羅刹の希求 作:蒼林檎
タズナの護衛続行を決めた第七班は波の国に向かっていた。
現在波の国はガトーが海上交通を独占支配をしている為、通常の手段では入国する事は不可能だ。 なので第七班は深い霧が出る時間に合わせて小舟に乗り、霧に隠れる様に水面を渡る。
とはいえ安心は出来ない。 ラセツの記念すべき初めての舟乗りは、周囲に気を配り、じっとりとした緊張感を漂わせた舟乗りであり、残念ながらいい思い出にはならなかった。
やがて小舟は人気の少ない場所に止まり、第七班とタズナは波の国に上陸した。 船を出してくれた舟乗りに礼を言おうとするが、逃げる様にその場を離れてしまい、あっという間に霧に紛れてしまった。
「……ラセツ?なんでそんな歩き方をしてるの?」
波の国に上陸してからラセツは蛇行しながら歩いており、傍目から見れば遊んでいるようにしか見えないが、この行動にはしっかりと目的があった。
「んー?座標を少しでも多く記録してるの」
ラセツの《空間転移》はラセツが1度訪れている場所でないと移動できない。 1度に記録できる座標は半径約3mほど。 敵が現れる事が分かっている今、座標を多く記録していて損はない。
「そこかーーーッ!!!」
皆の一歩手前を歩いていたナルトが唐突にクナイを取り出して、茂みに投げる。しかし、茂みからは何も出てこない。
「フ…なんだネズミか」
無駄にカッコをつけるナルトにサクラとタズナは怒鳴り、カカシも今回は冗談抜きで真剣に注意をする。
「そこかーーーッ!!!」
注意をされたばかりだと言うのに、ナルトは再度クナイを投げるが今回も何か出る気配はない。アカデミー成績ドベの名は伊達ではなかった。
学ばず言い訳をするナルトにサクラが説教をする。しかし、今回の説教にカカシは加わらず、クナイを投げた場所を確認した。
「あ、可愛い白うさぎ」
ラセツもカカシに続いてクナイの刺さっている場所を見ると、そこには白いウサギが気絶しており、それを見たサクラがさらに激怒し、ナルトは慌ててウサギを抱き上げて謝る。
ウサギは気絶してしまっているが、危険な任務中とは思えないほど微笑ましい光景だ。しかし、カカシの表情は緩くなるどころか厳しく引き締まっていた。
「どうしたの?そんなに深刻そうな顔して」
「これは、ユキウサギだ」
「うん??雪みたいに白いウサギだね」
「……はぁ、」
「無駄だぞ、カカシ。こいつの座学はナルトと同じでドベだからな」
「な、サスケ!!ウサギと座学は関係ないでしょ!!」
「阿保。ユキウサギは太陽の光を受ける時間によって毛の色が変わる。白色は日没が速くなる冬の色だ」
「…?…じゃあ季節が合わないね。飼われてたウサギとか?逃げて来たのかな?」
「うーん…目をつけるところは良いんだけどな…阿呆なのが本当に残念」
ガックリと分かりやすく肩を落とすカカシに、ラセツは不服そうに目尻を釣り上げて頬を膨らませる。
「ラセツの言った通りこのユキウサギは飼われてたウサギだ。……変わり身用にな」
「変わり身用…?……ってことは近くに敵の忍が居るってこと?」
「そうなるね。……ラセツ?」
「なら、境界で感知する。波の国は初めて来たからあんまり期待できないけど」
意識を集中させ、転移する空間を滑らせる。 すると記録している座標ギリギリに人の気配を察知してカカシに目配せをする。
「情報聞き出したいから間違っても殺すな。…2秒後」
「了解」
「全員、警戒!!」
カカシが作った2秒の時間で全員に対して声をかけ、緩んでいた表情が引き締まる。 ラセツはきっちり2秒後に《空間転移》を行使し、カカシはホルスターからクナイを取り出してラセツのいた場所に飛びかかる。
