【完結】もしもウマ娘がブラコンお姉ちゃんだったら最高だよね杯 作:藤原ロングウェイ
まさか私以外にも栗っ子が生き残っていたなんて……嬉しいものです。
カフェテリアに着くと同時にざわめきが起こる。
「NBAだ……」
「この学園最凶のブラコンシスコン姉弟……」
なんか注目を集めている。
ちなみにNBAとはNナリタブライアン、Bビワハヤヒデ、Aアスカの頭文字をとったものらしい。
アメリカのプロバスケットボールリーグって別に俺たちに関係なくない?
まぁどうでもいいけど。
ちょうど良いテーブル席を見つけたのでアンねぇがドカッと座る。
「アスカ、A」
「はいよ」
今のは『お姉ちゃんAランチが食べたいな、早く持ってきてね。お姉ちゃんお腹ペコペコ!』を略した結果が『A』の一文字に繋がる。
姉弟だからこそわかる凄みってやつだ。
アンねぇは席取りでお留守番なので、ハヤねぇと一緒にカフェテリアのおばちゃんのところにご飯をもらいにいく。
「Aランチ二つ──」
「Aランチ一つにBランチ二つでお願いします」
「え、俺Aランチ食べたい……」
俺の注文は無慈悲にもハヤねぇに遮られる。
頑張ってスカウト(失敗したが)したからお肉とかガッツリ食べたいんですが……
「Bランチはブライアンのものだ」
「えー、それ俺怒られるやつじゃん」
「問題ない」
二人で席に戻り、アンねぇにBランチをそっと差し出す。
「……ん? アスカ、私はAだと伝えたはずだぞ?」
「栄養バランスを考えたらこっちを食べるべきだ」
「姉貴……」
「栄養バランスが悪ければ故障する確率も高くなる。これがお前の勝利の方程式に繋がる食事だ」
「……はぁ」
ハヤねぇの言葉にアンねぇがため息をつく。
ハヤねぇの口から『勝利の方程式』が出た時点で譲る気はないということであり、逆らっても時間の無駄だとアンねぇもわかっているのだ。
同じハヤねぇの
「まぁまぁ。今日の夜はアンねぇの好きなもの作るから」
「……ハンバーグ」
「ハンバーグね、了解」
フンッと機嫌悪そうな顔をしているが、アンねぇの耳と尾が機嫌良さそうにパタパタしている。
わかりやすいなぁ。
「いただきます」
「「いただきます」」
食事を開始する……が、アンねぇがなんかちょこちょこやってる。
そして何かが刺さったフォークを差し出してきた。
「アスカ。ん」
アンねぇが差し出してきたものはピーマンの肉詰め、だったもの。
中身は空になっており、器だけがそこにある。
つまり、半分に割られたピーマンそのものである。子供か。
「あーん」
「……」
俺の要求に不満げな顔をするが、無言で俺にあーんでピーマンを食べさせるアンねぇ。
でもあの顔は不満なわけではなくちょっと恥ずかしいのを誤魔化す用の表情である。俺は詳しいんだ。
するとハヤねぇが口を開く。
「アスカ、あまりブライアンを甘やかすな」
「まぁまぁ。やっぱり食事は美味しく食べたいじゃない? はい、からあげあーん」
「ん……」
アンねぇの口元にからあげを差し出すと無言で口を上げる。
満足そうにからあげをモグモグしているアンねぇはかわいいねぇ。
ニコニコしながらその様子を見守っていると、周囲のウマ娘たちがこっちをチラチラ見ながらコソコソ話してる。
何を話してるんだろう。なんか変なことしてるか?
すると、アンねぇの顔が突然真っ赤になった。
そしてすぐに鋭い目で睨みをきかせると、ウマ娘たちはあわあわしながら目を逸らし食事を再開する。
「……あの子たち、なんて言ってたの?」
「……別に」
「……『ブライアン先輩、アスカトレーナーとあーんで食べさせ合ってる~仲良いね~』『ブラコンって噂、ほんとだったんだ~なんかかわいい~』だとさ」
「あ、姉貴!!」
顔を真っ赤にしながら怒鳴るアンねぇ。
事実なんだし、いい加減認めればよいものを。へっへっへ。
「仲が良いのもブラコンなのも事実なのだから仕方ないだろう。あきらめろ」
「わ、私は別に、その、ブラコンじゃない!!…………多分」
「自分すら騙せない嘘で他人は騙されんよ」
「あーもー! 姉貴はいちいちうるさいんだよ!」
大声で怒鳴るアンねぇ。
普通のウマ娘ならガクブルだろうが、さすがにハヤねぇは平然としている。
「ブライアン、カフェテリアで騒ぐな」
「ぐ、ぐぬぬぬ……アスカ! お前が悪い!」
「えぇ!? 俺!? なんで今の流れで俺が怒られるの!?」
「そもそもお前の好き嫌いが激しいのが発端だろう。全く、いい歳して情けない妹だ」
ハヤねぇのやれやれポーズ。かわいいな俺の姉さすがかわいい。
「情けない……? そんなセリフは一度でも私に勝ってから言ってほしいな」
「ほう……?」
二人が顔を向かい合わせ、互いに目が細まる。
カフェテリアが緊張でめっちゃ静かになっとる。
