羅刹の希求   作:蒼林檎

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第二十一話『約束の待ち人』

 ラセツ以外の第七班班員が中忍試験を受けている間、ラセツはアカデミー生に座学を教えてもらい、実技はラセツが教えるというWin-Winな関係を築いており、あっという間に数日が過ぎた。

 運動禁止も解除され、アカデミーが終わった後、ラセツはサスケとよく修行をしている場所へ来ていた。

 

 

「皆大丈夫かな」

 

 

 中忍試験は死人も忍の道を挫折する者も少なくないと言われる辛い試験だ。 3人なら何があっても大丈夫だろうと信じてはいるが、心配はするし、不安もある。

 クナイを弄り回しながら、本日数回目となる溜息を吐いた。

 

 

「あ、いたいた!ラセツーー!!」

 

 

 明るく陽気な声が静寂な修行場所の空気を震わせた。

 手を大きく振り、満面の笑みで向かってくるのは煌めく金髪に、空を閉じ込めたような蒼い双眸を持つ少年、うずまきナルトだ。

 

 

「やっと見つけたってばよ!!オレってば中忍試験のーー、」

 

「貴方、誰」

 

 

 ナルトの言葉を遮ったのはヒリつく程冷ややかな声音だった。 目尻を吊り上げ、忌々しいと言わんばかりの紫紺の瞳だけを向け、愛らしい顔立ちは酷く顰められており、彼女の顰蹙を買ってしまっているのは明瞭だった。

 

 

「その不愉快な変化、今すぐやめて。気持ち悪いを通り越して反吐が出そうだから」

 

「……よくわかったわね。私が偽物だと」

 

「はぁ?ラセツがナルトを見間違えるわけがないでしょ」

 

「…まぁ、いいわ。この姿は貴方に近づきやすい様する為だけだしね」

 

 

 肩を落とし、首を横に緩く振りながら、ナルトに化けた人物は白煙に包まれる。 変化を解いた姿は、雪のように真っ白い肌と対照的な黒く長い髪に、櫨染色の双眸を持った何とも言えない不気味な雰囲気を纏う男だった。

 そしてその男の名前をラセツは知っていた。

 

 

「…大蛇丸……!」

 

「お馬鹿だとカブトから聞いていたけど、流石に私の顔は知っているようね」

 

「…そりゃ、鬼族を滅した原因だもの。知らないはずがないでしょ?」

 

 

 数年前。 鬼族の血継限界を狙い、ひっそりと暮らしていた鬼族に奇襲をかけ、鬼族の悲劇を引き起こした原因は大蛇丸だ。ラセツが知らないわけがない。

 

 

「それもそうね。…あぁ、一応言っておくけど逃げないでね?逃げたら此処ら一帯の人間を皆殺しにーー、ッ」

 

 

 大蛇丸が言い終わる前に、ラセツは《空間転移》を発動させる。しかし、大蛇丸は伝説の三忍と謳われる実力の持ち主。 ラセツの視線と僅かな筋肉の振動で察知し、避ける。

 

 

「ーーふ」

 

 

 しかし、再不斬よりも格上な大蛇丸に《空間転移》を避けられる事など想定内だ。 流れるような動作で短い呼吸音と共に、大木をもへし折る程の破壊力を持つ白く華奢な足を回し、腕で受け止めた大蛇丸は一瞬顔を歪めたが、すぐに歓喜に変わる。

 

 

「ーー…気持ち悪」

 

 

 喜色を滲ませる大蛇丸にラセツは底知れない狂気を感じとり、思わず呟き、足を引いて大蛇丸から距離をとった。 

 

 

「嗚呼…鬼族の肉体は勿論、母親の《言霊》に負けず劣らず、貴方の《空間転移》も本当に素晴らしい…ますます欲しくなったわ」

 

 

