羅刹の希求   作:蒼林檎

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第二十話『知っている』

 砂隠れの下忍と一悶着あった翌日。ラセツは珍しく目覚ましが鳴る前に目を開けた。

 

 半覚醒状態の意識のまま状態を起こし、だらしなく、はしたない仕草で、カーテンから漏れ出る朝日を浴びながら体を大きく伸ばした。

 眩しい朝日の効果で少しずつ意識が覚醒し、寝台から足を下ろして立ち上がり、欠伸をしながら洗面台に向かい、冷水で一気に眠気を消し飛ばす。

 

 いつもより早い目覚めのお陰でゆったりと朝食を食べた後、寝衣を脱いで椅子に掛けた。 クローゼットに向かって任務服を取り出してひとつひとつ身に付け、ホルスターやポーチに入っている忍具を確認した。

 

 歯磨きをしながら、今日は割と機嫌良さげな藍色の長髪に櫛を通す。 歯磨きを終えた後に、慣れた手つきで髪の毛を半分に分け、短くおさげの三つ編みをしたところでヘアゴムを付けて残りの髪を流した。

 最後に鏡の前でくるりと回り、前や後ろにおかしなところがないか軽く確認をして、満足げに頷いた。

 

 

「よし、完璧!」

 

 

 ゆったりと準備をしていたが、時計を見れば、予定していた時間よりまだ早い。 だが、担当上忍の反面教師のお陰で素晴らしい精神を手に入れているラセツは、早いに越したことはないだろう、と玄関の扉を開けた。

 

 予定より出る時間が早い事をいい事に、道端にある開き掛けの花や店の準備をする人々を、ひんやりとする涼しげな風に撫でて貰いながら朝特有の景色を堪能しながら目的地に向かう。

 

 

「あ、サスケおはよう。相変わらず早いね」

 

「…普通だろ」

 

 

 サスケはあまり積極的に話す方ではない為、会話はあまり続かないが、ラセツはそんな時間があまり嫌いではなかった。 お互いを無理に干渉しない静かで心地の良い時間を楽しんで、次第に飽きて来た頃。

 サクラやナルトも集合場所に集まり、静かだった集合場所は一気に明るく騒がしくなる。 そして段々と時間が過ぎていくにつれ、ぽつぽつと怒りが溜まっていき、ついに爆発した。

 

 

「…ねェねェねェ!!こんなことが許されていいワケ!?何であの人は自分で呼び出しといて常に人を待たせるのよ!」

 

「そーだそーだ!サクラちゃんの言う通りだってばよォ!」

 

「寝坊したからってブローを諦めて来る乙女の気持ち、どうしてくれんのよ!!」

 

「そーだそーだぁ!オレなんか寝坊したから、顔も洗ってないし、歯も磨けなかったんだってばよ!!」

 

「あんた…それは汚いよ」

 

 

 サクラは若葉色の瞳をジトリと細め、えへへと笑うナルトを見て小さく溜息を吐いた。 

 そのまま時間は刻々と過ぎ、集合時間から数時間経った頃。

 

 

「やぁ、お早う諸君!今日はちょっと人生という道に迷ってな…」

 

「「「ハイ!嘘!!」」」

 

 

 通常通り、息をするように嘘をついて遅刻をするカカシは反省の色が全く見えない。 

 

 

「ま、なんだ…いきなりだが、お前達を中忍選抜試験に推薦しちゃったから」

 

 

 そう、カカシは3枚の志願書を取り出し、ナルト、サクラ、サスケの3人に手渡した。

 

 

「……ラセツは当然だけど、今回は見送りね」

 

「わかってる」

 

 

 志願書に書いてある中忍試験の日時は明日になっている。 昨日から1週間の運動禁止が出ているラセツが参加できないのは当然だった。

 ラセツは少し眉を下げながらにへら、と緩く笑った。

 

 

「中忍試験は今回だけじゃないし!皆より遅れる事になっちゃうけど、絶対追いついてみせるから!…皆は中忍試験頑張って!!」

 

「…ラセツならそう言ってくれると思ってたよ」

 

「えへへ」

 

 

 怪我とはいえ班の中で1人だけ志願書を渡さない事に、不安を持っていたらしい。 カカシは藍色の髪を不器用だが、髪型が崩れない様に撫でた。

 

 

「…ま、推薦したと言っても、受験するかしないかを決めるのはお前達の自由で強制じゃない。受けたい者だけその志願書にサインして明日の午後4時までに学校の301に来ること」

 

 

 カカシの言葉にナルトは嬉しそうに、サスケは少し気を引き締めて、サクラは不安げに。それぞれの反応で頷いた。

 3人が頷いたのを確認し、カカシはラセツに視線を向けた。

 

 

「で、ラセツはイルカ先生と座学のお勉強。それも特別にアカデミー生と一緒に出来る許可もらっといたから」

 

「……え?それは…ちょっと、迷惑なんじゃ…」

 

「大歓迎だってさ」

 

 

 救いはなかった。 もちろん班員も助けてはくれない。それどころかアカデミーを卒業したというのに、アカデミー生と再度勉強をする事実に、ナルトやサクラの大爆笑は勿論、サスケも笑いを堪えるように頬を震わせている。

 

 

「座学は嫌……いえ、えっと、傷が…そう!!傷が逆に!悪化しそう…っていうか……」

 

 

 ラセツはどうしても諦められなかった。 万が一にでも回避出来る様にと慌ただしく手を動かしながら、悲しくなるほど空しい言葉の羅列に、カカシは無慈悲にも深く笑みを浮かべた。

