【完結】もしもウマ娘がブラコンお姉ちゃんだったら最高だよね杯 作:藤原ロングウェイ
ブラコン度をAにするかB+にするかで迷いましたが、王の矜持で弟のデートの尾行は我慢するだろうなと思ってB+に。
ファインモーション実装おめでとう!
私はトレセン学園に所属しているウマ娘。
今日は室内トレーニングをしてるのだが、どうしても黙々とランニングマシーンを走り続けている一人のウマ娘をチラ見してしまう。
その人はキングヘイローさん。
今でこそ尊敬しているが、実は最初はキングさんのことが苦手だった。
自分で『一流』を自称してはいるが模擬レースの結果はそれほど振るわず、キングさんより速い本当の天才たちなんて何人もいたからだ。
負けても負けても一流を自称し天才たちに勝負を挑むキングさんを『勝てっこないのに、バカなやつ……』と冷ややかな目で見ていた。
ある日のことだった。
いつ雨が降ってもおかしくない悪天候に加え、前日の大雨で馬場は最悪。
そのため誰もが室内トレーニング場に押しかけたが、予約で埋まっていてほとんどのウマ娘は練習を休んでいた。
私もそのうちの一人で、内心『ラッキー、練習休むけど、練習できないからしょうがないよね』なんて思っていた。
部屋に籠もって友人たちとおしゃべりしたりゲームしたりして、罰ゲームでカフェテリアまでお菓子と飲み物を買ってくることになった時に、ふと練習場を見た。
キングさんが走っていた。
体操服を泥まみれにしながら、一人で黙々と走り込みをしていた。
「あっ」
私はつい声をだしてしまった。
キングさんが泥に足を取られて転んでしまったのだ。
コースに倒れ、泥だらけになったキングさん。
『もういいよ。あなたは頑張ったよ』
『早く寮に戻って、洗濯をして、お風呂に入って、暖かいココアでも飲んで休みな?』
そんな私の思いとは裏腹に。
キングさんは立ち上がり、また走り出した。全身泥だらけのまま。
キレイだと思った。
泥だらけだし、そこまで速いわけでもない。
それでも、走り続けるキングさんはキレイだと思ったのだ。
それと同時に恥ずかしくなった。
今日は馬場が最悪? 雨が降るかもしれない? 室内トレーニング場が満員?
だったら部屋で筋トレをすればいい。走り方の研究でもすればいい。ダンスレッスンでもいい。
でも、私は何もやっていない。
そんな私がキングさんのことを『天才たちにボロ負けし続けてるのに自分で一流なんて名乗って恥ずかしくないのか?』なんて思っていた。
一番恥ずかしいのは、天才たちとは出来が違うとか、自分は凡人だからとか言い訳をして、負けることを受け入れていた私自身だ。
何度負けても、次こそはと努力を続けるキングさんをあざ笑っていた私自身だったのだ。
それからはキングさんを目で追うようになった。
そうすると気付く。
朝は私達が練習場に来るよりも早く来て走っていることに。
夕は私達が練習終わりの後片付けをしている時もまだ走り続けていることに。
キングさんは
それでも弛まぬ努力を続けているのだ。
負けたくないと。勝ちたいと。
あの『一流』という言葉も、きっと何か意味があるのだろう。
私は天才たちを見て、いつも『ああ、こういう人たちがレースに勝つんだろうな』と思っていた。
でも今は違う。
キングさんを見て『この人にレースに勝ってほしい』と思うようになった。
そして『私も同じ舞台に立ちたい、この人に恥ずかしくない走りをしたい』と思うようになったのだ。
そうしてキングさんのファンになった私だが、だからといっていきなり気安く声をかけることはできなかった。
常にストイックに練習をするキングさんには、なんというか、不可侵の気高さのようなものを感じていたからだ。
話を聞いたら他の隠れキングファンもそんな感じだったらしい。
でも今はだいぶその空気も和らいでいる。
なぜなら……
「緊急事態でーす、お客様の中にローねーちゃんはいらっしゃいませんかー!」
ガンッ!
ウィーーーン。
室内トレーニング場に大声が響く。
それと同時にランニングマシーンで走っている最中にズッコケて額を強打し、ベルトコンベアのように後ろに流されるキングさんの姿が。
……笑っちゃいけないけど笑いそうになる。
周囲を見ると、皆そんな感じで笑いを堪えている。
キングさんはガバっと立ち上がると猛ダッシュをして──
「繰り返しまーす。お客様の中にローねーち──」
「おばかー!」
「アウチッ!?」
──その勢いのまま、男性の頭を殴りつけた。
「何度も注意したでしょう!? トレセン学園では『ローねぇ』ではなく『キング姉さん』と呼びなさいと!! というか今のアナウンスはなんなの!? ここは飛行機の中なの!?」
「いやーははは、ごめんねぇ」
顔を真っ赤にしているキングさん。
殴られたにも関わらず微笑んでいる男性はアスカトレーナーといって、なんとキングさんの弟さんなのだ。
一流トレーナー(自称)ではあるが、天然気味なのんびりした人で、いつもニコニコしている穏やかな人だ。
ただ悪癖が一つあって……
「全く、誰に似たのかしら……ほら、言ってごらんなさい。ローねぇではなく?」
「絶対に使ってはいけない言葉……!」
「そうそう、それを口にしたら最後、闇に引きずりこまれてってそれは
こうやってすぐにお姉さんであるキングさんをからかうのだ。
そしてそれにいつも付き合ってあげているキングさんも優しいというか、可愛いというか。
「ひさかたの~光のどけき~春の日に~」
「
突っ込むキングさん。きっとノリツッコミも一流じゃないといけないんだね。頑張って!
