羅刹の希求   作:蒼林檎

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第二十三話『木ノ葉崩し』

 火影と風影がいる場所が激しい煙に覆われた後、風影は火影の首元に腕を回して捕らえ、クナイを突きつけて煙幕から飛び出る。

 

 その後、火影と風影の周囲に薄い幕のような壁ができる。 風影に囚われた火影を救出しようと、暗部が壁の中に入ろうとしたが、壁に触れた瞬間、炎に焼かれて弾かれてしまう。

 

 

「……結界忍術か」

 

「暗部を出し抜くとは…只者じゃ無いな」

 

「ラセツ、結界内に転移は」

 

「…だめ。あそこは座標登録されてない」

 

「まぁ…だよね」

 

 

 この中忍試験試合会場は普段は開放されていない場所である上に、結界が張られている場所は上層部なのどの人間しか入ることの許されない一般立入りが禁止な範囲にある。 座標登録していたら逆に問題だ。

 

 

「ーーー!」

 

 

 火影を捕らえ、クナイを突きつける風影の行動。周囲を寄せ付けない結界を瞬時に張る行為。

 これは明らかに木ノ葉隠れの里を潰す事前計画をしっかり立てていた事は明確であり、木ノ葉と砂の同盟が破られた事を証明していた。

 

 今すぐ火影の救出へ向かおうとカカシとガイが行動しようとしたその時、その道を塞ぐ様に暗部の仮面を身につけた忍が降りた。

 

 

「なにをしている!火影様の危機だぞ!」

 

 

 しかし、暗部はガイの言葉に応える事なく印を組んでおり、敵対の意識を見せる。 その後、観戦客に紛れていた敵の忍も集まり、戦闘態勢を取った。

  

 

「参ったねぇ、どうも」

 

「暗部になりすましている敵がいるとはな…幻術を使ったのもアイツか」

 

「あぁ、間違いない」

 

 

 それに敵はかなりの数。対してこちらは上忍2人に下忍2人と多勢に無勢もいいところな上に、気絶している観戦客もいる。

 数で押されたら完全にジリ貧な戦いに頭が痛くなる。そしてこの後、その頭痛を更に痛くする事実が発覚する。

 

 

「か、カカシ先生、ガイさん!!あそこ!!」

 

 

 焦った様子でラセツが指をさす。 カカシとガイは敵を注視しながらもラセツが指をさす火影と風影を閉じ込める結界の中に視線だけを向け、目を見開いた。

 

 

「あれは…!」

 

「…大蛇丸!!」

 

 

 風影の笠を被り、衣装を身に纏う大蛇丸に、視線を奪われて敵への注視が疎かになる。 その瞬間を敵は見逃す事なく、攻撃を仕掛けた。

 その中には上忍2人ではなくサクラに向かって行く敵もいて、サクラは恐怖に身を縮こめた。しかし敵は、幻術にかからないという愚かな選択をした忍を、子供の下忍だからと見逃す慈悲を持ち合わせていない。

 サクラの命を抉り取ろうと無情にも振り下ろされるクナイがサクラに迫りーー

 

 

「サクラに…触らないで」

 

 

 冷ややかな声音と共に細く華奢な拳が、まるで砲弾だと比喩しても相応だと頷いてしまうほどの威力で敵の忍を殴り飛ばした。 砲弾と並ぶほどの威力を喰らった敵はもちろん気絶しており、あの様子だと数本骨をやられているだろう。 

 

 

「ナイスだラセツ…戦えるか?」

 

「もちろん!」

 

「無茶だけはするなよ」

 

「約束は出来ないけど、了解!」

 

 

 卓越した身体能力と動体視力をフル活用し、大人と子供の体格差を活かして死角に回り込んでは、思わず敵に同情してしまうほどの剛腕を振り回し。《空間転移》で敵の視界から強制的に自分を消して、不意を突いて強靭な蹴りが敵を吹き飛ばす。

 

 

「すっごい…」

 

 

 多勢に無勢な戦いは激甚を極めている中で、踊るように身を翻し、神出鬼没に現れては肉を撃って骨を砕き、相手の意識を奪っていく。 戦場で踊り狂うラセツに場違いと理解しながらもサクラは嘆息を洩らし、カカシは少し驚いたように口角をあげる。

 

 

「……修行をサボってはいなかったようだね」

 

「当たり前でしょ。皆に置いていかれちゃうのは絶対嫌だから」

 

「上出来。…ラセツ、サクラ!」

 

 

 カカシの呼びかけに、身を縮こめていたサクラは僅かに背筋を伸ばし、ラセツはサクラの隣に転移した。

 