 

 

「大丈夫大丈夫、実技の授業もあるから」

 

「あれ、運動ダメなんだよね?」

 

「ラセツならアカデミー生の相手なんて呼吸してるのと一緒でしょ」

 

「いえ全く違いますが」

 

 

 ホント何言ってんだこの人。という思考でいっぱいだ。 運動禁止と言われたからラセツは走るのでさえ我慢しているというのに。

 当然ながら全く乗り気ではないラセツにカカシは考え、閃いた様にポンと手を叩いた。

 

 

「…しっかりやったらイルカ先生が栗饅頭いっぱい奢ってくれるかもよ」

 

「是非ともやらせて頂きます」

 

 

 チョロく非常に扱い易いラセツに、カカシは満足げに笑ったあと、「じゃ、解散ね」と白煙に包まれて消えた。

 

 ナルトは志願書を見ながらご機嫌に歩き、サスケも珍しく機嫌がいい。 対してサクラは浮かない顔で志願書を見つめていた。

 

 

「サクラ…どうしたの?体調悪い?」

 

「…ぁ、」

 

 

 ラセツの声にサクラは弾かれた様に志願書から顔を上げ、何処か引き攣った笑いを表面に出した。

 

 

「なんでもないの!ごめんね、心配かけて!」

 

「…サクラ」

 

「な、なに?」

 

「デートしよう!」

 

「へ?」

 

「行こう!」

 

「ら、ラセツ!?」

 

 

 有無言わせず、ラセツはサクラの腕引っ張る。 向かった場所はラセツが通う甘味処で、外の陽気が感じられる1番隅の席に腰を掛けた。

 

 

「サクラ、なに食べたい?奢るよ」

 

「あ、あんみつ」

 

「おばさん!いつものとあんみつひとつ!」

 

「はーいよ!」

 

 

 特に会話という会話はなかった。 甘味が来てもいつも通り美味しく食べるだけの日常がここにあった。 ラセツはサクラに悩みがある事に気づいている。しかし切り出さない。 サクラのペースに合わせているのだ。

 別に言わなくてもいい。言わなかったらこれはただの気分転換になる。 悩みを打ち明けても打ち明けなくてもサクラが苦しむ事も転ぶ事もない。

 そんな優しい道を築いて連れてきたラセツにサクラの心は揺れた。

 

 

「……ねぇ、ラセツ、」

 

「なぁに?」

 

 

 いつもは溌剌とした声をしているのに、今回は酷く優しかった。

 1度開いた口は閉じる事を拒み、ラセツの優しい声音が弱音と迷いを引っ張り、ボロボロと溢れていった。

 

 

「私ね、迷ってるの」

 

「うん」

 

「中忍試験、受けるかどうか」

 

「うん」

 

「私、ラセツやサスケくんみたいに強くないし、ナルトと違って全然成長してないし、役にも立てないし、お荷物なの」

 

「そんなことないよ。お荷物って言うならラセツだよ」

 

 

 ナルトは助けたものの、自分が無事ではないという本末転倒を起こす始末だ。 怪我もしており、実際今はお荷物だ。

 しかし、普段は時空間忍術を操り、体術に関してはサスケをも越し、カカシが一目置くほど。 ラセツと自分を比べると自分が惨めで仕方がなかった。

 どんどんと表情を固くし、眉を寄せるサクラに対してラセツは柔らかく微笑を浮かべた。

 

 

「ラセツね、サクラが幻術について調べ始めて色々実践してるの知ってる」

 

「…それは、先生が私は幻術タイプだって言うから」

 

「ナルトがいつ一楽に誘ってくれてもいいように小銭を持ち歩いてるの、知ってる」

 

「……アイツが偶に誘うからよ」

 

「薬草採集の時、分からなくならなかったのだってサクラの知識のおかげ。複数いたペットの捕獲をする時、作戦を考えたのだってサクラ」

 

「あれはただ…教科書とか図書室で借りた本に書いてあった知識を使っただけよ」

 

「忍術苦手なラセツにサクラは幻術を教えてくれた。ラセツね、簡単なのだけど幻術解除できるようになったよ」

 

 

 ひとつひとつの事象を慈しむように語る。 ついにサクラは息を飲み込み、喉を締めて言葉を詰まらせた。

 

 

「他にもいっぱいあるよ。…此処では話しきれないくらい、サクラは第七班に存在してる」

 

「……っ」

 

「サクラは立派な第七班の一員で、誇らしい仲間だよ」

 

 

 頬杖をついて優しく微笑むラセツの言葉は、不安で固くなっていたサクラの心を解きほぐしていく。 次第に締まっていた喉が緩み、頬を桜色に染め、震えるほど可憐な笑みを浮かべた。 

 

 

「……ラセツ、ありがと」

 

「此方こそ。いつもありがとう」

 

「私、頑張ってみる」

 

「うん。応援してる」

 

「ラセツも早く怪我治しなさい。あんまりモタモタしてると置いてっちゃうわよ!」

 

「え!それは困る!」

 

 

 サクラは立ち上がり、ラセツに向けてまっすぐ指を刺し、ラセツは先程の落ち着きとは一変し、慌ただしく焦り始め、サクラは思わず吹き出して笑った。

 

 

「……また、甘味処にきましょう??…次は私が奢ってあげるわ」

 

「ほんと!?サクラ大好き!」

 

「そんなこと知ってるわよ。明日からアカデミー、頑張りなさいよ」

 

「うぐ、今言わないでほしかった」

 

 

 

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