 狂気に満ちた強欲の限りを詰め込んで、混ぜ合わせて、ひとつにして人の形にしたような大蛇丸に、ラセツは冷や汗を浮かべて身を硬くするが、大蛇丸の狂気はなんの前触れもなく霧散した。

 

 

「私とした事が取り乱してしまったわ…ごめんなさいね。でもラセツちゃん、今日は戦いに来たんじゃないのよ。大人しく話を聞いてくれないかしら」

 

「……嫌だけど」

 

「まぁそう言わないで。聞いてくれたら今日の所は何もしないし、サスケくんについても色々教えてあげるわ」

 

 

 良く知っている名前が出たことにラセツは狼狽えるが、警戒をしつつも話を聞く最低限の姿勢を取る。

 大蛇丸は満足げに口角を上げ、中忍試験で行われた『第二の試験』にてサスケの能力と美貌を見込んで、強大な力を得られる『呪印』を付けたと、首筋を指しながら話す。

 

 

「まぁ、呪印はカカシの奴に封印されちゃったけどね。…だからといってあまり関係けど」

 

「なんで」

 

「彼は本物の復讐者よ…力を求めて私の元へ必ず来るわ」

 

 

 サスケは今、一族を滅ぼしたイタチを恨み、憎み、殺す為に生きている。しかし、イタチは『天才』と謳われた神童であり、簡単に殺せる相手ではない。 そんなサスケが喉から手が出るほど欲しがっているのが『力』だ。

 

 サスケが自ら里を出て、己の場所へ向かわせる手筈をもう既に整えている大蛇丸にラセツは唇を噛んだ。 大蛇丸はそんなラセツにねっとりとした視線を向ける。

 

 

「だからね?ラセツちゃん…貴方もサスケくんと共に私の元に来ない?」

 

「…嫌」

 

「私の元に来れば、母親を生き返らせてあげるわよ??」

 

「ーーー!」

 

「もう1度会いたくはない??貴方を愛してくれた母親に」

 

 

 そう、ラセツの首に掛かっている『鬼の瞳』を指差し、ラセツは隠すように『鬼の瞳』を強く握りしめた。

 ラセツにとって母は亡くなっても尚大切な存在だ。 だから、母がこの『鬼の瞳』を首にかけた際に、この石はなんでもひとつだけ願いが叶う石だと言った言葉を信じて、何度も何度も願った。

 

『生き返って』と。

 

 しかし『鬼の瞳』は答えてくれなかった。叶えてくれなかった。 しかし今、その願いが叶えられる希望が目の前にある。

 紫紺の瞳を大きく揺らして黙り込むラセツに、大蛇丸は満足げに笑った。

 

 

「…返事は今すぐじゃなくて構わないわ。じっくり考えなさい。…そして、サスケくんと共に自ら私の元へ来る事を楽しみに待っているわ」

 

 

 2人に首輪を付ける代わりに、サスケには『力』を。ラセツには『母』の対価を提示して、大蛇丸は去った。

 身体を締め付けるような緊張感はさり、安堵からラセツはその場にへたり込んだ。

 

 

「……はぁ」

 

 

 大蛇丸の対価を受け取ってしまえば、里には戻れないのは勿論、付ける首輪は2度と外すことが出来ない。 理由は単純。大蛇丸は完全に母を生き返らせたりはしないからだ。

 母を生き返らせて、もう用済みだからと裏切られたら堪らない。 なので大蛇丸はきっと、母を生かし続けたければ従えと、母を常に人質にする手段を取るだろう。 そんな事は絶対にお断りだった。

 

 

「それに…」

 

 

ーーーオレが居ない間、里とサスケを頼む

 

 

「…同志からの頼み事だからね」

 

 

 お揃いの志を持つ仲間としてラセツはイタチに里を任されている上、里を裏切るという事は自分の恩人で英雄であるナルトを裏切る行為であり、絶対に許される行為ではない。 それに、ナルトを護り、将来は隣に立つ。そして平和を築く為に尽力すると決めた過去の自分を踏み躙ることになってしまう。

