羅刹の希求   作:蒼林檎

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第十一話『サバイバル演習』

「遅い!!」

 

 

 場所はサバイバル演習が行われる演習場、時間は午前7時。 プリントに書かれている午前5時の集合時間はとっくに過ぎており、額に青筋を浮かべて痺れを切らすのはサクラだ。

 

 

「あと数時間は来ないと思うよ?」

 

 

 サクラの怒りにラセツは事前に持ってきていた小説の文字を目で追いながら答える。 ラセツはここ数年で慣れているが、彼らはそうではない。 サスケは不機嫌な表情にわかりやすく眉を顰めた。

 

 

「それ、どういう事だ」

 

「だって師匠、毎回数時間以上遅れてくるし」

 

「先に言ってよ!!早起きしたのが馬鹿みたいじゃない!!」

 

「いや、でもね?だからって集合時間に来ないわけには行かないでしょ」

 

 

 いくらカカシが遅れてくることを予想していたとはいえ、集合時間に遅れてきて良い理由にはならない。 それに万が一、いや、億が一にもカカシが集合時間に来ないとも限らない。 カカシの遅刻癖を言ってしまえば特にナルトは気が緩んでしまう。他のメンバーも緩まないとは限らない。だからラセツはカカシの遅刻癖を言わなかった。

 

 

「そうだけど……こんなに待つなら何か食べてくれば良かったわ。こんだけ待ってれば吐くものも無くなるわよ」

 

 

 そう、サクラがお腹をさする。するとナルトとサスケのお腹からも空腹を知らせる音がした。

 

 

「あ、やっぱりみんな朝ご飯食べてきてない?」

 

「だって吐くって…」

 

「でも、お腹が空いては動けはしないって言うし」

 

「腹がすいては戦は出来ぬ、よ」 

 

「……と、まぁそういうことで、持ってきました朝ご飯」

 

 

 ラセツは背負ってきた鞄から握り飯の包みを取り出す。

 数は1人2つ分持ってきてある。 昨日カカシの遅刻癖を言わないのに朝ご飯は食べてきた方がいいなんて言ったら『なんで?』と言われてしまうと口の弱いラセツには敗北しか未来は待っていない。

 だからラセツは、カカシの言うことを忠実に聞くだろう班員に朝ご飯を持ってきたのだ。

 

 

「でも…うん、そうね。いただくわ!」

 

 

 サクラはきっとカカシの言った『吐く』に躊躇したのだろうが、腹の虫は正直であり、ラセツの握り飯に手を伸ばした。

 

 

「オレもオレも!」

 

「はいはい順番順番……サスケはどうする?」

 

 

 無言で無表情なサスケに問う。 しかし、これは愚問だっただろう。

 サスケの瞳はラセツの手元にある握り飯に釘付けである。『目は口ほどに物を言う』と昔の先人はよく言ったものだ。

 ラセツは2つの握り飯をサスケに差し出し、サスケはおずおずと握り飯を受け取った。

 

 

「……助かる」

 

「どういたしまして」

 

 

 4人は握り飯を胃の中に入れた後、さらに待つこと数時間。 せっかく食べた朝ごはんが胃の中から消え始めており、4人の苛つきゲージは順調に上昇してサクラなんてもう爆発寸前だった。 その時、

 

 

「やー、諸君おはよう!」

 

「「「おっそーーい!!!」」」

 

 

 超がつくほどの大遅刻に全く悪びれないカカシの態度が第七班班員の怒りを更に爆発させるが、カカシはその怒りをそよ風を受け流す様に躱しながら目覚まし時計をいじる。

 

 

「よし!12時セット完了!!」

 

 

 切り株の上に目覚まし時計を置き、カカシはポケットから取り出した3つのスズを鳴らす。

 そのスズになんの意味があるわからず、ラセツは首を傾げた。

 

 

「ここにスズが3つある。これを昼までに奪い取ることが課題だ。……もし、昼までにオレからスズを奪えなかった奴は昼飯抜き!あの丸太に縛りつけた上に目の前でオレが弁当を食うから」

 

 

