【完結】もしもウマ娘がブラコンお姉ちゃんだったら最高だよね杯 作:藤原ロングウェイ
急に増えたと思ったらランキングに載ってたんですね。ありがたいことです。
今回はブラコンというよりだいぶコメディ寄りになってます。私の悪い癖。
俺の名はアスカ。トレセン学園のトレーナーにして誇り高きメジロ家に名を連ねる者でもある。
あのメジロ一門の男性トレーナーということもありトレセン学園でその名を轟かせている……はずだったのだが、同期にあの桐生院家の秘蔵っ子がいたせいで影が薄くなってしまった悲劇の人(自称)である。ファッキン桐生院。
まぁそんな俺も姉であるメジロマックイーン、通称クーねぇと共に修羅の道を歩み、多くの
正直俺の力というよりはクーねぇの才能と努力の賜物であるのだが、弟としてもトレーナーとしてもメジロ家の人間としてもこれほど嬉しいことはない。
そして今日は久々のオフだったので朝早くから買い物にいき、お昼過ぎに帰ってきたら現れたクーねぇに拉致されるようにカフェテリアに連れて来られた。
連れて来られたのだが……
「ついに激闘を制し、メジロ家の悲願である天皇賞を勝利で飾ることが出来ましたわね。チラッ」
「……そうだね、これもクーねぇが頑張った結果だよ」
「そんなことありませんわ。皆の応援もありましたし、何よりアスカが常に
「……そう言ってもらえると嬉しいよ」
この姉、さっきから会話しながらもテーブルの隅に置いてあるチラシを常にチラチラ見てやがる。
気づいてはいたがそのまま放置していたら、今度は口で『チラッ』とか言い出し始めやがった。
そのチラシには……
『最高と至高がまさかのタッグを組んだ!? あの有名な夕張メロンと幻のメロンと言われるナイルメロンを贅沢に使用した、最強のメロンパフェ【
と書かれている。
クーねぇ……これを狙って俺をカフェテリアに拉致したのか。
しかも直接言わずに『あら、偶然こんなものを見つけてしまいましたわ? 時間もあることですし、いってみましょうか?』みたいな方向で持っていこうとする悪質さよ。
ちなみにクーねぇの財布の中身と食事内容は全て俺が管理している。
子供の頃から
『太りましたわー!?』→絶食して倒れる
『痩せたからちょっとくらい大丈夫ですわー!』→太る
を定期的に繰り返した結果、うちの親がブチギレたからね。
幼少の頃からクーねぇはウマ娘としての才能を見込まれていたので、こんなアホなことで体を壊させるわけにはいかなかったのだ。
ちょうど弟の俺にメジロ家のトレーナーとしての才能があることもわかっていたので、これ幸いにと幼い頃から専属トレーナーになるべく教育されてきた俺の努力と苦労をわかっていただきたい。
トレーナーなのに美味しいダイエットメニューとか甘いけど太りにくいデザート作りとかもうプロ級ですよ。
あと財布に関してはクーねぇに任せるとすぐやきうグッズ買い漁って部屋が大変なことになるから。つーかなったから(経験談)。
そんなクーねぇの策略をスルーしていると、クーねぇが俯きなにやらボソボソ呟く。
「……もしかして、アスカはアホの子だからチラシに気付いていない可能性がありますわね」ボソッ
んなわけあるか。
もうここまで来るとクーねぇがどこまでやるのかが見たくなってしまうな。
「こうなったら第二段階に移行ですわ」ボソッ
「どうしたの?」
「え!? い、いえ、なんでもありませんわ! ……ふじさんろくにおうむなく!」
何の前触れもなく、いきなり声を張り上げるクーねぇ。
……なんで突然√5?
突然の姉の奇行に弟氏、困惑。
すると、俺たちの隣のテーブルに静かに座っていた二人のウマ娘が急に大きな声で騒ぎ出した。
「ねぇねぇ、最高と至高がまさかのタッグを組んだらしいよ!?」
「えー! あの有名な夕張メロンと幻のメロンと言われるナイルメロンを贅沢に使用してるのー!?」
「最強のメロンパフェ【
「期間限定・個数限定で販売開始だって! 洋菓子店データイースト工房に急がなきゃ!!」
「私の味覚も195ミリバーストしてほしー!!」
○すぞ。
何もかも雑すぎだろ。チラシに書いてあることそのまま喋ってるだけやんけ……
しかもなんだよ私の味覚も195ミリバーストしてほしいって。意味がわからん。
俺が絶句しているとウマ娘さんたちがクーねぇにさりげなくチラ見し、クーねぇが小さく頷き親指を立てる。
するとペコっと頭を下げどこかへ去っていくウマ娘さんたち。
さっきの√5がこれの開始の合図だったのか……
うちの姉がアホなことに付き合わせてしまい大変申し訳ない。
あとでクーねぇからあの子らの名前を聞きだして何か埋め合わせをしてあげないと……
「……なんかすごかったね」
「なんのことかさっぱり! さっぱりわかりませんでしたがそうですわね!」
クーねぇは『これは決まりましたわ! アスカのハートに直撃ですわー!』って感じのドヤ顔してる。
さっきの棒読みの猿芝居で心動くやつなんていないやろ。(ただし、スペちゃんとオグリさんは除く)
もしかしなくても俺の姉、アホなのかな?
