魔法科高校の蛇   作:孤藤海

9 / 88
剣道部の新入部員

 色々と特殊なところのある魔法科高校だが、基本的な制度は普通の高校と変わらない。

 

 第一高校にも、クラブ活動はある。

 

 正規の部活動として学校に認められる為には、ある程度の人員と実績が必要となる点も同じだ。

 

 ただ、内容は魔法と密接な関わりを持つ魔法科高校ならではのクラブ活動の方が多い。

 

 けれど、けして魔法を使用しないクラブ活動が存在しないわけではない。

 

 第一高校二年の壬生沙耶香は、そんな非魔法競技系のクラブである剣道部に所属する生徒だ。その沙耶香は今日、剣道部男子部主将、司甲に呼ばれて部室を訪れていた。

 

「壬生か……今日、新入生が入部届を出してきた」

 

 挨拶をして腰かけたところで甲はそう言ってきた。

 

「早いですね。中学で強かった生徒ですか?」

 

「いや、中学での実績は全く聞いたことがない」

 

「高校で急に興味を持った、とかですか? 珍しいですね」

 

「珍しいのは入部届が早かったことじゃない。入部届を出してきた生徒が、今年の次席合格者だったんだ」

 

「次席合格者が剣道部ですか? なんでそんな……いや、ちょっと待ってください」

 

 次席合格者ということは当然ながら一科生だ。一科生は同じ剣を扱う部活でも魔法系競技である剣術部に入る。基本的に魔法技能に誇りを持つ一科生は、せっかくの魔法力を生かせない剣道部に入ることはない。けれど、そこまで考えたところで今年の次席合格者について流れている噂を思い出した。

 

「今年の次席合格者の市丸ギンといえば、違法な魔法行使に晒された二科生を守るために同じ一科生の腕を斬り落としたという人ですね」

 

「壬生、そんな綺麗な話ではない。市丸は他の一科生に、同じ一科生といえど自分との間には大きな差がある。それなのに対等であるかのように振る舞うな、と言ったようだ。結局、本質としては一科生ということだ」

 

 甲から話を聞いて、紗耶香は酷く落胆した。最初に話を聞いたときは、一科だとか二科だとかにこだわらず正しいことをしてくれる人物と期待したのだが、市丸も所詮は魔法を至上と考える一科生の一人に過ぎなかったということだ。

 

「あれ? けど、それならどうして剣道部なんですか?」

 

「それは壬生と同じく疑問に思った。ひょっとしたら剣道部と剣術部の違いを理解していないのかもと考えて両部の違いを詳しく説明をしたが、剣道部への入部希望で間違いないということだった。入部を拒否することはできないから、入部自体は認めざるをえないが、壬生の方でも市丸の狙いについては、それとなく探ってくれないか?」

 

「考えたくはないですけど、剣道部を乗っ取るつもりかもしれませんからね」

 

 一人で剣術部を我が物にすることは難しいが、二科生ばかりの剣道部なら自分の好きにできると考えてもおかしくはない。用心はしておくべきだろう。

 

「ところで、今日の第二小体育館で行われる演武に市丸君は出すんですか?」

 

「まだ実力も何もわかったものでない一年生を出すわけはないだろう。まあ、頭数は多く見せる方がいいから、適当に防具だけ付けて座らせておこう」

 

「そうですね」

 

 市丸は中学での競技経験はなさそうだと言っていた。そんな素人を演武に出しては剣道部のレベルが低いと勘違いされるだけだ。

 

「さて、そろそろ時間だな。壬生、演武の方は頼んだぞ」

 

「わかりました」

 

 今日から始まる一週間の新入部員勧誘週間。その大事な初日に剣道部は新入生に向けてのデモンストレーションの演武を披露する。紗耶香も剣道部の主力であるので当然参加だ。まずは、ここで一人でも多くの有望な部員を獲得する。それが、部全体の実力を底上げする近道になるはずだ。

 

 気合を入れ直した紗耶香は、通称で「闘技場」と呼ばれている第二小体育館に移動した。予定通り市丸は防具を付けて隅に座らせ、紗耶香は剣道部の皆と演武を開始した。

 

 今日の演武はあくまで模範試合だ。互いにどのように動くかは打ち合わせておいて、あくまで見栄えを意識した技で一本を取る。と、そこで観戦エリアの下から声が響いた。

 

