羅刹の希求   作:蒼林檎

22 / 35
第二十二話『忍び寄る影』

 

 

 

 中忍試験本戦当日。ラセツは朝食、髪型、服装全てを完璧に整え、準備万端で本戦会場に足を運び、いのとサクラと共に観客席に座っていた。

 

 

「サスケくん、まだ来てないわね…」

 

 

 試合会場にサスケの姿はみえず、その他にシカマルの相手であるドスの姿もなかった。不安げに瞳を揺らすいのとサクラに対し、ラセツはなんの緊張感もなさげに手に持っているうちわを弄っていた。

 

 

「大丈夫だよ。どうせ、カカシ先生の遅刻癖がうつっただけだろうし」

 

「ちょ、ちょっと待って!!」

 

「え、なになに?どうしたの?」

 

「どうしたの?じゃないわよ!!サスケくん、この1ヶ月カカシ先生と修行してるの!?」

 

「え、そうだよ?聞いてなかったの??」

 

「初耳よ!しゃんなろー!!」

 

 

 強く肩を掴まれ、激しく揺さぶられる。 

 まったく報告・連絡・相談をしない担当上忍をせず、当たり前のように時間通り来ないカカシは、らしいといえばらしいが、

 

 

「さすがに今日くらい遅刻しないで来てよ……」

 

 

 中忍試験本戦当日という大事な日であっても通常運転なカカシにラセツは溜息を溢した。

 その後、ドスの棄権に伴ってトーナメントの変更が発表され、8名で試合を行うことが決定した。 まだ来ていないサスケに関しては、自分の試合までに到着すれば棄権とはみなさないという寛大な処置が取られた。

 ひと通りの変更点を確認して会場全体に顔向けをした後、ナルトとネジを残して試合をする舞台から他の出場者は去る。

 

 

「ナルトーー!!頑張れーー!!」

 

「ラセツ……気合入ってるわね…」

 

「もっちろん!ナルトの晴れ舞台だし!!」

 

 

 ナルトの名前と応援の言葉が書かれた応援うちわを両手に持って振り、大きな声援を送るラセツにいのは呆れ半分に笑う。

 

 

「……でも相手が日向ネジじゃあねぇ…勝負は見えてるわね」

 

「ううん!わかんないよ!!」

 

「ナルト至上主義のラセツに言った私が馬鹿だったわ」

 

 

 ナルトの負けを確信して試合の舞台に視線を向けるいのに、ラセツは眉を寄せ、頬を膨らます。 勝負は分からないと言ってやりたいが、今からラセツが何を言おうとこの会話が続くだけだろう。

 ラセツは言葉をグッと堪えて、審判の声と共に試合が開始されたと共に会場1番の声援を懸命に送った。

 

 ーーすぐ終わると誰もが思っていた『日向ネジVSうずまきナルト』の試合は長く長く続いた。

 そして、いつしか感じたことのある禍々しく強烈な朱いチャクラがナルトを包み込み、ナルトの諦めないド根性と予想の斜め上な戦略で昨年のNo. 1ルーキー日向ネジを下した。

 

 

「やったーー!!ナルトが勝った!!!」

 

「……本当に、勝っちゃった…」

 

「だから言ったでしょ!わかんないって!!」

 

 

 応援のうちわを握りしめ、キラキラと誇らしげに紫紺の瞳を輝かせるラセツに、いのは「そうね」と少し申し訳なさそうに薄く笑った。 

 

 

「あ、ナルトが帰ってきたわよ!」

 

「行ってくる!!!」

 

「はいはい。席は守っておいてあげるから」

 

 

 勢いよく席から立ち上がり、観覧席の階段を駆け上って、シカマルに背中を叩かれて賞賛されているナルトに勢いよく飛びついた。

 

 

「おめでとう!!ナルト!!!」

 

「ラセツ!!応援サンキューだってばよ!!スッゲー聞こえた!!」

 

 

 木ノ葉の大人達や、大名達の中でナルトを個人的に応援する者は多くなかった上に、相手は去年のNo. 1ルーキーで、日向の血継限界を継ぐ日向ネジが相手だったこともあり、ラセツの応援は異色を放っていた。

 本当ならもっと賛辞の言葉を送り、話していたかったが、席を取っていてくれているサクラ達に悪い。 ラセツは席に戻ることを伝え、観覧席の階段を降りた。

 

 

「席、ありがとう!」

 

「いいのよ。それより……2回戦、どうするのかしら…」

 

 

 2回戦はうちはサスケと我愛羅の試合。物見高い忍頭達や依頼主である大名達にとってこれ程ほど楽しみな試合はないのだが、肝心のうちはサスケが試合会場に到着しておらず、一向に始まらない試合に客は野次を飛ばし始める。