 この時、ラセツはカカシが何故朝飯を抜いてくるよう言った真意を理解した。

 軽くだが朝飯を食べたものの、軽くだった為、もう空腹は顔を出し始めている。 そんな中でサバイバル演習を昼まで行ったら当然腹が減る。空腹の中、目の前で弁当を食われる地獄はまさに拷問だろう。

 

 

「スズは1人1つでいい。3つしかないから…必然的に1人が丸太行きになる。…で、スズを取れない奴は任務失敗ってことで失格…つまり、この中で最低でも1人は学校へ戻ってもらうことになるわけだ」

 

 

 さわやかな笑顔で地獄を告げるカカシに思わず息を呑み、隣を見る。 隣はナルトで、蒼く澄んだ瞳は不安からか揺れている。 きっと自分も同じ顔をしているのだろうと予想がついた。

 不安で思考を満たし始めている4人にカカシはにこやかな笑みを崩さないままスズを鳴らす。

 

 

「手裏剣も使っていいぞ。オレを殺すつもりで来ないと取れないからな」

 

「でも!危ないわよ先生!!」

 

「そうそう!黒板消しも避けれねーくせに!」

 

「世間じゃさぁ、実力のない奴に限ってホエたがる。ま、ドベはほっといてよーいスタートの合図で…、」

 

 

 ドベと言う言葉にナルトの顔が怒りに歪み、クナイを素早く構えて感情のままカカシに正面から突っ込んだ。

 

 

「そう、慌てんなよ。まだスタートは言ってないだろ」

 

 

 凶器を向けられたと言うのにカカシの声は落ち着いていた。

 カカシは片手でナルトの後頭部を押さえ、もう片方の手でナルトがクナイを握る方の手を掴み、ナルトの後頭部に鋭い凶器を当てる。

 

 カカシが見せた一連の流れは精錬された無駄を全て省いた驚異の速度で行われており、ラセツは目で追うのが精一杯だった。

 

 

「ラセツもさ、わかりきってた結果なのになんで止めなかったわけ?」

 

「…ラセツの師匠が遅刻魔な上に実力無しの評価はいただけないから」

 

 

 ラセツは木ノ葉に来てからずっとカカシに師事している。 カカシは遅刻魔だったりとダメな部分がかなり目立つが、実力は本物だ。 そんな師匠が遅刻魔で黒板消しに引っかかるドジという評価はいただけなかった。

 つまり、止めないことがカカシの実力表示に一番手っ取り早いと思ったのだ。

 

 

「やだ、可愛くない子に育っちゃって。でも、ま…確かにオレを殺るつもりでくる気になった様だな」

 

 

 結果オーライ、と言わんばかりにナルトを拘束から解放する。

 カカシの実力を知らなかった3人の表情は引き締まり、カカシの行動を見逃すまいと瞳を光らせた。

 

 

「ラセツからも言っとく。カカシ先生に師事して数年経つけど、まだ1本も取れたことないよ」

 

「!?」

 

 

 ラセツは第七班班員の中で実技能力は群を抜いている。総合成績主席のサスケでさえラセツに勝った事など数える程度でしかない。

 だが、そんなラセツも目の前に立つ目隠しをした銀髪の上忍に数年師事して1度ですら勝ったことが無い。 その事実にはたけカカシが相当な実力者である事を嫌でも理解する。

 サクラは唾を飲み込み、サスケは厳しい視線を向け、ナルトは挑戦的に笑い、ラセツは緊張した様に唇を結んだ。

 

 

「はは、いい眼になってきた。…やっとお前らを好きになれそうだ」

 

 

 ひとりひとりの反応をしっかり見た後、カカシは満足そうに笑い『始めるぞ』と普段話している高さより1段低い声に、4人はそれぞれ構える。

 

 

「よーい、スタート!!」

 

 

 かけ声と共に4人は四方に飛び散った。

 ラセツの実力では一瞬で相手の事を認識するギリギリの位置に身を隠す事などできず、近場にあった茂みに身を隠して気配を断ち、まずはカカシの動きを観察した。

 

 

「……なにやってるの…」

 