「殺陣を披露したいだけなら、闘技場でなく別の場所でやったらどうだ」

 

 声の方を見ると、剣術部の二年、桐原武明がいた。

 

「どういう意味?」

 

「どうもこうもないだろ。こんな演劇ごっこは武道じゃないって言ってるんだ。武道だと言うのなら、それ相応のものを見せてみろよ」

 

「これから見せるところだ」

 

 そう反論したのは剣道部の三年生の作田だ。それに対して桐原が獰猛な笑みを見せた。

 

「そうか、だったら見せてもらいたいものだな。ほら、遠慮なく打ってこいよ」

 

 無造作に右手に竹刀を握り、寄ってくる桐原に向けて作田が竹刀を振り下ろした。しかし、桐原は難なく作田の竹刀を払い、逆に作田の面に強烈な一撃を加える。作田は意識が飛んだようで、仰向けに倒れた。

 

「剣術部の順番まで、まだ一時間以上あるわよ、桐原君! どうしてそれまで待てないの?」

 

「心外だな、壬生。あんな未熟者相手じゃ、新入生に剣道部随一の実力が披露できないだろうから、協力してやろうって言ってんだぜ?」

 

「そないなこと必要ないこともわからんとは、ほんまに君らはしょうもないなァ」

 

 そこで横から声が入ってきた。妙なイントネーションのその声の主は防具を付けて座らせていた市丸だった。

 

「どういう意味だ?」

 

「実力を披露するため協力? そないな腕で何を協力するんや。ボクが足で竹刀持った方がましや」

 

「何だと」

 

「あれ、まだわからんの? 君程度では出る幕はない、言うとるんやけど」

 

「ちょっと、市丸君! 勝手に入ってこないで!」

 

 紗耶香が市丸の名を呼んだことで会場にざわめきが広がった。今までは面をつけていたこともあって市丸だと気づかれてなかったのだ。

 

「お前が市丸か、随分と傲岸不遜な奴みたいだな」

 

「傲岸不遜て、ボクはただ事実を言うとるだけなんやけどな」

 

「一年の中で上位だからって、あまり調子に乗るなよ」

 

「調子になんか乗っ取らんよ。ボクはただ実力を正確に評しとるだけや」

 

 感情を露わにする桐原と、淡々と挑発をする市丸。そして、ついに桐原が切れた。

 

「いいだろう。だったら、その実力を見せてみろ!」

 

「ええん? ボク、手加減はできひんで」

 

「必要ない。勝つのは俺だからな。見せてやるよ。身体能力の限界を超えた次元で競い合う、剣術の剣技をな!」

 

 言い終わると同時に、桐原が市丸の頭部目掛けて、竹刀を振り下ろす。けれど桐原の竹刀が打ったのは板床だけだった。

 

「いやー、この防具ってのは重うてかなわんわ。脱がせてもらうで」

 

 その言葉は、桐原の背中側から発されたものだ。市丸はすり抜けるように桐原の一撃を躱して、そのまま後ろから外した面を桐原の頭に乗せた。

 

「何……だと……」

 

 桐原の驚愕は当然のものだ。桐原は手を抜いた一撃を放ったわけではない。市丸が面をつけていたこともあり、遠慮なしの全力の一撃だった。それを躱しただけでなく、一瞬のうちに桐原の背中側に回り、あろうことか面を外して桐原に被せるまでを行った。

 

「速すぎる」

 

 桐原は一昨年の関東剣術大会中等部の優勝者。同年代ではトップクラスの実力者だ。市丸はその桐原を、完全に子ども扱いしている。その実力に紗耶香は震撼した。

 

「そろそろボクも打たせてもらお、思うてるんやけど、その防具、つけんでええん?」

 

「ふざけ……」

 

 振り返りざま、桐原が竹刀を振るおうとした。けれど、市丸の方が早い。市丸の一撃は見事に桐原の面を強かに打ち付けた。次の瞬間、付けさせられていた桐原の面金が割れ、額から血が噴き出す。桐原が膝から崩れ落ちるように前のめりに倒れる。

 

「誰か、早く治療を!」

 

 周囲で桐原の戦いを観戦していた剣術部員たちが紗耶香のあげた声を機に、一斉に動き出す。こうして、剣道部の演武は騒然とした雰囲気の中でなし崩し的に終了となった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。