 

 

「皆様!次の試合の受験者が現在ここに到着しておりません。よって…この試合は後回しにし、次の試合を先に始めていくことにしました!」

 

「よかった〜!サスケくん失格にならないんだ!」

 

「はぁ、本当によかった…!」

 

「感謝だね!」

 

 

 サスケの失格回避にそれぞれ胸に手を当て、ホッと安堵の息をつく。 審判は次の試合の組み合わせであるカンクロウと油女シノの名前を呼ぶ。

 

 

「試験官!オレは棄権する!試合を進めてくれ!」

 

 

 そう、会場に声を響かせ、騒つかせたカンクロウの棄権により、油女シノの不戦勝が決定し、なんともつまらない展開から客が唇を尖らせる。 そんな中、ラセツは疑問符を頭の上に浮かべ、首を傾げた。

 

 

「……試合に出るつもりが無いならなんで来たんだろう??」

 

「知らないわよ、そんなの。中忍試験が観たかっただけとかなんじゃないの?」

 

「それならなんで態々このタイミングで??普通なら最初に進言するでしょ。……何か棄権しなきゃいけない理由が出来たのかな??」

 

 

 何故だろう、と顎に指を当てて考え込む。

 通常の試合進行では問題無かった。しかし、2回戦が延期されるというイレギュラーが発生した事で棄権をしなければいけない理由が出来た。 そして棄権を進言するタイミングだ。カンクロウは最初に棄権を進言しなかった事からあまり目立つ行為は避けたかったとみえる。

 カンクロウの行った不自然極まりない行動に、何か企んでいるのだろうか。という思考が働く。

 

 

「ま、深く考えても仕方ないか」

 

 

 知能が低く出来の悪い頭では全く結論は出ない。 ラセツは思考を飛ばすように頭をゆるゆると振った。それに今は考えるよりも、目の前の色々と新鮮な試合を楽しむことが優先だ。

 

 ラセツは、身の丈ほどもある巨大な扇に乗って試合の舞台に降り立つテマリと、ナルトに落っことされる形で試合の舞台に降りたシカマルをみる。

 

 ここまでだけでも十分不幸だが、シカマルの不幸はこれで終わりではない。 物見高い忍頭達や依頼主である大名達や客が楽しみにしていた試合が延期され、ノーマークの試合を観せられる事になり、多大なブーイングを浴びせられていた。

 

 

「シカマル…どんまい」 

 

 

 立て続けに不幸が起こるシカマルにラセツは同情し、合掌せずにはいられなかった。

 

 だが、ブーイングの嵐はすぐ収まることになる。

 奈良一族の秘伝忍術を習得してはいるものの、シカマルの術は決定打に欠ける。しかし、奈良シカマルは、優秀などの言葉では収まりきらない規格外の『頭脳』を持っていた。

 

 卓越された頭脳にて、周囲全ての情報を掻き集めて導き出された作戦は、相手の思考や行動すらも全て計算されており、まるでシカマル主催の舞踏会で踊らされているような試合に誰もが口をつぐみ、視線を奪われ、時間を忘れて試合観戦に没頭した。

 

 最終的にテマリを追い詰めたが、降参するシカマルにラセツは僅かに肩を落とす。 でもシカマルらしい。と、途中から合流したチョウジと笑い合った。

 

 

「アイツ、なんでギブアップなんかすんだってばよ!!バッカじゃねーの!?なんか腹立つ!!ビシッと説教してやる!!」

 

 

 シカマルらしい、で納得しないのがナルトだ。 観覧席から試合の舞台まで降りて文句を言いに行く。 直後、木の葉がフワリと浮いて激しく風に舞い狂う。その様子を見てラセツは口角を上げる。

 

 

「…ーー来た」

 

 

 ラセツの確信通り、舞台の中心に堂々と降りたのは第七班の担当上忍であるカカシと、中忍試験本選期待度No.1であるサスケだった。

 

 

「ねぇ、アレってまさか…」

 

「サスケくんですよ!」

 

 

 真偽を確かめるいのの言葉に答えたのは聞き覚えのない声で、ゆったりと振り返ると、そこには自称カカシのライバルであるガイと、ガイによく似たおかっぱ頭に太眉という、見た目に絶大なインパクトを持った松葉杖の少年がいた。

 

 

「リーさん!…あ、ラセツは初対面だったわよね?」

 

「うん!…初めまして、ラセツです!」

 

「こちらこそ初めまして。ロック・リーと申します!!ラセツさんのことはサクラさんからよくお話を聞いています」

 