 

 愛してくれた母に悪いと、申し訳ないと心が悲鳴を上げるように痛む。だが、人生を終えてしまった死者と、未来を必死に歩む生者に託された頼み事に、自分を救ってくれた英雄、共に生きた仲間。

 どちらを選択するかなんて、ラセツの中では既に決まっていた。

 

 

「…本当に御免なさい。でも、ラセツは皆と生きるって決めたから」

 

 

 母に渡された『鬼の瞳』を握りしめ、力の抜けていた足を叱咤し、自らの力で立ち上がる。 その時ふと、肝心な事を思い出す。

 

 

「あ、サスケの事、どうしよう…!」

 

 

 イタチには、里の他にサスケの事も頼まれていた。しかし、サスケは大蛇丸の呪印を付けられてしまった。 カカシによって封印されたとは聞いたが、根本である呪印が解呪されたわけではない。

 下忍になって間もないラセツにいい案など思いつくはずもなく、時間だけが刻々と過ぎていく。 ラセツは肩を落としら一旦気分転換ということで日課の散歩を始める。

 

 

(取り敢えず大蛇丸に会った事、カカシ先生には言ったほうがいいよね…)

 

 

 S級犯罪者と会い、サスケの事情を知った上に勧誘までされてしまったのだ。 大蛇丸にはつかないと決めた以上、担当上忍であり、大蛇丸の動きや事情も知っているカカシに必ず報告すべき案件だろう。

 そう考えながら木ノ葉病院前を歩いていた、その時。

 

 

「…あ!ラセツ!!」

 

 

 溌剌とした声音がラセツの鼓膜を震わせる。振り返れば、ナルトが大きく手を振り、走って向かってくる姿が見え、ラセツは満面に笑みを咲かせた。

 

 

「オレさ、オレさ!!中忍試験の本戦出場決めたってばよ!!」

 

「さっすがナルト!絶対応援しに行く!」

 

「んでさ!中忍試験にゃ、強い奴ばっかだったからさ!カカシ先生に修行頼みに来たんだってばよ!」

 

「あ、ラセツもカカシ先生に用があるの。ついてっていい?」

 

「もちろんだってばよ!」

 

 

 どうやらカカシはサスケの所にいる可能性が高いらしい。幸い、病院は目の前でナルトは受付に走ったが、サスケは面会謝絶をしており、ナルトは何度も「なんで」と噛み付いていた。ラセツはナルトを宥めるが、聞きやしない。 

 

 

「ナルト、院内では静かにしろ」

 

「あ!カカシ先生!」

 

 

 そこにナルトのお目当てであるカカシが現れ、ナルトは嬉しそうに飛び跳ねながらカカシに近寄り、修行を頼もうとするが、途中で遮られてしまう。

 どうやらサスケに修行をつけるらしく、カカシはナルトにエビスを紹介するが、非常に揉めていた。 数分後なんとか丸め込み、ナルトはエビスと共に修行へ向かった。

 

 ナルトの付き添いで来たと思ったのか、カカシはラセツに軽く挨拶だけして横を通り抜けたので、ラセツは慌ててカカシの腕を掴んだ。

 

 

「カカシ先生!今お時間頂けますか。因みに拒否権はありません!」

 

「…それさ、聞く意味ある?」

 

 

 溜息混じりの呆れた声でラセツに問う。 ラセツはその問いに答える代わりに掴んでいる腕を強く引っ張り、息のかかる距離までカカシの体勢を下げさせた。

 

 

「大蛇丸に会って、サスケの事聞いたの」

 

 

 大蛇丸はS級犯罪者である上に、中忍試験の事情を知っているカカシは、表情から緩みを消し、眉を顰ませ、瞳には緊張の色が滲み始める。

 

 

「サスケは…大丈夫なの?」

 

「……まず、場所を変えよう。此処じゃ場違いすぎる」

 

 