 

 カカシを観察して初めの感想はコレだった。

 第七班の班員の中で姿を隠して気配を消す行動に出たのは3人であり、残り1人であるナルトは忍の基本である気配を消して姿を隠すことさえせずに堂々とカカシの前に立っていた。

 

 

「……ま、ナルトだしね」

 

 

 ナルトは常識を思い切り踏み外し、我が道を行く性格をしている事を嫌と言うほど分かっているからこその納得だった。

 ラセツはナルトがカカシの気を引いている内になるべく音を立てない様に茂みから抜け出し、木が立ち並ぶ森林の中を《空間転移》の座標を記録しながら走る。

 

 次第に息が切れ始め、持ち前の卓越された身体能力で木の幹まで一気に飛び上がり、休憩がてらにどうやったらカカシからスズを奪えるか考える。

 

 

「うーーーん……??」

 

 

 脳みそを雑巾絞りする感覚で知恵や戦略を絞るが、一滴たりとも勝機に繋がるアイディアが出てこない。

 相手は他里から『コピー忍者のカカシ』又は『写輪眼のカカシ』と畏怖され、木ノ葉の里では里1番の技師と謳われるはたけカカシだ。 ラセツがカカシに到底及ばない事なんて、カカシに師事して数年目となるラセツが一番良くわかっている。

 

 

「ていうか、下忍どころか候補のラセツ達が上忍に勝てるわけないじゃん!受からせる気ないでしょ!!カカシ先生のいじわ………ん?」

 

 

 このサバイバル演習は下忍になれるかのテストである。 それも用意されている席が最大3席しかなく、第七班の4人はその席を取り合う敵同士だ。

 ラセツ1人では到底無理でも全員で行けばカカシに少し近づけるかもしれない。と、いえどお互いが敵同士なので頼るわけにはいかない。 ここにラセツは違和感を持った。

 

 

「この班活動、仲間と連携して任務遂行率と生還率を上げることを目的ってシカマル言ってたよね?」

 

 

 班活動の目的がシカマルの言う通りなら、普通は仲間と連携させる様な演習を組むはずだ。しかし、この演習は連携どころか仲間割れする様な演習内容だ。

 忍として相応しい人物を見極め、選ぶために人数を絞るといえど、1度は仲間になった人間を蹴落として平然とする人間と信頼関係なんて築けるはずがない。

 

 

「矛盾してる…?この演習って、スズ取り以外にもなにか意味があるの?」

 

「なぁんの意味だろうね?」

 

「ぎゃっ!」

 

 

 段々と思考に没頭していたラセツに背後から突然声がかかり、仰天して思わず身体を跳ね上がってしまい、重力に従って盛大に木から落ちた。

 

 

「ーーちょ、ししょ…カカシ先生!いきなり話しかけないでよ!」

 

「敵はいきなり現れるもんだよ。片時も気を抜くんじゃない」

 

「…ぐぅ」

 

 

 正論すぎる正論にラセツはぐうの音も出ない。

 しかしちょうど良かった。ラセツの中に生まれた疑問を解決できるほど、ラセツの頭はよく出来ておらず、1人では届かない領域だったからだ。

 ラセツは今だと言わんばかりに問いかけた。

 

 

「ねえ、カカシ先生」

 

「なんだ?」

 

「……このスズ取り試験って、ダミーでしょ」

 

「…なんでそう思った」

 

「だって、よっぽどのイレギュラーがない限り、下忍候補が上忍に勝てるわけないもの」

 

 

 上忍は経験や死線を潜り抜けた数は数多ある、忍の中の忍だ。 下忍候補が連携して勝機への確率を上げたとしても雀の涙程度のものだろう。

 つまり、カカシがわざと取らせようとしない限りこのスズ取りは成立しない。 それではかなりの不平等が生じるし、カカシはそういう事をする性格ではない。

 

 

「それに…仲間と連携して任務成功率と生還率を上げるための班活動なのに、これじゃあ味方が居ない落とし合いっこ。…いくら人数を絞るためでも、落とし合いをした人間と信頼関係は築きにくい」

 