「えー、なんか照れちゃう…。あ、席変わりましょうか?」

 

「いえ!お気になさらず!!これも修行の一環ですので!」

 

 

 松葉杖を使用しているリーに席を譲ろうと立ち上がりかけるが、リーの言葉にラセツは再度席に腰を掛け直す。 カカシ経由で交流のあったガイとも軽く挨拶を済ました後、カカシが合流した。

 

 カカシはサスケに関して一切連絡をしていなかったサクラに謝罪し、サクラはそれを赦す代わりにサスケの『呪印』について周りに悟られない様、気を配りながら濁して問い、返ってきた問いに喜色と安堵が滲んでいく。

 

 サクラはラセツが『呪印』について知っている事を知らない。

 襲われた相手に直接聞いたなんて言ったら、心の余裕が十分にない今のサクラに、大きな混乱を招く事は目に見えている。なので安堵に力を抜くサクラを尻目に口を開かず、そのまま視線を審判とサスケ、我愛羅以外居なくなった舞台に移した。

 

 

「…2人とも頑張れ」

 

 

 興奮で盛り上がり、熱気が会場中に立ち込めている空気の中、サスケと我愛羅はお互い舞台の中心に立ち、視線を交えて審判の試合開始合図を待つ。

 

 

「始め」

 

 

 審判が試合開始を告げた直後から、その試合は圧巻なものだった。

 

 我愛羅は砂を自在に操り、サスケは以前とは比べ物にならない精度と速度の体術で我愛羅を圧倒する。

 

 

「…凄い」

 

 

 サスケの神速を極めた体術と我愛羅の砂の術から繰り広げられ、繰り返される刹那の攻防に、感嘆の吐息を洩らす。

 

 だが、この攻防は均衡を保てているわけではなかった。

 サスケの速度が我愛羅の砂の速度を僅かに上回っており、互角の勝負を繰り広げる2人の間では、ほんの微々たる差も致命的で攻防の優勢はサスケに傾いている。

 

 しかし、我愛羅は動きを止めて全ての砂を防御にまわし、高密度で高硬度な砂の壁を360°砂で覆った死角なしの『絶対防御』を創り上げる。

 

 

「カカシ先生!!」

 

 

 聞き覚えのある声に振り返ると、ナルトとシカマルが息を切らし、酷く焦りを含んだ表情で立っていた。 

 

 

「先生!今すぐこの試合を止めてくれってばよ!」

 

「え?」

 

「アイツは…他人を殺すために生きてるよーな普通じゃねぇ奴なんだってばよ!…とにかく!このままじゃサスケ、死んじまうぞ!!」

 

 

 人を殺す為に生きる。それは生きる存在価値が見当たらない時の最終手段だ。人の極地である死を身近に感じて、生きている自分を探し、実感する。それはなんて孤独で寂しい生き方なのだろうか。

 

 

(…あぁ、そっか)

 

 

 普通じゃない奴。その言葉にラセツは、我愛羅の事を怖がるテマリやカンクロウ。そして我愛羅が自分の事を『化け物』だと言った事を思い出す。 彼は自他認める『化け物』なのだ。

 

 だからラセツが友達になろうと言った言葉を拒絶した。絶望や脅威、畏怖の対象に呼ばれる事が多い『化け物』を自ら名乗る事で、頭のおかしい奴だと判断させて関係を断とうとした。

 どういう経緯でラセツとの関係を断とうとしたのかまでは分からない。ただ単に面倒だったのか。『化け物』と恐れられる彼との関わりを持つ事は不利益しか産まないと考えた彼の心奥から来る優しさ故か。

 

 

(…友達になったら聞いてやんなきゃな)

 

 

 ラセツの言葉を拒絶した理由を問いただす機会は、生きてさえいればいくらでも用意されている。 どの様な表情や返答が返ってくるのかが楽しみで、自然と口角が上がった。

 

 

(あ、やばい試合試合!)

 

 

 思考に集中しすぎて試合観戦を完全に放棄していた。 慌てて試合を目で追うと、サスケは壁に足をついており、印を組む。

 

 

「あの印…カカシ先生、まさか!!」

 

「そ、当たり」

 

 

 サスケの手から目に見えるほど膨大で、入念に練り上げられたチャクラが耳を裂くような凄まじい音を鳴らして白い輝きをはなって放電した。

 

 

「《二度寝を許さない目覚まし》!!」

 

「うん。《千鳥》に変な異名付けないで」

 

 

 カカシが突っ込んだのと同時にサスケは壁を蹴り、《千鳥》の独特な攻撃音を奏でながら猛烈な速度で駆けていく。そんなサスケを見てガイは納得した様に頷いた。

 