 ラセツの《空間転移》で全く人気のない場所まで移動し、カカシは冷静な声音で早速本題を切り出した。

 

 

「…ラセツ。大蛇丸と何があった」

 

「特には何も。話しをしただけ」

 

「内容、教えてくれるか?」

 

 

 ラセツは頷き、サスケの呪印に関して話された事、大蛇丸から『母』を対価に勧誘を受けた事を細かく報告していく。 ラセツの話が終わると、カカシは重たく長い溜息をひとつ吐いた。

 

 

「そうか……ラセツ、」

 

「話は受けないよ。受けるんだったら話してない」

 

「そうだな」

 

「…でも、ヤダって即答が出来なかった」

 

 

 母にもう1度会えると思うと心が揺らいでしまった。木ノ葉の忍ならば即答しなければならない場所で即答出来なかった事実に、ラセツは紫紺の瞳を僅かに伏せた。

 

 

「…いや、それでいい」

 

 

 手に入れたいモノが手に入らないと分かれば、強欲の権化である大蛇丸は何をするか分からない。 ある意味この選択は正解だったと言えるだろう。

 

 

「ラセツ。この話を火影様や他の上忍達にも共有する必要がある。…行こうか」

 

「待って、まだラセツの質問に答えてもらってない」

 

「…なんだ?」

 

「サスケは…大丈夫なの?」

 

「封印はしたが…あとはサスケ次第だな」

 

「呪印を消せる手段はあるの?」

 

「現時点では、無い」

 

 

 カカシの返答にラセツは肩を落とした。 イタチに里、そしてサスケの事を頼まれていたというのに。 全く何も出来ない自分が情けなくなり、穴があったら入るを通り越して埋まりたいくらいだ。

 

 そんなラセツを他所に状況は走るように変わり、頭の良くないラセツにはほぼ全く理解できないような事ばかりで、最終的に、ラセツの話は火影様や数名の上忍達に共有された、という事くらいしか分からなかった。

 

 あれから日は過ぎた。 

 本戦までの1ヶ月の準備期間中、ナルトはエビスと共に修行へ行ったきりで、サスケも病院を抜け出してカカシの修行へ出た。

 ラセツはいつも通り1人で修行をしたり、ヒナタの見舞いに行ったりする毎日を過ごしており、中忍試験本戦の準備期間終了はすぐそこまで来ていた。

 

 本日は、偶々捕まえたシカマルに修行を付き合わせている。いつもは絶対に断るシカマルだが中忍試験本戦もある為、断らず修行をしていた。

 

 

「あ!やっとつけた!!ラセツ!!」

 

 

 木陰に入り、休憩をしていたラセツとシカマルに、首丈で切り揃えられた桃色の髪を揺らして走ってくるのはサクラだった。 サクラはラセツの前まで来ると、膝に手をつき、乱れた息を整えながら嬉しそうに口を開いた。

 

 

「ナルト、帰ってきたって!」

 

 

 此処暫く音沙汰なかったナルトの帰還に、ラセツは一瞬呆気に取られた後、サクラの両肩を強く掴んで強く揺らす。

 

 

「え!?今、ナルトはどこにいるの!?」

 

「び、病院に、」

 

「え!?なんかあったの!?怪我!?」

 

「ううん、ただのチャクラ使い過ぎだって」

 

「そっか、なら良かった」

 

 

 ラセツは尻目でシカマルを見る。すると、察したシカマルは『行ってこい』とジェスチャーする。 ラセツは此処最近で1番の笑みを返し、姿は一瞬にして消えた。

 

 

「早いな…」

 

「まぁ、ラセツだから」

 

「それで納得できちまうラセツ、ヤベェな」

 

 

 自他認めるナルト至上主義の名は伊達ではなかった。

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

 

「うずまきナルトはどこですか!!!」

 

 

 空間転移でいきなり現れたラセツに受付の人は驚愕しながらも、ナルトの部屋番号を教え、ラセツは許される速度で院内を走った。

 