「ーーな」
ラセツの代わりに現れたのは、ラセツの背とあまり変わらない程大きな刀を背負った霧隠れの額当ての男だった。
「へぇ…こりゃ驚いた。霧隠れの抜け忍、桃地再不斬君じゃないの」
男…再不斬は予期せず敵の懐に入ったことを理解し、驚愕に身体を固まらせる。しかしこちら側はそうではない。
ラセツが《空間転移》をして、カカシが間髪入れずに拘束しようと試みたが、相手は手練れである『桃地再不斬』だと分かると拘束及び情報を聞き出す事は困難だと判断し、殺傷の攻撃に切り替える。
「ーーー!」
再不斬はあまりに唐突な出来事に動揺しながらも、最小限の動きでカカシの攻撃を捌く。 刹那の攻防の中、男は一歩下がって僅かな時間を作り、背中に備え付けている大刀を引き抜き、かなりの重量があるだろう大刀を軽々と振り回して強制的に距離をひらかせ、合流したラセツ含む下忍4名と護衛対象であるタズナの方に、まるでクナイを扱うかのように大刀を投げる。
「ーー伏せろ!!」
カカシの指示に、全員反射的に頭を下げて大刀を間一髪で回避する。 仕留め損ねた大刀はそのまままっすぐ飛び、少し離れた場所にある木に刺さり、男はその大刀の上に立った。
「……お前ら、こいつはさっきの奴らとはケタが違う。下がってろ、邪魔だ」
いつもの軽い調子が恋しくなるほどカカシの声音には余裕が無く、立ち姿には隙が全く無い。
『コピー忍者のカカシ』又は『写輪眼のカカシ』と他里から畏怖される程の実力を持つカカシに、ここまで警戒を表に出させる強敵にラセツは固唾を飲み込む。
再不斬は高い位置から効率的に状況を把握する。
そして、自分の周りにあった茂みが見事に断絶されて地面に落ちているのを見つけ、我が身に起こった事と照らし合わせて素早く結論を出し、自分が居た位置部分から出てきたラセツに焦点を合わせる。
「……そのガキ…空間を交換する時空間忍術を使うか。かなり厄介だが……再度オレを転移させないということは条件があるとみえる」
分かりやすいラセツの反応に当たりだと言う確信を持ち、ラセツ達と接触する前にラセツが『座標を記録している』と言って蛇行歩行をしていた事から条件を炙り出す。
「お前…1度行ったことのある場所じゃないと転移ができないな??」
今度は肩がピクリと震え、これも当たりだと確信を持つ。
しかし再不斬はまだ思考を止めない。ラセツが歩いた場所と転移できた範囲。そして転移不可能な現在位置で、ラセツが1度に記録できる座標を計算する。
「…1度に記録できるのは大体2、3mだな」
「……ラセツ、顔に出すぎ」
1度体験したのみ、それも一瞬で《空間転移》の条件と仕組みを理解した再不斬にラセツは関心を通り越してドン引きだった。
再不斬はあまりにも分かりやすいラセツに喉を震わすように笑い、今度はカカシに視線を向けた。
「お前は写輪眼のカカシと見受ける。……悪いがじじいを渡してもらおうか」
「それは、無理な願いだな」
ドン引きから冷め始め、緊張に表情を硬くさせるラセツと圧倒的な緊張感に身体を震えさせる3人に、目線を再不斬から外さないまま指示を出す。
「…卍の陣だ。タズナさんの守りに徹して戦いに加わるな。それがここでのチームワークだ……。再不斬、まずはオレと戦え」
カカシは片目を隠す額当てをゆっくりとずらし、柘榴石のような紅い瞳…写輪眼を晒す。
「ほぅ、噂に聞く写輪眼を早速見れるとは…光栄だね」
そう、再不斬は好戦的に表情を歪ませた。