羅刹の希求 作:蒼林檎
霧隠れの追い忍が再不斬を殺して連れ去った後、タズナの家へお邪魔することになり、気を失っているラセツをナルトは背負った。
その後、カカシも写輪眼の使いすぎで倒れてしまい、サスケに肩を貸してもらいながら森林の道を歩く。
一言も発することのない静かな沈黙を破ったのはサスケだった。
「カカシ…ラセツのあの力はなんだ」
「オレもそれ聞きたいってばよ」
サスケの指す『あの力』とは、ラセツが最後にみせた《鬼化》の力のことだ。
サスケとナルトの2人はラセツと付き合いが長いものの、純白の角が生えた姿なんて1度も見たことがなく、その上、再不斬をも圧倒的する力を見せつけられたら問わずにはいられなかった。
「…あれは《鬼化》…ラセツの血継限界だよ。…額に現れる角が自分のチャクラと周囲から自然エネルギーを吸い上げ、それによって肉体が強化、身体能力が飛躍する効果が得られる」
鬼族の肉体は強靭な肉体に非常に高い身体能力を持っており、《鬼化》は個々の固有能力を開花させ、周囲のエネルギーと体内のエネルギーを莫大消費し、能力を更に飛躍的に上昇させる力だ。 これだけだと物凄い便利な血継限界だが、そうもいかないのが現実だ。
「…でも、チャクラの消費量と、周囲から集めるエネルギーの量が莫大すぎてラセツも扱いきれない……使えるのは良くて3秒だな。それか使う以前に気絶する」
「すごく、危険な力なのね」
「…強い力には代償があるモンだよ。」
ラセツが《鬼化》出来るのは精々良くて3秒。されど3秒だ。 証拠に再不斬を圧倒してみせた。
「…ま、これでも年々扱えるようにはなって来たし、ラセツのことだからいずれケロッと使えるようになって、笑顔で山を割る子になるさ」
「それ、超怖いってばよ……」
絶対ラセツを怒らせない様にしようとナルトは心の中で誓った。
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再不斬とカカシの戦いの最中に寝てしまい、3日後に目を覚ましたラセツは、お腹に優しい食べ物を口にしながら、カカシから霧隠れの追い忍が再不斬を殺して、連れ去った一連の出来事を聞いた。
「でも、再不斬が死んだならひとまずは安心だね」
カカシは『写輪眼のカカシ』又は『コピー忍者のカカシ』と他里から畏怖され、里内では『里1番の技師』と謳われる忍。 そんな忍と肩を並べられる忍なんて里の中でも数えるくらいしか存在しない。
つまり、カカシと互角に戦えた再不斬が特殊なのだ。 終わったに越したことはない。しかし、カカシは困ったように銀髪を掻いた。
「イヤ…アイツらにも言ったが、再不斬おそらくは死んでいない」
「え!?どう言う事!?」
「ま、落ち着け。これから説明してやるから」
手に持つスプーンが落ちそうになり、慌てて握り直す程わかりやすく動揺を露わにするラセツに、「理由は大きく分けて2つある」とカカシは2本の指を立てて説明を始める。
「…死体処理班ってのは殺した者の死体は、その場ですぐ処理するものなんだ」
S級犯罪者、又は、特別指示が出されている忍以外は、基本的に持っては帰らない。殺した証拠に持ち帰るとしても首だけ持ち替えれば事足りる。
「…ここで理由その1。ラセツは気絶してたから知らないだろうけど、その追い忍は再不斬の死体をまるごと持って帰った」
「つまり、現れた霧隠れ暗部の行動が、通常の暗部の行動と一致しないってこと?」
「珍しく察しがいいじゃない。明日は雨かな?」
確かにラセツは否定しようもないほど頭が悪いが、あまりに酷い。 ラセツは頬を膨らませて地団駄を踏む代わりに布団を乱暴に殴る。
カカシは「冗談だよ」と軽く笑いながら謝るが、口だけである事は明瞭だった。しかし、ここで突っ込むとちっとも話が進まなくなるので、歯を食いしばり、出てきそうな言葉を我慢した。
「で、理由その2が、追い忍の少年が使った再不斬を殺した千本という武器だ」
追い忍が使った千本という武器はツボ治療などの医療に用いられる代物であり、急所にでも当たらない限り殺傷能力のかなり低い武器だという。
別名死体処理班と呼ばれる追い忍は人体の構造を知り尽くしており、人を仮死状態に至らしめることも容易だろう。
