羅刹の希求   作:蒼林檎

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第一章『始まりの木ノ葉』
第一話『鬼と木ノ葉』


 見上げれば満天の星空、美しい三日月が視界を彩る見事な夜。 そんな夜に似合わない、咽せ返るほど濃い血臭が立ち込める戦場に少女は立っていた。 

 

 不自然だが見事に断裂された肉塊が転がる戦場の中心で、中心部分がヘコんだ奇妙な形の石がついた首飾りを手が白くなるくらい、願うように強く握りながら、少女は絶叫のような嗚咽を上げ、頭を抱え、憎らしいほど美しい夜空と同じ見事な藍色の髪を、空いている方の手で血が出るくらいまで掻き毟る。

 

 

「………なにこれ…?……子ども??」

 

 

 人の声に少女は振り返る。

涙に濡れた少女の紫紺の瞳は動物の仮面をつけた銀髪の男を映した。 突如全身に激痛が走り、口から何かが飛び出して目の前が真っ暗になった。

 

 

「……ぁ、」

 

 

 いつのまにか失っていた意識を取り戻した時、見慣れた薄汚い天井ではなく、立派で大きな建物に匿われていた。

 

 

「あ、起きたね。はじめまして。オレは、はたけカカシ。…君の名前、教えてもらってもいい?」

 

 

 傍に置いてある椅子に腰をかけ、書物を片手に持った銀髪で片目を隠した男…はたけカカシがいた。 カカシは開いていた書物を閉じ、幼い少女が滲ませている拙い警戒心を解くため、目線を合わせる様にしゃがんだ。

 少女はその気遣いを素直に受け取り、目を泳がせながらも口を開いた。

 

 

「…わたし…、」

 

 

 すると、唐突に少女の紫紺の双眸から大粒の涙が流れ出す。 後に確認する様に、確かめるように。ラセツ、ラセツ、と何度も何度も唱えてからカカシに目線を合わせた。

 

 

「……ラセツ」

 

「ラセツ、ね。年は??」

 

「4つ…」

 

「そっか。ちゃんと答えられて偉いね。」

 

 

 カカシはラセツの藍色の髪を不器用だが優しく撫で、ラセツが今、どの様な状況に置かれているか説明しはじめた。

 まず、ここは木ノ葉隠れという忍びの里だということ。 身寄りがなく、幼いラセツは木ノ葉にて所属を許されたこと。 ラセツがこれから暮らす家が整うまではカカシの家で世話になるということ。

 4歳の子供にとっては長く難しく退屈な話だっただろう。しかし、ラセツはカカシの話を黙ってじっと聞いていた。

 

 

「…ま、このくらいかな。質問とかある?」

 

「余所者のラセツが、忍びの隠れ里…特に木ノ葉に住んでも大丈夫なの??」

 

 

 ラセツの質問にカカシは僅かに驚きを零した。 

 忍びの隠れ里は出入りがかなり厳重に管理されており、余所者が住むとなると、かなり複雑な手続きが必要となる。 特に木ノ葉のような大国は特に厳重に管理されている事は有名な話だった。しかし、ラセツのように小さな子供がする質問ではない。

 

 だが、ラセツは外部の人間であり、ラセツの暮らしていた場所にあった建物は簡易的なものであり、里に所属せず、放浪する一族だということは明白だった。 なので隠れ里の出入りなどを教え込まれていたのかもしれないとカカシは考えた。

 

 

「…大丈夫だよ。君に害が無いのは『視た』から証明されてる」

 

「……『視た』??」

 

「そう。ここは忍の里だよ。情報を抜き取るのも奪い取るのも覗くのも得意分野だ」

 

 

 カカシの言葉を聞いて理解したラセツはギョッと狼狽し、自分の頭を両手で抱えた。 その年相応な酷く拙い動作と反応にカカシは思わず笑みが溢れる。

 

 

「それに、君の一族は少し特殊だからね。木ノ葉で保護する事になった」

 

 

 不安げに紫紺の瞳を揺らすラセツを安心させるように頭を撫でた後、カカシはラセツに手を差し出した。

 

 

「……さ、立てる?」

 

「うん、大丈夫」

 

「じゃあ、行こうか」

 

 