 

「…心してかかれよ。波の国以来のAランク任務だ!」

 

「…!!……任務内容は?」

 

「サスケは砂の我愛羅達を追ってる。…お前達はナルトとシカマルの幻術を解いて、サスケの後を追跡しろ」

 

「でも、それだったらいのやチョウジも起こして大勢で…」

 

「おそらく既に里内には砂や音の忍がかなりの人数入り込んでいる。基本小隊である4人以上での行動は迅速さを失い、敵から身を隠すのが難しくなる……アカデミーのパトロール実習で教わっただろう?」

 

「あ、そっか…じゃあ、4人ってことは私の他にラセツとナルトとシカマルね!……まって…先生は行かないの?」

 

 

 不安に瞳を揺らすサクラを尻目に、カカシはクナイで親指を傷つけ、一滴の血を流して印を組む。

 

 

「オレはここを離れるわけにはいかない………《口寄せの術》」

 

 

 カカシの術の中心部に発生した白煙から、木の葉の額当てをした犬が姿を現し、カカシは額当てをした犬を親指で示す。

 

 

「あとはこのパックンがサスケを匂いで追跡してくれる」

 

 

 カカシの代わりが口寄せされた犬、パックンである事にサクラは戸惑いつつも、軽く挨拶を済ませ、カカシの指示通りナルトとシカマルを起こす為、行動に移る。

 しかしラセツはサクラの後に続くことはせず、じっとある一点を見つめていた。

 

 

「ラセツ、向こうに行く」

 

 

 そう、ラセツが指さしたのは火影と大蛇丸を閉じ込める結界がある場所であり、カカシは厳しく眉を寄せ、鋭く目を細める。 しかしラセツは一歩も引く事なく続けた。

 

 

「座標を記録したら、もしかしたら入れるかも」

 

「だが、お前にできることは…」

 

「向こうには暗部がいるでしょ?だからその人達と一緒に結界内に転移する」

 

 

 ラセツの《空間転移》は空間の位置を交換する術で、結界を通らない為、結界に弾かれず結界内部に侵入できる可能性が高い。 しかし、異物だと弾かれる可能性も捨てきれず、弾かれた場合は灼熱の炎で焼かれ、命はない。 もし入れたとしても、内部は伝説の三忍の1人である大蛇丸がいる。

 生きて帰れる保証は無いどころか、生死の天秤は死に大きく傾くだろう。

 

 忍にリスクが高い任務は付き物であり、それを乗り越えていくのが忍だ。 しかし、このあまりにもリスクの高すぎる賭けは、まだ新人の下忍にはあまりにも早く手に余る。だが成功したならば、と思考が走り、カカシは判断を鈍らせる。

 

 

「…ラセツと行ってこい、カカシ!!」

 

 

 中々結論が出せないでいたカカシの背中を押したのは背中を預けるガイであり、カカシは少し驚いて目を見開く。 何故なら現在、多勢に無勢で戦力がカツカツで、上忍1人抜けるのはかなりキツい事が分かっていたから。 しかしガイは笑ってみせる。

 

 もし、結界を抜けられないと事前に分かれば、ラセツの《空間転移》でガイの加勢にすぐ駆けつけることも可能だ。 その事も踏まえてカカシはやっと頷いた。

 

 

「……わかった。ガイ、任せたぞ」

 

「あぁ、そちらも任せた!」

 

「…サクラ、変更点はラセツだけだ。任せたぞ」

 

「っはい!……ラセツ、しくじるんじゃないわよ!!」

 

「そっちこそ!!」

 

 

サクラと拳を向き合わせ、ラセツはカカシと共に火影のいる場所へ向かった。

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

 

「ーーっもう!!急いでるのに!!」

 

「埒があかないな…」

 

 

 もう数百と振るった手足やクナイは返り血に塗れて汚れている。しかし、敵の数で攻める猛攻は途切れることはない。

 

 

「ラセツ、なるべく転移を使いすぎるな」

 

 

  戦う為に創られた身体と言っても過言ではない鬼族の肉体を持つラセツだが、まだ下忍。 神出鬼没の《空間転移》を駆使して戦い、戦闘能力の差を埋めている戦い方は、かなりのチャクラ消費量が多く、燃費が悪い。

 火影を閉じ込めている結界には、ラセツの《空間転移》が必要不可欠であるのにガス欠で使えませんでは話にならない。

 

 

「わかって、る!!」

 

 

 体格差を活かしてどんどん立ち塞がる敵の死角に潜り込み、中々思うように前へ進めない鬱憤を晴らすように拳を振るい、踊るように蹴りを炸裂し、クナイの鈍い刃を爛々と輝かせ、走らせる。