以上のことからカカシは再不斬を連れ帰った追い忍の少年を『再不斬の仲間』と推測した。
「……考えすぎじゃない?」
そう口に出したのは、きっと再不斬がまだ生きており、交戦する機会があるかもしれないという現実逃避からだった。
「…ま、それが1番だけど、可能性がある限り最悪を想定して動いた方がいい」
再不斬の生死関係なく、ガトーが他に強力な忍を雇っていないとも限らず、危険は拭いきれていない。
なのでカカシは、未熟も良いところな新人下忍の成長の為に課題を与えたという。
「…皆がいないのはその課題に打ち込んでいる、ってこと?」
ラセツが目覚め、カカシと話し始めてからかなりの時間が経つが、第七班のメンバーは誰1人姿を見せない。
ラセツの質問にカカシは小さく頷いた。
「そう言う事。動けるようになったらラセツも参加してね」
カカシの数十倍乱暴にチャクラを使い、無理に血継限界を発動させ、かなりの負担を負った身体を労わる。 しかしラセツはおじやの入っていた器を置き、3日間寝ていた人間だとは思えないほど勢いよく立ち上がり、溌剌とした笑顔をカカシに向ける。
「心配ご無用!もう動ける!!」
「…さすがラセツだね」
常人なら1週間は軽く寝込む程、ラセツの身体にかかった負担は大きかった。 しかし、鬼族の生命力の強さには尋常ではなく、その生命力の強さは今回でも発揮される。
「なら、早速始めようか」
早く復帰できるに越したことはない。カカシは存在感が薄くなり始めた松葉杖をつきながら立ち上がった。
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カカシに連れられて修行する場所へ向かうと、そこにはナルトとサスケが懐かしいチャクラコントロールの修行である木登りをしていた。
ラセツに気づいたナルトはクタクタに疲れていた表情から陽だまりのような笑みに一変し、「木登りするぞ!」と腕を引かれる。
「……え?木登り?」
ラセツは困惑した。 何故ならラセツはカカシに師事して最初に教えられたのがチャクラコントロールの修行である『木登り』だったからだ。
「そーだってばよ!!聞きたいことがあればなんでも聞いていーぞ!!」
「いや…」
「あ、これ、結構難しいんだぞ!!普通の木登りとは違って…」
「ナ、ナルト、ちょっと待って!」
ラセツの困惑そっちのけで自慢げに話し始めるナルトに申し訳ないと思いつつも静止をかけ、紫紺の瞳を少し細め、ジトリ、とカカシを見上げた。
「カカシ先生…まさかラセツも木登りとは言わないよね?」
「勿論言わないよ」
「え!?なんでだってばよ!ラセツだけ免除なんて…、」
「逆だよ逆。ラセツはもう木登りをクリアしてんの」
「へ?」
バタバタと騒がしかった動きはピタリと止まり、空を閉じ込めた蒼い双眸を大きく見開き、その視線はラセツに全て注がれる。 ラセツは少し申し訳なさそうに眉を下げ、力なく苦微笑する。
「ラセツはカカシ先生に師事して数年経つもん。なのに木登りやってない方がおかしいよ」
ここでナルトは、第七班が編成される前からラセツとカカシは知り合いであり、師弟関係だった事を思い出した。 チャクラコントロールの技術は基本中の基本であり、師弟関係数年目で教えない訳がないと流石のナルトでも理解した。
ナルトの納得も得て、木登りの修行に戻った背中を少し見送った後、早速本題だとカカシは人差し指を立て、ラセツの前に突き出した。
「ラセツ。お前の《空間転移》は強力だ。でも、境界に頼りすぎて得意の体術が全く活かされていない時が多く見られる。それに…《空間転移》で決められなかった時の対応が出来てない」
「ぅ、」
「《空間転移》の座標が少しずれてしまった場合。避けられた場合…色々な条件で狙いと外れることがあるだろう」
「その時のための特訓ってこと?」
「そう言うこと。で、ラセツの修行だが……ズバリ、落ち葉集めだ」
「落ち葉集め?」
なんだ簡単そう、と思ったがそう思った事をすぐに後悔することになる。
ラセツの修行用に用意したのか、木から垂れ下がっているをロープを掴んで引っ張る。すると少し離れた木から大量の葉がゆったりと落ちていく。