 ラセツは恐る恐る差し出される手を取り、寝台から地面に足を下ろして、カカシにゆっくりと引かれる方向に逆らわず足を動かした。

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 見上げれば満天の星空、美しい三日月が視界を彩る見事な夜。 そんな見事な夜に似合わない、『ビンゴブック記載の男の抹殺』という暗部の血生臭い任務にカカシは溜息を洩らしたが、里を護る為には必要な仕事だ。 カカシは再度大きな溜息をつき、文句を噛み殺して任務に集中した。

 

 突如、咽せ返る様な血の匂いが鼻を掠め、身を隠しながら血の匂いが濃くなる場所を目指した。

 木の影から戦場となっている場所を確認すると、不自然だが見事に断裂された肉塊の中心で泣き叫ぶ小さく幼い少女に息を呑む。

 

 

「……なにこれ…?…子ども?」

 

 

 思わずつぶやいてしまった直後、少女が振り返り、カカシをまっすぐ見る。 その時カカシは自分が木の影から出ている事に気づくが、少女の額に存在する2本の純白に輝く角に、涙と血涙が混じった液体に濡れる紫紺の瞳。

 得体の知れない化け物を前にした様な、恐怖に心臓を撫でられる心地に、カカシの身体は強張る。 しかしそれは一瞬だった。

 

 少女は突然血を吐き出し、力なく地面に倒れたからだ。

 カカシは警戒しながらも近づくが、少女は気を失っており、その額からは純白の角は消えていた。

 

 そのことにひとまず安堵し、辺りを見回すと、元々人であっただろう肉塊が少女の周りに転がっており、その肉塊の正体にカカシは驚愕した。

 

 

「…これは、」

 

 

 転がっている男はカカシが探しているビンゴブックに載った人間の1人だった。 それもこの男は唯のビンゴブック記載者ではなく、伝説の三忍であり、木ノ葉の抜け忍である大蛇丸の手下だという情報の人間で、実力もかなりのものだった筈だ。

 

 

「………??」

 

 

 カカシはふと違和感に気づく。

 少女の近くに肢体を断裂されている男の死体と、近くに転がっている四肢の肉塊が別人のモノだったからだ。

 

 さらに視界を広げて見渡すと、少し離れた場所に、少女の周りに転がる肉塊の持ち主であろう人間が息絶えていた。

 こちらもまたビンゴブックに記載者の男で、大蛇丸の手下という情報を持つ男だった。また、先程の男と同じ様に別人の四肢の肉塊が転がっていた。恐らくこの肉塊は少女の周りに転がっていた男のものだろう。

 

 

「どういうことだ??」

 

 

 四肢と胴体の場所が入れ替わって転がっている死体に疑問が広がるが、取り敢えず此処の状況を知ろうと周囲一体を、見渡した。

 あるのは崩れた建物。しかし、組み立て式のものでかなり簡易的な物だった。

 

 

「……放浪している一族、か?」

 

 

 簡易的な建物が並んでいただろうこの空間は乱暴に破壊されており、それはおそらく大蛇丸の手下の男達が襲った跡だろう。一族は対抗しようとしたのか、戦った跡があった。 

 しかし、男達が勝ったのだろう。一族の者と思われる人間は誰もが無惨に殺されており、何人か連れ帰ろうとしたのか縛られた跡がある。 対して男達は不自然に断裂された場所以外は目立った外傷はない。

 

 だったら尚更わからなかった。一族の大人達が敵わないというのに、こんな小さな少女に殺せる訳がない。しかし、少女の周りに散らばる肉塊が少女が行った事だという事を証明していた。

 

 それに死体の本体と肉塊の場所が何故離れているのか。この少女は一体なんなのか全く想像がつかない。疑問を並べ、考え出したらキリが無い。 カカシはクシャリと銀髪を掴む。

 

 

「……ま、取り敢えず仕事するか」

 

 

 此処でいくら疑問の答えを探しても見つからない。 カカシはビンゴブックに記載されている男達を専用の袋に詰めてから少女近づき、念のため眠り薬を注射器で注入してから背負う。

 

 通常ならば身寄りのない子供であっても連れ帰る事はしないが、ビンゴブックに記載された人間の抹殺。大蛇丸が手下を放ち、狙った一族。少女の謎の能力。

 これは放って置ける案件ではないと、少女を連れて木ノ葉へ戻った。

 

 

「……ふむ、分かった。情報部へ引き渡そう」

 

 

 カカシの報告を聞き、三代目火影はカカシと共に少女を情報部へ引き渡し、少女の情報を得る為に記憶を覗く。

 