「……それで、ラセツはどう思ったんだ?」

 

「意味わかんないと思った」

 

 

 班活動の目的に全く沿わない演習をする上に、成立しないスズ取り。 何故そんな事をするのか分からなくてラセツはカカシに聞いている。

 この質問にカカシがどの様な反応を示すか。いくつか予想をしていたが、目の前のカカシは酷く拍子抜けした様な表情をしており、直後、呆れた様にため息を吐いてその場にしゃがみ込むという、ラセツの予想とは全く違う行動をとった。

 予想もしていなかった行動にラセツはひどく困惑するが、喉から響く様に笑いながらカカシは銀髪を掻いた。

 

 

「……そこまで分かってて意味わかんないか〜…ま、ラセツは鋭いのに阿保だもんね、ホント勿体ない」

 

「めっちゃズタボロ。酷い」

 

「……で、どうする。意味わかんないってだけじゃお前はアカデミー戻りだ。1人でも向かってくるか?」

 

「いやいや無理。これが実戦なら無駄死にする様なものだし」

 

「じゃあ、どうする」

 

「……取り敢えず、皆を頼ってスズ取りする」

 

「スズ、3つしかないけど」

 

「だからってラセツ1人じゃ触ることも出来ないだろうし。連携して少しでも可能性を上げて、あとは皆で相談して早いもの勝ちにでもなんでもする」

 

 

 可能性を上げてもカカシには届かないといえど、連携した方が可能性が上がる事には違いない。 ならば、その可能性に賭けるしかないだろう。

 

 

「……まぁ、《鬼化》していいなら話は別だけど」

 

 

 ラセツはそう、眉のあたりで綺麗に切り揃えられている前髪を乱暴にかきあげ、額の左右端にある小さな楕円型の白い跡を見せびらかすように見せる。

 

 

「演習でソレは色々シャレにならないからダメ」

 

「分かってる。冗談」

 

 

 ラセツは前髪をかきあげていた手を離し、2つの白い跡を前髪で隠す。そのままカカシに背中を向けた。

 

 

「あのさぁ、逃げられると思ってる?」

 

「カカシ先生こそ、ラセツの十八番を知っててそれを言ってるの?」

 

 

 ラセツの十八番は時空間忍術《空間転移》だ。 事前に森林の中を歩き回っており、ある程度の座標は記録してある。 それにラセツの《空間転移》は空間を交換する能力であり、移動する空間と移動しない空間の間に発生する境界は何物も断裂する。

 

 

「捕まえようとしてうっかり境界に挟まれないようにね??」

 

「…ホント、厄介な子だよ」

 

「それ、褒め言葉」

 

 

 半分ほど振り返り、悪戯っぽく揶揄う様に片目を瞑って笑い、ラセツの姿は消え、代わりに不自然だが見事な断面をした木の枝が地面に落ちた。

 カカシは《空間転移》にて断裂されてしまい、転移した木の枝を手に取って笑う。

 

 

「それにしても、ホント可愛くない子に育っちゃって……育てたのは誰だろうねぇ」

 

 

  普段は壊滅的に阿保だが素直な可愛らしい性格をしている良い子だ。 しかし、普段から離れると可愛らしい性格は棘を出す。 時に相手の思惑を鋭く見抜き、先程の様に驚異で脅す事もする。その上、忍としての技量も高く、特にラセツの十八番である《空間転移》なんて気を抜けば断裂されてしまう為、油断ならない。 カカシから見れば総合成績主席でNo. 1ルーキーであるサスケの方が断然可愛げがある。

 

 普段は素直で可愛い性格のラセツを、こんなに可愛げがない子に育てた奴の顔が見たい。と、その時、カカシはラセツを拾ったその日から今日までの記憶が頭の中に走った。

 

 

「あ、オレだ」

 

 

 この数年間、忍関連のことに関しても面倒を見ていたのはカカシだ。 ラセツの育て親はカカシと言っても過言ではない。 

 性格の捻くれている自分が忍としての教育をしたのだ。そりゃ可愛くならんわとカカシは納得した。

 

 

 

 

 

 

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