 

 

「…ーー急いでるって言ってるでしょ!!」

 

「それを聞いてくれないのが敵だよ」

 

「ふぐぅ…!!なんて厄介な…!!」

 

「イヤ、常識でしょーよ」

 

 

 敵がこちらの話を聞いてくれる程呑気な奴らならば戦闘なんざ始まっていない。そんなことは常識中の常識だが、ラセツの苛つきは蓄積され続けーー、

 

 

「どいてよ、おたんこなす共ーー!!」

 

 

 遠慮という理性は食いちぎられた。

 今まで会場を破壊しないよう、気を配りながら戦っていたが、その加減は消え失せた。 気絶している観客に被害が及ばないようにという思考はあるみたいだが、地面に亀裂を入れ、壁を粉砕しながら敵を吹き飛ばすラセツはまさに破壊の化身だ。

 

 

「……終わったらオレ、どやされるな…」

 

 

 敵を倒す為とはいえ、ガイ以上に周囲を破壊して進むラセツを見て、後から山ほど必要書類や反省文、説教が待ち構えていることが容易に想像できる。 カカシはため息をつきながらラセツの隣を走り、目的地であった結界の場所にようやくたどり着いた。

 

 

「カカシさん!?どうして此処に」

 

「んー?勿論火影様を助けに」

 

「ですが、結界が…」

 

「わかってるよ」

 

 

 最初見た時と違い、木樹が苦しげに敷き詰められている結界を見上げ、ラセツを流し目に見る。

 

 

「ラセツ、どう?」

 

「取り敢えず座標記録して確認してくる」

 

「おい、君!!危険だ!」

 

「待って」

 

「何故ですか!?あの結界は…」

 

「あの子は空間を交換する時空間忍術が扱える。もしかしたら結界内に入れるかもしれない」

 

「あんな子どもが…そんな高等な時空間忍術を…?」

 

 

 仮面を被っていても、半信半疑の様子が窺える。 

 ラセツが扱う空間を自由に交換する時空間忍術は高等忍術中の高等忍術に分類される類であり、三代目火影であっても扱うことの出来ない程のものだ。

 それを子供が扱えるなど半信半疑も無理はない。

 

 

「あんな子供でもオレの自慢の一番弟子だ。舐めてもらっちゃ困るな」

 

 

 他里から『コピー忍者のカカシ』『写輪眼のカカシ』と恐れられ、木ノ葉1の技師であるはたけカカシにそこまで言わせるラセツに、暗部は小さく息を呑んだ。

 

 

「カカシ先生!!多分いける!!」

 

 

 朗報を持ち帰ってきたラセツだが、その表情はどこか暗く、目線を泳がせており、申し訳なさそうに指を突き合わせる。

 

 

「でも…結界のせいか座標が安定しにくくて、ちゃんと転移できる範囲が狭いの。ラセツ含めて3人が限界」

 

「いや、十分だ。……あと1人暗部からすぐ人選して」

 

「ならワタシが」

 

 

 暗部の1人が一歩前に出る。 ラセツはカカシと暗部の1人の腕を掴み、自分の方へ強く引き寄せる。

 

 

「肢体断裂されたくなかったら動いちゃダメだからね」

 

 

 一言警告入れた後、《空間転移》を発動させ、視界の景色は一気に変化する。

 無事に結界内に侵入できた3人は樹木を斬って掻き分けながら、心臓を直接撫でるような殺気と緊張感が濃い方へ進んでいく。そしてーー、

 

 腐るように染まり、力無く両腕を下げる大蛇丸と、最後の命を燃やしている三代目を見て絶句した。

 

 

「木ノ葉崩し…ここに敗れたり…!」

 

「この老いぼれが!!私の腕を返せ!!」

 

「愚かなるかな大蛇丸。共に逝けぬのは残念じゃが、我が弟子よ…いずれあの世で会おう」

 

「風前の灯火のジジイが…よくも、よくも私の術を……」

 

 

 徐々に瞼を閉じ、地面に倒れ込んだ三代目にラセツはやっと正気を取り戻し、三代目に駆け寄った。

 

 

「ーー火影様!!」

 

「…ラセツか」

 

「いや……待って…!!死なないで、死なないで死なないで死なないで」

 

 

 全てを奪われたラセツに居場所を用意し、余所者であるラセツにも例外なく家族だと言い、愛してくれた三代目の死をラセツは認めない。 ラセツは首元を飾る『鬼の瞳』を握りしめ、『死なないで』と願う。