 

「ナルト!!」

 

 

 声、勢い共に病院内の許されるギリギリを攻めて、病室を開けると、そこには『油』と書かれた額当てに、色の抜け落ちたような白い長髪の男がいた。 その隣には18禁の本が積み上げられており、異彩な存在感を放っていた。

 ラセツは目を逸らし、病室に1歩踏み出した足を引っ込める。

 

 

「…………すみません病室を間違えました」

 

「待て待てィ!!間違っとらん!!」

 

 

 病室の扉を閉めようとしたラセツを止め、ホラホラ、と寝台で眠るナルトを指さす。 ラセツは恐る恐る病室に入り、男と視線を合わせる。

 

 

「…貴方は……?」

 

「良くぞ聞いた!!」

 

 

 男は立ち上がり、自信に満ちた笑みと動作で見栄を切る。

 

 

「聞いて驚け!!このワシこそが北に南に西東!斉天敵わぬ三忍の白髪童子蝦蟇使い!泣く子も黙る色男!自来也様たぁ!ワシのことよ!!」

 

「えっと、御免なさい良くわかんない」

 

「……お前、ちゃんと歴史の勉強しとったのか?」

 

「し、失礼な!!してたもん!伝説の三忍と謳われた大蛇丸とか大蛇丸とか大蛇丸とか!」

 

「三忍を全員大蛇丸にするなってーの!!」

 

 

 正直、歴史上の人物で知っているのは伝説の三忍と謳われた大蛇丸と、三代目火影くらいしか知らない。

 男は必死に伝説の三忍について説明し、目の前の男が伝説の三忍の1人、自来也だということが判明した。

 

 

「で、……お主は」

 

「あ、申し遅れました。ラセツと言います!ナルトと同じ班のメンバーなの」

 

「ラセツ…?ほぅ、お前がか」

 

「え?なになに??ラセツがどうかしたの?」

 

「いや…、ナルトがよくお前さんの話をしとってのォ」

 

 

 そう、自来也が目を瞑って薄らと笑う。 その表情から悪い話ではない事は察せるが、ラセツは緊張した様に口を結んだ。

 

 

「『オレはラセツの英雄だからラセツよりも強くなる』と悔しそうだったが、嬉しそうに話していた」

 

 

 ラセツは紫紺の瞳を大きく見開き、その後結んでいた唇を緩ませ、弧を描く。 そんなラセツに自来也は藍色の髪の毛を乱暴に撫で、乱れた髪を手櫛で整えながら頬を膨らますラセツに豪快な笑みを向ける。

 

 

「ワシはちと取材に出る。ナルトを任せたぞ。ラセツ」

 

「はい!任されました!」

 

「心強いのォ!」

 

 

 もう1度豪快に笑った後、自来也は病室から出て行った。 ラセツは規則的な寝息を立てているナルトの頭をそっと撫でた。

 

 あれからラセツは修行前と修行後にナルトの見舞いへ足を運んでおり、今日で3日目だ。 いつも通り見舞いの品物と着替え、いのの店で買った花を持って病院へ向かい、手続きを済ませる。

 

 

「失礼しまーす」

 

 

 3日前とは違い、そっと扉を開けるが、そこに人の気配は全くない。 寝台を確認すると、そこには昨日まで寝ていたナルトの姿が無かった。

 

 

「目覚めた、のかな…?」

 

 

 そっと寝台に手を乗せるとほんのりと熱があり、目覚めたのはつい先ほどだと分かる。

 取り敢えず、少し乱れた寝台を整えて着替えを置き、花を飾り直す。その後、病室から出てナルト探しに出る。

 院内を歩き回っているとき、見覚えある大きな瓢箪を背負った赤髪少年が目に留まり、軽く走って駆け寄った。

 

 

「我愛羅、久しぶり」

 

「…オレは今機嫌が悪い…殺すぞ」

 

