魔法科高校の蛇   作:孤藤海

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決着

 十文字が援軍に来てからが反撃のときと定め、市丸は懸命にバラガンからの攻撃を耐えていた。最早、駆け引きは必要ないとばかりにバラガンは死の息吹を中心に攻撃を組み立てている。それに対して市丸は倒山晶などの上位の鬼道も使って懸命に距離を取る。

 

 幸いなのは、市丸には自分を倒す術があることを察しているバラガンが、完全に攻撃に振り切って遮二無二、前へと出てくるような行動は取っていないことだ。そのおかげで、まだ耐えることができている。しかし、このまま長引けば、市丸が今は切り札を行使する気がないということを察知される可能性がある。

 

 今なら勝てると確信すれば、バラガンは勝利を掴みにくるだろう。だから、けして余裕がないところは見せてはならない。あくまで防戦一方とはならないようにし、何かあると思わせながら戦うということは骨の折れる戦いだった。

 

 けれど、何とか援軍は間に合ったようだ。虚閃を円閘扇で逸らしている最中に放たれた死の息吹から必死の瞬歩で逃れていたところで、市丸の前に多重の障壁が展開された。障壁は数枚が死の息吹によって朽ち果てたが、無事に攻撃を防ぎきった。

 

「十文字、あの息には絶対に触れたらあかんで」

 

 死の息吹を多重障壁で防ぐこと自体はできた。けれど、おそらくこれまで十文字が体験したことのない速度で障壁が破られていったはずだ。そのことに驚く気持ちはあるだろうに、それを表には出していない。そして、障壁多数の犠牲と引き換えに、ようやく攻撃を防げたという事実だけで十文字は自分がなぜ呼ばれたのかを理解したようだ。さすがに鉄壁と称されるだけのことはある。

 

「次にあの攻撃が来たら、なるべくボクより前の位置で受けてくれんか? その間に敵に突っ込むから」

 

 簡単にそれだけ言いながら市丸は十文字の前に立つ。九校戦の練習のための簡単な手合わせを除いて、これまで十文字と共に戦闘を行ったことはない。細かな連携は最初から諦めた方が良い。

 

 もたもたしていたら、市丸の狙いを察知されてしまう可能性がある。どうせ一度しか試みることができない方法なのだ。次の一度に勝負をかけると決めておいた方が、互いに覚悟も決まろうというもの。

 

 狙いを察知されぬように、ゆっくりとバラガンの方へと近づいていく。そんな市丸へと向けて、二度の虚閃の牽制の後に、ついに死の息吹が放たれた。市丸は恐れることなくその中に身を投じる。死の息吹が市丸に迫る。それに触れた場合、今の市丸では助かる術はない。だが、今の市丸には最強の盾がついている。

 

 幾重もの障壁が市丸の前に展開され、死の息吹を受け止める。障壁は次々と朽ちていく。だが、後から後から障壁は現れ、死の息吹を受け止め続ける。十文字の障壁は展開の速度でバラガンの攻撃を上回っている。

 

 死の息吹が晴れる。真正面から自分の攻撃を上回る防御を行った人間の存在にバラガンが驚愕の表情を浮かべている。その瞬間に市丸は瞬歩で距離を詰める。

 

「卍解、神殺槍」

 

「ようやく卍解をする気になったか。だが、それくらい警戒しておるわ」

 

 バラガンはよほど市丸のことを警戒していたのだろう。虚と融合させた人間を全て襲撃に回さず、控えさせていたようだ。市丸が卍解を使用した直後、バラガンの身を守るように四体の虚と融合した人間が立ち塞がった。

 

 四体の融合体の実力は、七本槍よりもかなり下に思える。おそらく隠密性重視で戦闘力は二の次だったのだろう。だが、戦闘力に劣る部下たちで卍解をした市丸の足止めをしようなどなめられたものだ。

 

「神殺鎗、無踏連刃」

 

 無踏連刃は最速の卍解、神殺槍の伸縮の速度を生かしての連撃だ。高速の四連撃により、四体の新手を一瞬で葬る。

 

「ほう、思ったより普通の卍解なのだな」

 

 どうやらバラガンは、市丸の斬魄刀の卍解を、単なる始解の延長と誤認してくれたようだ。まず第一段階は成功したと言えるだろう。ただし、まだ秘めた力がないか警戒している様子が見える。

 