うちの姉たちがごめんなさいね。
ハヤねぇとアンねぇは見つめあっていたが、少ししてハヤねぇがフーっと息を吐きだす。
「残念ながら、今はまだ勝てん。しかし、いつか多くの観衆が見守る大舞台でお前に敗北の味を教えてやるさ」
「できるものならやってみろ……その時を楽しみにしてるよ」
「ああ、楽しみに待っていてくれ」
二人で不敵に笑いあう。
その姿を見ているうちに景色が滲んできた。
「……なんで泣いてる?」
「どうしたアスカ。どこか痛いのか?」
ハヤねぇとアンねぇから心配されてしまった。
どうやら俺は無意識のうちに涙を流していたらしい。
「いや、大丈夫。今のこの時間が嬉しいというか、幸せだなって思って」
「……なんだそれは?」
「いや、言いたいことはわかるさ。確かに姉弟で過ごすこの時間は幸せといっても過言ではないからな」
「また始まった……シスコンブラコンめ」
アンねぇが手に負えないといった顔をしてハヤねぇがそれを見て笑ってる。
俺にはそれが本当に幸せだと思えるんだ。
昔、夢を見た。
ハヤねぇがいて、アンねぇもいるのに、俺だけがいない世界の夢。
その夢ではハヤねぇはかけっこでアンねぇに追いつこうと無理をして事故にあい入院し。
アンねぇはそれから一人で走るようになる。
ハヤねぇはアンねぇに追いつくために死に物狂いで知識を学び。
アンねぇはレース教室に通いだすが、好敵手がいないためどれも長くは続かない。
二人の距離は少しずつ遠ざかり、口数も少なくなり、ぎくしゃくとしたものになった。
お互いがお互いに大事に思っているのに、お互いにそれが通じていない。
ハヤねぇはどうやっても永遠にアンねぇに追いつけないかもしれないという恐怖に潰されそうになりながら走り。
アンねぇは誰も前にいない孤独、誰も自分に追いつけない孤独、誰も追いつこうとしない孤独に潰されそうになりながら走った。
二人とも、あんなに走ることが好きだったのに、辛そうに走っていた。苦しそうに走っていた。
そして二人は──
そこで目が覚めた。
嫌な夢だと思った。すぐに忘れようと思った。
しかし、それからしばらくして、ハヤねぇが事故にあった。
かけっこでアンねぇに追いつこうと無理をして。
病院に駆けつけて驚いた。
夢で見た病室とそっくり、いや、全く同じだった。
そしてハヤねぇがアンねぇにかけた言葉も同じだった。
俺は全身の血液が凍ったかのような錯覚に陥った。
もしこのまま何もしなかったら、夢と同じ結末になるのでは……
それを回避するために俺は死に物狂いの努力をした。
その結果かどうかはわからないが、今二人が夢の中のような辛そうな顔で走っていることなどない。
ただ純粋に競い合い、楽しそうに走っている。
……俺はウマ娘ではなくただの人間だから、それに加われないことが少し寂しいし悔しいが。
それでも、俺の努力は報われたのだと、無駄ではなかったのだと信じたい。
「……さて、アスカ。何か私にすることがあるのではないか?」
「ん? すること、とは?」
「ブライアンにはあーんで食べさせたのに、私にはしていない。これはおかしい。理論として完全に破綻している」
メガネをクイッとし、目をキラーンを光らせながら言うハヤねぇ。
どんな理論なのかさっぱりですよ。
「じゃあハヤねぇにもからあげあーん」
「あーん」
めっちゃ笑顔でモグモグしているハヤねぇ。
いつもクールでキリッとしているが、こうやってたまに見せるかわいい笑顔が大好きです。
「よし、では次は私の番だな。アスカ、何が食べたい。好きなものを食べさせてあげよう」
「そうだなー、じゃあー……」
ハヤねぇといちゃいちゃしながらあーんで食べさせあっていると、またも周囲のウマ娘たちがこっちをチラチラ見ながらコソコソ話してる。
すると、アンねぇがこちらを見てニヤッと笑った。
「『ビワハヤヒデさんとアスカトレーナーがあーんで食べさせあってるー』『いつも一緒にいるし、姉弟っていうよりラブラブカップルみたいだよねー』だとさ、姉貴」
さきほどのお返しというように勝ち誇った顔をしているアンねぇ。
しかし。
「ハッハッハッハ! カップルか! しかもラブラブか! 私たちは姉弟なのにな! 困ったものだ! ハッハッハッハ!」
ハヤねぇ、めっちゃ嬉しそう。
アンねぇも学習しないな……
この
ハヤねぇは笑っていて、アンねぇは憮然とした顔をしていて、俺がそれをニコニコしながら見守っている。
この幸せな時間が、いつまでも、続きますように。
ただのブラコンウマ娘話……と見せかけたビワハヤヒデシナリオとナリタブライアンシナリオのIfルートだったというオチ。
アプリのビワハヤヒデのシナリオ読んだら心に刺さりまくってやばかったです。ああいうのめっちゃ好き。