まぁその句は俳句じゃなくて和歌なんだけどね……
「天気もいいし、風も気持ちいいし、こんな日はなだらかな山道を気軽に歩いて自然を楽しみたいねぇ」
「そうね、今日は絶好の~ってそれはハイキング!! このおばか!!」
文字数が増えてるのに正解に近づいた気がするのがちょっと面白い。
このキング姉弟漫才を見るようになってからキングさんにとっつきやすくなったというか、『あーあんなストイックなキングさんも普通のお姉ちゃんなんだなー』って親しみやすくなった感じ。
「ハイキングって至高の王っぽくてかっこよくない?」
「至高の王……そう言われると確かにそんな気も……」
真面目な顔で話すアスカトレーナー。
それ、騙されてるよキングさん……
「はい、自己紹介。輝かしく! 誰もが憧れるウマ娘~!」
「そう! 一流の姉にして一流のウマ娘といえばこの私! ハイキングヘイロー!」
「ハイキングヘイローwwwダサくて芝生えるwww」
「あなたがやらせたんでしょぉぉぉ!?」
キングさんからビビビビッ!と一流の往復ビンタを喰らいながらも爆笑しているアスカトレーナー。
さすがキングさんの弟にして一流(自称)のトレーナー、面構えが違う。
「……それで、なんで私を呼んでたのかしら? トレーニング場で緊急事態~!なんて大声で叫んで私に恥をかかせたんだから、くだらない用なら……わかってるわよね?」
「母さんから電話があったよ」
「ほんとに緊急事態じゃないの!?」
耳としっぽをピーン!とさせるキングさん。
お母さんからの電話って、そんな驚くようなことなのかな?
うーん、キング姉弟はわからないことが多い。
「……で、その、お母さまからはなんて?」
「母さんのツンデレ言語をアスカ翻訳機にかけた結果、『元気でやってる?』『無理しすぎないでね』『辛かったら帰ってらっしゃい』と変換されました」
「……はぁ。誤訳もいいところね……このへっぽこ翻訳機」
アスカトレーナーがよくわからない冗談?を言う。
それを聞いてキングさんはさっきみたく怒るかと思ったけど、『へっぽこ』と言いながらもアスカトレーナーに向けてすごく優しい顔をしていた。
……よくわからないけど、きっと姉弟にしか通じないナニカがあるんだろうな。
「お母さまが何を言ったところで私は考えを変えるつもりはないわ。悪いけど、アスカから適当に伝えておいて。お母さまはアスカには甘いからあなたの言う事なら多少は耳を傾けるでしょ」
「ぷっ、あははは!」
キングさんがそう言うと、爆笑しだすアスカトレーナー。
「……なに?」
「クスクス。さっき母さんも一言一句全く同じこと言ってたよ。『あの娘が何を言ったところで私は考えを変えるつもりはないわ。悪いけど、アスカから適当に伝えておいて。あの娘はアスカには甘いからあなたの言う事なら多少は耳を傾けるでしょ』って」
「なっ!?」
「やっぱ似た者母娘だねぇ……」
「〜〜〜〜っ!!」
顔を真っ赤にしながらアスカトレーナーをポコポコ叩くキングさん。
こうやって見ると年相応って感じですごいかわいい。
そしてぜーはー言いながらアスカトレーナーを指差し叫ぶキングさん。
「わかったわ、なら次にお母さまから電話があったらこう伝えておいて。『この私が一流のウマ娘であることを必ず証明してみせるわ!』ってね!」
「わかった。ちゃんと『私、精一杯頑張るから見ててねお母さま!』って伝えておくよ!」
「っっっ!? このへっぽこ翻訳機ー!」
「痛い!?」
やっぱり怒られて頭を叩かれるアスカトレーナー。
この姉弟は見てて飽きないし、キングさんはすごいし、私はこれからもキングファンで居続けようと心に固く誓ったのだった。
このキング(姉)は弟の尽力もあり、親子仲が空回りはしていますがすれ違いは少なめ?です。
ただキングの弟のアスカくんはトレーナー業務以外に極度のツンデレ母姉の間を取り持つつつ、姉と周囲との軋轢を埋めるために天然ボケを装って和やかな雰囲気を出すために苦心するなど心労マッハです。苦労人乙。