは一人なのだから、本来なら囲むように動くなり、隠れて機を窺うなりをした方が追い詰めやすかったはずだ。

 

「一定の距離から離れられない……いや、それとは違う」

 

 リーナとの距離が開いているとき、久留島たちは比較的散開していた。だから、リーナは戦略級魔法「ヘビィ・メタル・バースト」を使っても久留島たちを仕留めきることができなかった。だが、今はそのときに比べて距離が詰まった分、位置取りも詰まっている。

 

 最初の交戦時と今との違いを考える。すると、一つだけ思い当たることがあった。

 

 久留島が帰刃を使用した直後は開けた場所だった。それに対して、今は建物の陰に隠れるように移動している関係で遮蔽が多い。

 

「互いが視界に入ってないといけない? いや、それとも少し違う」

 

 さすがに七人もいたとしても、互いの視界に入らない瞬間は発生する。けれど、そのときには何も起きている様子はない。ということは、視界に入らないと術が解けるというような類の制約ではない。

 

「一定時間なら視界に入っていなくてもいい? いや、もう少し条件は緩くて、攻撃をしないなら視界に入っていなくてもいい?」

 

 けれど、それも違う気がする。もしも、リーナが考えた制約ならば、もう少し包囲する動きができるはずだ。

 

「もしかして、やろうと思えばできるけれど、やりたくない?」

 

 なぜやりたくないのか。それは明白だ。

 

 久留島の帰刃の能力は分身体を作ることと、その分身体の再生能力。そのうち分身体を作ることは影響を受けないことは確認済。なら、影響を受けるとすれば再生能力の方だ。

 

 まずは仮説が正しいかどうか確認するため、他と比べてやや距離がある一体にある魔法を使う。それは、対象を中心とする一定の相対距離で光の進行方法を逆転させる、外界から光が入らない、完全な闇の中に閉じ込める領域魔法「ミラー・ケージ」だ。

 

 その瞬間、明白に久留島たちが動揺したのがわかった。そのまま闇に囚われた一体に向けて全魔法力を込めてスローイングダガーを投じる。闇の中にいたこともあり、久留島は受けることができず、額に刃を受けた。

 

 ミラー・ケージを解いたとき、すでにそこに久留島の姿はなかった。そして、久留島の総数は六人に減っていた。

 

 これで久留島の乱鏡獣の能力がわかった。乱鏡獣は分身体を作り、更にその分身体が他の分身体の視界に入っている場合は再生能力を与えるというものだ。それがわかれば、対処方法はある。

 

「まさか能力を見破られるとはな……だが、こちらもその魔法、少しは見破ったゆえ、これで勝ったとは思わないことだ」

 

 そう言うと、久留島はリーナが隠れている場所に虚閃を放ってくる。

 

「不用意に魔法を使いすぎたな。最早、騙されることはないゆえ、覚悟なされよ」

 

 久留島の虚閃を躱したリーナに向けて、六人の久留島たちが突進してくる。これまでは距離を取っていたが、久留島は本来、接近戦が得意な魔法師だと聞いている。そして、接近戦であれば、間違いなく互いを視界内に収めることができる。

 

 だが、接近戦を仕掛けてくれるならば、もう一つの仮説を試すことができる。徐々に後退をしつつ、リーナは機を狙う。

 

「勝負!」

 

 そして、先頭を進む久留島がリーナまで二十メートルの距離に足を踏み入れた瞬間、空間が沸騰した。現れたのは雷光瞬く、炎雷の世界。

 

 空気が燃え上がる灼熱の地獄、「ムスペルスヘイム」。

 

 気体分子をプラズマに分解し、陽イオンと電子を強制的に分離して高エネルギーの電磁場を作り出す領域魔法だ。

 

 領域の外と内で久留島たちは三人ずつに分断されている。ダメージを受けている三体は外の三体の視界には入っていない。

 

 外との視界を遮断することが必須であるため、魔法力は多めにつぎ込んでいる。そのため消耗は激しいが、威力は申し分ない。灼熱地獄の中に囚われた三体の久留島たちがなすすべなく燃え尽きる。領域魔法の長所は、発動させてしまえば魔法力を注ぎ込むことを止めてもしばらくは現象が残るということ。その間にリーナは次なる魔法を用意する。

 

 だが、リーナが次の魔法を発動までもっていくことを、みすみす許すほど久留島たちも甘くはない。ムスペルスヘイムの領域内に囚われた三人のことは早々に諦め、リーナへと虚閃を放ってくる。

 

 ムスペルスヘイムは大魔法だ。さすがにパレードを使用しながらの行使はできない。つまり今は本体が敵から捕捉されている状態だ。そして、ムスペルスヘイムを展開して、更に次の攻撃魔法を用意している状態で強度の障壁魔法を使えるほどの余裕はない。

 

 最低限の身体強化だけで必死に久留島の虚閃を躱す。放たれた三本の虚閃のうちの一本がリーナの肩を掠める。肩が焼ける感触に構わずリーナはブリオネイクを構える。

 

 使用するのはリーナ専用の戦略級魔法「ヘビィ・メタル・バースト」。それを三体同時に倒せるように照準を合わせる。魔法の連続行使に演算領域が悲鳴を上げるのがわかる。だが、それにも構わずリーナは魔法を放った。

 

 三条の光線が回避行動を取る久留島たちを飲み込んでいく。ムスペルスヘイムの直後であるため万全には程遠いが、それでも以前に街中で放ったときのように諸々の制限を課した状態でない戦略級魔法の一撃だ。いかに高強度の硬化魔法を用いようと、簡単に防げるような代物ではない。

 

 戦略級魔法が久留島たちを背後の教室棟を含めて激しく破壊した後、そこに立っている者はいなかった。それを確認して、リーナはどさりと尻餅をついた。

 

「全く……。勝ったはいいけど、この校舎の破壊、どう言い訳すればいいのよ」

 

 スカートなのに股を開いたままというあまり人には見せられない姿だが、今は疲労が激しすぎて体勢を変えるどころではない。

 

「まあ、いいわ。それより後は任せたわね」

 

 他戦線は日本の魔法師に頑張ってもらおう。そう決めて、リーナはそのまま地面に大の字に倒れた。

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