 

「肉体活性…そうか、だから体術ばかりを鍛え、スピードを飛躍的に高めたのか」

 

「そ!」

 

「しかし…まさか《千鳥》を教えてるとはな」

 

「ま、アイツはオレと似たタイプだったしね」

 

 

 《千鳥》は見た目は派手なものの、シンプルな突き技だ。 しかし、雷の性質変化や写輪眼、高い動体視力に見合った運動能力を持つ事を条件としており、条件が多く、使い手は限られている。

 その条件を写輪眼の使い方をカカシに学び、体術をひたすらに極め、雷の性質変化まで習得してみせた。 かなり難題なのだが、短い期間でやり遂げるとは流石天才一族様のうちはだ。

 

 

「《千鳥》かぁ…凄いわね…チャクラが目でハッキリ見えるし音も凄い…一体どうなってんの??」

 

「ただの突きだ」

 

「え?」

 

「しかし、木ノ葉1の技師…『コピー忍者カカシ』唯一のオリジナル技」

 

 

 試合から目を離さないまま、ガイは《千鳥》を知らないサクラ達にわかりやすく説明していく。そして、説明が終わった瞬間。 《千鳥》纏ったサスケの一撃は我愛羅の『絶対防御』を貫いた。

 

 

「《千鳥》…つまり《雷切》」

 

「《雷切》…?」

 

「《千鳥》の異名だよ。カカシ先生があの術で雷を斬ったっていう事実に由来して《雷切》とも呼ばれてるの」

 

「へぇ…」

 

「《千鳥》…極意は人体の限界点ともいえる突き手の速さとその腕に集約されたチャクラ…そして、その腕はまるで斬れるもののない名刀の一振りと化す」

 

 

 いのが胡散臭いと言わんばかりに眉を寄せていくのをラセツは見逃さず、「本当なんだから!見た事ないけど!」などと説得力皆無な説得を行う。 対して素直なチョウジサクラはサスケに釘付けだ。

 

 

「なんか、私には理解の範疇超えてるけど!凄い技!!」

 

「いやぁ…昔、目覚まし代わりにあの術使われた時は殺意が湧いたね」

 

「あぁ、ここで目覚ましに戻ってくるのね」

 

「というか、あんな凄い術を目覚まし代わりに使うカカシ先生ってちょっとヤバいよね」

 

「あぁ、でもあれは起きなかったラセツが悪いね」

 

「普段は遅刻してるのカカシ先生なのにラセツが寝坊したらこれだよ。酷いよね」

 

「「「それは酷い」」」

 

 

 同期3人は完璧にラセツの味方だ。

 得意げに胸を張っていると、視界の隅に蒼い瞳に闘争心と嫉妬心を滲ませるナルトが目に入り、本当に良いライバル同士だと微笑みを浮かべる。 しかし、そんな和やかな時間は我愛羅の絶叫が鼓膜を叩いた事で終わりを告げる。

 誰もが絶叫した我愛羅の方に視線を向けて、絶句した。

 

 

「……なに、あれ」

 

 

 『絶対防御』から腕を引き抜抜いたサスケの腕には、異形のナニカが巻き付いており、誰もが目を見張る。しかし、観客席からは異形のナニカの正体はわからない。ただ、酷く異質で空気が震える様な緊張感が襲ってくる。

 

 我愛羅の『絶対防御』にヒビが入り、ゆっくりと我愛羅が姿を現す。その身体にはサスケにつけられた傷がついており、その瞳はひどく血走っていた。そしてーー、

 

 

「あれ…?」

 

 

 酷く張り詰めていた空気が霧散し、代わりにフワフワと白く柔らかい羽が落ちてきて視界を彩る。

 

 

「なにこれ…」

 

「ラセツ、これは幻術よ!!…解!!」

 

 

 サクラは印を結んで素早く幻術を解き、ラセツをみる。 

 元々幻術への耐性が強いのか、半覚醒の様な状態であり、寝起きの様な呑気な顔を向けるラセツに、サクラは僅かに青筋を浮かべ、パシンと頭を叩いた。

 

 

「のぺっとしてんじゃないわよ!!ほら、早く印組んで!!教えたでしょ!!」

 

「うん。…解ぃ……んむ、あれ?」

 

「…はぁ、良かった。幻術返し出来たわね」

 

「助かった…ありがとう、サクラ」

 

 

 サクラとの修行が功を成し、柔らかな幻術から抜けたラセツは紫紺の瞳をぱっちりと開けて辺りを見回しーー、火影と風影がいる場所が激しい煙に覆われた瞬間を見た。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。