 

 随分なご挨拶だった。

 友好的に話しかけるラセツに、我愛羅は濃密な殺気を含んだ視線でラセツを射抜いたのだ。 これは脅しではない。本気だ。

 しかし、此処で引くのはなんとなく面白くないと、ラセツの小さなプライドが邪魔をする。

 

 

「会ってそれは酷くない?」

 

 

 何人をも震え上がらせたであろう殺気を、ラセツは涼風を流す様に躱してみせた。

 そんなラセツに我愛羅は殺気も感じ取れない阿保だと判断し、甚振るやる気をごっそりと削られてしまい、僅かに肩を落として表情から力を抜いた。

 

 

「……お前…何故中忍試験に居なかった」

 

「あぁ、出たい気持ちは山々だったんだけど…怪我しちゃってて出れなかったんだ」

 

「そうか」

 

「我愛羅は明日の中忍試験本戦に出るんだよね。見に行くから頑張ってね」

 

「相手はうちはサスケだ」

 

「うん、知ってるよ。トーナメント表見たし」

 

「うちはサスケだけ応援すればいいだろう」

 

「だって、友達の応援はしたいし」

 

「お前と友達になった記憶はない」

 

「えー、いいじゃん友達。悪いものじゃないし、ラセツを我愛羅の友達にさせてよ」

 

 

 そう柔らかく微笑むラセツに我愛羅は薄浅葱の瞳を大きく見開き、何かを思い出した様に一瞬悲痛な色が走り、見開かれた瞳はすぐに伏せられる。

 

 

「オレは…化け物だ。お前と友達にはなれない」

 

 

 苦渋、哀愁、憎悪、憤怒をぐるぐると混ぜ合わせ、静かに纏めた様な声音。これは明らかに我愛羅がみせた拒絶だった。

 

 

「…なら、ラセツと友達になれると思った時、教えて」

 

「お前…」

 

「我愛羅がラセツと友達になれると思った時まで待っててあげる」

 

 

 我愛羅が何故、絶望や脅威、畏怖の対象に呼ばれる事が多い『化け物』を名乗り、拒絶する理由は知らない。 でもいつか、その拒絶が無くなる日が来るかもしれない。その時、気軽に友達になれるよう、待ち人になろうと思う。

 

 

「友達になれたその時は、友達記念日として美味しい甘味処連れて行ってあげるから」

 

 

 そう柔らかく微笑み「またね」と、我愛羅の横を通り過ぎ、ラセツはナルト探しを再開して院内を歩き回る。 すると、求めていた金色の輝きが見え、許される速度で走り、後ろから抱きついた。

 

 

「ナルトーー!!おはよう!!」

 

「ラセツ!!おはよーだってばよ!!」

 

 

 久しぶりの再会にナルトとラセツははしゃぐ。隣に居たシカマルにも挨拶をし、ひと通り騒いだ後、ナルトは少し口をもごもごとさせながらも口を開いた。

 

 

「あのさ、オレが寝てる間見舞いとか…その、ありがとな」

 

「どういたしまして!」

 

 

 明るく返答をするラセツだが、そこには温度差があり、ナルトとシカマルのテンションがいつもより低いことに気づく。

 

 

「…2人ともどうしたの??元気ないね。明日本選なのに大丈夫?」

 

 

 顔を覗き込む様にして尋ねると、ナルトは拳を握って地面と睨めっこをし、シカマルは厳しく眉を顰めた。

 

 

「さっき、ヤベーやつに会っちまってな…」

 

「そっか、それは大変だったね」

 

「対してお前はご機嫌だな」

 

「ナルトに会えたし、友達候補も出来たから」

 

「候補って…」

 

 

 友達ではなく友達候補と言うラセツに、シカマルは苦微笑した。 

 その後、気分転換として一楽へ行くことに決まるが、シカマルはパスし、ナルトとラセツのみで一楽へ向かった。

 

 

 

 

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