【完結】もしもウマ娘がブラコンお姉ちゃんだったら最高だよね杯 作:藤原ロングウェイ
「よーし! 丸太は持ったかー!」
「オォー!」
動きやすい服装に着替え、掃除を開始する。
まぁイオねぇの指示に従って動いているだけなので苦労はない。
重いものはイオねぇが持ち上げて移動させちゃうからね。
さすがウマ娘、ヒトミミ族では抗えない素晴らしいパワーをお持ちで。
「アースーカー。これはなんなのかなー?」
そんなことを考えていると、イオねぇが低い声(それでも十分高いが)を出しながら何かを手に持ってやってきた。
それはどこにでもある、極々普通のウマ娘関連の週刊誌だった。
表紙にデカデカと『魅惑のお姉さんウマ娘大特集!』という文字と、マルゼンスキーの水着姿さえなければ。
「あーそれね。はいはい。それね。うんうん」
「……で? 何これ」
「週刊誌ですが何か?」
「えっちな?」
「いやいやいやいや。何を仰るウマ娘さん。ちゃんとここ見て。その見出しの下。『対談!名トレーナー東条ハナ!』。これを見たくて」
『魅惑のお姉さんウマ娘大特集!』の文字の下にある記事を指差す。
が、オレの説明に疑いの目を向けるイオねぇ。
「ふーん……トレセン学園に本人がいるんだから直接話せばいーじゃん」
「いくら天才のオレでも新人トレーナーがあの東条トレーナーに話聞かせてって強請るのも恥ずかしいし……」
「なるほどね。じゃあこの『魅惑のお姉さんウマ娘大特集!』のために買ったわけじゃないんだね」
「当然です。チラ見すらしてません、サー!」
敬礼で答えるオレ。
ごめんね嘘です。マルゼンスキーのページとかスーパークリークのページとか、ちょっとドキドキしながら見てました。
「対談以外のページは読んでないんだ」
「イエス、マム」
「へー。じゃあこのゴルシのページに本人のサインがあるのはなんでかなー?」
「……はぁ?」
何をバカなことを。
確かに編集者が何をトチ狂ったのかゴルシも魅惑のお姉さん枠で入ってたけど。
そもそもこの雑誌は誰にも見せてないんだからサインなんてあるわけ──
「ほら」
「なんであるの!?」
──ないはずなのに、なぜかゴルシのページ(の、よりにもよって谷間強調してだっちゅーのポーズの際どいページのところ)にサインが。
しかもご丁寧に『ゴルシ様からアスカきゅんへ♡』とか書かれてやがる!
……あの腐れウマ娘がぁぁぁ!!
どうやったか知らんが、今度シンコウウインディとスイープトウショウとトーセンジョーダンを率いて復讐しにいってやるからな!
ちなみにジョーダンはピンチの時の生贄用だ。(策士)
「ちょっとよくわからないっすね。ゴルシがなんかしたんじゃないっすか?」
「……ふーん。まぁいいや。これは没収ね」
「えっ!?」
没収はちょっと、勘弁してほしいっていうか! なんていうか!
「もう読んだでしょ?」
「よ、読んだけど……でもほら、あとでまた読み返すかもしれないし! 対談! もちろん対談をね!」
「アスカは天才だから、一回読んだ本の内容は全て記憶してるって自分で言ってたよね? じゃあいらないよねー?」
ニッコリ微笑むイオねぇ。
なお、目は笑っていない模様。
「いや、その……」
「いらないよね???」
「はい、いりません」
やばい、いつもの『ボク、怒ってます』の顔じゃなくて真顔になった。
ケンカとかお説教の時に真顔になるとヤバイっていうのは経験則でわかってる。
ここは言うことを聞くしかない。
さらば、オレの『魅惑のお姉さんウマ娘大特集!』。お前のことは決して忘れないぞ!
……いや、まぁ特集されてるウマ娘の大半は学園内にいるんだけどね。
でも本人を目の前にすると恥ずかしくてちゃんとお話できないんだよなぁ。
「さて、これはあとで燃えるゴミに出すとして、次は洗濯だね」
「ういっす。でも洗濯はそれなりにやって──」
「これ、洗濯機の中に靴下が片っぽしかなかったけど? そしてもう片っぽはソファーの下に転がってたけど?」
「あーいや、それはほら……疲れて帰ってきて、ついそのまま脱いでポイッと」
「はぁぁぁ……」
イオねぇの深い溜息。ごめんなさい。
「アスカはほんとなぁ。これじゃあカノジョとかこれから先もずっと、一生できないね」
「いや出来るでしょ。史上最年少トレーナーだよオレ? イオねぇほどじゃないけどけっこうすごいんだよ?」
それにオレだってあと数年もしたらイケメンになる(予定だ)し、ウマ娘からモテモテだから。
他のトレーナーさんたちみたいに赤ちゃんにされたり、もらったジュース飲んだら黄緑色に発光したり、たづなさんに化けた正体不明に襲われたりするから。
……ん? あれ、なんだろう、モテてるはずなのに全く羨ましくないぞ……?