 その時ふと、涙に濡れる頬にタコやマメだらけの乾燥した手が触れた。

 

 

「…すまんのぅ」

 

「ぁ、ほ、火影様…?」

 

「せめて、お主が一人前の忍となるまで護ってりたかったんじゃが……約束は守れんようじゃ……」

 

「……約束?」

 

 

 ラセツの疑問に三代目が答えることはなく、優しく頬に触れていた手が力無く地面に落ちた。

 

 

「ーーッ待ってお願い!!逝かないで!!ラセツ、火影様になにもお返しできてない!!!逝かないで!死なないで!!お願い!!」

 

 

 ひたすら願う。しかし、握りしめた『鬼の瞳』はラセツの願いに応えてはくれず、三代目は静かに息を引き取った。

 

 

「……ラセツちゃん…」

 

 

 大蛇丸が小さくラセツの名前を呼び、ラセツは弾かれるように顔を上げた。 大蛇丸を映す瞳は業火の炎が溢れそうなほどで、大蛇丸はゆるりと首を横に振った。

 

 

「…どうやら勧誘は無理そうね」

 

「大蛇丸…」

 

「なによ、カカシ…。鬼族は私が昔から目をつけていた一族だし、その子は血継限界を習得している上に能力も優秀……欲しくない理由がないでしょ」

 

 

 忌々しげにカカシを見つめ、落胆したように肩を落とし、息をひとつ吐いた。

 

 

「…でも、もうダメね。本当なら無理にでも手に入れたいところだけれど、その子には私の『呪印』は効かないから……本当に残念だわ」

 

 

 大蛇丸はもう1度ラセツを流し目に見た後、結界を張っていた音の忍に作戦終了を告げた。 音の忍4人は即座に結界を解き、大蛇丸を連れて逃げてしまい、暗部がその後を追うが、ラセツは目もくれず、火影の亡骸に涙を落としていた。

 

 

「火影様…ッ」

 

 

 三代目は里を愛し、平和を望み、平和の為に行動し、争いを忌み嫌う考えを持っていた。しかし、争いは消えず、平和は薄氷の上でしか成り立っていなかった。

 

 

「貴方の望んだ平和が訪れる日は、来ないかもしれません」

 

 

 人が考えを持ち、人が意思を持ち、人が存在する限り、考えや意思の齟齬が生まれ、対立は必ず起こる。 例え同じ平和を望んでいたとしても、それまでの道のりで対立が生まれ、争う事もあるだろう。

 

 

「でも…火影様の『火の意思』……しっかりとラセツの心に刻み、受け継ぎます」

 

 

 三代目火影が抱いていた里を愛し、平和を愛し、愛する者を愛し、奪う争いを嫌った『火の意思』を心に刻み込む。 溢れる涙を静かに溢し、決意を胸に抱くラセツの頭をカカシは肯定するように撫でた。

 

 

✳︎✳︎✳︎

 

 

 大蛇丸と砂隠れによる『木ノ葉崩し』は木ノ葉の忍の奮闘により失敗に終わったが、三代目火影を始めとした多くの忍が命を散らした。

 遺された者は三代目火影 猿飛ヒルゼンから『火の意思』を受け継ぐ。その中の1人であるラセツは泣き止んだ蒼い空を見上げた。

 

 

 木ノ葉崩しから数日。

 

 風影及びその護衛が、中忍試験開始前に大蛇丸によって殺害されており、全ての事件の発端が首謀者・大蛇丸である事が判明した。

 この事実から砂は木ノ葉に対し全面的な降伏を宣言し、戦禍の爪痕、国力の復帰を急務と考えた為木ノ葉もまたこれを受諾した。 

 

 

「…取り敢えず壊滅は免れたものの、被害は甚大のようですね」

 

「栄華を極めたあの里が…哀れだな」

 

 

 火影を失い、何人もの優秀な忍を失い、遠目にも分かるほど『木ノ葉崩し』の痛々しい爪痕が見えて弱った木ノ葉の里を、紅い雲模様が刺繍された黒い装束を着ている2つの影が見下ろしていた。

 

 

「ガラにも無い…貴方でも故郷には矢張り未練がありますか?」

 

「いいや、まるでないな」

 

「クク……弱っているとはいえ、木ノ葉です。九尾の他に…『空』の勧誘もしなくてはいけませんからねぇ」

 

「あぁ、忙しいな」

 

 

 2つの影。そのうちの1人は、反逆を意味する傷のついた木ノ葉の額当てをしており、柘榴石の様な双眸を鈍く冷たく輝かせていた。

 

 

 

 

 

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