どうやら、ロープを引っ張ればもう一方のロープの先に仕掛けた袋がひっくり返り、葉が落ちるという仕組みになっているらしい。
「これからお前がやるのは、このロープを引っ張って葉が落ちる場所に《空間転移》し、落ちてきた葉が地面に落ちる前に、《鬼化》以外ならどんな方法でもいい。全て取れ」
《空間転移》の精度だけでなく反射神経、洞察視力をはじめとした機能全て同時に鍛える、何とも合理的な訓練。シンプルだが鬼畜な内容にラセツは思わず頬を引き攣らせた。
「あ、《空間転移》でチャクラが枯渇しそうになったら、走って移動からの落ち葉集めに変更だから。サボんなよ」
病み上がりだというのに、通常通り容赦なく休憩なしコースを叩きつけたラセツはもう少し寝ておけばよかったと少し後悔した。
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「あーーッもー!!」
カカシに鬼畜な修行内容を言い渡されてから数時間。 課題である『葉が地面に落ちる前に全て取る』は未だに達成出来ていない。 葉は風に乱れやすく、ひらひらと不規則に落ちていくので掴むのでさえ困難だ。
「んー、だいぶ良いね」
もう静寂に包まれているこの森林に、その低い声はよく響き、ラセツは思わずその方向に視線を向けると、そこにはカカシが立っていた。 どうやら少し前からラセツの修行の成果を見ていたらしい。
「そろそろ戻るよ。もう遅いし」
「あ、ホントだ」
何だか視界が悪いとは思っていたが、見上げればもう太陽の輝きは失せ、呼吸を忘れてしまうほど見事な星空が広がっていた。
ラセツは簡単な後片付けをした後、カカシの顔を覗き込むように並んで歩いた。
「皆はどう?」
「順調だよ。……特にナルトなんて1番伸びてるし、先が楽しみだ」
ナルトの潜在的なチャクラ量はラセツやサスケを優に超え、カカシですらも上回っていた。 チャクラコントロールが完璧になり、多彩な術を扱えるようになったらナルトは今とは比べ物にならないくらいに化けるだろう。
「ふふん」
「何でお前が誇らしげなの」
自他認めるナルト至上主義なラセツは、ナルトが褒められた事実に胸を躍らせながらタズナの家に帰還した。
まず土や草などの汚れを落とした後、サクラと共に夕飯の手伝いをし、出来上がった夕飯を並べて手を合わせた。
「…ちょっと、2人とも?そんなに急いで食べなくても…」
ナルトとサスケは何があったのか、競うように夕飯を掻き込んでは吐き、おかわりを強請っていた。
「ラセツ、無駄よ」
ゆっくりと横に振るサクラの顔はどこか乾いており、諦めたような表情をしていた。 周りも掻き込んでは吐くという異様な光景に全く突っ込むことない様子から、これは初めての光景ではない事を悟って視線を2人から外した。
すると、ラセツはひとつ不自然なものを見つけた。
「ねぇ、この写真…、むぎゅ」
「……」
突然口が塞がれ、視線だけ後方に向けると、サクラは酷く悲しげな表情をしており、イナリは席から立ち上がり、部屋から出て行ってしまう。
「…なんか、訳あり??」
「あぁ」
カカシはそう短く答え、敗れた写真に写っていた町の英雄と呼ばれていた男、カイザとイナリについて話し出した。
カカシの話によると、イナリと親子同然の仲であったカイザは、ガトーがこの国に来て、町の英雄カイザは国の秩序を乱した罪人として公開処刑をされてしまったという。
「…だからオレは決めたんだ」
「え?」
「このオレが…英雄を信じらんなくなっちまったアイツに、この世に英雄がいるってことを証明してやるんだ」
蒼の双眸は強く輝き、握る拳は強く握りすぎて震えている。 どこまでも真っ直ぐ我が道を突き進むナルトにラセツはうっすらと笑みを浮かべた。
「ナルトならできるよ」
一切の不純物が紛れ込んでいない、心からの言葉。 滲んでいるとしたらナルトに対しての信頼のみだ。
ラセツは片目を閉じて悪戯っぽく笑い、人差し指でナルトを指差した。
「なんせ、ナルトはラセツの英雄だからね。カッコいいところ見せてあげて」
「応!」
迷いなく返事をするナルトにラセツは眩しそうに紫紺の瞳を細めた。