 けれど、警戒の方向性は今の延長にある能力を隠していないか否かだ。神鎗の卍解の真の能力に関して警戒している様子はない。ならば、市丸のやることは変わらない。

 

「射殺せ、神殺槍」

 

 市丸は自分の出せる最速で神鎗を振り抜いた。だが、バラガンも警戒をしており、自分の周辺の「老い」の力を強化していた。結果、今の自分にできる最高速度で振るったにもかかわらず、バラガンの身に傷はついていない。

 

 けれど、神殺槍の本当の力は、ただ速いというだけではない。刀身を塵状に変化させることができるというものだ。見た目の速さはその副産物。そして、今、市丸は「老い」の力で神鎗による攻撃が届かなかったふりをしている。

 

「それで終わりか。ただの藍染の腰巾着であったのか?」

 

 卍解で攻撃したのにもかかわらず全く傷を与えられなかったのを見て、バラガンが市丸を嘲りながら前に出てくる。だが、それこそが市丸の狙いだ。

 

 塵状に変化した神鎗の一部は確かにバラガンに届いている。バラガンの「老い」の能力は自分には効かないという類の能力ではない。ただ単に自分が被害を受けないように別の領域を作ることで身を守っているだけだ。要するに、領域内に入り込んだ神鎗の欠片にはその「老い」の能力を及ぼすことができない。

 

 そして、その神鎗の欠片こそが、藍染を倒すために市丸が磨き上げた能力。この欠片には魂魄の細胞を溶かす猛毒がある。それを発動させれば、バラガンを倒せる。ただし、そのためには相手に触れて解号を唱える必要がある。

 

 だが、バラガンの周囲には「老い」の力が濃密に張り巡らせている。そこに手を突っ込むということは、そのまま「老い」の力にさらされるということだ。

 

 けれど、これしかバラガンを倒せる手段が思い浮かばなかった。バラガンの前進に合わせて前に進み始めた市丸に再び死の息吹が浴びせかけられる。だが、今の時間で態勢を整えたのはバラガンだけではない。

 

 十文字の多重障壁、ファランクスが再度、市丸の前に展開されてバラガンの死の息吹を受け止めていく。隊長格の死神でさえ苦戦した死の息吹を何度も受け止めるのは、いかに十文字でも負担は大きい。けれど、これで最後なので何とか受け止めてほしい。

 

 市丸の期待に応え、十文字は死の息吹を防ぎきってくれた。これで、バラガンへの道ができた。

 

 武器を失って尚、前に出る市丸を見て何か拙い攻撃が来るとわかったのだろう。バラガンが骸の顔を引きつらせる。

 

「これで仕舞いや。死せ、神殺槍」

 

 バラガンの「老い」の領域に手を伸ばし、解号を唱える。その瞬間、バラガンの体内に侵入していた神鎗の破片から猛毒が発される。

 

「がああぁああぁ」

 

 毒に侵されたバラガンの口から絶叫が漏れる。万が一の不安として毒が効かない可能性も考えていたが、無事に効いてくれたようだ。

 

 やがて絶叫がやみ、バラガンの身体がゆっくりと崩れていく。それを見送る市丸の右腕はすでに朽ちてしまっている。どうやらバラガンが消えても身体の侵食が止まることはないようだ。

 

 空座町への侵攻時、死の息吹を浴びた砕蜂は朽ち始めた腕を斬り落とすことで侵食を止めていた。けれど、その方法は最早、間に合わない。

 

 すでに市丸の身体は朽ち始めている。今から切り離したとしても、市丸の命は失われるという段に来てしまっている。

 

「市丸……」

 

 十文字の目にも、市丸はすでに助からないと見えているようだ。

 

「気にせんでええ。こうせな倒せんくらいの相手やったゆうだけや」

 

 かつては虚の王であった相手を、ただの人間の身で倒すことができたのだ。相打ちでも上出来というべきだろう。

 

 他の戦線でも決着がついたのだろう。周辺や講堂から続々と生徒たちが姿を見せる。

 

 急いで駆け寄ってこようとしている、明智や桜小路。それに少しは話したことがあるという関係の池田や丹羽といった同級生たち。

 

 これまで何度か共闘した達也、深雪、レオ、吉田、千葉、柴田、光井。それに七草や十文字や渡辺といった第一高校の実力者たち。そして、桐原や壬生、中条、千代田という横浜などで共闘をした者たち。

 

 皆が心配そうな顔をするが何もできない中、達也だけが一人、市丸にCADを向けた。

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