いや、知ってたけれども。
「そーいえばさぁ」
「っ!? なんですの?! なんですの!? もしかしてメから始まる美味しい話題ですの!?」
食いつきすごいな。
それなら……
「ゴルシが球体から穴をくり抜いてドーナツにするバイトしたことあるらしいけど、時給いくらなんだろうね?」
「クッソどうでもいいですわー!!」
絶叫するクーねぇ。
メジロ家の一員たるもの常に優雅たれと言われて育ったが、そんなの関係ねぇ!って感じですね。
お労しや、姉上……
「なんなんですのその話題は! もうめっちゃどうでもいいですわ!」
「えー、そうだねぇ……じゃあメ──」
「メ!?」
「メジロ本家の親戚の親戚の親戚の友達って言ってたけど、ぶっちゃけそれって全然関係ないよね、ゴルシ」
「しったこっちゃねーですわーー!!」
またもクーねぇ絶叫。
はぁはぁ言ってるので少し待ってあげる。
「……落ち着いた?」
「落ち着きましたわ……」
疲れた感じのクーねぇが『どうすればいいんですの……』とか言ってる。
申し訳ないが我が姉ながらその姿がとてもかわいい。
S寄りな弟ですいませんね。
「そりゃ良かった。あーあとそう言えばなんだけど~」
「はぁ……今度はなんですの? ゴールドシップが爆発でもしたんですの?」
「そのチラシに書いてある限定メニュー、もう販売終了したってね」
「そうですの、爆発し……え?」
はぁ……とため息をついた姿勢のまま固まるクーねぇ。
「メロンマックス2。もう販売終了したってさ」
「……嘘ですわよね?」
「メジロ家の一員たる者、嘘をつくべからずってね」
「……………………この世界に、存在する価値はあるんですの? 滅ぶべきではありませんの……? 人間も……ウマ娘も……」
眼から光が消えたクーねぇが世界系ゲームのラスボスみたいな言葉を漏らす。
「そんな……私のメロンマックス2が……」
「まぁ大人気だったらしいからいつか復活すると思うよ。メロンマックス2改とかメロンマックス2リローデッドとかで」
「そんなもの、いつになるかわからないじゃない……!! あぁ……こんなにも苦しいなら……愛なんて知らなければよかった……!!」
両手で顔を覆いながら南斗鳳凰拳の伝承者みたいなことを言い出したクーねぇ。
メロンパフェ好きすぎやろ。
さて、もっとクーねぇの色んなかわいい姿を見ていたいがそろそろかわいそうなのでここでネタばらし。
「まぁ今日作る予定だったからちょっと待ってて」
「……………………え? 今、なんと?」
「メロンマックス2。今日作る予定。夕食後のデザート。OK?」
俺の言葉を聞いて呆然としているクーねぇ。
「この前チラシ見てお店に電話したんだけど、その時にはもう売り切れててさ。だからお願いして材料とレシピ教えてもらった。あのメジロマックイーンさんに食べてもらえるならって特別にね」
「メロンマックス2が、食べられるんですの……?」
「今日の午前中に買い物いってたのは材料の仕入れ。まぁ本職には劣るし材料もカロリー控えめなものに変えてるから完全にではないけどね。残念だけどそれで我慢して──」
「アスカー!!!」
話し終える前に笑顔のクーねぇに思い切り抱きしめられる。
「さすが私のアスカですわ!! なんて出来た弟なのかしら!! あーもう、大好きですわーーー!!」
大好きな姉の腕の中で。
大好きな姉のとても嬉しそうな声を聞きながら。
大好きな姉のためにも頑張って美味しいメロンパフェを作らなくちゃと思いつつ──
「……アスカ? アスカ!?」
──俺はゆっくりと意識を失ったのだった。
いくら大好きな姉だろうと、人間がウマ娘から全力で抱きしめられたらそりゃあ、ね……
とっぴんぱらりのぷう。