 

「何か、分かったことはあるか」

 

「名前はラセツ、歳は4。……どうやら里に所属しない一族だそうで、木ノ葉に敵意はありません。ですが…如何やらこの一族は血継限界を受け継ぐ一族の様です。」

 

「血継限界か…。成程のぅ」

 

 

 大蛇丸はあらゆる忍術に凄まじい執着を示しており、それは血継限界も例外ではない。三代目は納得したように目を伏せた。

 

 

「そしてこの少女……《鬼化》という血継限界を発現しているみたいです。」

 

「《鬼化》……まさか、鬼族か??」

 

 

 《鬼族》

 強靭な肉体に非常に高い身体能力を持ち、額に鬼の様な角が現れることから《鬼化》と呼ばれる血継限界を受け継ぐ一族だ。

 額に現れる角から周囲の自然エネルギーを取り込むことができ、ただでさえ高い身体能力と肉体強度を更に飛躍的に強化する能力を持ち、また、血継限界を発現した者は強力な固有能力を持つという戦闘に特化した一族だ。

 

 しかし、その血継限界を受け継ぎ、発現させる者は一握りであり、戦闘一族としての活躍はおろか活動もしていないという、強力な血継限界をただ受け継ぐだけの里を持たぬ放浪する一族だった。

 

 

「…いや、しかし。あの一族は既に…。」

 

 

 三代目は否定する様に頭を振った。

 10年以上前に、その強力な血継限界を恐れた何処かの隠れ里の忍が鬼族を全滅させたと聞いているからだ。

 

 

「いえ、そのまさかのようです。」

 

 

 その言葉に三代目は驚愕に目を見開くが、すぐに「そうか」と、哀しげに少女を見る。

 血継限界を持つ一族はある場所では忌み嫌われ、ある場所では戦争の道具として扱われるという不憫な扱いが目立つ。 その上、強力な力を持つが故に畏怖され、殲滅させようと狙う者も、手中におさめようと狙う者も多い。

 この少女もその被害者の1人だという事に、三代目は心が痛んだ。

 

 

「…そして、この少女の固有能力は転移系時空間忍術のようです。」

 

 

 転移系。

 そう聞いてカカシは弾かれたように顔を上げた。 男の胴部分と四肢部分が何故入れ替わっているように転がっていたのか。その疑問に納得がいったからだ。

 

 

「しかし、その詳細までは……。」

 

「良い。そこまでわかれば充分じゃ」

 

 

 木ノ葉に敵意が無いのが分かっただけで十分だった。 三代目の言葉を聞き、情報部の人間は少女の額から手を離す。

 

 

「三代目」

 

「どうした、カカシよ」

 

「この少女の転移は恐らく、空間を交換する時空間忍術です」

 

 

 カカシの言葉に三代目は少し目を見開いた後、身体と視線をカカシの方に向けた。 

 

 

「転移する有効範囲は分かりませんが、一瞬で空間を交換して瞬間移動をする能力と推測します。また、転移する際に転移する空間と転移しない空間の境界が生まれます。……オレが持ち帰った2人の死体は四肢と胴体が入れ替わった様に転がっていました。それに、傷の断面が綺麗すぎます。恐らく、その境界にて断裂されたものだと。」

 

「なるほど」

 

 

 三代目は表情を厳しくし、手を顎にあてた。

 時空間忍術は高等忍術中の高等忍術であり、かなり強力な術だ。 しかし、この少女…ラセツの時空間忍術はそれだけに留まらず、殺傷能力の高い効果がある。

 

 

「三代目様。この少女の血継限界と、その転移系の固有能力はかなり強力です。里で保護する事が適切かと」

 

 

 大蛇丸が目をつけ、狙う程強力な血継限界に強力な固有能力。 敵国に渡ってしまえば強敵となり、自国で育てれば強力な戦力になる事が期待できる。

 

 

「分かっておる。……カカシ」

 

「はい」

 

「ラセツの衣食住が整うまで面倒を見てやれ」

 

 

 三代目の言葉にカカシは少し面倒くさそうな表情を隠さない。 三代目もカカシの表情に気づいているが、ラセツの藍色の髪を優しく撫でるだけでカカシに下した命令を撤回はしなかった。

 

 

「色々教えてやりなさい」

 

「……はい」

 

 

 

 

 




はじめまして。
まだわからない事だらけなので色々とすごく拙いと思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。
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