「いーや、出来ないね。断言するね! もしカノジョが出来たらそれはセーメーホケン狙いか、高い壺を買わされるか、シューキョーのカンユーの三択しかないよ!」
「三択オンリーっすか……」
地獄の選択肢じゃねーか。
「ねっ? だからカノジョとかいらないって」
「でもそしたらオレは一生独身なのでは……?」
「そこはほら、このテイオーお姉ちゃん様が一緒にいてあげるから! お姉ちゃんだからね! しょーがないよね! エヘヘ」
めっちゃ嬉しそうなイオねぇ。
うーん……オレとしては正直それでもいいんだけどね、別に。
ただ美少女で天才で完璧超人のイオねぇにこの先恋人ができないはずないからなぁ。
「…………」
「何してんの?」
そんなことを考えていると、イオねぇがオレのトランクスを持ってじっと見ていた。
「……これ、ボク初めて見るやつじゃない? いつ買ったの? 誰と買いに行ったの?」
「この前、沖野さんと買い物に出かけてそん時に」
あの人は変人だけど、オレみたいなシャバい小僧でもちゃんとトレーナーとして扱ってくれるから人間出来てるわ。
まぁ『ウマ娘好きに悪いやつはいない!』っていうのを地で行く人だしね。
つーか『ボクが初めて見るやつ』って何? 持ってるトランクス一枚一枚まで把握されてるのオレ?
「ふーん……まーいっか。他に買ったやつは?」
「え、そこの洋服入れに入ってるけど」
「テイオーお姉ちゃん様ちぇーっく!」
そう言うと洋服タンスから服を引っ張り出すイオねぇ。
いや、洗濯は……?
「よし、これで完璧かな!」
「ありがとうございました……」
やっと掃除と洗濯が終わった。疲れた。色々と。
「もうお昼過ぎだねー……たまには外で食べよっか。テイオーお姉ちゃん様が奢ってあげよう!」
「ひゅー! テイオーお姉ちゃん様太っ腹ー!」
「はっはっはっはー!」
シャワーを浴びて服を外用に着替え、二人でトレーナー寮を出る。
「あー! アスカトレーナーじゃーん!」
すると、ランニングをしていたっぽい高等部のウマ娘集団がオレたちに近づいてきた。
「アスカトレーナーどこいくのー?」
「外にご飯食べにいきます、じゃなくていくんだ」
立場的には指導する側のトレーナーとされる側のウマ娘ではあるが、オレの場合は年齢がアレなのでつい敬語がでてしまう。
「大人ぶっててカワイー!」
「敬語! もっかい敬語使ってしゃべってみて!」
「や、やだよ! 触るな! 離せ!」
「顔赤くなってるー! カワイー!」
ウマ娘たちにもみくちゃにされる。
くそ、愛玩動物扱いじゃねぇか……!
ウマ娘っていつもそうですね……! オレのことなんだと思ってるんですか!?
すると、イオねぇがウマ娘たちをベリッと剥がし、ズイッと前に出る。
「ボクたち、これからデートだから!!」
仁王立ちでデート宣言するイオねぇ。
まぁ『異性と二人きりでおでかけする』がデートの定義だから間違っちゃいないが。
「で? ボクのアスカに何か用?」
「いやー、えっとぉ……なんでもないですぅ~。お気をつけてぇ~」
「……フンッ! アスカ、いくよ!」
「ういっす。それじゃあ失礼しま、じゃなくて失礼する」
イオねぇがオレの手を握ってズンズン歩いていく。
後ろからは『二人共カワイー!』という声が上がる。
「……キッ!」
イオねぇが振り向いて睨むと『キャー♪』とか言いながら走り去っていくウマ娘たち。
からかわれてんなぁオレら。
「…………」
無言で歩き始めるイオねぇ。
イオねぇが目に見えて不機嫌になってしまった。
さてどうするか……近くに三女神の像があるな。これでいくか。
「イオねぇ、ちょっと女神像のとこで待ってて」
「えっ? 忘れ物?」
「すぐ戻るからさ!」
走ってそこから遠ざかる。
振り返ってイオねぇを確かめる。よし、ちゃんと女神像の前にいるな。
そしてすぐに全力疾走でイオねぇの元に戻る。
「……何してんの?」
「はぁ、はぁ……ごめん、待った?」
「うん?」
オレの行動と言葉が理解できていないイオねぇ。
はずしたネタを説明するのは恥ずかしいが、仕方ない。
「デートでよくあるじゃん? 『ごめん、待った?』『ううん、今来たとこだよ』ってやつ」
「…………プッ! あはははははは!! 何それ!? それをやるためだけに走って距離とって走って戻ってきたの!?」
「ほら、イオねぇ、セリフ。ごめん、待った?」
「クスクス……もう、しょうがないなー! ……すごい待った!」
「えぇー!? そこは『今来たところだよ』でしょ!? 実際今来たばっかなんだから!」
「あはははははは!!」
オレを指差して爆笑するイオねぇ。
良かった、機嫌が直ったみたいだ。
「はー、はー……アスカが頑張って体を張ってくれたから許してあげましょー。優しいテイオーお姉ちゃん様に感謝するぞよー!」
「ははぁー! ありがとうございますぅー!」
そしてオレたちは笑いながら手を握り、外へと歩き出した。
次回へ続く